2015年5月27日(水)~6月14日(日)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部 2015写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは多くの人気フォトグラファーをお招きして、写真を見ながらのトークショーが行われました。
5月31日(日)に行われたニコンイメージングジャパンのトークショーでは、東京カメラ部10選ニコンユーザーの、菊池英俊さん(10選2014)、Jason Arneyさん(10選2013)、別所隆弘さん(10選2014)の三名にご登壇いただき、作品づくりについてや「Nikon D810(以下、D810)」の魅力についてお話いただきました。
「D810」はニコンのFXフォーマットデジタル一眼レフカメラ。フルサイズのカテゴリで最高水準の3635万画素、高い鮮鋭感と豊かな階調表現で高品位な画作りができるカメラです。
まず始めにご登壇いただいた菊池英俊さん、Jason Arneyさん、別所隆弘さんに、それぞれ写真を始めたきっかけを含めた自己紹介をしていただきました。
菊池「最初に本格的に触れたカメラは、祖父が高校入学のお祝い代わりにくれたNikon Fでした。それからフィルム初心者なりにしばらく楽しんでいたのですが、社会人になってからは写真から離れてしまっていました。5年前くらいにFlickrなどで素晴らしい作品を見て、もう一回撮ってみようと思ったのがきっかけです」
Jason「わたしは6年前に旅をしているときに、京都の桜と出会ったのがきっかけです。まずコンパクトデジタルカメラを購入して桜を撮影していました。そのあと、滋賀の三井寺の夜桜に魅力を感じて実際に撮りに行ったのですが、持っていたコンパクトデジタルカメラでは全く上手く撮れませんでした。そのときから本格的にデジタル一眼レフカメラの勉強を始めて、そこからデジタル一眼レフカメラの世界に足を踏み入れました」
別所「僕はお二人に比べると写真歴は短いのですが、5年前くらいに友人から中古のカメラを購入したのがきっかけです。そのカメラは半分壊れていて、数回に1回はシャッターが切れない状態だったんです。それがかえって僕の闘争心に火をつけて、もっといいカメラでもっといいものを撮ってやろうという気持ちから本格的に撮るようになりました」
三名とも写真を始めたきっかけは様々ですが、今回は「D810」を使ってそれぞれの方に撮影をしていただき、撮影した写真を見ながら、実際に「D810」を使った感想をお伺いしました。まず始めに、普段から「Nikon D800E」、「Nikon D4S」を愛用しているという菊池さんからお話していただきました。
菊池「『D810』は暗いところでも速くて正確にフォーカスが合うことにまず驚きました。そしてカタログには出てこないことなのですが、ミラーショックが小さくてブレに強いことも普段愛用しているD800Eからの大きな進歩と感じました。こちらの写真は『D4S』で撮影したのですが、歩いていたら急に猿が顔を出してきたんです。かなり至近距離に現れたのでびっくりしましたが、すぐに電源を入れて、ほぼタイムラグなしに撮影ができました。カメラ任せで撮影をしたのですが、レンズの描写もオートフォーカスの性能も素晴らしく、拡大すると猿の産毛までしっかり写っていて、やはりニコンはとても信頼できると感じました。厳しい環境やそんな突発的な状況でも応えてくれます。僕がニコンのカメラを使っている大きな理由です」
菊池「左の写真の小屋の前に停まっている車を等倍×2まで拡大したものが右の写真です。車のホイールナットやガラス窓の模様までくっきり写っていることにはすごく驚きました。解像度の高さがわかりますよね」
次に、夏のボーナスで「Nikon D3S」を購入したのがニコンユーザーになったきっかけだというJasonさんにお話をお伺いしました。
Jason「『D3S』はまだ早いかなと思ったのですが、思い切ってボーナスで購入してしまいました。今は『D800E』を使っているのですが、ニコンはダイナミックレンジが広いですね。唯一無二だと感じます。『D810』はISO64の階調表現が非常に良いと感じました。写真はイタリアのトスカーナの写真ですが、描写が素晴らしく壮大さが伝わってきます」
続いて別所さんにお話をお伺いしました。
別所「僕は元々『Nikon D800』を使っていました。『D800』が世に出てきたときに見た図書館の作例にすごく感動したのがきっかけです。高精細かつ高画素でとても魅力があったのですが、ただ当時からブレに厳しいというのはすごく言われていたし、実感していました。それが『D810』になるとボディーが軽いし、手に伝わってくるミラーショックがすごく少ないんです。高精細・高画素につきものであるブレに更に強くなり、とても信頼感がありますね」
別所「三脚に乗せたときも、電子先幕シャッターが搭載されたことでカメラが揺れなくなり、写し出されたときの解像感や精鋭感がすごいと感じました。この写真は飛行機の鋭い鉄の質感が出ている点が嬉しかったのと、もう一つはホワイトバランスが飛行機のシルバーに合っているところに感動しました。夜の暗闇の中にたくさんの緑、赤、黄色の光が被っている状態で、飛行機にピントを合わせれば、機体がキレイに青みがかった状態で撮れる。あとから編集できることかもしれないけれど、これが一発で撮れるというのはやはりすごいですよね」
別所「僕は『AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED』のレンズがニコンを使い始めた大きな理由なのですが、広角ですから周辺は多少流れるけれども、等倍で確認してみても木々の葉っぱ一枚一枚まで解像しているんです。引いた画のときもそれが感じられるから、このレンズを使いたかったというのがありました」
別所「こちらもJasonさんが撮影した広角ならではの美しい一枚ですよね」
Jason「これはイタリアのバチカンで撮影した一枚です。広角のレンズを使えば、手前の橋と奥の円形の建物とを両方写すことができます。ニコンユーザーであれば愛すべきレンズですね」
ここからは「山のある風景写真」という今回のテーマに沿って皆さんにお話をお伺いしました。
Jason「今回の旅ではISO感度64とスローシャッターの組み合わせをメインにして撮りました。撮影する際はなにを撮りたいのかをじっくり考えて、『線』と『光』を考えた上で構図を決めました。この写真はND400フィルターを使ってシャッターを3分くらい開けています。特に左側の白っぽい石が気になったので、それも含めてこの全景を撮影できるかを考えた上で、『AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED』を採用しました」
周りの岩の形状により、街に向かって集中線が出来上がっているため、自然と街の方に目がいく考えられた構図となっています。Jasonさん独特の視点が凝縮されている一枚でした。
続いて、桜の花びらが印象的な一枚は別所さんの撮影によるもの。
別所「僕の家から歩いて5分くらいのところにある桜です。通っていた小学校の横にあるので子どものころから見ていたのですが、この桜を美しく撮りたいとずっと思っていました。今回『D810』を使おうと思い行ってみたときには、もう花びらが散って桜が終わる間際だったんです。広角を使って桜並木を山と一緒に撮ってもキレイだと思ったのですが、この写真は『AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II』の焦点135mm、F値開放で撮影しています。桜の花びらが散るときには風に舞ってしまうので、通常であれば花びら全部を密集させてとらえることはできないけれど、この場所は並木になっているため、風が吹くと一斉に同じ方向に落ちていくんです。そこに望遠レンズを使うと圧縮効果で色んなものが画面に入る。画面周辺の桜にピントを合わせているのですが、望遠の圧縮と開放F値の効果のために、手前から奥に向かって舞い散る花びらが大きさを変えてボケていて、拡大してみると、桜の花びらの形までちゃんと出ているんです。D810の精細な解像が可能にした画です。ちなみに、この写真は美しい桜が舞い落ちる、切ない最後の姿をとらえた一枚ですが、実は後ろにわずかに山の裾野が写っているので『山のある風景写真』なんです」
続いて菊池さんの撮影した富士山の写真です。
菊池「山梨県に櫛形山という山があるのですが、そこの林道の標高1500mくらいから撮った一枚です。あまり撮影の時間がなかったので、ゴールデンウィークの4日間で1800kmの距離を車で走りました。車を走らせても走らせても雲に阻まれてしまったのですが、2日間くらいはなんとか撮れるチャンスに恵まれました。霧はすごく濃かったのですが、タイミングを待っていたら上の方が晴れてきたんです。前から使っていた『D800E』も持っていって、『D810』と同じ条件で撮影して描写を比較したのですが、等倍に拡大して見てみると森の暗いところの木の一本一本の精彩さや奥行きが『D810』の方が勝っていると感じました。色の出方も自然になりましたね」
菊池「富士山を撮影しにいく人はほとんどの人が知っているキャンプ場での写真です。このキャンプ場には小さい池があるのですが、小さい池って多少風が吹いても湖面が波立たないので、鏡面になりやすいんです。画面左から太陽が昇ってくるのですが、日の出の一時間前くらいだと光がいい具合になるので、上下シンメトリーに撮れるんです。富士山の雪渓の細かいシワが出るように、ピントは一番奥です」
Jason「こちらの写真もスローシャッターを使って撮影しているのですが、『D810』はISO感度32まで設定ができるので、昼のスローシャッターにも対応できる機種です。他のカメラだと、スローシャッターで撮影しているときに陽の当たり方が変わるとホワイトバランスがおかしくなるのですが、『D810』は全くそんなことはなかったですね」
別所「北九州市にある河内藤園で撮影した藤の写真です。三脚禁止の場所だったので手持ちで撮影した写真です。藤園にあまり人がいない朝一を狙って撮影したのですが、実はトンネルということもあってかなり暗いんです。この状況だと『D800』を使うと少しブレが怖いという印象だったのが『D810』だとより気軽に撮れるようになりました。これを撮影したときは70-200mmのレンズの130mm辺りの望遠側を使っているのですごく手ブレにシビアになるのですが、拡大すると藤の花びらひとつひとつがしっかり美しく写っているんです。解像度の高さだけでなく細かいところまでとても丁寧な描写になったと感じていて、それが引いたときの画の美しさにも寄与しているんだと思います。そんな画が気軽に撮れるというところに、『D810』のメカとしての強さを感じますね」
色々なお話をお伺いしてきましたが、今後山の写真を撮りたいと思っている皆さんへ向けて、多いときは毎週、最低でも月に2回は山へ行くという菊池さんから、注意点なども含めたアドバイスをいただきました。
菊池「先ほどのキャンプ場のように安全な場所もありますが、もちろん危ない場所もあります。ですので機材以上に安全装備で臨んでください。特に冬場は何かがあって帰れなくなってしまうことも起こりうるので、マイナス20℃近いときでも体温を奪われないような防寒装備などはすごく重要だと思っています。それと、下調べは入念に行ってくださいね」
最後に、菊池さん、Jasonさん、別所さんから、今後どんな写真を撮っていきたいかを含めた抱負をお伺いしました。
別所「古い機材でいい写真が撮れないという考えはあまり好きではないのですが、反面、機材やレンズの性能が上がることによって写真表現の幅が広がるとも思っています。広がっていく表現の幅に対して、僕たちフォトグラファーも進化して追いついていくことにより、更に素晴らしい写真が撮れるようになっていきたいと常に考えています。使うカメラが変わったときに、『もっといい写真が撮れる!』という直感があったので、そういう感覚も楽しんでいきたいですね」
Jason「去年からスローシャッターの勉強を始めて、今回はISO64やISO32を使うことにより更にその世界が広がったと感じました。もっともっと勉強していい写真を撮っていきたいですね。また、自分にとってタイム撮影は強い武器になると思いました。今後も一つの撮影ツールとして使っていけると思います」
菊池「僕はあちこち旅するのが好きなものですから、世界で絶対行きたい場所が何箇所かあるんです。イタリアや、世界で一番星空がキレイだといわれているナミビアのナミブ砂漠、地球創世の物語が眼前で起きているような自然があるアイスランド。そういうところで撮影をしたいです」
今回のお話を聞いて「D810」を今すぐにでも使ってみたくなった方も多いのではないでしょうか。皆さんが今後も素敵な作品の発表をしてくださるのが楽しみです。菊池さん、Jasonさん、別所さん、ありがとうございました!