2019年7月12日(金)~7月15日(月・祝)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2019写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
7月14日(日)に行われたキヤノンマーケティングジャパンのトークショーでは、写真家 渋谷敦志氏、株式会社日本写真企画 フォトコン編集部 副編集長 坂本太士氏にご登壇いただき、「RF レンズで見つめるスナップとポートレートの あいだ ~RF24-240mm F4-6.3 IS USMの魅力を語る~」というテーマでお話しいただきました。
坂本「みなさんこんにちは『フォトコン』の坂本と申します。今日は写真家でジャーナリストの渋谷さんと共に写真について、カメラについてお話させていただきます」
渋谷「今日は編集者の方との登壇ですので、公開取材というようなイメージでお話させていただければと思っています。よろしくお願いします」
坂本「まず、最初に渋谷さんの活動を見ていただきます。10枚くらいスライドで流しますのでご覧ください」
渋谷「僕のシリーズの代表的な写真を見ていただきました。シリーズというのは、まず学生時代に留学をし、本格的に写真を撮り始めた地であるブラジルが舞台の『回帰するブラジル』。20年以上に渡りブラジルを撮り続けています。そして『渇望するアフリカ』というタイトルで同じく20年間撮り続けています。最後のカラーの写真は『越境するアジア』というシリーズです。これらを並行で進めながら世界中を撮り続けています」
坂本「写真家になろうと思ったきっかけをお話しいただきたいです」
渋谷「初めてカメラを手にしたのは15歳の時。父親のEOS 1000で高校のクラスメートを撮っていました。カメラがちゃんとしていますので、良い写真を撮ることができ、周囲からうまいね、と言われて調子に乗ったりしていました。直接的なきっかけは17歳の頃に出会った一ノ瀬泰造さんの本『地雷を踏んだらサヨウナラ』です。26歳の若さでカンボジアでの撮影中に命を落とした戦場写真家が残した書簡をもとにしているこの本を読み、『写真家になりたい』ではなくて『写真家になる』と決意をしました。写真の学校には通わずに大学では社会学を専攻したのも、カメラの使い方よりも、まずは何を撮りたいのか、というテーマを深めたいという理由からでした。ゆくゆくは報道写真家として活動できるように学んだんです。そして、就職せずに卒業と同時にフリーの写真家としてキャリアをスタートさせました」
坂本「それでは写真を見ながらお話を伺っていきます」
渋谷「ブラジルのサンパウロで撮りました。留学をしていたと言いましたが、インターンとして1年間滞在しまして、働いていた事務所に向かうために毎日歩く場所で撮った1枚です。僕はブラジル人の偉大な報道写真家セバスチャン・サルガドがいたからブラジルに渡りました。彼は国連や国境なき医師団などとコラボレートをして写真を撮っており、そのような活動内容にも感銘を受けました」
渋谷「これは最近、アマゾン地方で撮った写真ですね。アフリカやアジアでは撮るぞ、という感じの精神で撮りますが、いまだに頑張ってファインダーを覗くというような感覚なので疲れてしまいます。一方で、ブラジルではリラックスして撮れるので、まさに僕の原点ですね。写真を撮る楽しさ、人にレンズを向ける楽しさなどを教えてくれたのがブラジルの1年間です。ですから、ブラジルへは毎年通っています」
渋谷「ここからはアフリカの写真。僕は就職せずに写真家のキャリアをはじめましたが、最初の仕事が国境なき医師団で、サルガドと同じ組織で幸運にも最初にお仕事をさせていただけたのです。そして最初に向かったのがアフリカのエチオピアでした。標高3000メートルを超える山地で撮っていて、肉体的にも過酷で、どんどん疲弊していくわけですが、そんな自分の疲弊と目の前にある世界の疲弊の境目がなくなっていき、自分と一体になったかのような感覚になったんですね。そういう朦朧とした中で撮っていたら彼らのような人々が現れて、言葉は通じるわけじゃないのに、彼らの眼差しを通して声が聞こえてくるような、沈黙の中から『生きたい』という声が聞こえてきたような気がして、その感じ方を『渇望』と置き換えました。写真を通して世界に触れたような手応えがあった瞬間です。つい10日前まで富士フイルムのギャラリーで「まなざしが出会う場所へ —渇望するアフリカ—」という写真展をやらせていただき、ちょうど終わったばかりというタイミングですが、その中で代表的な作品がこちらです。これはウガンダの写真ですね。彼らは親をエイズでなくして孤児となった子供たちで、何年も通って彼らの成長をアルバムを作っているような気分で追い続けています」
渋谷「これも代表作のひとつ。アフリカのルワンダです。ルワンダは丘が連なる美しい国なんですね。朝霧を撮りに行ったところ、青年が自転車でさあっと通り過ぎて行って、その瞬間を撮った1枚です。AIサーボなど使ってなかったのによく撮れたなと思います。このポーズは、きっとカメラマンが撮っているなと気づいて取ってくれたんじゃないかと思っています」
渋谷「僕は『眼差し』というものをテーマにしています。写真家は見ることが仕事なのは間違いないですが、同時に見られているのではないかと。そう気づいたときに主体である僕が従である被写体と関係性が逆転するような感覚になりました。撮る側、撮られる側、見る側、見られる側、それらが共同作業で築き上げていくものだとわかっていき、写真が変わってきたんです。最初は対峙するような対決姿勢でしたが、写真は僕にとって言葉なんだとわかったときに、対話をしているように撮る感覚となりました。写真を見る人も写真と対話していただけるように撮りたい。そのような気持ちで取り組んでいます」
渋谷「これもそういう気持ちで撮りました。プロの写真家であればこういう日の丸構図の写真は撮らないかもしれません。でも僕は正面性を大事にしていて、奇をてらった構図にするのではなく、望遠で遠くから狙うのでもなく、被写体と声にならない会話をしながら撮る、というような気持ちでシャッターを切っています」
坂本「写真を撮ることに葛藤はありますか?」
渋谷「困難な状況に陥っている人にカメラを向けるのは葛藤です。でも、被写体と向き合った時に自然と生まれるコンフリクトが、自分の写真の方向性を教えてくれているんですよ。迷い、逡巡、引っかかり、これらは僕が僕という写真家を作る上で重要な感覚だと思っていて、いまはそういう感覚を自分の中で大切にしています。仮に迷いから撮れない時間があったとしたらそれこそが大事で、撮れない時間こそ写真家が写真家であるための大事な時間ではないでしょうか。そういう時間が写真家を作ると思っています」
坂本「続いてはアジアの写真です」
渋谷「まだ写真展として発表はしていませんが、『越境するアジア』というタイトルで進めています。『越境』は僕の中で重要なキーワード。自分と他者、自分の生きている世界と外の世界など、さまざまなボーダーをいかに溶かしていくのか。写真はそういうものを考えさせてくれるメディアだと思います。アジアは、ブラジルやアフリカよりももう少し緩やかに人と出会って撮っていますが、これはバングラデッシュの児童労働の現場です。苦しみからくる生きづらさよりも、生きたいという強い気持ちを届けていきたいと考えています」
渋谷「これは僕にしては珍しくキレイな写真です。でも、ここはサイクロンの被災地なんですね。寺子屋のような学校に通学しようとしている子たちで、童話の世界のような雰囲気ですね。はにかんでいます」
渋谷「ミャンマーからタイへやってきて難民として生きている少女。もう11年前に撮った写真ですが、定期的に彼女の人生を記録しています。関係性を作ってから撮ること、写真が関係性を作ることの両方があると思いますが、これは写真からはじまった関係ですね。彼女との関係がはじまるまでは、難民について取材をしてもテーマが大きすぎて目線が高くなってしまっていました。難民問題なんてないんです。あるのは個人の問題。難民なんていなくて、みんなひとりの名前を持った人間なんですよね。そのような視点を与えてくれるきっかけとなりました」
坂本「そんな渋谷さんが、キヤノンの新しいレンズRF24-240mm F4-6.3 IS USMとEOS R、EOS RPを手にミャンマーで撮影を行いました。その感想を伺っていきます」
渋谷「新しいカメラやレンズが出れば常にそれを使うようにしています。29年間EOSを使っていますが、フィルムからデジタルになり、昨年からミラーレスも使うようになりました。フィルムからデジタルよりも、一眼レフからミラーレス一眼のほうが戸惑いが大きかったですね。マウントが一新されたのでレンズの可能性は拡がるはずで、そこに期待をして使用しています。そしてファインダーを覗くという時間よりもモニターで撮る時間の方が増えてきて、撮り方も変わってきました。だんだんポートレートからスナップ寄りになってきた感覚がありますね」
渋谷「これはミャンマーのヤンゴンの路地で撮った写真ですね。こういうふうに路地に入ったときに一枚広角で撮ることもあります」
渋谷「思えば、メインで使用したRF24-240mm F4-6.3 IS USMならではの望遠の圧縮感がでる撮り方なのかなと、楽しみながら撮影できました」
渋谷「やはり自由度は増したと思います。ハイアングル、ローアングル、そして走りながら撮ってみたり。片手持ちも交えて、自分なりに工夫をしながら撮っています」
渋谷「これも会話をしながら撮っていますが今までと違うアングルで撮っています。新鮮ですね。カメラをアイレベルから外せるモニターを使った撮影は、イキイキとした表情を撮るのに向いています」
渋谷「ヤンゴンの車両の中です。少し離れたところから望遠側で撮ってみました。このレンズは望遠端の開放F値がF6.3なので、こういう時に余裕を持ってピント合わせができます。F2.8通しの望遠ズームと違い、頬あたりにピントがありますが睫毛もピントが来ていますね。ピントに余裕はありつつ、ボケ味もちゃんと楽しめるということがわかります」
渋谷「子供と遊びながら撮っています。顔認識などを併用することで、僕も動きながらの撮影でしたが失敗することなく撮れていました。スナップや人物撮影にも向くシステムではないでしょうか」
渋谷「尼僧を望遠で撮っています。単に被写体を引き寄せるために使うのではなく、望遠で引きを撮る、広角で寄りを撮る、というように撮ると作風の幅が広がる感覚がありました」
渋谷「これは綱渡りをしているのではなくて船の上から川に飛び込んでいる瞬間。最初は望遠で子供のアップを撮っていましたが、もっと引いて撮ってみたところ、ロープの上を歩いているように見える不思議な1枚が撮れました。偶然の1枚です。コントロールして撮るのもおもしろいですが、偶然もおもしろいですよね。僕は常に遊びを用意しておくように心掛けています」
渋谷「風船越しに女性の顔が写っています。こういうシチュエーションを楽しめる余裕がミャンマーの撮影ではありました」
渋谷「僕は三脚を使わずに手持ちで撮っていますが、約5段分の手ブレ補正が付いているため、夜になっても手持ちで鮮明に写すことができます」
渋谷「これが今の標準的な装備です。EOS RとEOS RP、レンズが2本。最近はRF24-240mm F4-6.3 IS USMも加わっています」
坂本「最後に、新作を流しながら、渋谷さんにとってカメラ・レンズはどんな存在かお聞きしたいです」
渋谷「最近までエチオピアに行っていました。その時に撮ったものを初公開します。こういう難民キャンプのイキイキとした瞬間を撮ってきました。撮影者である自分が一体化するような写真ですね」
渋谷「やはり最後はこういう『眼差し』ですね。写真はコミュニケーション。つまり、言葉なんですね。見ることだけでなくて読むことも大切だと思います。空気を読む、というように、僕たちは文字ではない情報で理解していることもあり、写真も人間の想像力を使ったコミュニケーションツールになると思うんです。そして、カメラは今まで見ていたものを少し違うように見せるための道具。ミラーレスカメラが出たことにより視点は新しくなり、新たな世界が見つけられるかもしれません」
坂本「もっと渋谷さんの考えを知りたいという方は、ぜひノンフィクション『まなざしが出会う場所へ - 越境する写真家として生きる』を読んでみてください。今回はありがとうございました」
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