2018年4月26日(木)~5月5日(土)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2018写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
4月30日(月)に行われた環境省のトークショーでは、環境省国立公園課国立公園利用推進室 谷垣佐智子氏、東京カメラ部10選 柄木孝志氏、松岡こみゅ氏にご登壇いただき、「日本の自然を『守り、伝える』」というテーマでお話しいただきました。
東京カメラ部運営 塚崎(司会)「今回は環境省さんと東京カメラ部によるトークショーで、ちょっと変わっているなあと感じる方がいらっしゃるかもしれません。しかし旅や公園は、写真と無縁ではありません。行ったら写真を撮りますし、誰かが撮った写真を見てそこに行きたくなることもあります。環境省さんは”National Parks of Japan”というインスタグラムアカウントを一昨年から運用されていて、カメラ部でも応援させていただいています。こちらのアカウントでは、ハッシュタグ #nationalparksjp をつけてインスタグラムに投稿された日本の国立公園の写真を紹介しています。皆さんもぜひ、日本の国立公園で撮影された写真をハッシュタグを付けてご投稿ください。またFacebookアカウントもございまして、こちらでも日本の国立公園の情報を発信しています。主に外国人観光客の方々に日本の国立公園のよさを知っていただこうということで運営しているので、全て英語なのですが、翻訳ボタンがついているので簡単に日本語文でも見ることができます。ぜひこちらの方も見ていただければと思います。さて早速、環境省さんの方から国立公園についてご紹介をしていただきたいと思います」
谷垣「皆さまよろしくお願いいたします。環境省国立公園課国立公園利用推進室の谷垣佐智子と申します。国立公園は全国に34か所ありまして、日本が世界に誇る自然の風景地が指定されています。例えば関東だと修学旅行で行く日光も国立公園ですし、富士山、箱根、伊豆の温泉もそうです。実は知らずに足を踏み入れているということが多いのではないかと思っています。日本の国立公園の特徴は、国がその土地を所有しているということではなく、地域に住んでいる方や商売をやっている方、農業・漁業を営んでいる方もその国立公園エリアに含まれており、地域作りと密接な関係を持っているところかなと思っています」
塚崎「現在、色々な取り組みをされているんですよね。谷垣さん、こちらの活動は?」
谷垣「海外の方にも日本の自然が素晴らしい場所を知ってもらうために、“国立公園満喫プロジェクト・Visit!National Park Project”という活動をしています。文化や日本食をテーマに旅行に来られた方も、次は自然を楽しみに来たいという方が多く、国立公園は海外の方の旅の目的地として憧れになるような魅力を持っていると思っています。できれば日帰りではなく出来るだけ長く国立公園に滞在してもらって、地域に経済効果が及んで行くようになるのが理想です」
塚崎「国立公園って”守る”という意識が強い場所だと思うのですが、沢山の人に来てもらおうという意識になるのはどうしてですか?」
谷垣「もともと国立公園は美しい日本の自然の風景なので、保護して行かないとその魅力が守られないというのはあるのですが、一方で利用していただくことで自然のよさを知っていただくという役割を持っていると思います。来ていただき経済が回ることで、自然を守る仕組み作りに繋がっていくということもありますよね」
塚崎「実際カメラ部に投稿されている方々が、満喫プロジェクトに参加している公園の写真を撮ってくださっています。今回は代表して10選のお二人にお越しいただいています。まずは松岡さん、お願いします」
松岡「まずは上信越高原国立公園、スノーモンキーで有名な地獄谷ですね。外国の方にも人気ですし、簡単に行ける場所にあるのでぜひ訪れてみてほしいです。スマホでも案外簡単に撮れるんですよ」
松岡「こちらは中部山岳国立公園。いわゆる上高地ですね。紅葉の時期の写真は沢山見られると思うんですけど、冬はバスが出ておらず歩いて行かなければならない場所なので、冬の写真は少ないと思います。素晴らしい光景でした」
谷垣「レンジャーという環境省の職員が国立公園にいるのですが、重装備をしたりスキーを履いたりして冬でも活動しています。冬はレンジャーしか見られない風景もあると思っています」
松岡「そして伊勢志摩国立公園。有名な夫婦岩です。NDフィルターを使って10分以上露光をして、海を平らにするちょっと変わった撮り方をしています。夫婦岩は沢山の写真が撮られているので、工夫をしてみました。」
谷垣「リアス式海岸の英虞湾を見渡せる展望台に、今年大きなテラスを整備しました。コーヒーを飲みながら、素晴らしい景色をゆっくり楽しんでいただけるようになっています」
塚崎「この地域は食事もとても美味しいんですよね。写真を撮る方も撮らない方も楽しめるようになっています」
塚崎「次は大山隠岐国立公園です。大山といえば柄木さんという印象がありますよね。柄木さん、大山の写真をたくさん撮ってらっしゃいますよね」
柄木「僕は15年前に大阪から鳥取に行って、地元の大山、鳥取・島根の風景に魅せられた人間なので、皆さんと立ち位置は同じなんですよね。風景に感動を受けて、それを伝える側になってみようということで、ずっと撮り続けてきました」
柄木「大山は見る場所によって全く形が違うんです。ほうき富士と呼ばれ、富士山のように見えるなだらかな山容もあれば、アルプスのような荒々しい山容もあったり。こちらの写真は、鳥取県と岡山県の県境に位置する日野町の「明地峠」と言う場所で、秋から冬にかけて寒暖の差が非常に激しくて雲海が出るんです。ここも、SNSの影響で人がとても集まるようになった場所ですが、私的にうれしかったのは、地元の集落の方が、自分たちの所有する山をわざわざ削って、自主的に展望台を作られたこと。「自分たちも何かをしなきゃいけない」。そんな地元の人たちの人を招き入れる意識が芽生えてきたことは地域にとっての、鳥取県にとっても何もにも代えがたい財産です」
柄木「大山の一つの特徴に、ブナ林も含めた自然景観の豊かさに加え、非常に歴史が深い地域ということがあります。様々な神事や祭事が行われているなかで、毎年6月の第一週の土曜日に、「大山夏山開き祭」の一環で“松明行列”というのがあります。約2000人が松明を持って“大神山神社奥宮”という所から約800m位の参道をゴールとなる“博労座”に向かって歩くんですけど、これが本当に圧巻。松明をもって神の使いになることもできるので、そういう意味では非常に貴重な体験型のアクティビティのようでもあります」
谷垣「神社、仏閣、歴史的な建物や、人が住んでいる場所ならではの文化など、人と自然のストーリーが凝縮されているのが日本の国立公園だと感じます。世界にもなかなかない特徴だと思っています」
柄木「地元で“雪の花”と呼ばれている現象です。雪が降った後、見上げるとこのようにブナの木に雪が積もって、まさに白い花が咲いた様なロケーションが見れるんですね。でもこれって実は外からでは見えないので、スノーシュ(雪上歩行具)を履いて中に入るツアーも積極的に企画しています。私も実はガイドの一人なんですが、こういったロケーションってガイドが付いていないと入れないですし、しかも山の中に入らないと見られないので、自然を活かしたスペシャルなアクティビティとして、地元で自然保護のための収益を得る循環型の取り組みを、今まさに積極的に進めているという現状です。しかも収益も見込め、ガイドなどの人材育成もできるので地域活性としての価値も大いに見込めることが狙いの一つでもあります」
塚崎「そして山陰海岸国立公園。柄木さん、ここは何処ですか?」
柄木「私たち自慢の砂場(笑)、「鳥取砂丘」です。砂丘の存在は知っていても、ここが国立公園ということを知らない方も多いと思います。観光ができる砂丘としては日本一の規模を誇りますが、壮大ゆえ、様々な砂の芸術を披露してくれます。この一枚は、砂丘に十数年通う私も初めてみた光景。こういうと信じてもらえないかもしれませんが、実は私、虹が出るタイミングがある程度予測できるんです(笑)。この時も前日の夜に観た予報での雲の流れ、外の空気感などからもしやと思って夜明け前からスタンバイ。偶然ではなく、予想して撮影できると感動もひとしお。これも砂丘や大山など偉大な国立公園のなかで身を置いてきた経験値からのものだと実感しています」
柄木「こちらの写真も砂丘でのひとこま。砂丘とは関係ないと思われる方も多いかもしれませんが、実は小高い“馬の背”の向こうにはこんな海が広がっています。特に春から夏にかけての穏やかな日の海は本当に美しい。紺碧という表現がピッタリ当てはまるぐらい色鮮やかな青の世界が広がっています。山と海、砂丘と海。鳥取県の国立公園の一つの特徴としては、こうしたそれぞれの美しい景観が非常に近い距離で隣接しているということ。これは全国の国立公園を見てもそうはないことだと思います」
塚崎「松岡さん、柄木さん、ありがとうございました。皆さまにも撮影のマナーを守りつつ、撮影した写真はぜひハッシュタグを付けて”National Parks of Japan”のインスタグラムアカウントに投稿していただきたいなと思います」
谷垣「レンジャーという仕事は実際自然のなかに入って、写真で記録したり発信したりできる素晴らしい仕事だと思います。現地にいるので奇跡的な瞬間に出会えることもありますし、やはり魅力を伝えられるのは楽しいです。また、せっかくある日本の自然の魅力をどう守って、どう使うのかということをデザインするのも仕事です。そういったことを皆さんと一緒に考えてコーディネートしていければなと思っています。本日はありがとうございました」