2015年5月27日(水)・6月14日(日)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部 2015写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは多くの人気フォトグラファーをお招きして、写真を見ながらのトークショーが行われました。
5月31日(日)に行われたキヤノンマーケティングジャパンのトークショーでは、鶴巻育子さんにご出演いただき「街スナップ写真のススメ EOS M3で撮った人のいる風景」というタイトルで、ミラーレス一眼「EOS M3」の魅力についてお話しいただきました。
鶴巻育子さんが手にしているのは、今年の3月26日に発売されたキヤノンの最新ミラーレス一眼レフ「EOS M3」。前機種の「EOS M2」からAF速度や操作性を向上させ、より実力派のカメラとなりました。
そのコンパクトさからバッグにすっぽり入るということで、鶴巻さんも普段から愛用しており、街で撮るスナップ写真のメインカメラになっているそうです。
街スナップのお話の前に、現代の写真の撮り方や写真表現について語られた。鶴巻さんが写真を始めたのは、まだデジタルカメラがない頃。そんな時代から見て、写真そのもののあり方や、写真表現の仕方が変わってきているといいます。
「東京カメラ部に投稿される写真は、パソコンやスマフォで写真を見るのが前提ですね。また、投稿の目的のひとつは、「いいね!」をもらえることの楽しさではないかと思います。そこには、一瞬で感じるインパクトが重要のようです。目立つのが、高彩度や高コントラストの写真が多く、普段見ない風景、長時間露光の星空や水面の映りこみだったり、非現実に見える風景が多い傾向と感じました。でも、わたしが写真を習っていた頃に目指していたものや、いま撮り続けている写真は、それとは逆だったんです。いかに見たものをリアルに撮るのか、ということが大事でした。紙焼きをしたり、雑誌に載せていただいたり、写真展で展示したりすると、反射光で直接見ますよね。そこを最終目的として制作してきたんです。ここ数年で、そこが大きく違ってきていると思っています。今回このイベントで展示されている選ばれた皆さんの作品は、もちろん、東京カメラ部のfacebook上ですでにiphoneで拝見していました。そして、今日それらの作品を額装された形で見ることができました。同じ作品を透過光と反射光で見る違いがわかりおもしろいなと。そんなところもこのイベントの楽しさではないでしょうか。」
「東京カメラ部のサイトに載せたら『いいね!』が沢山もらえそうだなと想像した写真です。ベルリンとスイスで撮った写真ですが、どちらもあまり加工していません。目の前にある風景を、ほぼそのまま表現できるように、撮影時に露出やWBを正確に確認し、画像処理は最小限におさえました。あとはこの二枚から、『EOS M3』の諧調性のよさや画質のよさを感じてもらいたいと思いました」
「この題材にしたのは、東京カメラ部さんの写真は風景が多いな、と思ったから。みなさんも街スナップをあえて撮りましょうというご提案の意味もあるんです」と語る鶴巻さん。
「わたしが街スナップを撮る理由は、芸術とかそういうことじゃないんです。一番の理由は記録。記録のために写真を撮っているんですね。写真を見ることで過去の歴史を知ることができますよね。例えば戦後の風景だったり、その頃の子どもの遊んでいる写真を見て、当時はこんな風だったんだな、と感じる。自分がその時間にいたことが、懐かしいとも思えますよね。そんな写真を残したいんです。それが写真を撮る一番の理由です」
いまはほとんどの人がスマフォを常に持ち歩いているので、スマフォを使って日常的に街スナップが撮影できる時代。その写真と、写真家や写真を趣味にする皆さんが撮る写真は区別したい。スマフォで撮る写真の魅力も大きい。しかし、カメラで撮る写真の力は違うと思う。」と鶴巻さんは言います。
「そこで機材も大事になってくるし、まず何を撮りたいのかをしっかりと考えることで、写真に説得力が出てくる。わたしの場合は、感動的な場面よりも日常の人間の切なさや儚さを撮りたい、と思いながら街を歩いています。」
左側の写真は鶴巻さんがベルリンの街を歩いているときに出会った女性の写真。
「女性の家族が家に遊びにきて、その帰りだと思うんです。家族が帰るのを見送っている場面だと思うのですが、すごく切なそうな顔をしながら手を振ったあとの一瞬を撮りました。そして、彼女が着ている服装は、まさに旧東ドイツらしい。これも歴史を感じる部分でおもしろいと思いシャッターを切りました。」
右側の写真は、スイスの空港で撮った一枚。空港にはたくさんのドラマがあるため、被写体を見つけやすく好きな場所、と鶴巻さんは言います。
「物思いにふけっている女性をシルエットで撮りました。もっと影が強いシルエットになってしまうと、ドラマが見えてこなくなってしまいます。なので、うっすらと髪の毛の色や服の感じが出るように撮影をしました」
「こちらは東京カメラ部さんの告知で使わせていただいた写真なのですが、『いいね!』を1,300くらいいただきました。やっぱり『いいね!』をもらうと嬉しいですね」
このカップルをもっと前に出て撮影することもできたけれど、それだとリアルすぎる写真になってしまうと感じたため、敢えて後ろに下がって通行人が画面に入るようなポジションで撮影をしたとのことです。連写はせず、二枚ほどシャッターを切っただけでこの一瞬をとらえたそうです。
こちらは朝のベルリンの様子。鶴巻さんが散歩をしている際に撮影した自転車のタイヤ跡です。
「人が写っていなくても、ここに人を感じる場所もひとつの『人のいる風景』だと思っています。写真をまとめるときも、人ばかりの写真だと見ていると疲れてきてしまう場合があるので、人が写っていないけれど、人がいると感じさせることで表現をする。」
「一枚の中にさまざまな人のドラマが混ざり合った瞬間を切り取りました。ちょっとおもしろい部分やおかしな部分を切り取るのも興味があります。道で観察しているとよくわからない行動をしている人もいますよね。クスッと笑ってしまうような小さい幸せを切り取るのも、わたしのスナップ写真のひとつの目的でもあります」
「こちらは両方ハワイの写真なのですが、ハワイの気候でみんな陽気になっちゃいますよね。だからスナップで撮ろうと思うものが見つけやすいんです。この数ヶ月で『EOS M3』を持ってヨーロッパやハワイ、ニュージーランドなど世界を回ったのですが、ヨーロッパ、特にドイツではあまり浮かれた光景は見られないんです。国ごとにそういった違いがあるのが興味深いのですが、ハワイは浮かれた独特な雰囲気で面白いものが撮れる場所。左の写真は洋服のお店でマネキンに服を着せているところなのですが、滑稽に感じました。そういう部分を見つけるとシャッターを切りたくなります。右は、ある家族が海岸で写真を撮っているところなのですが、なんだかほのぼのしていますよね。」
「こちらもハワイなのですが、ハワイに行くとみんな開放感からおかしな行動をしてしまうのでしょうか。ここはワイキキから少し離れたビーチです。ウエディングの写真を撮っている人たちがいるのにお構いなしに寝ている人がいたり、色んなところで面白いことをしているんですよね。ビーチはこういう妙な場面を探すために、かなり歩き回っています」
「この写真は、後ろに見えるのがワイキキのホテルです。ワイキキのホテルって夢があったり、リゾート感があったりしてみんなが憧れる場所ですが、少し行くとこうして流木があったりゴミが置いてあったり…全然憧れという雰囲気ではない世界がすぐ隣にあって。わたしたちが思っているハワイのイメージを壊したくなる。皮肉っぽさを表現したくなるんです。一般的なイメージではない風景や場面を見つけて切り取るのもスナップ写真のおもしろいところ。」
「街で人を撮るとき、自然な場面を撮ることもあれば、声を掛けてカメラ目線を合わせてもらう時もあります。最近は人を撮るのが難しいと言われますが、どう声をかけるかだと思うんです。唐突に『写真を撮らせてください』と言ったら少し怖がらせてしまうかもしれない。例えば、この写真の男性にだったら『帽子が素敵ですね』など、ちょっとしたきっかけを作ると安心してもらえるかもしれない。あとは、興味本位ではなく作品で撮りたいということを伝えるようにしています。その際、『作品を撮りたい』『フォトグラファーです』と言っているのに背面の液晶画面を見ながらですと、説得力がないときがあるんです」
そんなとき「EOS M3」に付けられる電子ビューファインダー「EVF-DC1」が一役買うといいます。前機種の「EOS M2」には付かなかった電子ビューファインダーですが、今回のM3から付けることができるようになりました。覗くことで被写体の方にしっかり撮っていると感じてもらえるので、鶴巻さんも重宝しているといいます。
「人によって違うと思うのですが、撮る人をリラックスさせたり緊張感を与えたりと、様々ですよね。よくリラックスさせた方がいいということは聞くのですが、わたしはわたしと撮られる人の間に少し距離があるほうが好きです。笑顔ではなくてその人の真の顔を撮る方が興味があります。」
「ドイツのベルリンを歩いていて、魅力的な方だったので声をかけました。一般的に85mmがポートレイトレンズと言われていますよね。その人物を引き立たせるように撮るのなら、望遠レンズを使うと背景もぼけて、浮き上がりきれいに撮れます。この写真も、35mm換算で210mmのレンズなので撮っているのでかなり望遠ですので、背景のぼけも美しく、人物の存在感が出ました。このような表現では、55-200mmのレンズは、ぴったりです。」
「ただ、わたしが街でポートレイトを撮るときはほとんど22mmのパンケーキレンズを使います。35mm換算だとほぼ35mmの広角レンズですね。そうすると彼女だけではなく、彼女が住んでいるこの街の雰囲気まで撮ることができます。スナップらしさも出ますし、被写体に近づいて撮るため、ちょっとしたコミュニケーションがかぎとなり、それによって表情も変化するたのしさもあります。」
こちらの写真は、早朝街を歩いていた時に出会った男性。クラブ帰りで陽気に酔っていたため、電子ビューファインダーを使わずあえて背面液晶で撮影したとのことです。その場の雰囲気によってファインダーと背面液晶を切り替えられることも、ミラーレスの長所だと思います」
本屋の店員さんを撮影した一枚。乱雑に置かれた本や、窓の雰囲気などを一枚におさめたかったとのことです。22mmのレンズはその希望を叶えるのに最適なレンズです。
「これはハワイで撮った写真です。偶然立ち寄った公園でポリネシアンの女の子と出会いました。おだやかな雰囲気の彼女は、人を心地良くさせる不思議なオーラを持っていました。この場の空気感と一緒に彼女を撮りたかった。」
「ワイキキビーチの近くで結婚式を挙げていたカップルです。撮りたいと思いずっと遠目から見ていました。結婚式が終わったあとに『おめでとうございます』と声をかけて、『お二人がとても幸せそうなので撮らせてくれませんか?』と説明をして撮影した一枚です。最近、人物を撮るのは難しくなってきていますが、こうした声の掛け方やアプローチの仕方次第で結構撮らせてもらえると思います。」
「最近は、人を撮るのが難しくなっている時代と私も含めみなさん痛感していると思います。コンテストの審査をしていても、後ろ姿やシルエットの写真ばかりです。でも、これからも、人が写っている写真を撮っても欲しい。最近、写真家同士で話をしていると、今後後ろ姿やシルエットも撮らなくなり、人が写っていない風景の写真ばかりになってしまい、このままでは大袈裟かもしれなですが、写真が撮れず歴史が残らなくなるのではないんじゃないかという会話がありました。だから、わたしたちも頑張って積極的に人や街を撮っていきたいと話しています。みなさんも是非人や街、日常を撮り続けてほしい。」
最後に、鶴巻さんからテーマを決めて写真を撮ることが大切だとお話がありました。
「わたしの場合は4年くらい青梅の御岳山を撮り続けています。仕事で行ったことがきっかけでした。御岳山には集落があって、人々が今でも昔と変わらない暮らしをしているんです。それがわたしにとってはすごくショッキングでした。東京生まれなのに知らなかったんです。そんな人々の暮らしや、祭事などを撮り続けています。1つの場所を撮り続けているとだんだんはじめは見えなかったものが見えてきます。」
「もうひとつ、場所ではなくてモチーフを集めていく方法があります。わたし、ヒールを履いた女性の脚が好きなんです。このテーマで数ヶ月前に「世界の足採集」という写真展を開催しました。世界を回っているときに、街スナップをしながら撮りためています。テーマやコンセプトを持って撮ることはとても大切だと思います。」
鶴巻さんのお話を聞いて、テーマを決めて写真を撮ることの大切さや奥深さを感じたのではないのでしょうか。また、人が写った街スナップを作品として残していく行為は、歴史的に重要な価値を持っていくことにも気づけたのではないかと思います。どちらの写真も、明日からでもすぐに実践できることです。鞄に「EOS M3」を忍ばせて、新しい視線で街に繰り出してみてはいかがでしょう。
鶴巻育子さん、ありがとうございました。