2019年7月12日(金)~7月15日(月・祝)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2019写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選、コンテスト入賞者などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
7月15日(月・祝)に行われた東京カメラ部特別企画では、東京カメラ部10選 加藤康朝氏、香川美穂氏、Sallu氏、野上香織氏にご登壇いただき、「世界は発見を待っている。」というテーマでお話しいただきました。
東京カメラ部運営 塚崎(司会)「いよいよ本写真展での最後のトークショーステージです。東京カメラ部10選の方に、今年の写真展のテーマ『世界は発見を待っている。』についてのお話を伺っていきます。まずはトップバッター、香川美穂さんです。写真を撮り始めた理由は?」
香川「大学では英文科でしたが、何か他にできることが欲しいと思っていて、大学と並行して夜間に桑沢デザイン研究所という専門学校に通いまして、週に一度写真の授業を受けていました。私の時代はフィルムでしたから、フィルム現像から引き伸ばしプリントまでの一連の作業をやり、その面倒くささが楽しくてハマりました。撮影もマニュアル機じゃないとダメということで、父親から譲ってもらったニコンのニコマートFTNという古いカメラを使い始めたのが写真との出会いです。課題を出すためにスナップを中心に撮っていました」
香川「本格的に始めたのは2005年頃のこと。これは皇帝ペンギンの雛です。皇帝ペンギンは南極の緯度の高いところに生息しています。2000年頃に南米を2ヶ月かけて貧乏旅行したのですが、その時にアルゼンチンのウシュアイアという街からクルーズ船が出ていて南極に行けるということを知ったんですね。その後準備期間を経て、2006年にツアーに参加してこの写真を撮ったんです。写真で見るだけでかわいいですが、実物はこれに動きが加わるのでもっとかわいい。こんなのを最初に見てしまったがためにハマってしまいました」
香川「ウェッデルアザラシの親子です。2006年に皇帝ペンギンのコロニーの近くにいました。その1年前にはカナダのマドレーヌ諸島にタテゴトアザラシを見に行きました。北極圏の動物は肉食動物のホッキョクグマがいるので警戒心が強いのですが、南極の動物は陸上に敵がいないので警戒することすら知らない。だからウェッデルアザラシはこんな表情を見せてくれるんです。どこの国にも属さない平和な南極は、そこで暮らす動物も平和。この後に2回南極を訪れています」
香川「南極のアイコン動物はペンギンですが、北極はホッキョクグマ。やはりアイコン動物は見ておきたいので、カナダのチャーチルに5回ホッキョクグマを見に行きました。これは100メートルぐらい離れて撮影しているのですが、嗅覚が鋭いので母親が少し警戒しているような状態でした」
香川「昨年から旅行会社と提携をして、動物の観察ツアーの添乗員を始めたんです。これは昨年の初添乗、初アフリカの時の写真です。ライオンの成る木があったので撮りました(笑)」
塚崎「職業まで動物の方向に変わっていったのですね」
香川「はい、添乗員の仕事は主にお世話係なので、大変なところもあるのですが、それと同じくらい楽しさもありとても充実しています」
塚崎「続いては野上香織さんです。写真を撮り始めた理由は何なのですか?」
野上「記録を残すためにフェイスブックを使っていました。インスタグラムはそこに共有する画像の加工ツールとして使うだけで、もっぱら見るだけだったんです。でも、春になると桜の写真で投稿が埋め尽くされていき、リフレクションの夜桜を見た時に、同じような写真を撮ってみたいと思ったのがきっかけですね。それまでは写真は全く撮っておらず、子供が生まれた時にフィルムカメラを使うくらいで、お金がかかるからデジカメを買ったのも10年前のことですね。そして、夜桜を撮りに行きたいから、夜中に家を空けてもいい?と子供に相談したことがきっかけで、作品と呼べる写真を撮るようになりました」
塚崎「子育てがひと段落して時間が取れるようになったということですね」
野上「私にとっては大冒険でした。子供にご飯を作ってから、夜にひとりで車に乗り久留米の浅井の一本桜を撮りに行きました。でも、子供の写真しか撮った経験がなかったので、全く撮り方がわからないわけです。そしてどうしたかというと、隣にいたおじいちゃんに教えてもらいながら撮影したんです。その時に、ああ、写真って楽しいなって」
塚崎「そしてこんな写真を撮るようになったということですね」
野上「撮りにいくときはイメージを膨らませて行きます。朝日をバックに形の良い蓮を撮りたいなって。臼杵石仏の蓮のコンテストに応募したところ賞をいただいて嬉しかったです。こんなに空は黄色くはないですよね」
野上「1年後くらいに、再び同じ日の写真を現像してみました。それがこちらです。その時に良いと思っていた写真よりもこっちの方が花の形や色合いがいいなって。公開したところ、インスタグラムにフィーチャーしていただき、私には思い出深い1枚となっています」
塚崎「やさしく教わったり、コンテストで入賞するなど、そういうことがあって写真を続けられたのかもしれませんよね。初期の蓮の花の彩度の高さなどを咎められていたりしたら嫌になっていかもしれません。そして、ご自身で色を直していったら、さらにそれが評価されたというのは良いことでしたね」
野上「大分で開かれたインスタミートというイベントに参加をした時の写真。この時に出会った人とは今も付き合いがあり、私が写活をするにあたって、色々な場所に一緒に行ってくれたり、相談に乗ってくれたりしています。このインスタミートに参加したのは写真を本格的に撮り始めて2~3ヶ月くらいの時のことですが、それまではずっとひとりで写真を撮っていました。その頃はインスタグラムにこういう写真が良くアップされていて。若者ばかりで驚きましたが、みんな気の良い人ばかりで今でも良く参加しています。母親目線ですね」
塚崎「2~3ヶ月くらいでインスタミートに参加とおっしゃいましたが、今は写真を始めてどのくらいなのですか?」
野上「3年目です」
塚崎「3年目でもうここにいらっしゃるのですね。インターネットを活用されることは多いですか?」
野上「何でもすぐに調べます。例えば花火の写真も、車で走っていたら花火が上がって、すぐに三脚にカメラを設置してネットで花火の撮り方を調べて。毎回、そんな感じです」
野上「最近はこのような写真を撮っています。今年の春ですね」
塚崎「すごい進化のスピードですよね」
野上「最近は光の加減を意識するようになっています。好みとしては見せないところは見せない、光が当たっているところが美しく見えるちょうど良いところを探しています。現像ではなく、出来るだけ現地で設定を追い込みたいとも思っています。蓮の頃はマグレだったと思いますが、自分の印象を少し足すくらいの現像を心掛けていますね」
塚崎「1年目くらいにアサヒカメラ×東京カメラ部共催 『日本の47枚』にも選ばれているんですよね」
野上「一緒に撮影に行った方に教えていただき、片っ端からお気に入りの写真を応募して、雲海から気球がちょろっと出ているという写真を選んでいただきました。その翌年も選んでいただき、今年は10選をいただき光栄です」
塚崎「写活として最速のルートで評価されていると思います」
塚崎「そして今はこういう写真にもチャレンジしているそうです」
野上「インスタミートに参加するようになってポートレートも楽しいなと思うようになりました。この1枚はインスタミートで出会った方で顔をしっかりとは写すつもりではなかったのですが、すごく良い表情をした瞬間があったので撮らせていただきました。これからは作り込むという本格的なポートレートにもチャレンジしていきたいですね」
塚崎「続いて加藤康朝さんです。写真を撮り始めたきっかけからお願いします」
加藤「後に奥さんとなる方と付き合い始めた時に、彼女がフィルム現像までするくらい写真にのめり込んでいたんです。僕もその時にカメラを買いまして撮り始めたんです。奥さんはインスタグラムを使っていたので、僕も撮ったものを投稿するようになり、そのうちフィーチャーされるようになり、もっと上手くなりたいなという意識になっていきました。奥さんは僕の機材がガチになっていくうちに引いていき、あまり撮らなくなりました。今から6年前くらいのことですね」
塚崎「そしてこのような写真を撮っていると。どのくらい前のものですか?」
加藤「昨年なのでかなり最近のものですね。奈良公園の浮御堂というところで、桜と一緒に撮るには有名な場所です。ネットで写真を見ていたので僕も撮りたいなと。奈良には毎年のように旅行に行っていたのですが、この時は朝に僕だけ抜け出して撮ってきました」
塚崎「イベントには参加しますか?」
加藤「インスタミートなどに行った時に撮った他の参加者との写真を見て、奥さんが少しヤキモチを焼いたので、今は控えるようにしています。あまり人の集まるところには行かないようには配慮しています」
加藤「宮城蔵王という星が見える場所で有名なんですけど、奥さんの出身が仙台なので帰省中に一緒に流星群を見に行き撮りました」
塚崎「奥様とのデートの中で撮られているのですね。そういう取り組み方もあると思います」
加藤「愛知県の田原市というところの海岸です。ツイッターの友人が愛知県に来てくれたので朝に撮りに行きました。曇りで強風という最悪のコンディションでしたが、いざ撮影をしてみると意外と良いのではないかと。島の上の雲なども印象的で、かなり盛り上がった撮影でした」
塚崎「男友達とであれば奥様もオーケーなのですね。」
加藤「ツイッターやインスタグラムで交流ある方と一緒に撮影に出掛けることは多いですね」
加藤「6月に撮った静岡県の白糸の滝です。普通は左下の場所から撮る人が多いのですが、変わったアングルで撮りたいなと思い、裏手のもうひとつの滝に繋がる階段の手すりから見ると緑に囲まれた滝を撮ることができて、おもしろい構図だなと思いました」
塚崎「ネットの情報だけではなく、現地で撮影場所を探して撮ったということですね。これも人と違う写真を撮る上では大切な行動ですよね。今後はどのような写真を目指しますか?」
加藤「風景写真を中心に撮り続けたいですが、10選の和合幸恵さんが撮る花の写真のファンでいつかマクロで花を撮ってみたいなと思っています」
塚崎「最後にSalluさんです。写真を撮り始めたきっかけを教えてください」
Sallu「きっかけはふたつあります。ひとつ目は、30代頭まで俳優をやっていて、その時に自分がモデルで友人のカメラマンと作品撮りをしようとしました。1年半くらいの期間、自分で絵コンテを描きロケハンをして撮り貯めていき、2ヶ月間個展をやらせていただきました。その時に、『静』の写真でもこれだけの表現ができるんだと気付き、それが写真への目覚めでした。2011年くらいの頃ですね。その後、表現をしていく上でもう少し見聞を広げてみたいなと思い、事務所も辞めて、何のツテもないのにフィリピンに移住したんです。時間もあるし、そこで自分がカメラを使えるようになったら、モデルとして表現していたようなことができるのかなという好奇心からカメラを手にしました」
塚崎「そしてお撮りになった写真がこちらです」
Sallu「2013年の終わりに、フィリピン史上最悪の台風があり、壊滅状態になってしまった島に物資を届けるという活動に参加し、奥さんが趣味としていたカメラを借りて撮りにいったんです。当時の日本では、災害に乗じて犯罪も起きているというような報道をしていて、かなり怖い場所というイメージを持っていたのですが、僕が行った島は壊滅状態なのに死者はいなくて、ちゃんと列をなして並んでいるし、みんな笑って過ごしていたんですよ。聞いてみたら『スタートに戻っただけだよ、やり直しやり直し』と言って、明るい顔で家を作っていました。この時の写真を新聞社に送ってみたところ、毎日新聞で記事にしていただき、読売新聞でも写真を掲載していただきまして。そして2014年に報道写真で賞をいただいて、これをきっかけに本格的に写真を撮れるようになってみたいなと思いました」
塚崎「よく新聞社に送りましたね」
Sallu「能動的な話ではなく、フランス人のカメラマンにその写真はどうするのかと聞かれて、自分としては何も考えていなくて、単にこういうことがあったんだくらいの記録でしたが、こういうのは新聞社に送ったほうがいいと言われて、問い合わせ窓口に送りました。最初に問い合わせ窓口が見つかったのが毎日新聞。翌日には電話がかかってきて掲載が決まりました。表現者として新聞を通して誰かに伝えることができたのは嬉しかったです」
Sallu「車に乗って通り過ぎる瞬間だったので、何をしているのかわからないまま撮ったんですが、たぶん暑いから日を避けているんですよね。フィリピンは年中30度超えですし、暑い日は日中40度超えたりすることもあるんです」
Sallu「東京に帰ってきても、カメラの使い方があまり分からなかったので、最初はストリートスナップや家族などしか撮っていませんでした。この階段は随分と上り降りの指示が派手だなと思って撮ったものです。でも、誰も指示を守っていません。それはそうですよね、降りてくる人は見えないですから。ツッコミたくなるようなものには心が惹かれるタイプですね」
Sallu「ストリートスナップを経て、人にお願いして撮るようになっていきました。ポートレートというか、世界観を表現できるようなものを撮っているのですが、ぱっと見、合成写真のように見えるようなものを1枚撮影で撮っていこうというのが僕の中のテーマにあります。これも合成じゃないです。階段の上からジャンプしてもらい、空中で立っているかのように脚を伸ばした状態で飛んでくれとお願いをしています。僕は床に寝て撮影をしていて、踏まれるんじゃないかと怖かったです。彼は元消防士の俳優で、身体がキレキレだからできたことだと思います。6回が限界でしたね。これ以上やると筋をやりますと言われて(笑)」
Sallu「これは何に見えますか? 僕のイメージとしては宇宙のどこかの星に、生命の種が宿るのか宿らないのか、というようなイメージで撮っています。これも階段からジャンプした彼にお願いしているんですが、雪の丘で走ってきてもらい宙返りをしてもらっています。顔が真下ですね。どこでどのスピードで宙返りをするかというのをリハーサルで掴み、ピントをそこに置いて撮りました。連写は使っていません。一発で瞬間をドン、と。ちなみにマイナス10度でした」
塚崎「今後もこういう写真を撮っていきたいですか?」
Sallu「20代の終わりに色々なことがうまくいかなかったことがあり、その時に写真に助けられたんですね。昔のシュールレアリズムの写真を見て、のめり込んだ自分がいたので、僕の中から出てくるアイデアを伝えることで誰かに何かが伝われば嬉しいですし、何よりも誰も見たことがない写真を撮ってみたいなと思っているんです。この写真も、本当の欲を言えば宇宙空間で撮りたいんです。宇宙空間で浮遊しているファッションポートレートなどが撮れれば、僕の写真人生は最高なものになるかなと思っています」
塚崎「写真を本格的に撮るようになって変わりましたか?」
Sallu「自分のために撮るというより、誰かのために撮るという機会が増えたのかなと思っています。自分が助けられたということがベースにあるので、モデルさんや撮影場所にも、自分から出てくるアイデアで恩返しできるような写真を撮っていければと思っています」
塚崎「写真を始めて、皆さんよかったですか?」
香川「つくづく専門学校に行って良かったと思っています」
野上「私も引きこもりでゲームばかりやっていて。写活をやっていると運動も自然にできますし、この年齢でここまで友だちが出来るのも珍しいと思うんですね。利害関係がない中で会える友人が出来るのは素晴らしいことです」
加藤「僕は風景写真なので、自分の住んでいる場所のことを詳しく知ることができたり、生活が大きく変わってきましたね」
塚崎「最後に、恒例になっていますが私からのお話をさせていただきます。昨年は『世界はもっと美しい。』というテーマで写真展を行いましたが、今年は『世界は発見を待っている。』というテーマです。これらは連動しています。カメラを持つと楽しいじゃないですか。ネットで行く場所を探したり、定番の場所でももっとキレイに撮れるところはないかなと探したり、とにかく周囲を見るようになるんです。見るようになると、道端の花に気付いたり、友人のケアに気付いたり、空が青いだけで幸せになったりもします。そうすると、思ったよりも世界は悪くないと気付くと思うんです。それが『世界はもっと美しい。』というテーマでした。そして、それをもっと能動的に感じて欲しいという願いがあり、今年のテーマを『世界は発見を待っている。』に決めました。すでにそこにある美しさを気付いていないだけ。世界は悪くなっていると言われますが、実際には世界レベルで見れば貧困の格差も間違いなく狭まっており、本当の意味での貧困層はほとんどいなくなっています。ニュースでも連日のように殺人事件を取り上げ、さも殺人が増えているような印象を持ちますが、劇的に殺人事件は減っています。悪い話を探して伝えて、それがSNSでシェアされるために、常に悪いニュースに晒されるんです。これはニュース会社がお金になるからやっていることで、もっと美しいことが世の中にはあるんです。それを探してみてください。そうすると、3年で10選になった方がいるように、何かが変わると思います。ぜひ、カメラを手に探してみてください。そして、発信をしてください。発信をしなければ誰も見つけてくれません。ここにいる10選の皆さんも、発信をしたから今ここにいます。ただ、発信をすると、誹謗中傷は必ずあります。ぜひ、そういう人は無視してください。そして、自分はそうならず、止めようと言いましょう。皆で楽しいカメラライフを送りましょう。今日はどうもありがとうございました」