2019年7月12日(金)~15日(月・祝)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2019写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選、コンテスト入賞などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
7月15日(月・祝)に行われた北海道 美瑛町のトークショーでは、北海道美瑛町長 角和浩幸氏にご登壇いただき、「美しい景観は人によって守られている」というテーマでお話しいただきました。
東京カメラ部運営 塚崎(司会)「本日はお忙しい中、本トークショーにお集まりいただきありがとうございます。美瑛町とのトークステージは今年で2回目になります。なぜこういった機会を設けているのかというと、写真というのは被写体と密接に関わっています。ネイチャーフォトでの被写体は自然ですが、実は完全に人が手を加えていない自然の場所はほとんどありません。田畑も人間が維持・管理しているから美しく保たれています。そのお陰で我々は写真を撮れています。そういった取り組みを率先して行なっているのが美瑛町です。なぜそのような取り組みをされているのか、またその上でどのような課題があり、どう解決しようとしているのかについてお話をお伺いできればと思います。それではまずは自己紹介をお願いいたします」
角和「皆さんこんにちは、美瑛町長の角和です。といいましても町長に当選したのが今年の4月で、町長職としては2ヶ月です。出身は横浜になりまして、15年前に新規就農で美瑛町に移住しました。農業と貸しコテージとファームレストランの経営という、観光にも関わりつつ生活をしていたのですが、8年前に地元の方から勧められ、そこから町議の経験をさせていただきました。元々が私もいち美瑛ファンで移住をしたので、そういった目線からもお話できればと思います」
塚崎「それではまずは美瑛町の紹介からお願いしてもよろしいでしょうか」
角和「美瑛町は北海道のほぼ真ん中に位置しており、旭川市と富良野市に挟まれた場所にあります。東京23区とほとんど同じ大きさです。その大きさの中に住んでいるのが約1万人。農家戸数は約500戸で、1農家の平均が約30haとなっております」
塚崎「そしてこちらが美しい風景です」
角和「美瑛町といえば、丘の風景ですよね。なだらかな丘陵風景が有名です。僕もそれに憧れて、その中で農業をやってみたいと思いやってきました。最近有名なのは青い池です。青い池を見て丘を見ずに通り抜けるという新しい観光のルートができたかなと思います」
塚崎「観光客はどれくらいいらっしゃるんですか?」
角和「去年の入り込み数で初めて200万人を超えましたし、一気に226万人と大きく超えてきました。やはりインバウンドの効果が大きいですが、美瑛に美しい風景があるという認知が進んできたことも要因だと思います。しかし宿泊客は28万人と1割程度です。観光の質を高めていかなくてはいかないと感じています。そこで問題となってくるのが、美瑛町は観光誘致のために景観を作っているのではなく、農業を営んでいる方々が自然と作っているものということです。ある意味で、観光誘致をしていないのに観光客の方々が来ているというのが大きな課題です。農家が自分の仕事に責任を持って取り組んでいる結果、このような農村風景を作っているということで、健全な農作業を続けていることが美瑛の景観になっています。ですから生活している姿そのままが美しいという町を目指したいなと思います」
塚崎「町の経済の割合から見ると圧倒的に農業がメインなので、そこにお邪魔させていただいているということですよね」
角和「農家の方は農業しやすい農地を作っているんです。まっすぐな畝を作っていくと、結果として景観としても美しい丘となるんですよね。そこに観光客が入ってきたことによって軋轢を生んできてしまっている状況です。それを解決するためにこのような取り組みを行なっています。昨年度できたのが北海道大学さんと取り組んできた「観光マスタープラン」です。例えばパークアンドライドといって、大型の観光バスやマイカーの規制プランを盛り込んでいただいています。次の段階はこのプランをどのように形にしていくのかです。観光基本条例という今までの条例を全て網羅して、更に規制していく部分も盛り込んだ条例化が必要だと思っており、検討に向けて着手を進めています」
塚崎「あくまでも美瑛町の基幹産業は農業であるということですよね。その上で観光に繋げていかないといけない。その中で、写真家もたくさんお住まいなんですよね」
角和「プロの写真家も住んでおり、ギャラリーをお持ちの方もいます。撮影ツアーを組んでいらっしゃる方もいて、ありがたいことだなと思います」
塚崎「他にも色々な取り組みをされているんですよね」
角和「ここは美瑛の駅を降りて真っ直ぐに伸びる道なのですが、街中でも十勝岳が見える景観を良くしようということで電柱地中化を進めております。電車でも来れますし、散策しながら食事やショッピングを楽しめる場所です」
塚崎「そして、丘の方も景観を守っているんですよね」
角和「こちらも電柱の地中化を進めております。偶然なのですが、実は写真の畑は私の持ち物です。電柱が2本立っていて目安にしていたのですが(笑)風景としては極めてスッキリして、見通しが良くなったと思います」
塚崎「そんな中、道路の真ん中で撮影したり、畑に入ったりするということが問題になっているようです」
角和「現状の一番の問題はここかなと。丘の周りは農道で、道路幅が狭いところがほとんどです。そこにインバウンドの方が道いっぱいに広がってしまい、ここ数年は歩行者天国のような状況になってしまっています。受け入れ態勢が出来ていない、ルールが出来ていない中でどんどん観光客が来ることを、地元の方がどうしようと悩んでいる状況です」
塚崎「畑の中に入り込んでしまうことも問題です」
角和「道路上に人がいらっしゃるのも危ないのですが、さらに踏み込んで畑の中に入ってしまうのも問題です。例えば靴に菌や病気が付いたままで入られてしまうと、畑の中に移ってしまいます。移ってしまうと二度とジャガイモが作れなくなるということもあり、安易に畑に入っていただきたくないという気持ちです。自分の土地に入るな、というよりも、一番病気を恐れているんですね。農家の方の生活がかかっているんです」
塚崎「その結果、このような看板が出てくるんですよね」
角和「目立つ立ち入り禁止の看板を立てたり、黄色と黒のロープを張ることによって、景観が阻害されてしまいますよね」
塚崎「そこでこんな取り組みをなさっているんですね」
角和「あまりにも『入るな』と主張するのではなく、自然と景観にも馴染む木の柵を設置しました」
角和「柵の上が平らになっているので、この上にカメラを置いて撮影すれば、三脚がなくても美しい写真が撮れます」
塚崎「こちらも有名な場所ですが、クリスマスツリーの木を撮ろうとすると電線と電柱が写真に写り込んでしまうんですよね。ある時期は月がちょうど木のてっぺんに来るのですが、実は畑の中に入らないと撮れないという課題がありました。そこで我々が美瑛町さんになんとかならないかと申し上げたところ、実際に電柱を移動していただきました」
角和「電柱の位置をずらして電線が写真に写らないようにすることによって、畑に入らなくても写真を撮れるようにしました。電柱を地下に埋めてしまうと膨大な金額がかかりますが、移動するだけなら数十万で行うことができました」
角和「撮影マナーを美瑛の中で作っていこうということで、NPOを中心にこのようなパンフレットを作成しました。カメラ部さんのSNS上で皆さんにどうしたらいいのかというご意見をいただきながら、美瑛町で議論をし、且つ様々な会社にご協賛いただきました。また今年で3回目になりますが、丘のまち美瑛 景観・写真国際フォーラムというのを開催して、写真で美瑛町をPRする取り組みも進めています」
塚崎「フォトコンテストも開催される予定ですので、美瑛町の写真を撮ってぜひご応募ください」
角和「オーバーツーリズムへの対応ですが、何回訴えても悪意のある行為はなかなか後を絶ちません。そこで今年から始まったことですが、丘のまちびえいDMOという組織が110番を開設し、悪質なものは写真を撮って通報していただくことによって、その場所のパトロールを強化するということを行なっています。農道を大型バスが通るとトラクターが通れなくなってしまい、農家さんの生活が脅かされることもあります。まずは現状を認識し、アクションを起こしていければと思っています」
角和「若手農家が自主的に取り組んでいる動きに、クラウドファンディングを活用した看板プロジェクトがございます。今までは農家にとっては観光客は迷惑だという考えが続いてきてしまったのですが、今それが変わってきています。観光客と共に美瑛町を良くしていこうという動きが盛り上がっているんです」
角和「何をするかというと、景色のいいところに看板を設置して、中に入るのではなくてその看板の前で撮影しようというプロジェクトです。そして看板の中にQRコードを入れて、寄付をしてもらったり、その農家さんの動画が見られたり、野菜が買えたり、色々なことができるように取り組みを進めています。そうやってネットワークができていけば、農業と観光の繋がりが深まっていくと期待しています」
角和「ここにきて美瑛町の中で流れが大きく変わってきたことを実感しております。東京カメラ部さんに様々なご支援をいただいてアピールをさせていただいておりますし、ふるさと納税の中でも景観維持のために使って欲しいと答えていただいている方が多いんです。去年で言うと約1億2000万円の中で半分の6000万円は景観のために使わせていただいています。そういった関わってくれる方々の思いを受け止めながら進んでいきたいと思っています」
塚崎「我々もぜひ応援していくべきだなと思いますし、ご賛同いただけるようであれば皆さんもご協力をお願いします。本日はありがとうございました」