2018年4月26日(木)~5月5日(土)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2018写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
5月3日(木)に行われた東京カメラ部特別企画のトークステージでは、カメラマン 山岸伸氏、写真家 佐藤倫子氏、東京カメラ部10選 小林修士氏、小林海太郎氏、Mastodon部門 清田大介氏 にご登壇いただき、「写真表現の可能性」というテーマでお話しいただきました。
東京カメラ部運営 塚崎(司会)「本日は大変お忙しい中トークショーにお越しいただきありがとうございます。山岸先生とのトークショーは今回で3回目になります。以前山岸先生のトークショーを伺ったとき、ファインダーを覗かないでEVFで拡大した方が正確なものが撮れるんだ、とお話をされていました。かなり衝撃的だったんですね。プロカメラマンは片目で光学ファインダーを覗いて、もう片方の目で周りを見るのが当たり前だという価値観の中で、こんなに大御所なのになぜこんなに自由な考え方ができるのかと感動し、ご登壇をお願い致しました。また、すごいのは先生は写真の仕事の領域を現在進行形で拡大されていることです。東京カメラ部でも、写真の仕事の領域を広げるべく日々努力をしていて、写真の”その場に行かないと撮れない”という特性を活かして政府や地方自治体などとの仕事が大変多くなってきています。こうした活動は最先端の取り組みとして取材いただいたりするのですが、実は山岸先生は10年前から同じことをやられていたんです」
山岸「わたしは地方での写真の力を活かした取り組みを随分前から続けています。これは、そのひとつである北海道の帯広市での取り組みです。写真は北海道帯広市にあるばんえい十勝競馬場です。僕は10年前、誰も撮りに来なかった頃から朝調教をずっと撮ってきました。それがいまや土日にはここにたくさんの撮影ツアーがくるようになりました。でもそういう人たちには僕と同じ場所には絶対に入らせないようにしているんです。僕はプロなので、やはりそういう線引きは必要だと感じますね」
山岸「ここは誰でも入れる場所なのですが、神様が味方してくれないと撮れない一枚だと思います」
塚崎「ばんえい競馬は経営が厳しくて悩んでいると聞きます。写真家がこれだけ美しい場所があるんだと見出して、それを多くの人に伝えることでたくさんの人がお越しになっているというのはすごいことですよね」
山岸「僕の体調が悪いときに、ある人から馬を見たら元気になるよと言われて一緒に行った場所なんです。馬に触れたときになんとなくエネルギーを感じて通うようになりました。最初の5~6年は全て自分のお金でやっていましたが、写真集を出したりして認めてもらって、今は飛行場をおりた瞬間からバスの中まで全て僕の写真が飾られています。僕はプロで写真を撮って食べているので、無料ではない写真の使われ方を考えていかないといけない。これは声を大にして言いたいです」
山岸「京都の上賀茂神社の遷宮の写真です。ここに入って撮れたのは僕だけなんです。今カメラは技術が進歩して撮ろうと思えばなんでも撮れますが、写しちゃいけない神様は写さなかった。そんな僕が気に入られて、最後までずっと写真を撮らせていただいたし、天皇陛下まで撮らせていただいた。そういう意味ではカメラの使い方を間違わなかったんだなと思います」
塚崎「続いて佐藤倫子先生、お願いします。先生は『どうしてここで切るの?』というところで写真を鋭く切り取り、幾何学的に美しい模様を世界の中で見つけ出す力をお持ちの方です」
佐藤「普通ならば大きく目立つネオンサインを主題にして構図を考えると思うのですが、わたしは空とフェリーにも着目して撮りました。このように一部を大胆に切り取ることによって、幾何学的な世界が見えてきます」
塚崎「佐藤先生の写真は、ここに線を引くと世界はこんなに美しくなるのか、ということをいつも見せてくださいますよね」
佐藤「ありがとうございます」
塚崎「佐藤先生の写真を拝見していると、世の中の絶景を撮りに行かなくても素晴らしい写真が撮れるんだと感動します。仕事が忙しかったり体が悪かったり、色々な事情で遠くにいけない方にも、写真を諦める必要はなく、自分の周りにこんな世界が溢れていると必ず気づかせてくれると思います」
塚崎「このような視点を持って、今回ご登壇くださっている3名の作品も見ていければと思います。今回の展示には新たにMastodon部門が追加されました。東京カメラ部が独自に運営するSNS(マストドンインスタンス・mstdn.tokyocameraclub.com)にご投稿いただいた作品の中で東京カメラ部が皆さまにプリントでぜひ見ていただきたいと考えた作品を展示しています。清田さんはそちらの部門で入選された方です。まずは清田さんお願いします」
塚崎「普段からこのような作品を撮っているんですか?」
清田「そうですね、カメラを始めて2年半くらいになりますが、去年の秋くらいからダークな作品が増えました」
塚崎「2年半でこんなにレベルの高い作品が撮れるなんて、驚異的ですよね」
山岸「カメラは今は誰でも持てる時代ですが、やっぱりしっかりテーマを決めた人は強いですよね」
塚崎「最初からこのような作風だったんですか?」
清田「最初は東京カメラ部10選の浅岡さんに憧れて絶景に女性を立たせたりしていたのですが、徐々にこういったダークな作品が増えて行きましたね」
塚崎「佐藤先生が写真を撮るようになったきっかけはどのようなものだったのでしょうか。最初から作風が決まっていたんですか?」
佐藤「わたしは最初から職業カメラマンになりたいと思っていました。元々化粧品会社の宣伝部の写真スタジオに入っていたので、そこからの影響はかなり受けているかもしれませんね」
塚崎「絵コンテを描く人もいれば、現場に行って考える方もいる。人それぞれだと思うのですが、清田さんは事前にこういうのを撮りたいと想像するんですか?」
清田「こちらは現場で思いついたものですね。レースを垂らしてみたらきれいに撮れるんじゃないかと思って、突き詰めていきましたね。事前の準備はものすごくする方なのですが、現場に行って思いついたものの方がいいことが多いですね」
塚崎「続いて小林修士さんよろしくお願いいたします。カメラ歴は何年ですか?」
小林修士「僕はカメラ歴は20年近くになります。元々は映画の勉強をしていたのですが、そこから写真を撮り始めました」
小林修士「この写真は8年前から撮り続けている『re-flection』というタイトルの作品です。反射やフィルターの効果を使って撮っているのですが、作品が後期になるに従って、そういった効果よりも、影響を受けたDavid Hamiltonというカメラマンのような雰囲気を求めて撮るようになっていきました」
山岸「小林さんはフィルムを使ってきた経験が長くあるので、あとでPhotoshopを使うというよりも、カメラでできることをやるというか、覗いたときにできる表現をしてるイメージですね。映画を勉強していたということで、横位置の写真が抜群に上手いですよね。そういう経験がこれからの時代にも活きてくると思いますね」
小林修士「玄光社から発売されている『密会』という写真集の帯に大きく使われている作品です。僕は数十年アメリカに行ってしまっていて日本というものを体感していないので、自分の知っている日本というものと、そこにある日本家屋の影の要素、自分の中にあるエロティックな部分をどう表現するかということや、エロティックでありながら美しくかもし出すものを表現できないかと思った作品です」
山岸「表現として足や背中を出さなくてもエロティックさが伝わるというか。昭和ってすごく貧乏だったし、ふすま一枚で家を作ってきてしまった。時代そのものがエロティックなんですよね。写真って一点で表現するとそれだけで終わってしまう。でもこうやって続き物で表現すると撮っている人も見えるし、撮られている人も見える。見せ方も大切だなと思いますね」
塚崎「続いて今年東京カメラ部10選になられた小林海太郎さんです。海太郎さんは23歳で、10選の中では最年少なんですよね」
山岸「こういった写真の解説は倫子先生が得意なんじゃないですか?」
佐藤「雨のシリーズを続けて撮られているのかなと思ったのですけれども。ヨドバシカメラの文字が思い切り切られているのが面白いですよね。とても素直に撮られていると思いました。なのでこのまま変な情報に惑わされず、ご自分の視点を素直に撮られていくとよろしいのではないでしょうか」
小林海太郎「こちらは新宿の雨の日に撮りました。基本的には雨の夜に写真を撮ります」
山岸「海太郎くんはまだカメラを持って4年くらいなんだよね。そういう人たちが僕たちと同じ土俵に上がってくる。ヨドバシカメラで講師などもやっているのに、普段見ているものを自分で残していないことに気づいて。もっともっと僕らもピッチを上げて経験値をあげていかないと置いていかれちゃうよね」
小林海太郎「これは横浜で撮った一枚なのですが、こういうストリートの写真が自分は一番好きです。4月から就職をして忙しい状況になってきてはいますが、やっぱり写真はずっと撮っていきたいなと思っています。」
塚崎「皆さんありがとうございました。最後に先生方から一言お願いいたします」
佐藤「皆さま若さがありますから、1日24時間をどうやって使って行くかを考えて、有意義に時間を使ってください。今しかない若さで、寝ないで撮るくらい写真のことを考えていただければと思います」
山岸「今日皆さんに会えてよかったと思います。今後も頑張ってください」
塚崎「本日はありがとうございました!」