2016年6月23日(木)~26日(日)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2016写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
6月23日(木)に行われた2016佐賀熱気球世界選手権&佐賀市のトークショーでは、熱気球運営機構会長・町田耕造氏、佐賀市経済部に所属し2016熱気球世界選手権のイベント係長を務める杠精士郎氏、熱気球を撮影している東京カメラ部10選3名の方にご出演いただき、被写体としての熱気球の魅力についてお話しいただきました。
まず10選の方々が撮影された熱気球の写真を拝見しながら、熱気球の写真を撮ることの魅力についてお話しいただきました。
別所「佐賀県で撮影した写真です。今回お話をいただいたときに、熱気球はカラフルで魅力的な被写体で基本的に綺麗な写真にはなるんだけれども、それにプラスして、熱気球が飛んでいる空をいかに撮影するかを考えました。レタッチも空のグラデーションの美しさを意識しています。太陽はフレームアウトしたあたりから照っていますが、その光を写真の右半分に色づくくらいに入れて、左半分は少し暗くすることで夜明けの時間帯を強調しています。一番気に入っている作品ですね」
町田「熱気球の競技について知っている方は少ないと思うのですが、気球は風の行く方向にしか進めないんです。ただ、風というのは、高さによって角度とスピードが違います。それを組み合わせることによって、ある程度気球を操縦することができます。競技としては2種類の形があり、この写真のように一箇所から一斉に離陸し、競技委員会が風下側に作ったポイントを目指すものと、観客席の真ん中にターゲットを設置して、各自が3キロ以上離れた自由な位置からフライインするというものがあります」
別所「僕の地元である滋賀県で冬場に行われた琵琶湖の大会で撮りました。この日は雲が放射状に広がるドラマティックな空だったので、広角レンズで撮影しました。広さと大きさを強調するため、下に小さく人を入れています。広角はパースが効き、奥にあるものほど小さく写るので、遠近感が狂っても熱気球のサイズが分かるように、下側の配分に気をつけました」
別所「これは半逆光の中の熱気球の描写にこだわりました。シャドウを単純に引き上げるとHDRのような平べったい写真になってしまいます。でも真っ暗だと、せっかく綺麗な熱気球の模様が出ない。そのギリギリのところを狙った写真です。元はもう少し暗かったんですが、熱気球のスパイラルの柄が綺麗に出るようにしました」
別所「熱気球の写真で最も魅力的なのは、熱気球が集まっていて、計算していない形がもたらすその美しさだと思っています。この作品は熱気球が円を描いているので『エアリアルシンフォニー』とタイトルを付けました。特に佐賀は、手前の川にリフレクションして熱気球が写ってくれるので、幾何学的な美しさが出てきて写真的においしい場所だと思います」
別所「熱気球を見に集まっている人もすごい魅力的で、自分の内側にある希望や夢を託すように空を見上げています。熱気球だけの写真ではなく、例えばファミリーフォト的なものにもできると思っています」
塚崎「熱気球が飛ぶのは河川敷ですから、背景を空だけに整理できるのも魅力ですよね」
別所「夜の写真はドラマティックになりやすいです。周りが暗い中、炎を高感度で撮ると強烈なコントラストが生まれます。炎を動力として飛ぶというところにロマンがあるので、それを写真にしたいと思いました。ファインアート的な仕上げをしていますが、皆が炎の熱さにおののいているというファミリーフォト的な要素もあります」
別所「熱気球を引きで撮ると、ランプみたいに見えますよね。元々カラフルで美しいものを、内側から光で照らしているから、色がビビッドに出てきます。周囲は夜で、両者のコントラストが気に入っています」
続いて藤原嘉騎さんの作品へと移ります。藤原さんは、2016佐賀熱気球世界選手権公式パンフレッのト写真を撮影しており、熱気球に乗っての撮影も行っています。
藤原「以前熱気球に乗らせていただき、上から低い位置にある熱気球を撮ったものです。下から上がっているのは工場の煙です」
藤原「これも熱気球の上からで、300mmの望遠レンズを使って撮影しています。
杠「会場から10分くらいの位置ですね。向こうに山脈があって、手前が佐賀平野です。南にいくと有明海が見えます」
藤原「熱気球が太陽のところまで飛んで行ったときを見計らって撮影しました。逆光で撮っているため、熱気球は実際には暗いんですが、熱気球それぞれの色を撮りたかったので、普段は白飛びを抑えるために暗めに撮るんですが、ギリギリまで明るめに撮り、後からシャドウを上げて熱気球の色を出すようにしてます」
塚崎「フィルターは使用していますか?」
藤原「使っていません。レンズの逆光性能が強くなっているから、こういうのが撮れるんでしょうね」
藤原「これは夜間係留ですね。バーナーが焚かれていて、見ているだけでおもしろいんですけれど、実際に会場に行くと、音楽と合わせて作業をしていて、とても盛り上がります。『バーナーズオン!』とみんなで言って、バーナーをいっせいに炊くんです。その瞬間は感動的ですね」
町田「夜間係留のことを『ラ・モンゴルフィエ・ノクチューン』と言うんです。初めて気球に乗ったモンゴルフィエ兄弟にちなんだ名前です。これは最後の土日にやっています。競技以外にも夜にこういったイベントをしているので、ご家族で楽しんでいただけると思います」
藤原「曇りでリフレクションが撮れないと思ったので、この日も熱気球から撮らせてもらいました。でも、雲の間から太陽が出てきて、とても幻想的でした」
藤原「太陽が昇ってきて、焼けている状態。これは本当に運が良かったです。前日にだいたい熱気球の飛び立つ位置を下見し、朝焼けと気球を撮ろうと計画していました。本当に良い雲の出方でしたね」
藤原「これは熱気球が膨らむ前ですね。中に入らせてもらいました。皆さん良い人で、お願いしたら近くで撮らせてくれました」
町田「これはシェイプドバルーンといって、少し変わった形の熱気球です。競技用ではないので特別に中に入れてくれたのかもしれません。」
藤原「今回の写真は全て佐賀で撮影していますが、これはオフィシャルの熱気球に乗せてもらって、着陸する寸前です。朝なので、奥の方が霞んでおもしろい写真になったと思います」
塚崎「こんなに住宅のそばを通るんですね」
町田「家がたくさんありますから、10メートルくらいに高度を下げて着陸する場所を探しているところですね。普通は刈り上げられた田んぼなどに着陸します。気球は地元の理解と協力があってはじめて開催できるスポーツなのです。」
藤原「着陸するときおもしろいですよね。ナビがあって、熱気球を追う車と連携しています。僕が乗っていた時は急遽着地場所が変わってしまって、パチンコ屋の駐車場に降りることになりました。パチンコ屋さんに許可取ったりでバタバタしていましたね」
藤原「夜間係留の最後に花火が上がるんですが、それを知らなくて、急に花火の音が鳴り出したので慌てて川の方に行きました。普段はほぼ三脚を持っているんですけれど、その時は熱気球にテンションが上がりすぎていて持っておらず、手持ちで撮影しています」
杠「毎回、最後に花火を3分間くらい上げています。場所はだいたい西側の土手、本部事務所の上あたりです。詳しい場所を知りたい方は運営委員会にお問い合わせください。」
塚崎「花火と何かを組み合わせた写真は皆さん撮りたいと思うので、ぜひチャレンジしていただければとおもいます」
ラストは八木千賀子さんの作品です。
八木「富山県のチューリップバルーンです。最初に熱気球を撮りたいと思ったのは、青空の中にカラフルな熱気球が浮かんでいる様子が絵本のようだったからなんです。そして初めて撮りに行ったんですが、何機か上がった後に雨が降り出してしまって中止になってしまいました」
八木「二日目はなんとか青空になってくれました。これは準備されている方ですね。競技をされている方の動きなども撮りたいなと思い、声を掛けて撮らせていただきました」
塚崎「ここまで近くに行けるものなんですね」
町田「これは富山のローカルの大会だから入れたのかもしれませんね。グランプリ大会は観客動員数が多いので、ここまで近くには寄れません」
八木「これも富山の2日目です。これが一番撮りたかった画ですね」
八木「これは鈴鹿の熱気球大会です。ターゲットが投げられているところを撮影したものです」
町田「ゴールでパイロットがマーカーというものを投下し、それがターゲットにいかに近いかで競います。競技によって撮れる写真、撮りたい写真を選んでいただければと思います」
八木「こちらも鈴鹿です。左が鈴鹿市のバルーンで、右が本田技研工業株式会社さんのASIMOのバルーンです。」
町田「本田技研工業さんは1990年からずっとバルーン競技を応援してくださっていて感謝しています。この本田技研工業さんのバルーンは競技用ではありませんが普通に飛行できるバルーンです」
塚崎「実は東京カメラ部も2年連続で本田技研工業株式会社さんとフォトコンテスト、写真展をご一緒させていただいています。改めてお礼申し上げます」
八木「こちらも鈴鹿。すごい上空に飛んでいたので、望遠レンズを使い月と一緒に撮影しました」
八木「上空にたくさん飛んでいる熱気球と観客の全体を撮りたかったので、ゴールのシーンは魚眼レンズを使いました」
八木「これも遠くから全体を撮っていますね。最初どこから飛び立つか分からなかったんですが、待っていたら遠くから一斉に上がってきて、とても綺麗でしたね。逆光でシルエットを入れながら、撮影しました」
塚崎「大きく撮るのではなくて、風景の一部として熱気球を採り入れるのも、いい味が出ますね」
八木「長野県佐久市で行われていた熱気球大会で撮りました。この時も天気が悪かったんです。田んぼの中に着陸していたのですが、これは中止になってしまったからですか?」
町田「オフィシャルの熱気球が飛んでいるので競技をやっていると思います。こうやって田んぼに着陸することは良くあります。地元の方が農協で声を掛け合って水を入れずに待ってくださっているのです。田んぼに水がはってあると気球を飛ばせませんから、地元のご協力のおかげで我々は気球競技ができるのです」
佐賀の熱気球大会の4Kムービーが上映されました。
杠「大会期間中は『バルーンさが駅』という駅が臨時でオープンしますので、アクセスも非常に良好です」
杠「2016年10月1日に『佐賀バルーンミュージアム』がオープンする予定です。ミュージアムには佐賀駅から徒歩で行けますので車がない方でも気軽にお立ち寄りいただけます。一階には日本最先端の技術を使っているスーパーハイビジョンシアター、二階にはパイロットの気分が味わえるフライトシュミレーターなど、日本初のここにしかない施設がたくさんあります。大河ドラマのセット制作なども手掛けているNHKアートさんによる運営ですから、大人から子供まで楽しんでいただける施設になると思います。スーパーハイビジョンシアターは40名ほど収容人数で、6分間ほどの映像を280インチの大画面で楽しめます。また、日本で初めて有人飛行を行ったイカロス5号のバスケットを展示しています。このミュージアムができることでお父さんは気球を撮影、その間に奥様とお子様はミュージアム見学などといった選択肢も可能となります。そして、今年の佐賀は19年ぶりとなる世界選手権大会、2016佐賀熱気球世界選手権を開催します。競技用とそれ以外も含めて総数150機と昨年のほぼ倍近い数の気球が参加予定です。10日間で120万人と佐賀県の人口80万人を超える集客を目標に進めています。世界大会は各国の持ち回り制で、次回はかなり先になると思いますので、ぜひお越しいただきたいですね。また、佐賀駅前の中央通でサガ・ライトファンタジーという170万球のLEDを装飾したイベントも同時開催します。写真家の方にはバルーンとまた違った写真が撮れると思います。佐賀市ではおもてなしに力を入れて皆様のお越しを心よりお待ちしております」
町田「こうした大会が開催できるのも多く企業の方々が協賛してくださっているからです。例えばパイオニア株式会社さんは10年以上すばらしいミュージシャンを連れて来てくださる形などで夜間係留、ラ・モンゴルフィエ・ノクチューンを全面的にバックアップしてくださっています。今年の世界選手権は初めて日本人がディフェンディングチャンピオンとなる大会です。ぜひ、応援に来ていただけたらと思います。」
最後に、東京カメラ部10選の方々から、まとめのコメントをいただきました。
別所「今年は藤原くんが撮った以上の熱気球写真を撮って、次の世界大会の表紙にしていただけるくらいのものを狙っていきたいなと思っています」
藤原「写真では本当の感動が伝わらないです。飛んだ瞬間の感動は涙が出るくらいなので、みなさん本当に見に行っていただきたいです」
八木「佐賀のバルーンにはまだ行ったことがなく、とても憧れています。今回は世界大会ということなので、是非行きたいなと思っております」