2018年4月26日(木)~5月5日(土)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2018写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
5月4日(金)と5日(土)に行われたニコンイメージングジャパンのトークショーでは、東京カメラ部10選 半田菜摘氏と別所隆弘氏にご登壇いただき、「NIKKORレンズから覗く世界の光」というテーマでお話しいただきました。
司会「ご登壇いただく別所隆弘さん、半田菜摘さんのプロフィールをご紹介します。別所さんは滋賀県在住のプロ写真家で、アメリカ文学研究者でもあります。国内外の写真賞を数多く受賞されています。琵琶湖周辺の風景写真をテーマにした『Around The Lake』がライフワークです。半田さんは北海道旭川市在住で、看護師として勤務する傍ら、公園や山などで野生動物を探して撮影をしています。2015年に個展を開催したことをきっかけに作品を積極的に発表していらっしゃいます。それでは大きな拍手でお迎えください」
司会「まずおふたりの写真歴の変遷を見ていきたいと思います。別所さんはなぜ数あるメーカーの中からニコンを選ばれたのでしょうか」
別所「よくカメラを買ったはいいけれど撮らずにしまっているようなことがありますよね?実は僕もそうでした。しかしあるとき、本気で写真を撮ってみようと思い立ち、持っていたエントリー機からD800に買い替えたんです。レンズもAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G EDという高級なものにしまして。自分でもあの時の勢いに驚きます」
別所「D800を買い、嬉しくなって帰宅中に比叡山の展望台へ行き、三脚にのっけて撮ったのがこの1枚です。この写真を撮ったときに、傑作が撮れた!と思いましたね。いま見返すと恥ずかしいです。三脚を使っているのにブレていますが、拡大すると自分の家まで写っている。この圧倒的な解像度に衝撃をうけてからニコンにはまっていきました」
別所「この写真では、花火をJPEGで撮っているという、ちょっと有り得ないことをしでかしています。中央は少し白飛びしていて恥ずかしい限りですが、この写真は僕にとって大切な一枚です。実は僕の人生でいまでも強く残っている記憶の一つがこの琵琶湖花火大会の第1回目のときなんです。家族で手を繋ぎながら会場に行き、ビルとビルの間から大きな花火が上がったのを見た瞬間、僕は踊り狂うほど喜んでいたらしいです。D800を買ったときに必ず撮ろうと決めていました」
別所「次第に身の回りの被写体を撮りたいと思い、自分にとって大切な琵琶湖を撮りはじめました。これは琵琶湖大橋。やがて『Around The Lake』というシリーズをスタートさせますが、これとD800を使いはじめた時期はちょうど被っていますね」
司会「続いて半田さんのニコン遍歴をお願いします」
半田「写真をはじめるまでは釣りが趣味でした。釣り仲間に写真を趣味にしている方がいらっしゃって、その方が撮影した夕陽の写真に感銘を受け、最初は他社のカメラを買いました。ある日森の中でエゾリスに出会い、撮ろうとしたものの動きが速くてうまく撮れず、試行錯誤しているうちに動物写真を撮ることにすっかりはまってしまいました」
半田「動物を撮るには望遠ズームが必要だと知り購入しまして、このエゾフクロウの写真もそのレンズを使って撮影しています。エゾフクロウのヒナはバラバラの枝にいることが多いですが、さまざまな偶然が重なって、同じ枝で目線も揃っている奇跡の一枚を撮ることができました。しかし、かなり暗かったためにノイズが目立つ写真なんです」
別所「たしかに近くで見るとノイズ処理が目立つ写真ですね」
半田「もっと良い機材で撮ればこんなことにならなかったかと後悔し、夫に相談をして大口径望遠レンズを買うことにしました。車が買えるくらいの価格です。技術は大事ですが、高い機材を買うことも同時に必要なんですよね。この時にニコンに乗り換えて、D810とAF-S NIKKOR 600mm f/4G ED VRを購入しました」
司会「ここまでニコンとの出会いをお聞きしましたが、さらに写真遍歴についてお伺いしていきたいと思います」
別所「これは、僕の初めてのヒット作と呼べるであろう一枚ですね。琵琶湖大橋に通い詰めていましたが、このポイントは普段、カメラマンは多くて数人程度しかいないのに、この日は本格的な機材を持った人たちでごった返していたんです。聞いてみたら、1年で2回だけ琵琶湖大橋の間に太陽が昇ってくる日だと。僕も機材をセットして撮っていると、みんな移動してくんですよ。太陽が斜めに昇るので徐々にずれていかないと良い太陽の位置で撮れないわけです。でも気にせず同じ位置で撮っていたら、漁船が1隻さっと横切り船をど真ん中に捉えることができました。僕はそのときに、こういうのを撮りたいと想像していたものを超える一瞬をやっと掴めた気がしたんです」
司会「これはもともと横構図の写真だったそうですね」
別所「そうなんです。D800は高画素機なので半分くらいにトリミングしても写真として成立するんです。4Kディスプレイで見ても何の問題もない。これは当時D800がもたらした革命だったのではないかと思います」
別所「清水寺の有名なポイントです。これはD800のダイナミックレンジの広さにに驚愕した1枚です。池の写り込み部分は現像前は真っ黒だったんですが、持ち上げていったらするするっと像が浮かび上がってきたんです。これを見たときにニコンのダイナミックレンジの素晴らしさと無限の可能性を感じました。ここからRAWで撮り、現像ソフトを通すのが僕の決まり事になりました」
別所「初めて飛行機写真で満足をいくものが撮れたときのものです。良い写真を撮るためには機材も良くなければいけません。僕はこの撮影のためにAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR IIを買い、もっとも困難と言われる飛行機の着陸写真の撮影に臨みました。D800で撮影をしています」
別所「少し飛行機が遠目になりましたが、よりシャープに映っているので機体の金属感などが増していますしノイズも減っています。これはD810とAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDという素晴らしい単焦点レンズを使っているからでしょう。D850ではまだ飛行機を撮っていませんが、恐らくもっと良い描写をするでしょう。たった数年でもここまでリファインされているんです」
司会「再び半田さん、お願いいたします」
半田「野生動物を撮っていますが、被写体によってはこのように観光船に乗って撮影することもあります。この写真は羅臼町から出ている観光船で周りでは野生のシャチが泳いでいます」
半田「どうしてもシャチのジャンプが撮りたくて何度も船に乗りました。そして2階デッキにいたら右真横でシャチがジャンプをしたんです。絶対にもう一度ジャンプするだろうとカメラを用意して待ち、やっと撮れた写真がこちらです。一瞬の出来事なのでAFが速く正確でなければ撮れません。海の上に黒いシャチというのは非常にAFが迷いがちなシーンですが、バッチリ取れています。ニコンの力を借りて撮れた1枚です」
半田「ニコンを愛用している大きな理由のひとつにAFのスピードと精度があります。動物撮影で大切なのはピントです。いくら画質が良くてもピントが来ていなければ意味が無いです。以前は、ピントが抜けて悔しい思いをしたことが何度もありましたが、ニコンを使い始めてから満足のいく写真を撮れることが本当に多くなりました」
半田「この写真にはちょっとしたエピソードがあります。生まれて間もない子鹿はヒグマに襲われないように1週間くらいは笹藪に隠れて動きません。この子鹿はひとり歩きデビューだったようなんですが、1mくらいの高さから落ちてアゴのあたりに怪我をしてしまったんです。母鹿が小鹿の怪我をした部分を舐め、小鹿もどこか瞳がうるんでいます。この写真を見た時に、毛並みや目の輝きなどの繊細な部分をしっかりと写しこんでくれるニッコールレンズは素晴らしいと思いましたね。ピントの合っている部分のシャープさとボケのやわらかさ。ピントを合わせた眼に生命感が宿るといいますか、物語を感じさせる写真になるんです」
司会「続いて現在撮影されている作品のご紹介に移りたいと思います。まずは別所さんからです」
別所「この場所の写真はNIKKOR×東京カメラ部の『ニッコールレンズユーザーズギャラリー』の作例としても使われています。これは僕にとって大事な場所の一つで、通っていた小学校の隣の桜並木なんです。僕は隣の学区から通っていたので友だちがおらず、辛くて学校を抜け出すこともありました。脱走をして捕まるのが必ずこの桜並木で、季節を問わず見ていた景色だったので、ここは美しく撮りたいという思いがありました。思い描いていた撮り方ができた1枚で、ほとんど撮って出しです」
司会「現在では観光などにも影響を与える写真を撮られています」
別所「『これが日本のウユニだ』みたいなテキストと一緒に投稿した滋賀県長浜市の余呉湖の写真です。大きな反響がありました。著名なブロガーさんにもお声がけいただいて、一緒にツアーをするようなことにまで発展し、いまでも長浜市さんとはお仕事が続いています。1枚の写真が自治体と個人などを繋げたりする時代なんだということを実感しました」
司会「プライベートで友人が増えるのも写真の素晴らしいところですよね」
別所「これを撮影したのは2017年1月1日です。2018年に東京カメラ部10選になった眞鍋久徳さんと一緒に撮りに行きました。40歳を超えて正月の朝から一緒に何時間もかけて出掛ける友人ができるのが写真なんです。また撮影地で言葉を交わした人と後日コンテストの場などで再会することもしょっちゅうあります。半田さんとの出会いもそんな感じでした。僕にとって、こういう横の繋がりは財産なんです」
司会「半田さんの最近の作品に移りたいと思います」
半田「実はこの写真は横の構図で撮っています。データのかなりの部分を捨て縦の構図にしました(笑)。タイトルは『ダンゴ』です。いわゆる「SNSでバズる」という体験をした写真でして、私の事を多くの人に知っていただくきっかけになった一枚です。D810で撮影していますが、高画素の恩恵を大きく受けた作品になっています」
司会「最近は引きの構図を意識して撮られているそうですね」
半田「北海道には美しい自然があり、そこに動物が暮らしています。美しい自然の中の動物を切り取れれば最高のネイチャーフォトになるのではないかと」
別所「これは驚きました。何ミリのレンズで撮っているんでしたっけ?」
半田「600mmです。それをD500で撮っているので35mm判換算すると900mmですね」
半田「エゾモモンガが巣から出るときに外敵がいないかを確認しているところですね。この写真が撮れたことはもちろんうれしいのですが、いつも同じような写真になってしまうので何か変化を付けたい。画像検索をすると、正面かカメラマンを見下ろしている写真しかないので逆を突こうと思いました。そこで木に登って真上からエゾモモンガを見下ろす形で撮影しようと思い立ったのです」
半田「運が良いことに、私の夫は『ツリーイング』というロープで木に登るアクティビティのライセンスを持っていたので、私も木登りをしたのですが、エゾモモンガの木はもろくて登れないことがわかり、カメラだけを吊して撮るようにしました。試行錯誤した結果、3点から引っ張るように吊して固定し、Snapbrigeを使ってスマートフォンからシャッターを切っています。露出もピントもスマートフォン上で操作できるので便利でした。極寒の中で4日間空振りの後に、ようやく撮れた写真がこちらです」
半田「この構図は見たことないですよね。穴からもう1匹出てきてくれて本当に嬉しかったです。いい作品が撮れることも大切ですが、撮影までのプロセスを楽しむということも大切だと思います」
司会「お互いに影響を受けた作品を教えて下さい」
別所「作品ではないのですが、SNSの友だち申請したときに表示された半田さんのプロフィール写真。これを見たときにもう半田さんはガチだなと。こういう人がいるんだなと強烈に印象に残ったのを覚えています」
半田「私はこの飛行機の写真ですね。とても有名な作品ですが、うわ、すごいって素直に思います。こういう撮り方、感覚は私にはないものだなと思います」
半田「あとこういう反射を使った風景などは私にはない発想。私は超望遠レンズを使いますし、レンズのチョイスも正反対ですよね」
別所「NIKKORレンズは魚眼から超望遠まで揃っていて、最新のレンズも幅広い選択肢の中から自分にあっている一本を選べるのが楽しみであり、ニコンの素晴らしいところだと思います」
司会「豊富なニッコールレンズで撮られた作品を見ることができる『ニッコールレンズユーザーズギャラリー』も随時更新されていますので、ぜひみなさん見ていただければと思います。
また、ニコンイメージングジャパンスポンサードの東京カメラ部の分室として、山を主題とした山のある風景写真館、夜景、夕景、星空などを主題としたNightscapeGalleryなど、特定の被写体をテーマとしたページがあり、ニコンのレンズ交換式カメラ用の「NIKKOR(ニッコール)レンズ」で撮影された作品を投稿・閲覧できる NIKKOR LENS FacebookページもFacebookにて運営中です。
また、ニコンイメージングジャパン公式Instagramアカウント(nikonjp)では、ニコンのカメラ・レンズで撮影され、光をテーマにした写真に指定のハッシュタグをつけて投稿された皆さまの作品をご紹介しています。ニコン製品を通して、一瞬を共有できる楽しみ、作品を生み出していく感動を発信していますのでぜひフォローしてみてください。
最後までお聴きいただきましてありがとうございました」
<関連リンク>
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