2019年7月12日(金)~7月15日(月・祝)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2019写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選、コンテスト入賞者などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
7月14日(日)に行われた富士フイルムのトークショーでは、東京カメラ部10選 長尾岬生氏とコンテスト入賞者 高橋直哉氏、司会として鈴木文彦氏にご登壇いただき、「Xシリーズでみる世界」というテーマでお話しいただきました。
高橋「足元が悪い中、お越しいただきましてありがとうございます。僕は2019写真コンテストInstagram部門で入選をしてこういった機会をいただきました。Xシリーズとの出会いはX-Pro2からになり、客席の中にはもっと長くXを使っているよという方もいらっしゃると思いますし、一方で使ったことがない方もいると思います。今日は少しでも何かを持って帰っていただければと思っています」
長尾「東京カメラ部10選2018に選んでいただいた長尾岬生と申します。Xシリーズはモニターで手にするのが初めてでしたが、僕が好きな超広角の風景写真を撮る上でどのような点に強みになるかを考えて、XF8-16mmF2.8 R LM WRとセットで一ヶ月間試させていただきましたその感想をここでお話ししたいと思っています」
高橋「元々は他社の一眼レフを使っていたのですが、どうしても大きく重たくなってしまうため、もっと移動中に使える機動力のあるカメラが欲しかったんです。当時はX-Pro2が発売されるというタイミングだったので、お店に何度も触りに行き購入しました。発色や解像感が素晴らしいということは常々聞いていて購入候補には入れていましたね」
高橋「恵比寿ガーデンプレイスです。夜景ではブラケット撮影をするのが僕のスタイルで、3~5枚の露出違いの写真を撮り、それをPC上で1枚に合成します。ダイナミクレンジを広げているということですね。これもその手法で5枚を1枚に合成しています。露出は±1。ファームウェアは定期的にバージョンアップしており、今では9枚までブラケットできる露出差のある写真を撮ることができるようになっていて、他社の高級機と遜色なく使えます」
高橋「超広角のXF8-16mmF2.8 R LM WRをお借りして撮りました。ここはスカイツリーからとても近い場所で、超広角レンズを使うとどれだけ迫力ある画になるのかを試したいと思っていました。これもブラケットで5枚撮りを合成しています。X-T3からセンサーが新しくなり、裏面照射型が採用されています。裏面照射型はノイズが出にくいという特徴があり、この1枚も30秒近い長時間露光をしていますが、ノイズはかなり抑えられているという印象を持ちました」
高橋「東京駅です。X-T3は最低感度がISO160。他社のプロ機ではISO100が一般的ですが、XシリーズはこれまでISO200スタートでした。僅かな改善ですが、この1枚のように車のテールランプを流した写真が撮影しやすくなっています」
高橋「色を見たくて撮りに行きました。Xシリーズでは色の話は切り離せないので、このような夕焼けのシチュエーションを撮りたいと思いました。これは最終的にはRAW現像をしているので、XシリーズのJPEG画質と結びつけるのもどうかと思われそうですが、僕はRAWであっても富士フイルムの色はあると思っています。具体的に言うと、青にコクがあり赤は鮮やか。また、センサーが新しくなった事で色の傾向が大きく変わってしまうような事はなくX-Pro2世代と同じ感覚で撮影・現像ができました」
鈴木「 Xシリーズでは必ずフィルムシミュレーションという、フィルム製造で培った発色・階調性のプリセットを何かしら設定しなければなりません。JPEG画質はフィルムシミュレーションにより味付けが変わりますが、これがとても高い評価を得ていると。RAWはこれが適用されない生のデータなわけですが、それでも富士フイルムの良さがあるということですね」
高橋「はい。モノクロも同様で、フィルム製造の技術が詰まっています。中でも特徴的なものがACROS。普通のモノクロモードもあるのですが、それとは異なり、まさにフィルム時代のモノクロフィルムをできるだけ再現するという思想のもとに作られており、シャドウ部分には粒子が乗りやすく、ハイライト部には乗りづらいという特徴があり、この1枚もそれを出そうとしました。また、X-T3から『温黒調』『冷黒調』を調整できるようになりました。モノクロの中にも温かみのあるもの、冷たい青みがかったものがあり、それを調整して撮影することができます。これは冷黒調を2段階強めて撮っています。もっと極端に変えることもできますが、±2で撮るくらいが気持ち良いと感じています」
高橋「フィルムシミュレーションはRAWで記録しておけばカメラ内RAW現像で後から変更できます。そもそも現像処理はPC上で現像ソフトを使い行うことが一般的ですが、『FUJIFILM X RAW STUDIO』というソフトをPCにインストールしてカメラをケーブル接続すると、カメラの中の画像処理エンジンを使いPC上で現像処理ができます。この方法が最も高い精度でフィルムシミュレーションを適用できるんです。僕は大きなPCモニターで現像処理ができた方が気持ちいいので割と使っています。2枚比較するとわかりますが、このような編集作業がカメラの画像処理エンジンですぐにできてしまうのはいいですよね」
高橋「ここからはスナップ撮影についてお話していきます。スナップ=X-Pro2というイメージが強いですよね。X-Pro2は光学ファインダーにフレームが表示されるというのがポイントで、フレームの外を動く人を追いながらシャッターチャンスを待てるという利点があります。X-T3には『スポーツファインダーモード』というものがあり、ファインダー内にフレームが表示され、実際に撮影される範囲の外を見ながら撮影できます。ネーミングが『スポーツ』なので結びつきにくいですが、スナップにとても有効ですね」
高橋「ドラマチックな光がない場合でも視点を変えればおもしろいスナップが撮れると思っています。これはお揃いを狙うというモチーフですね。ストライプの屋根に合わせて、ストライプの傘を持った人が現れるのをとにかく待ち続けました」
高橋「リフレクションは使いやすいチップスです。壁がビビッドだったので撮りたいと思いましたが、それだけでは面白みに欠ける。窓に反射した人をシルエットで入れようと思いました。写っている人がカッコイイですよね。20メートル手前くらいから狙いを定めました」
高橋「リフレクションに加えて錯視も採り入れた1枚です。車のテールランプが人に重なりそうだなと気づいたので撮りました。開放で撮るとボケでしまうのでグッと絞り込むことでうまく重なり合ったと思います。まるでターミネーターがLINEしているみたいですよね」
長尾「僕は昨年10月に本格的な登山をはじました。元々はフルサイズ一眼レフを使っていて大きさや重さを気にすることはなかったんですが、いざ登山をはじめてみると、これはきついなと。テントや食料も持っていくので、カメラはできるだけ軽い方がいいんですよね。そんな時にX-T3を使う機会をいただけたので、この機会にミラーレスのボディの軽さなどが登山にどう活きるのかを見てみようと思いました。モニター期間中に3回登山に行きましたが、もう一眼レフには戻れないですね」
長尾「長野県の高見石山頂へと向かう林道です。雲の動きが早く、雲の切れ間に光が差し込んだ瞬間に撮りました。構図を決めるのも難しいくらいの一瞬でしたが、ほとんどが雪、もしくは暗い木々という中でもAFが迷うことなく合ってくれて、意図したように撮れました」
長尾「次も移動中の写真で、かなりの逆光でしたが、フレアやパープルフリンジが全く出ていないことに驚嘆した1枚ですね。いままではPCに画像データを取り込取り込んだら何も見なくてもパープルフリンジ除去をする癖があったんですが、いくら拡大しても出てこない。XF8-16mmF2.8 R LM WRの逆光性能の高さを目の当たりにしました」
長尾「続いても高見石の登山道。強風で雪の文様が出ているのがわかります。この時はホワイトバランスの設定に迷い、結局はオートで撮りました。雪のホワイトバランスは難しいのですが、X-T3はオートでも自然な発色になりました。カメラ内RAW現像のみで仕上げていますが、空の濃厚でコクのある青が出て気に入っていますね。背面液晶の時点でハッとするものが出てくるので、その時の印象に近づけるように現像していくという感覚があります」
長尾「人を入れるとスケール感が伝わると思います。登山の写真で伝えたいのはスケール感や厳しい自然などです。XF8-16mmF2.8 R LM WRは臨場感や空気感もしっかりと出てくれるので撮っていて楽しいですね」
長尾「高見石の頂上です。すごい爆風でカメラごと飛んでいきそうでした。一眼レフを使っていた時は、頂上に到着するまでカメラをザックにしまいっぱなしにすることが多かったですが、X-T3なら首からかけたまま歩くこともできるため、移動中の写真が明らかに増えましたね」
長尾「長野県の自然湖という人気の撮影スポットで撮りました。湿度が高く霧も出ていましたが、湿度の高いじめじめ感と共に木々のディテールも表現されており、これらを両立できることに驚きました。また、防塵防滴構造なので悪天候でも安心感がありますね」
長尾「緑色がどのように出るかを試したくて標高を下げて森に行きました。これは『カラークロームエフェクト』を試しています。緑の発色は肉眼にとても近く、評判通りの機能だと感じました。オン/オフの両方で撮影し、オフのものをレタッチしてみたのですが、どうしてもオンにしたものには近づけられませんでした。それ以来、カラークロームエフェクトに頼りっきりです」
鈴木「カラークロームエフェクトは、彩度の高い被写体の色飽和を抑制し、ディテール再現をしてくれる機能です。通常は赤いバラなどが代表的作例として使われますが、このような風景写真にも応用が効くのですね」
長尾「立山山頂を目指す途中です。標高2600メートルくらい。振り返ったら逆光の中に大日岳があり、太陽と山の陰のコントラストが美しいと思い撮りました」
長尾「後ろに見えるのが剣岳です。夕方に雲海が出るのは珍しいことで、僕も初めて見ました。足跡も含めて撮るというのが臨場感に繋がり、それは超広角レンズならではだと思います」
長尾「山肌が夕日を浴びて赤く染まる『アーベントロート』という現象です。剣岳ではこれを狙っていました。下の点々がテント村で僕が寝泊まりした場所です。そういうのも含めてスケール感が伝わればいいなと」
長尾「剣岳の朝焼け。『モルゲンロート』と呼ばれる朝日を浴びて山が色づく現象です。これもカラークロームエフェクトを使うことで空の飛びがちな部分もしっかりとディテールを残してくれました」
長尾「立山の星空です。シャッタースピード40秒、ISO3200で撮っています。通常、星系写真であってももう少し感度を抑えめにするのですが、X-T3はISO3200でもノイズが乗ってきません。ノイズリダクションはかけていたものの、それでもここまでノイズレスな写真になるとは思いませんでしたね。明るい広角レンズを使わなくてもここまで撮れるのは強みだと思います。カメラ内RAW現像のみで、ここまで天の川がクリアに出てくるのは驚異的だと思います」
鈴木「最後に、X-T3の魅力についての締めのお言葉をお願いします」
高橋「趣味性に振ったX-Pro2とは異なるオールラウンダー。長く使える機種だと思います」
長尾「自分のことを大胆なレタッチをするタイプだと思っていたのに、背面液晶に出てくる画に寄せてしまうくらい完成度の色を最初から叩き出してくれます。レタッチに迷いのある人にとてもオススメしたいですね」
鈴木「それぞれの視点からの貴重なお話をありがとうございました」
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