2019年7月12日(金)~15日(月・祝)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2019写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選、コンテスト入賞者などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
7月15日(月・祝)に行われたJR西日本のトークショーでは、東京カメラ部10選 柄木孝志氏、JR西日本 瑞風推進事業部長にご登壇いただき、「TWILIGHT EXPRESS 瑞風の走る風景」というテーマでお話しいただきました。
司会「本日はお集まりいただきありがとうございます。皆さん、JR西日本のエリアをご存知でしょうか?京都や松江、出雲、宮島などの豊かな歴史・文化。日本海や大山、瀬戸内海の多島美などの美しい自然。西日本には日本の原風景とも呼べる場所がたくさんあります。2017年にデビューしたJR西日本の寝台列車TWILIGHT EXPRESS 瑞風はそんな西日本エリアをはしる、ホテルのような上質さと心休まる懐かしさを感じる列車です。美しい車窓の眺め、一流の食の匠による料理、洗練された車両、そして沿線の魅力などここでしか味わえない特別な鉄道の旅を提供しています。このステージでは、写真家・地域プロデューサーとして活躍されている柄木孝志さんをお迎えし、柄木さんが撮影した写真を通して『瑞風』の魅力をご案内します」
柄木「『瑞風』の魅力を写真というコンテンツを通じて皆さんに少しでも知っていただければと思います。本日はよろしくお願いいたします」
司会「柄木さんは『瑞風』のデビュー前から撮影しているんですよね」
柄木「はい。元々注目を集めていた列車ではあるのですが、デビューする前もした後も、地域に愛されている列車なんだということを一番に実感しましたね」
司会「実際に『瑞風』の写真を拝見しながら秘話などをお伺いできればと思います。まずはこちら」
柄木「こちらはおそらく鉄道業界初めての試み。普通、こうした線路上を走る鉄道と星空の作品というのは合成でないと撮影できません。ただ、こちらはもちろん合成ではなく、一枚撮りの作品。なぜ撮れたのか?結論から申し上げると、これはこのためだけに列車を止めて撮影しています。撮影のためだけに列車を止めるというのは他に例がないのではないのでしょうか。ちなみにこの一枚を撮るために、準備から本番まで約半年かかりました。
まず場所。瑞風のコース、走行時間を頭に入れ、そこから天の川が見える時間帯でロケハンをすることから始まります。そんななかで見つけたのがとある海岸線。結果、私はこの一枚を海の中から撮影しています(笑)。そのうえで、月明かりの影響を受けない日を選び、さらに晴れなくてはいけない。これが写真家サイドに課せられた準備。ただ、この一枚は写真家だけで撮れるものではありません。先ほども申し上げた通り、この一枚を撮影するためだけに当日のダイヤを変更し、さらに暗い海岸線を走行する中で、指定されたポイントに止める運転技術も必要。JR西日本あげての全面協力がなければ決して撮れない一枚。実はこのために、わざわざ当日ベテラン運転手にシフト変更したなんていうエピソードもあります。JR西日本さんが少しでも沿線の地域のことをPRし、お客さんに楽しんでいただきたいということでトライしたからできたことなんですね。写真家一人だけでは絶対にできない、チームとして撮れた写真です。鉄道業界や写真業界にとっても衝撃的な一枚になるはずです」
司会「一枚目から素晴らしい写真をありがとうございます。続いての写真です」
柄木「会場の入り口にも大きく展示していただいた、真っ青な海を走る『瑞風』の写真です。この一枚も撮った瞬間に手応えがありました。200社以上が登録する世界鉄道連合という組織があり、毎年世界的な写真のコンテストを行なっているのですが、実はこの写真は世界一になったんです。『瑞風』の後ろに真っ青な海があり、波も写っています。『瑞風』と同じ目線になる高さまで移動して、運転士さんもシルエットになるようにして撮りました。そういうところも含めてご評価いただきました。賞を取ったことも嬉しかったのですが、一番嬉しかったのは、それをJR西日本さんが喜んでくれたことです。写真家としては、クライアントさんが喜んでくれる写真を撮りたい、見る人が幸せになる写真を撮りたいと常に思っているので、それが何よりの成果だったと思います」
司会「続いての写真です」
柄木「『瑞風』が走る山陰・山陽のロケーションは本当に素晴らしいんです。皆さんの思う日本海は、荒れていて演歌が似合うイメージかもしれませんが、実は夏の海は沖縄に負けないくらいきれいなんです。この写真はほとんど補正していませんが、これほどまで美しい青色が見られます。山口県の惣郷川橋梁という有名なポイントなのですが、少し山を登って、海をバックに『瑞風』を撮影しました」
司会「上から撮ったり敢えて目線を合わせたりと、色々な場所から撮影しているんですね」
柄木「『瑞風』のいいところは、どこから撮っても絵になるというところですね。デザイン性に優れた列車でもあって、モスグリーンの色がどんな自然にもマッチします。自然に溶け込んだデザインにしてあるというのも素晴らしいところですよね」
司会「そして続いての写真です。こちらも素敵ですね」
柄木「ずっと撮りたかった一枚です。『瑞風』は一年中走っているので、季節感を大事にしたいと思いました。写真家としては腕の見せ所で、『瑞風』をなにに重ねるかということを常に問われてると思うんですね。兵庫県の香住という場所に、橋梁を挟んだ両サイドに桜並木があります。桜のトンネル感を出したかったので、奥の方に行ってしゃがみこんで望遠で撮影しました。ここで撮影している人はなかなかいないのではないでしょうか」
司会「『瑞風』の沿線には写真を撮れるスポットがたくさんあると思うのですが、その中でもここは面白い、という場所を見つけるのも醍醐味のように感じます」
柄木「わたしは鉄道を常に撮ってきたわけではなくて、風景写真家なんですね。なので風景の中にいかに『瑞風』を配置するかという感覚で撮っています。JR西日本さんからも好きに撮っていいとおっしゃっていただいていて、僕の世界観をすごく大切にしていただいているので、楽しく撮影ができました」
司会「ありがとうございます。ここからは、さらに『瑞風』と『瑞風』が走る山陰・山陽エリアの魅力を紹介いただくために、JR西日本 瑞風推進事業部長の魚本佳秀さんにお越しいただいております。魚本部長よろしくお願いいたします」
魚本「本日はトークショーにお集まりいただきありがとうございます。『瑞風』は『美しい日本をホテルが走る』というコンセプトのもと、2017年6月17日にデビュー致しまして、これまで約5,000人のお客様にご乗車いただいています。『瑞風』はJR西日本と地域の皆さまが一緒になって、沿線の活性化に努めていこうという思いで走らせている列車です」
魚本「車両の魅力を語ると語り切れないので、今日は風景と地域の連携という切り口でお伝えしていこうと思います。先ほど『美しい日本をホテルが走る』と申し上げましたが、まさしく『瑞風』はホテルだと思っています。客室は向かって左側が通路になっており、ソファの横の可動壁を全開するとこの写真のような形になります。風景を楽しんでいただきたいので、最大限広い窓を用意しました。左右どちらからでも見られるこだわりを持った客室にしています」
魚本「こちらは展望車です。椅子がリクライニングになっているので、倒すと星空を見ることができます。山陰は星がきれいですので、夜には一人でのんびりと空を眺めているお客様もいらっしゃいます」
司会「そして展望デッキからの眺めも本当に素晴らしいです」
魚本「まさしく展望車から眺める風景というのが一番のセールスポイントです」
司会「車内の調度品も厳選された贅沢なものばかりです」
魚本「地域との連携を大切にしており、調度品には沿線の伝統工芸品をふんだんに使っています。中田ハンガーという豊岡の有名なハンガー、萩切子ガラスや、アメニティボックスは豊岡の麦藁細工です。スイッチプレートは錺金具を使用しています。これだけではなく他にもたくさんご用意しているので、ぜひ楽しんでいただきたいです」
司会「工芸作家さんの作品も展示されているんですよね」
魚本「車内には沿線ゆかりの作品をたくさん展示しています。島根県出身の澄川喜一さんの彫刻、人間国宝の伊勢﨑淳さんの備前焼、植田正治さんの写真などがございます。美術館のように車内を巡っていただきたいという思いがあります」
司会「魚本部長から展望デッキのお話が出たのですが、柄木さんは実際にデッキに出られたんですよね」
柄木「鉄道に乗っていてデッキに出られるという概念や風を受ける感覚が今まではなかったですよね。わたしも『瑞風』に乗ったときは真っ先にデッキに出て、子供のように大はしゃぎしました。外の景色を流れるように見る感動は、乗ってみないとわからないと思うんです。自然の中を走るという『瑞風』ならではの良さがすごく出ていると感じました。また、有名なポイントで『瑞風』の写真を撮っていると、デッキから乗っているお客さんが手を振ってくれるんですね。乗る人と撮る人の交流が生まれる楽しさ、鉄道旅の良さを感じることができます」
司会「地元の方とのそういった触れ合いも『瑞風』の良さということですね。また、車内でのお食事についても教えていただけますか?」
魚本「『瑞風』は食にもこだわっておりまして、車内でシェフが実際に調理しています。フードコーディネーターの門上武司さんに総合プロデュースをお願いしており、和食は京都の老舗の菊乃井の村田吉弘さん、洋食は大阪・HAJIMEの米田肇さんにご用意いただいております。昼食は沿線の地元の食材にこだわったシェフが調理しており、お酒も地元の選りすぐりの日本酒、ワインなどたくさんご準備しています。飲み放題で旅行代金に含まれているので、存分に楽しんでいただけます」
司会「『瑞風』が走る沿線の風景に車体が溶け込んでいるというお話が先ほど出ましたが、柄木さんがいちばん美しいと思われる風景はどこでしょうか?」
柄木「思いが強すぎて難しいのですが、自分が写真家としてのノウハウを生かしたものを選ぶとしたらこちらの写真になると思います。山陰や山陽の自然風景の中に『瑞風』を溶け込ませたいという思いがあったので、そこに気を使って撮影場所を探してきました。この場所は自分の写真家としての原点ともいえる場所、鳥取県の大山です。『瑞風』が大山の麓を景観運行で走るのですが、これは敢えて日の出の直前を狙っています。太陽の光が完全に出る前に、『瑞風』のシルエットラインだけを出したかったんです。雪の積もった大山が白く輝いていて、その下を『瑞風』のシルエットが走っている。露出を計算してロケハンを行い、準備をしっかりとして本番に至りました」
司会「一枚の写真の中でのコントラストが素敵です。大山の美しさや『瑞風』の格好よさもどちらも際立っているように感じます」
柄木「見ている方にはもしかすると伝わりにくいかもしれませんが、自分としては手応えのある一枚でした。『瑞風』は景観運行で速度を落として走るので、そういう意味では撮りやすい電車だと思います」
司会「今この写真を見ていて気がついたのですが、『瑞風』の流線型のラインに朝日や空の色が写り込んでいて、見れば見るほど涙が出てくるような一枚ですね」
魚本「『瑞風』の担当として拝見させていただいて気付いたのが、この写真はトワイライトの時間帯なんですよね。かつ車両がきれいに写っている。『瑞風』のデザインは流線型にこだわって作られていて、それを写し出してくれている。まさしくTWILIGHT EXPRESS 瑞風な一枚だなと感じました」
司会「ここでお時間が来てしまいました。魚本部長、最後に『瑞風』の魅力を改めてお伝えいただけますか」
魚本「『瑞風』は『美しい日本をホテルが走る』というコンセプトのもと、美しい車窓、匠の料理、洗練された車両、それから地域の魅力を発信するということがありましたが、それに加えた『瑞風』の魅力がもう一つございます。それは実は人なんです。実際に乗っていただいたお客様のアンケートでは、クルーのおもてなしが一番良かったとご意見をいただいています。さらに地元の皆さんが駅に着いた場面や沿線でお出迎えをしてくださっています。これは地域の皆さまも『瑞風』を通して、地域を活性化していきたいという想いを持っていただいているからです。まさしくこうした人との触れ合い、地元の皆さんの想いが大きな魅力の一つだと思います。『瑞風』はこれからも何十年も走っていくと思います。我々は柄木さんと一緒になって沿線の魅力、地域の魅力を発信していきたいと思います」
司会「ありがとうございました。柄木さん、『瑞風』の撮影を通じて改めて感じた山陰・山陽エリアの魅力を教えてください」
柄木「どう地域をPRするか、どう地域に産業を落とし込むかというのは、結果として人材育成にかかってきます。どうやって様々なコンテンツに巻き込んでいくか、未来に希望を持たせるかというのが重要になってきます。そうした中で、見る側・撮る側も『瑞風』が走るのを楽しみにしているんですね。運行から2年経ちますが、未だにお子さんを連れた家族が色々な場所で手を振ったり、駅でお出迎えをしたりという場面を日常的に拝見します。そういった方々に話を聞くと、『瑞風』が走ってくるのを本当に楽しみにしているとおっしゃいます。『瑞風』が走ることによって地域を繋いでくれているということを実感します。こういった取り組みが地域に明るい材料を与えて、もっとなにかやろうという気持ちに繋がるんだと思います。すごくプラスの効果を地域にもたらしてくれた『瑞風』を本当に誇らしいと思います」
司会「本日はありがとうございました!」