2018年4月26日（木）～5月5日（土）、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2018写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。

5月3日（木）に行われたソニーイメージングプロダクツ＆ソリューションズのトークショーでは、東京カメラ部10選 鈴木悠介氏と半田菜摘氏、ソニーイメージングプロダクツ＆ソリューションズの神保秀人氏にご登壇いただき、「そして世界へ : ソニーワールドフォトグラフィーアワードのすすめ」というテーマでお話しいただきました。

神保「本日は、東京カメラ部とソニーワールドフォトグラフィーアワード（以下、SWPA）の両方に縁のあるおふたりにご登壇いただき、みなさまに魅力をお伝えできればと思っています。担当しておりますソニーの神保と申します。よろしくお願いいたします。まず、手前にいらっしゃるのが半田菜摘さん、それからSWPAの今年の日本賞の1位を獲得された鈴木悠介さんです。それぞれ、自己紹介をお願いいたします」

半田「2016年10選の半田です。北海道生まれ、北海道育ちで、いまも北海道の公園、森、山で野生動物を撮影しています」

半田「ヒカリエの7階にも展示していただいている写真です。知床で撮ったエゾモモンガです」

半田「夏には登山にも行きます。普段は動物を撮っていますが、登山をする時だけは広角レンズを持っていき風景を撮っています。山に登る時は必ずテント泊をしますが、それは山の一番良い時間帯は朝日と夜空だから。その時間帯に下山してしまうのはもったいないのでテント泊するようにしています。本格的ではなく記録的なものですが星空は必ず撮るようにしています」

半田「これはシマリスですね。北海道にはエゾリスとシマリスの2種類がいます。シマリスは冬眠をしますが、これから冬眠にむけてたくさん食べているところだと思います」

半田「最近は動物をアップで撮るのではなく、豊かな自然の中で暮らしているということを伝えたくて引きでの構図を意識するようにしています」

半田「これも引きの構図を意識して撮った野生のシャチです。日本で野生のシャチを見ることができるのは羅臼町だけのようです。船に乗って撮影しています」

半田「東京カメラ部10選になるきっかけとなった写真がこちらのエゾリスの写真です。昨年、ヒカリエにも飾っていただきました」

半田「昨年、SWPAのワイルドライフ部門にシャチの作品で入賞させていただきました。先ほどの羅臼町のシャチを撮ったものです。シャチは観光船から見ることができ、誰でも撮影することができます。2階デッキからジャンプした瞬間が運良く撮れました。撮影してすぐに何かのコンテストに応募してみようと思った1枚でしたので、受賞することができてとてもうれしかったです」

半田「これはうちの旦那です。凍らせました。というのは冗談で、十勝川が凍るんですね。それが割れて海に流れていくんですが、時化た場合、海岸にたくさんの氷が打ち上がるんです。地元の人は『ジュエリーアイス』と呼んでいます。通常は朝日に照らされたジュエリーアイスというような幻想的な写真をみなさん撮るんですが、この日は曇りだったため気持ちを切り替えて撮影してみました。動物の写真ではなかったのでSWPAのトラベル部門に応募した作品です」

神保「こちらは昨年度の日本賞の2位に選ばれました。ハービー山口さんが審査員だったのですが、みなさん最初はまずい写真なのではと話していたのです。でもよく見ると氷の中の方が笑顔だったので安心しました」

半田「入賞するくらいの評価を得られるんだったら、裸で撮影をすればよかったと後日夫は話していました（笑）」

神保「続いて鈴木悠介さん、自己紹介お願いいたします」

鈴木「ずっと女性のポートレートを撮っています。ネイチャー＋女性、部屋＋女性のふたつのコンセプトがあります」

鈴木「この写真は素敵な女性が本を読んでいるという写真で気に入っています。東京カメラ部10選の小山さんの京都のカフェで撮影させていただいています。この写真がきっかけで部屋撮りが楽しくなりシリーズ化させていきました。部屋撮りは写真にストーリーが生まれるので楽しいんです。カメラ目線ではなく、自然な表情を切り取るようにしています」

鈴木「鎌倉にあるオシャレなホテルで撮りました。小物も経営している方が集めているようなこだわりのホテルで、テーブルの上に置かれていたメッセージをモデルさんが見ているところを撮っていて、ヤラセではない瞬間を撮っています」

鈴木「図書館で本を読んでいる女の子が、ときどきケータイをいじっているという感じを意識して撮りました」

鈴木「ネイチャー＋女性のテーマに基づいた1枚ですね。万博公園のコスモスが咲き乱れる丘で撮影しています。アンニュイな雰囲気のポートレートです」

鈴木「これは海で撮った組写真。3枚組にすることでストーリーを感じさせるようにすることもあります」

鈴木「桜の時期に咲く雪柳がまだ満開になる前に撮りました。まさにまばらな花が雪のように見えるようにシャドウを引き締めています」

鈴木「こちらが今回SWPA日本賞で1位をいただいた写真です。光の加減などもポイントですが、本を読んでいるんだけれどカメラを意識していないんだろうなというところをどこか想像させる余地があるように撮っています」

神保「これはハービー山口さんもスタンドが光っているところ、窓の格子の影など光の使い方を評価されていました。これはネパール料理のお店だそうですね」

神保「ここからはSWPAの仕組みと特徴を説明させていただきます。SWPAの目的は『写真文化の継続的な発展に寄与するということ』です。2007年から10回開催し、今年は11回目となります。まず過去の偉大な業績を讃えるために『特別功労賞』というものを設けており、エリオット・アーウィットさんやマーティン・パーさんなど蒼々たる顔ぶれに僭越ながら授与させていただいています。2つ目のポイントは世界最大規模であること。72,000人から32万点の応募がありまして、世界最大規模です。メディア露出も世界規模で受賞すれば世界的な知名度になります。大規模な表彰式には入賞すると出席権利が与えられますが、そこでの物理的な関係者との交流も行えます。細かく4部門20カテゴリーあるので、プロでもアマチュアでも評価される仕組みとなっています」

神保「もっとも上段が部門ですね。『学生フォーカス部門』は教員と生徒のセットで応募する教育目的の部門となっています。『プロフェッショナル部門』『一般公募部門』の最優秀賞受賞者は賞金とロンドン表彰式への招待があり、ユース部門は表彰式への招待のみとなっています。学生フォーカス部門はとても手厚いです。優勝校へは30,000ドル相当のソニー機材が贈られます。プロフェッショナル部門に『ソニー・グラント』を一昨年創設し、各カテゴリーで1位になった10人のうち選ばれた4人へさらに活動資金を提供し、作品制作の継続を支援します。さらに昨年学生フォーカス部門にも『ソニー・グラント』を創設し、一次審査を通過した学校の中から選んだ3校に奨学金を提供しています。

神保「ロンドンで開催しているので日本人には少し取っつきにくいですが、過去に何人も受賞されています。まず野見山桂さん。愛媛大学の准教授で2016年度一般公募部門の最優秀賞に選ばれてロンドン表彰式に参加されました。入賞後、この作品は大型客船に作品が飾られたり、NHK四国で特集番組が制作されたりしたそうで、写真家として大ブレークされました」

神保「続いて2017年度一般公募部門自然カテゴリーで1位を受賞した谷田洋史さんです。これは美瑛の有名な池ですね。海外のギャラリーからの問い合わせが入るようになったことが大きな変化だったとおっしゃっています」

神保「2017年度プロフェッショナル部門静物カテゴリーで2位となった増田伸也さんの『花札装束』です。実家から送られた果物を腐らせてしまうことがあり、その行為に心を痛めて腐った果物に死に装束をしているというユニークで心温まる作品です。入賞後、アメリカ中を巡回する展示に選出されたり、経済誌の食物問題を風刺する写真として使用されたり、最近ではイタリアのウェブマガジンで20Pの特集が組まれるなど、国際的に活躍をされています」

神保「2018年度のSWPAの表彰式がつい先日ロンドンで開催されまして、鈴木さんもご出席されました。鈴木さんからそのときの様子をレポートしていただこうと思います」

鈴木「表彰式はロンドンのハイドパーク隣にあるヒルトンホテルで開催されました」

神保「ディナーの前に『ナショナルアワード』という64カ国で開催されている賞があり、鈴木さんが受賞された『日本賞』もこれに含まれます。ロンドンのジャッジだけでなく国固有のテイストもリスペクトすべきということで国ごとの賞も出しています。それが64カ国1位の方が集まり表彰します」

鈴木「手に持っているのが表彰状です。記者会見用のボードの前に立ち大興奮している表情ですね」

神保「左が主催団体であるワールド・フォトグラフィー・オーガニゼーションのCEOスコット・グレイ氏です」

鈴木「ディナーの様子です。約640人出席していたそうで、絵に描いたようなセレブリティーな雰囲気でした」

神保「世界中から有名な出版関係者が出席しているため、オファーが向こうから来るようになります。写真の女性は最優秀賞受賞者のアリス・トムリンソンさんで、彼女が選ばれた瞬間ですね」

神保「本年度の特別功労賞を受賞されたカンディダ・ヘーファーさんにインタビューをしているところです。図書館などをはじめとする建築写真で知られる方です。ご主人が通訳を兼任してくださいました」

鈴木「展示会場はウェストミンスターのサマーセットハウスという歴史的建造物で行われました。荘厳な造りです」

鈴木「ポートレートの展示会場です。カテゴリーごとに多くの展示ルームがあります。最優秀賞のアリスさんはおひとりの展示室が用意されていました」

神保「おふたりに過去のSWPAで感銘を受けた作品をお聞きしたいです。まず半田さんお願いします」

半田「これを最初見たとき、すごいと思う人はいないと思うんですね。解説を読んでみたら、死刑囚の最後の食事なんだそうです。それを知ったら見方が変わりますよね。手つかずの人もいたり完食している人もいたり。これを見て写真のメッセージ性はすごいと思いました。日本のコンテストの写真はパッと見て感動する写真はありますが正直記憶に残っていないんですが、この作品は違いました。SWPAにはメッセージ性の強い写真がたくさん出品されていて印象に残っています」

神保「2012年、ヘレン・トンプソンさんという方の作品ですね。プロフェッショナル部門の作品は必ず組写真での応募が義務づけられており、内容と写真の整合性なども判断材料となります。一方の一般部門は1枚のみで応募でき、写真1枚の見栄えのみが審査対象となります」

半田「わたしは普段野生動物を撮っているので、いつか星空の下の動物を撮りたいと思っていて、そんなときにこの写真に出会いました。これはブラジルのシロアリのアリ塚でアリクイが食べに来ているんです。緑の光はヒカリコメツキムシで年に数回しか光らないそうなんです。生態を熟知し、運もあり、意図した通りに撮るテクニックも備わっていないと撮れない写真で、わたしもこういう写真が撮りたいと感銘を受けました」

鈴木「僕は今年の最優秀賞のアリスさんの作品が心に残りました。日本でいうお遍路、巡礼地であった人や足跡を撮るということをしています。岩肌にマリア様の像が置いてあるシーンなど、巡礼者の旅の爪痕を残そうとしているようなものを撮っています」

神保「アリスさんは活動資金『グラント』も獲得しましたが、それを使い右に写っている女性の巡礼に同行する予定になっているそうです」

神保「SWPAのウェブは英語ですが応募は難しくはありません。受賞後は英語での対応が必要になりますが、その際にはできる限りのヘルプもさせていただきます。そして、機材の制約はありませんし、審査員は毎年変わるため傾向と対策などもなく、常にゼロベースでの争いになるという点もフェアだと思います。おふたりはSWPAに参加されたことで創作活動への志に変化などはありましたか？」

半田「メッセージ性のある活動をしていきたいと思っています。普段は看護師として働いており葛藤などを抱えています。写真家でもあり看護師でもあるので、自分でしか撮れない写真を組写真で撮っていきたいと思っています」

鈴木「最近湧いてきた想いなんですが、みなさんジャンルではなくコンセプトにこだわって撮っているとロンドンに行き感じました。写真で表現したいテーマがはっきりしていればジャンルは関係ない。ポートレートだけでなく風景なども交えてテーマ性を追求していきたいですね」

神保「2019年SWPAの応募は6月1日から開始しています。応募のハードルは低いにも関わらず、メリットは大きいと思いますので、ぜひみなさんご応募お待ちしております」


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ソニーワールドフォトグラフィーアワード