2019年7月12日(金)~15日(月・祝)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2019写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選、コンテスト入賞者などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
7月15日(月・祝)に行われた仁和寺のトークショーでは、総本山仁和寺 執行長 真言宗御室派宗務総長 吉田正裕氏、東京カメラ部10選 柄木孝志氏、別所隆弘氏、浅岡省一氏にご登壇いただき、「仁和寺×東京カメラ部 日本の文化財の美しさを後世に伝える ~青もみじライトアップ2019~」というテーマでお話しいただきました。
東京カメラ部運営 塚崎(司会)「本日はお忙しい中、本トークショーにお集まりいただきありがとうございます。まずは総長の吉田さまから仁和寺のご紹介をお願いいたします」
吉田「仁和寺の総長をしております吉田と申します。仁和寺は西暦888年に宇多天皇によって開かれたお寺です。宇多天皇は10年間天皇を務められ、譲位されたあと自ら出家され仁和寺に入られました。皇室の方が住職になられることを門跡といいますが、それ以来30代に渡って、150年前までずっと皇室の方が門跡を務められました。筆頭の門跡寺院になり、格式は日本一高い寺になります。メインの金堂はもともと御所の紫宸殿だった建物をいただいて、本堂として祀っています。日本最古の紫宸殿の遺構が残る建築物として国宝に指定されています。長い間皇室とも深い関わりがあるお寺です」
塚崎「そんな由緒正しい仁和寺と新参者の東京カメラ部との出会いは、昨年東芝メモリ株式会社(2019年10月1日付から「キオクシア株式会社」)さん、京都府さんと共催した「EXCERIA×東京カメラ部 『未来に残したい、京都』フォトコンテスト」でした。東京カメラ部は、北海道美瑛町さんと「風景写真の撮影マナー問題」に取り組んでいます。そして、このフォトコンテストでは「文化財写真の撮影マナー問題」に取り組みたいと考えていたのですが、実現するためには文化財撮影ではどのような「撮影マナー」が望ましいのかを実際に文化財を守っていらっしゃる方々から教えていただく必要がありました。そこで、東芝メモリさんがご存知だった仁和寺さまに相談させていただいたところ、文化財を撮影するうえでのマナー(案)を一緒に作ることに快諾をいただけて、無事にフォトコンテストを開催することが出来ました。こうした活動を通じて、わたしたちは「文化財を守る」ことの重要性と難しさを知り、東京カメラ部として「撮影マナー」にとどまらず、文化財を残すという点で写真を撮る者としてどの様な形で貢献できるのかと考えるようになりました。そうしたところ、実は仁和寺においても『仁和寺を未来に残す』という取り組みをされていることを知りました」
吉田「仁和寺には宸殿に襖絵であったり、観音堂の中に障壁画であったりが残っています。24万坪の敷地がありまして、その中に150を超える建物や数万点の文書もございます。そういったものを高精細画像のデジタルアーカイブで未来に残していこうということをやっています」
塚崎「すでにデジタルアーカイブは作られているとのことでしたが、予算の関係上、これらはどうしても限られたシーズン、場所からの撮影データとなります。そこで、もし、普段の仁和寺の風景をカメラマンや写真愛好家が様々な時間帯、季節、角度から残していただければ、それは貴重な資産となると考えました。例えば、最近では熊本城が被災されましたが、熊本城が写っている写真を集めて、石垣修復時の参考にしようとしています。何かあったときに元に戻すためには、写真が沢山残っていればいるだけ助かるのです。ただ、撮影を推奨した結果、大勢のカメラマンが集結して、撮影マナーの問題などで文化財を傷つけてしまうということがあっては本末転倒です。そこで、撮影しやすい環境を整える代わりに撮影者用の拝観料を取って、入場する人の数を制限したり、撮影マナーを徹底したりする、というようなことを提案させていただきました。そうしたところ、仁和寺から『紅葉のライトアップをやりたい』というご提案をいただきました。しかし紅葉時期の仁和寺には人がたくさんいらっしゃるので、まずは青もみじの期間で試験的にやらせていただくことになりました」
吉田「京都は今たくさんの方に観光で来ていただいていて、環境公害は問題になっています。写真を撮る方に対してもマナー向上のためにそういったことが発信できるのであればやっていこうと思いました」
塚崎「実際ライトアップをする際には、見てきれいなだけでなく写真を撮りやすくするために、柄木さん、別所さん、浅岡さんの3名からのアドバイスをいただきながら、ライトアップの仕方や撮るポイントを決めていきました」
塚崎「まず一箇所目、お寺の中にある『九所明神』という神社です」
浅岡「試験点灯のときに撮影したものです。被写体とこの場所がとてもマッチしていると思いました」
浅岡「背景が厳格な雰囲気なので、普通に女性を立たせると違和感が出ると感じました。和装で傘を持っていることにより、雰囲気とマッチしたと思います」
別所「こちらも試験点灯に撮影したもので、この時点ですごく可能性を感じました。ライトアップをしたら写真愛好家の方々にたくさん来ていただけると。しかしまだ五重塔が見えないのと、ライトが少しキツい印象ですよね。そこで仁和寺さんに『木で五重塔が見えない』と相談すると、1日くらいで剪定をしてくださったんです。ライトに関しても、一つ前の女性が立っている写真と比べると明るすぎますよね。担当の方にその旨を話すと、『紙を巻いたらいいんじゃないか』とアイディアをいただき、その場で実践してくれたんです。そのスピード感と提案力に驚きました」
別所「正面から見た写真です。秋になると一番美しくなる場所の一つだろうなと予感できました。赤い紅葉が参道に絨毯のようになるだろうなと。ここからの光量調整などは基本的に柄木さんが指示してくれました」
塚崎「柄木さんは元々大山のライトアップに携わっていますが、そういったご経験が生かされましたか?」
柄木「実は僕の今回の役目は写真を撮るというよりも、仁和寺の良さを引き出しながらいかにライトアップをするか、どう個性を出すのか、ということに最大限気を使いました。準備期間は短かったのですが、これだけのものができたというのは、仁和寺さんの判断力・決断力・行動力があったからこそだと思います。神社やお寺は規制が厳しいところも多いです。しかし最後は担当者がどこでそれをOKするかで、かかる時間が大幅に変わります。担当の方の気持ちが大きければ実は早くできる。仁和寺さんは全てのスタッフ、全ての役割分担にその気持ちが備わっていており、総長がそれをまとめているからできたのだと思います」
吉田「仁和寺は合議制を大事に進めているのですが、役員の5人のうちの3人が猪年生まれなんです。だからではないでしょうか(笑)」
柄木「照明の照度や位置は業者さんを含めて調整が結構大変なんです。それを仁和寺さんが率先して動かれるので、我々も動こうと思える。仁和寺さんは人を動かす力を持っていると思います」
塚崎「五重塔もすごい建物で、それを浅岡さんが撮るとこうなります。まだライトアップしていない段階ですね」
浅岡「両方の木にもストロボを当てて、傘とモデルさんの後ろからも当てています。テストの状態ですが、普段こういう状況の方が多いですね。むしろ光が少ない方が自分で作れるのでありがたいですね」
柄木「我々写真家が写すこともそうですが、スマホでもきれいに撮れるということを大前提としてやっています。今はSNSの時代なのでスマホで撮ることを最優先にされますし、そういう方々をファンにすることによって、訪れた人に宣伝していただく。そのためにはスマホできれいに撮れないといけないんですね。そこで、五重塔はまず浅岡さんと別所さんにテストで撮っていただいたものを拝見しながら調整していきました」
塚崎「このカットは大分本番に近い状態です」
別所「光の回り方が撮り手にとって優しく作られているのが実感できました。この写真は一眼レフの12mmという広角で撮っているのですが、スマホで2~3歩下がって撮ってもほとんど同じように撮れて、今回のプロジェクトは上手くいくだろうなと予感した一枚でした」
塚崎「五重塔、美しいですね」
吉田「一層から五層までの屋根の幅がほとんど変わらないんです。非常に美しい構図です。高さは東寺の55mには及ばないのですが、36.18mです」
塚崎「これは試験段階の写真ですね。ライトアップされていない状態で撮ると普通はこんな感じじゃないですか。これをきれいにスマホでも撮れるようにしようというのが我々東京カメラ部が取り組んでいることです」
塚崎「続いて金堂は試験点灯のときはこのようなライティングでした」
塚崎「これが進化してくるとこのようになります。こういったものを見ながら、どこから撮ったら美しく見えるのかを検討していきました。細かいところですが、実は真ん中にある灯篭の光も灯っています」
別所「上から見て一望したときに、コンパクトに仁和寺の魅力が写っているんですよね。五重塔、金堂、改築中ですが門が見えます。紅葉の時期にはここが全て赤くなるんだろうなと想像できます。こういった一枚も必要だと思いますし、街の中にあるということも伝えたかったんです」
吉田「工事しているのも貴重な写真です。台風で崩れてしまったところは8月までの修理予定で、宸殿は今年中に改修が終わります。今しか撮れない非常にレアな写真です」
塚崎「工事中だからと避けるのではなく、こういったところもぜひ撮っていただきたいです。これが積み重なって歴史になるんです。後世にとっての宝になる可能性があるんです」
塚崎「ちゃんとライトアップをすると、こういった写真が撮れます」
別所「金堂は仁和寺に来られた方がまず一目は見たいと思うはずなので、金堂は必ず写真に入れたい。同時に五重塔も美しいバランスで配置されている。仁和寺はとても広いので、入ってから参道を進んでいくと五重塔が徐々に見えてくるんですね。そのワクワク感を出すためには広く見えた写真になった方がいいのではと思い、撮影しました」
塚崎「実は業者さんのご提案で、一度階段のライトが紫色にもなったりしたのですが、サイケになってしまったので丁重にお断りいたしました(笑)」
塚崎「そして最終的にはこのようになりました」
柄木「今回やっていることは写真に撮ってもきれい、ということが大前提です。なので木によって当てる照明や照度も変えています。先端まで木に光が当たるように少しずつ試行錯誤をしています。奥の木は黄色いライトが当たっていますよね。金堂の黄色と合わせるようにすると、手前の緑が生きるのではないかと考え、照明デザイナーさんや仁和寺さんと工夫をしながらオリジナリティを出していきました。そのアクセントが写真に確実に現れ、お客さんのリピートに繋がっていくと思います」
別所「北極星が金堂の真上に来るようになっているんですよね。これを撮った日は雨だったのですが、三脚を立てた瞬間晴れてきて、撮影の間はずっと天気が保ったんです。仏法の力を感じました」
吉田「金堂が南面を向いているので、後ろが北なんですね。必ずそのように作られています」
塚崎「星も含めてこのように撮るというのは先ほど申し上げた通り、星の位置と仁和寺の関係を歴史に残すことになります。方角まで考えられて建てられているということがこの写真からわかります」
塚崎「我々はまだ青もみじのライトアップしかしていませんが、去年の紅葉の際にお伺いしました。もう終わりかけだったのですが、これがその様子です」
別所「望遠レンズを使って撮影した一枚ですが、覗いた瞬間に名所になると確信しました。赤い紅葉の絨毯が広がるだろうと」
塚崎「九所明神も紅葉する場所があってかなりきれいなんですよね」
吉田「仁和寺は京都の西の方、高度の高いところにありますので、冷え込みが厳しいんです。なので紅葉が非常に色付いてきれいです。去年の台風で木が倒れたのですが、その影響で紅葉が見やすくなりました。さらに春先に紅葉、桜、三葉つつじを植えましたのでかなりきれいな景色が皆さんをお出迎えするかと思います」
塚崎「10月下旬から12月にかけてがシーズンなので皆さんぜひ行ってみてください」
塚崎「最近仁和寺さんといえば、話題のこんなものがありますが」
吉田「観音堂の修理が6年かけて終わりまして、特別内拝ということで公開させていただいています。嵐電に乗りますと仁和寺の前まで来ることができます。その嵐電にご協力いただいて、観音号というのができました。中にも障壁画が描かれており、現在京都市内を走っています。ぜひ乗ってみてください(※2019年11月24日(日)まで運行予定)」
塚崎「総長、最後に一言お願いします」
吉田「今回色々な角度から写真を撮っていただき、非常に感動しました。秋のライトアップも期待しています。多くの方々に写真を撮っていただければと思います。今日はありがとうございました」
塚崎「ありがとうございました」
<関連リンク>
仁和寺 × 東京カメラ部 青もみじライトアップ2019 - 仁和寺の風景を未来に残すプロジェクト -