2017年4月28日(金)~5月6日(土)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2017写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
5月6日(土)に行われた特別企画のトークショーでは、東京カメラ部10選 長岩典子氏、コンテスト入賞者 荒畑恵子氏、中田久美子氏 、東京カメラ部運営 塚崎氏にご登壇いただき、「カメラが広げる私の世界」というテーマでお話しいただきました。
塚崎「みなさんこんにちは。本日はトークショーにお越し頂きありがとうございます。我々東京カメラ部で素晴らしい作品をご紹介させていただくなかで、カメラを始めて人生が変わったとか、友達ができるようになったとか、たくさんのフィードバックをいただいております。表現をする人にとってプラスのインパクトを与えるんだということを我々も実感しているのですが、それができる人って、時間に制限がない人だったり、お金に制約がない人じゃないかという方もたくさんいらっしゃるんですね。でも実はそうではないんです。例えば主婦の方。結婚して子育てをするなかで、時間がないから作品は撮れないのかというとそうではないですよね。実際にお三方にご登壇いただき、どんな工夫をされているのか、取り組んだ結果どうなっているのかお話をお伺いして、それが写真を撮ったり発表したりすることを迷っている方の後押しになればいいなと思っています」
中田「私は5~6年前に大きなバイク事故を起こしてしまい、右手が上がらなくなってしまいました。その事故の日からたくさんあった趣味が一切できなくなってしまったので、何か片手でもできることはないかな、と思ってカメラを手に取ったのがきっかけです。大きくて重いカメラだと持てないので、最初は小さくて軽いソニーのα7を購入しました」
塚崎「実際カメラを持ち始めてからは、どんな写真を撮ったんですか?」
中田「始めた頃は特に撮りたいものはなかったので、身の回りのものを撮影していました。少し経ってから階段を撮影し始めたのですが、特別に階段が好きというわけではなく、作品を発表したときに初めて褒められたからというのが大きいですね」
塚崎「SNSなどで発表して人に見せ、褒められるという体験は非常に貴重なものです。そして写真を撮っていると、暮らしの中にあるものを見る目が変わってくるということですよね」
中田「私はあるものをそのまま撮るというより、カメラを通すからこそできる異空間のようなものを表現することが多いです。この写真は犬の散歩をしているときに見つけた場所なのですが、ブロック塀に貼り付いている桜が桜吹雪に見えたので急いで家から傘を持ってきました。ずっと桜吹雪が撮りたいと思っていたんです」
塚崎「みんなが普通に通り過ぎるような場所も目を凝らして『何かないか』と探すようになるって、写真をやっているとなんだか人生お得ですよね。壁に付いている桜を桜吹雪と連想できるのって、カメラを持っているからですよね。想像力次第で世の中はすごく豊かになるんですよね」
中田「Facebookでお花の写真を撮って次の人にバトンを渡す「フラワーフォトチャレンジ」という企画で、私にバトンが回ってきたんです。でも私はふわっとしたお花のイメージではないなぁと思ったので、缶スプレーで塗装しモノトーンにしてみました。こういった作品の場合は頭の中で完全にイメージを作ってから撮りますね。いつも頭の中に何らかのイメージはあるのですが、自分を裏切るようなもうひとスパイスが浮かんでから撮影をします。アイディアが浮かぶと嬉しくなって、それを具現化するためにすぐに撮影したい!という気持ちになりますね」
塚崎「写真と出会えてよかったですね」
中田「そうですね。事故で大怪我をした女の人って世間一般的には『かわいそう』だと思うんですが、私はこの事故があったからこそカメラに出会えて、見ることがなかった世界を見ることができています。本当にカメラを始めて人生が変わりました」
塚崎「続いて荒畑さん、カメラを始めた理由を教えてください」
荒畑「子どもが生まれて育児一辺倒になったときに、『こんなに育児って大変なんだ』ってすごく悩んで一時期引きこもり状態にまで追い込まれてしまっていました。そんなときに夫がたまたまもらったカメラを使わずにそのまま放置していました。そして、カメラが家庭にはあるもののほとんど使っていないという主婦の方が周りにもたくさんいたので、「もったいないよね?」と考えて、主婦仲間でカメラ講座を企画して先生を呼んで、使い方を教えてもらったことがきっかけでした」
塚崎「最初はどんな写真を撮っていたんですか?」
荒畑「カメラを始めた頃は子どもがメインですね。こちらの写真は今見ると構図が甘いなと感じたりもするのですが、長女と次女と夫の関係を、一番素直な感覚で撮っているのが今でも気に入っています。自分はダメな主婦だと思っていたんですが、こうして家族の素敵な風景をちゃんと見れているんだなと思えたんです」
塚崎「この写真は東京カメラ部に投稿いただいた写真ですよね?」
荒畑「そうですね。東京カメラ部は口コミで知ってはいたのですが、すごい写真ばかりだったのでそれまでは見ているだけでした。『思い出に+me』という分室に投稿したところ、初めてシェアしてもらったんです。今まで自分のタイムラインでは1~2件しかいいねがついていなかったのが何十倍にもいいねをいただけて、それがすごく励みになりました。育児をしていると家とスーパーと公園の往復ばかりになって外の世界から隔離されたような錯覚を覚えてしまっていた私にとっては他の方からこうして写真を褒めていただけたのは、まるで自分の存在を認めてもらえたようで本当に大きかったです。」
塚崎「カメラをやっていると、面倒くさかったり辛いときにもシャッターチャンスになるって思えるんですよね」
荒畑「そうですね。カメラを始めて変わったのは、育児の面倒くさい部分も自然と楽しめるようになったことです。スーパーまで300mの距離で『何でそこで遊ぶの?』ってイライラしていた場面も、子どもたちってそういう面倒くさい時間に一番いい表情をすることに気付いて『もしかしたら撮ったら可愛いかも』ってシャッターチャンスと思えるようになったんです。」
荒畑「主婦仲間にプロ級の料理を作る人がいて、作ったものをご馳走してくれるんですね。彼女は料理が生きがいで私は写真が大好きだから、ある日勇気を出して『素敵だから撮らせてくれない?』とお願いして撮影をしたんですね。そうしたらとても喜んでくれて。お互いの好きが合わさるとちょっと面白いかも、と思えましたね」
塚崎「こちらは、東京カメラ部写真展で初めて荒畑さんにご参加いただいた時の作品ですね」
荒畑「一昨年の2015年にヒカリエに展示していただいた作品です。実はその前年の2014年にヒカリエの写真展を初めて見に行ったんです。そのときにすごく衝撃を受けて、今まで楽しんで写真をやっていたんですが、ここに展示されたいって、一つの目標としてコンテストを目指してもいいんじゃないかと自分の中で思えたんです。そして、展示されるとするならば、私は家族をずっと撮っていたのでやはり家族写真にこだわりたいと思い、家族みんなに協力してもらって撮影した写真です。せっかくなので夫も写真に入れたかったのですが、顔を全部見せてしまうと絵にならないかも…と思い、童話の世界に出てくる狼を表現してみました。スギ並木なので、花粉症の設定です(笑)」
塚崎「展示が決まったときはどう思われましたか?」
荒畑「信じられないと思いました。すごい衝撃的な出来事で…主人も子どもたちもみんなで喜んでくれて、展示も見に来てくれたんです。励みになりましたし、目標に向けて取り組むということも人生のスパイスとしていいことなのかなと思いました」
塚崎「続きまして長岩さん、写真を始めた理由を教えていただけますか?」
長岩「私は仕事の関係で人間不信に陥ってしまい、外に出られなくなったり人と関われない生活が数年間続きました。それを見かねた主人が『カメラを買いに行こうよ』と連れていってくれたのがきっかけです。買ってからしばらくは箱にしまいっぱなしだったのですが、とりあえず何か撮ってみようと思い、飼っている犬やお茶碗、椅子など家の中のものを撮っていました。徐々に撮ることに興味が湧いてきて、庭の花を撮るようになったり、近くの散歩道の木々を撮ってみたり…少しずつ撮るものが広がっていきましたね」
塚崎「カメラって外に出ないと撮れないですからね。カメラを持って外に出るようになって、何が変わりましたか?」
長岩「今まで通り過ぎていたものに目がいくようになって、『近くの公園に花が咲いていたんだな』『ここからきれいな夕日が見れるんだな』と感じるようになって、今までなんでこんな素敵なことに気づかなかったんだろうって思えるようになりました。写真を撮ることによって自分自身を取り戻せるようになりましたし、辛いことを段々忘れられるようになりました」
長岩「写真を始めて2年目に入ったときくらいの作品です。私は撮影目的でどこかに行くのではなく、例えば『今日は北に行く』と方角だけ決めて、ただ走りながら目に留まったものを撮っていたんです」
塚崎「長岩さん、キャンピングカーを買ったんですよね!」
長岩「そうなんです、実は15年前の中古を買いました…(笑)長いときはキャンピングカーに乗って2週間くらい出かけてますね」
塚崎「合成なども活用したファンタジーな世界観が長岩さんの写真の特徴だと思うのですが、こういった作風を撮るようになったきっかけはなんでしょうか?」
長岩「最初は一生懸命風景を撮って歩いていたのですが、そのうちその場所に行くということは”風景を撮る”というよりも、”自分と対峙する”時間なんだということに気づいたんです。穏やかに自分と話せるような場所を無意識に探して歩いていたような気がします」
塚崎「こちらの写真は実は昼間なんですよね?」
長岩「風景を見ているときに、カメラから見る風景とは別の、自分の五感で感じたもう一枚の風景が頭のなかに湧いて出てきます。そして、それこそが、自分自身が見た風景なんだなと思うんです。それをイメージして、この写真も昼間だったものを夜に変えたのは、しだれ桜のところに月明かりが降りるような風景があったらどんなにいいだろう、という思いから作っています」
長岩「もう一つカメラを始めて不思議だと思ったのは、風景を見ていると赤とか黄色とか、自分の中で色が出てくるんです。その色は決まっていて、この風景を撮ったときはこの赤を探してずっと走っていました。私の場合、見た景色をそのままきれいに撮るというよりも、ここで過ごした自分の時間や感じたこと全てを表現したいということだと思います」
塚崎「こういった写真を発表する喜びもあるのではないでしょうか」
長岩「そうですね。どうだ!と見せびらかすということではなく、自分が表現をしたものに共感してくださる方がいればすごく楽しいですよね」
塚崎「まだ写真をやっていない方や、写真を撮っていても投稿はちょっと…と思っている方に向けて、みなさんからアドバイスはありますか?」
長岩「写真が上手とか下手とか、そういったことにこだわらなくていいんだと思います。自分が撮りたいものを撮りたいように撮ったらいいんだと思うんです。そうしていくうちに、自分が何を本当に撮りたいのかがわかってくるようになります。それを誰かに見てもらいたいと思ったら、東京カメラ部さんなどに投稿してみてもいいんじゃないでしょうか。撮りたかったら撮ればいいし、見せたかったら見せればいい。『下手って思われるかも』なんて考えないで大丈夫です。みんなそれぞれ違うんだし、こうじゃなきゃいけないということはないと思います。だから怖がらないで世界を広げて、もっと写真を楽しんでみてください」
中田「怪我したり、ちょっと不自由なことがあると外に出たくなくなってしまう人もいると思うんです。でも、こんな私でも元気に楽しんでやってるんだよ!ということを言いたいですね。私は写真を始めて人生の宝と言えるような友達ができました。そんな風に人の輪を繋げてくれるのもカメラの醍醐味だと思いますね」
荒畑「写真って撮ることも楽しいと思うんですが、見てもらうこともすごくパワーになると思うんですね。私も撮る一方だったらここまで続いていなかったと思うし、見てもらうことで自分が得たことがとても大きいと感じました。なのでみなさんもぜひ楽しんで欲しいと思います」
塚崎「写真のいいところってその場所に行かないと撮れないということなんですね。カメラを持つときっと外に出たくなります。外に出ると景色を見るし、人に出会うようになる。そうすると変化が生まれる。特別にいいカメラじゃなくてもいいから、みなさんも始めの一歩を踏み出してみてください。本日はありがとうございました」