アサヒカメラ 編集長 佐々木広人 × 東京カメラ部運営「いま撮影者が気になる疑問に答える~著作権と審査~」



2017年4月28日(金)~5月6日(土)東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2017写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。

4月29日(土)に行われたアサヒカメラのトークショーでは、アサヒカメラ編集長 佐々木広人氏をお招きして写真の「著作権と審査」をテーマにお話しいただきました。

アサヒカメラ 編集長 佐々木広人 × 東京カメラ部運営「いま撮影者が気になる疑問に答える~著作権と審査~」

塚崎「司会の東京カメラ部運営の塚崎と申します。まずはこちらのスライドからお伺いいたします」

佐々木「この『写真を無断使用する“泥棒”を追い込むための損害賠償&削除要請マニュアル』は今年の1月20日に発売した3月号で出した記事です。DeNAのまとめサイトや、記事の無断使用問題がありました。そのときに写真も同じ目に遭っているんじゃないか、と考えて写真家の方に取材したら、みんなやられている。これは記事にしたほうがいいなと思って作りました。

こういうふうに自分の写真が勝手に使われたとき、警察に相談するとか、弁護士に相談するとか、やり方はあるんですが、警察はあまり動いてくれません。著作権法違反だと言っても、警察は大きい事件じゃないからあまりポイントにならないわけです。

弁護士はどうかというと、成功報酬なんです。例えば相手から損害賠償で取ったお金の何割といった場合、そんなに金額は取れない。この記事の続編に載せていますけど、例えばWebに載せた場合、文化庁に写真家の団体が出している数字によれば1枚で1万5000円とか2万円なんです。その数割、3割とかだったら、弁護士さん儲からないですよね。
なので、自分で戦うしかない。ただ、一般の人は著作権とか肖像権についてそんなに知らない。そこでみんなが使えるようなマニュアルを作っちゃえといって、2つのマニュアルを作りました。

1つは、『私の写真が勝手にサイトで使われているので削除してください』という、優しい文面です。もう1つは、『金を払え、このやろう』という損害賠償。これもまとめサイトに送る用や、情報を管理している団体に送る用など、複数のパターンを作りました。これが大当たりしまして、2月号と3月号は、実はうちの会社に在庫がないんですね。

この記事はものすごい反響でした。約3時間で5,000~6,000のツイートがあったんですよ、リツイートも含めて。見てみると、写真をやっている人だけじゃなくて、同人誌にアニメ、漫画、アニメーター、小説家、それから画家、イラストレーター、いわゆるクリエーティブにかかわる人たちが、自分の作った作品をパクられるなんて許せない。こういうマニュアルがあるんだったらみんなで戦おうぜみたいな感じでどんどん盛り上がりましたね」

アサヒカメラ 編集長 佐々木広人 × 東京カメラ部運営「いま撮影者が気になる疑問に答える~著作権と審査~」

佐々木「本日、こちらに呼んでいただくにあたって、これが言いたかったんです。結論から言います。はっきり言います。実は、ここに展示されているような写真のものがたぶん一番危ないです。パクられやすい」

塚崎「たぶん10選はほぼ全員が被害に遭っているんじゃないかと思います」

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佐々木「実は被害に遭う人って、傾向があるんですよ。写真を無断使用される人って。それをちょっと紐解いていきたい、と思っています。これは記事にも書いていないんですが、まず、やられやすいのが『風景・絶景・秘境』です」

塚崎「まとめサイトなどで人気を博すためにはこういうのをツイッターや、ブログで始めるのが一番楽ですね」

佐々木「検索するとぱっと出てくるんです。東京カメラ部は巨大なサイトなので、検索するとすぐ上に出てきます。まとめサイトの原稿を書いている人たちというのは手間暇かけず、金もかけずにいい素材を無料でパクリたいと思っているので、大きなサイトに行って、ピッと失敬するのが一番いいということですね」

塚崎「我々が東京カメラ部を始める前から、人の写真を勝手に投稿しているブログやフェイスブックがたくさんありました。今でも残っています。そういうところは、投稿を受けたという体を取って、勝手に人の写真を載せているんですよ。

でも、東京カメラ部は、必ず投稿の中に投稿いただいた人のURLと、元画像のURLを入れています。あれはちゃんとこの人にここで投稿をもらいました、という証拠なんです。第一に、投稿してくださった方にトラフィックを流すこと、それと同時に、『我々はちゃんと投稿してもらっていますよ』ということなんです」

佐々木「次は『無料で閲覧できるホームページやSNSに掲載』。これもさっき言ったとおりです。手間暇かけたくない、金をかけたくない。だから、そういうところに手が伸びやすい。

『高画質』。最近のカメラやレンズは性能がよすぎるので、画素数を落としたとしてもそこそこになる。800万画素だったら、A4プリントにも耐えられます。

『人の顔が明瞭に写ってない写真』ですね。顔がはっきり写っていて、この人の写真だとわかるとパクられません。ただ、シルエットとかだったりすると駄目。

『ウオーターマークやクレジットがない』。記事を出したときに無断使用されるぐらいならつけたらどうだという意見が多くありました。だけど、作品としてちょっと嫌じゃないですか。こんなに鮮やかな光景を撮ったのに、あえて価値を下げるようなまねをしたくないという写真家も多いんです。写真を裸のまま見てほしいという気持ちがあるんですよね。では盗まれた実例を見てみましょう」

アサヒカメラ 編集長 佐々木広人 × 東京カメラ部運営「いま撮影者が気になる疑問に答える~著作権と審査~」

佐々木「これが実例です。まず、『まとめサイトやブログでの無断使用』ですね。

写真は勝手に使っちゃいけないって言われてはいるんだけど、実は無断で使うことも許されているケースがあります。『アサヒカメラ4月号』で、著作権問題の解説をしたときに載せてあるんですけど、この写真でなければこれが説明できませんというケース。例えばお寺の梁の組み合わせや建築様式を説明するに当たって、この写真でなければこの建築様式の具体的な特性を説明できないという場合は、サイズを小さくすることによって無断で使っていいことになっています。これは著作権上の必然性というやつです。ただサイパンのビーチがきれいだからという理由だけでパクったりするとアウト。URLを載せていてもダメです」

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佐々木「『他人の作品を自分の作品と偽ってサイトに掲載』ね。これ、意外とあるんじゃないかと思います。皆さんもやられたんじゃないかな。写真家Kさんがサハラ砂漠で女性を撮影してモノクロで掲載した。するとある男性が、写真を無断で使用して、『鳥取砂丘で撮った。大変だったんですよ』みたいな解説がついて、SNSにあげたんですよ。ところが写真家Kさんは、お弟子さんがたくさんいる方。お弟子さんの通報によって、1日か2日ぐらいで足がついたというんですね」

塚崎「東京カメラ部でも他人の作品を投稿する人がいますね。わからなくて紹介しちゃうときがあるんですが、投稿してくれた人のURLがあるので、フォロワーの皆さんがその人のページにすぐ行くらしいんですね。そして投稿してからだいたい5分以内には『これは盗作です』というデータを見せてくれる。1投稿について、5万人から80万人が見ますからすごいですよ。『東京カメラ部、なめるな』なんです。見つけ出します」

佐々木「うちのコンテストの場合、徹底的に調べてはいるものの、ほかのコンテストにも出している二重投稿だったり、偽っていることがあったりするんです。そういうときは潔く認めて、潔く謝って、潔くさらす。出禁だからなという気持ちでやるしかないです」

塚崎「東京カメラ部も即出禁です」

佐々木「『他人の作品を無断使用してコンテストに出品』も似ていますね。僕が知っている事例でも何十万って稼いでいるやつがいますね。これも悪質。『写真を無断使用して写真集を制作・販売』。あり得ないでしょう?これが現実に起きているんです。逮捕者まで出ていますからね」

塚崎「ウオーターマークやクレジットを入れるという方法はあるんですけど、トリミングしたり、半回転させたり、逆さまにしたり、色々やりますよね」

佐々木「画像編集ソフトが、実力を上げてきているので、いろんなことができてしまう。ただ、クレジットやウオーターマークを入れてもいいんだけど、ありのままを見せたいというのが写真家としての矜持だという考え方があるし、僕はそれに賛成なので、やってほしくないですよね」

塚崎「東京カメラ部では、クレジットを入れていただくことは問題ありません。クレジットが入れてある場合、入れてある作品として見ます。真ん中に入れている方もいらっしゃいます。その場合も、真ん中にクレジットがある作品として見て、考えさせていただくという形です」

アサヒカメラ 編集長 佐々木広人 × 東京カメラ部運営「いま撮影者が気になる疑問に答える~著作権と審査~」

佐々木「実はこの記事を思いついたのも、これがあったからです。立場上、アサヒカメラのコンテストに毎月審査にかかわりますけど、それ以外にも、いろんなところにお呼ばれして、コンテストの審査員を月に2~3本、下手すると5本ぐらいやっているんですね。いろいろなところで審査に行くと、いろいろなうわさを聞くわけですよ。これは実際にあった話です。

海外のSNSにアップされた絶景写真。こんなに美しく雷が撮れるんだ、と思うぐらいすばらしい写真ですが、それを無断でダウンロードして、プリントして、国内の写真コンテストに出品したんです。賞金が数十万円の結構大きいコンテストでした。他のコンテストでもありました。

何で気づくかというと、コンテストの審査員というのは、例えば僕らみたいにメディアを主宰している人間や、写真家の方が審査員をやっています。その方々は、いろんなコンテストの審査員をやっているんですよ。そうすると場数を踏むわけですね。そして、いろんな情報を得て、情報の共有も早いんです。

コンテストにもポイントがあって、プリントでの応募とやっているコンテストが一番、フォトロンダリングされやすい。SNSにあった解像度が高いデータをダウンロードして、2Lか大きくてA4ぐらいにプリントアウトします。狙われるのはそれぐらいで応募できるコンテストです。最近のカメラで撮った写真はプリントに耐えられるんです。不特定多数が見るようなレベルの高いSNSの写真を、比較的小規模のコンテストに出す。これが最近の犯行の傾向ですね」

塚崎「小規模だと審査員も少なかったりとかしますしね」

佐々木「こういう小規模のコンテストは、例えば自治体が主催だと、中央から写真家が来てなかったりして、地元の写真クラブの偉い方が審査したりするんですが、あまりSNSのことを知らなかったり、最近のカメラの性能とかがよくわからなかったりするんです。

すると、昔のフィルム時代によく撮っていたときの感覚でそのまま見て、『うわあ、こんな鮮やかな写真が撮れるのか、1位!』とかってやっちゃう。まんまとだまされていく。どうして足がつくかというと、そういう小さいコンテストも優秀作品をホームページに載っけるわけです。1回プリントで沈んでいた犯行が、まだWebで紹介されることによって上がってくるんですね」

塚崎「東京カメラ部でもかなり多くのフォトコンテストをやっています。僕は1日9,000枚ぐらいの写真を見ているので、大体の写真は見ています。すると過去のやつを盗んでいる場合は、『これ、見たことあるぞ』となるんですね。

それから我々はデータで出してもらって、入選候補になるとRAWデータも出してもらうんですよね。大体そこで判別できる。ログがもうなくなっちゃったという人もたまにいらっしゃるんですが、その場合はオリジナルデータも出してもらいます。それもない場合は入選にしていない。これは実は盗用を防ぐためなんですね。そこまで持っていれば大体事実だというのがわかりますから」

佐々木「うちの場合は、使っているボディとレンズの名前、それから絞り、シャッタースピード、ISO感度、その辺のデータを出していただいています」

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塚崎「いろいろあります。さらにこういう人がいました」

佐々木「これはニュースになったので見た人がいるかもしれません。都内に住む男性が、ウェブサイトから写真を無断使用して写真集を制作。1冊5,000円で販売して、長野県警の小諸署に逮捕された。このニュースが出たのはうちの記事の一発目、二発目ぐらいが出たときです。

これも不特定多数が見るWebの写真を、限られた人しか見られない印刷物で売っていく。写真集なら、買った人じゃなきゃ気づかない。ただ、この男性は以前から写真のパクリで議論を招いていた人なので、何となく想像がつきますね。

ただ、情報提供から県警が動いて逮捕までが1年以上かかっているみたいです。やっぱり立件はめんどくさい、難しいというところはそういったところにあるのかなと」

アサヒカメラ 編集長 佐々木広人 × 東京カメラ部運営「いま撮影者が気になる疑問に答える~著作権と審査~」

佐々木「アサヒカメラでは『写真好きのための法律&マナー』という連載を始めていて、その第3回で、肖像権と著作権、それから施設管理権について、実際の写真を見て、セーフ、アウトというのをやろうと思っています。 メンバーは東京カメラ部の塚崎さんと私と、それからフォトストックのPIXTA(ピクスタ)、の審査担当者、そして、弁護士の三平聡史さんという4人。『この写真は肖像権的にオーケー? 駄目?』というのを○×△でやるという企画です」

アサヒカメラ 編集長 佐々木広人 × 東京カメラ部運営「いま撮影者が気になる疑問に答える~著作権と審査~」

佐々木「今回、そこで使用した写真を含めていくつか紹介します。まずこれ。アサヒカメラでは全然問題ありません。皆さんも撮るときに気にするとおもいます。『このぐらい顔が写っているけど大丈夫? この広告、写り込んじゃっているけど、大丈夫?』と。スナップ撮影にはよくあることですね。僕は問題ないんですが、PIXTAの方は難しいと言っていました」

塚崎「人の顔が写っていますけど、東京カメラ部も全く問題ないです。ただ、写真をフォトストックに売りたいという場合は、これは駄目みたいですね」

佐々木「警察官などの顔が写っているんですよね。顔が写っている人には、やっぱり掲載許諾を一人一人ペーパーで要求するそうです」

アサヒカメラ 編集長 佐々木広人 × 東京カメラ部運営「いま撮影者が気になる疑問に答える~著作権と審査~」

佐々木「この写真すごいでしょう? 向こう側に舞妓さんがいるんですけど、舞妓の撮影会に行ったときに、慌ててぱっと撮ったんです。舞妓さんを撮っているよりもこの人たちを見ているほうがよっぽどおもしろい。これも僕ら的には問題ない」

塚崎「問題ないですね」

アサヒカメラ 編集長 佐々木広人 × 東京カメラ部運営「いま撮影者が気になる疑問に答える~著作権と審査~」

佐々木「次はこれです。お祭りの写真です。誰がいるかぐらいはわかっちゃうわけですけど、これも問題ないですものね。ただ、やはり、PIXTAさんのようなフォトストックで素材にするのはなかなか難しいといっていました。

塚崎「後ろ姿だったらいいそうですけど、全員向こうを向いてもらうほうが難しいですよね、あとは流し撮りにして、顔が全部ぶれるようにするか」

アサヒカメラ 編集長 佐々木広人 × 東京カメラ部運営「いま撮影者が気になる疑問に答える~著作権と審査~」

佐々木「これ、ちょっと意外なところがありました。これは犬を連れている人。この写真、ぱっと見て、『何が問題なの?』って思いますよね。そう、車のナンバーです。アサヒカメラ的にも東京カメラ部的にもオーケーなんですが、これを広告とか宣伝の素材に使うかもしれないフォトストックでは、ナンバーは駄目なんですって。僕は動物の肖像権ってどうなのかと思って撮ったんですが、実はナンバーが問題でした」

塚崎「東京カメラ部では、例えばこれが真夏の写真で、直射日光に当たっている犬だったとすると、微妙です。「こんな暑いところに犬を置いている飼い主は何をしているんだ」「なぜ助けないんだ」と飼い主の方や投稿者の方が非難される可能性があるからです。 アサヒカメラさんの場合は、読者はお金を出して雑誌を買われている。ところが東京カメラ部は皆さん、無料で見られている。これは決定的な違いなんです。私たちはWebで運営しているため検索したら出てきてしまう。また、SNSの仕組みを利用しているためフェイスブックでフォローしたり、友達がシェアすると色々な方のタイムラインに写真が表示されてしまいます。つまり、自分の意図によらずして、東京カメラ部が紹介した作品を見てしまうことがあります。この仕組を利用しているからこそ思わぬ形で自分が好きな写真と出会っていただける可能性があるわけですし、投稿者の方は多くの方に作品を見ていただける訳ですが、特定の作品を好まない、または特定の作品で心を傷付けられてしまうようなデリケートな方も見てしまう可能性が否定できない。もっともデリケートな方にすべてを合わせてしまうことはさすがに難しいのですが、こうした運営形態をとっている以上は東京カメラ部としてはデリケートな方への配慮を完全に忘れる訳にはいかないと考えています。」

佐々木「みんな写真を撮るときに肖像権や写り込みをすごく気にするじゃないですか。だけど、撮った瞬間以上に、自分の手元からリリースする先がどこであるかで、気をつけなきゃいけないポイントが違うということです。それを28種類のサンプルを通して次の号でちょっと紹介したいと考えました」

アサヒカメラ 編集長 佐々木広人 × 東京カメラ部運営「いま撮影者が気になる疑問に答える~著作権と審査~」

佐々木「これは石巻駅です。東日本大震災で大変被害を受けて、仙石東北ラインというのが誕生した直後ぐらいですけど、これ、仮面ライダーとサイボーグ009の銅像です。我々的にはオーケーですよね。でも、フォトストックではダメなんです。これらは石ノ森章太郎さんの著作物なんですよ。 例えば、これが背景を切り抜かれたような状態で仮面ライダーとサイボーグ007の銅像だけがあるとまずいのはもちろんですが、この写真はあくまで石巻駅前の風景として成立しているという認識なんです」

塚崎「フォトストックの話を伺って写真には3つあると思いました。1つは本当に作家性を持った作品としての写真、もう1つは、あるメッセージとか、ある商品のプロモーションとかで使う作例としての写真。そしてもう1つが、フォトストックさんが得意にされている分野、いわゆるデータとしての写真ですね。だから、この写真は石ノ森章太郎さんのキャラクターを切り抜いて使われてしまうかもしれない」

アサヒカメラ 編集長 佐々木広人 × 東京カメラ部運営「いま撮影者が気になる疑問に答える~著作権と審査~」

佐々木「次は電車内で撮影したスナップ(キャンディッド)写真です。我々は、勇気のある媒体なので、小さくですけど、載せるんですが、これ、困った話です」

塚崎「施設管理権の問題ですね」

佐々木「そう。去年の11月号で森山大道さんのスナップ特集をやったときに、編集部員が電鉄会社に電話取材しました。そしたら、別に『撮っては駄目だ』とは言わないんです。そう言われたら、その時点でアウトですけど、『撮って駄目だとは言いません』という時点で、一応ルール上は撮れるんですね。ルール上撮れるんだけど、では撮られた人がどう思うかなんです。例えば、この人たちが見たときに、不快な思いをするかもしれない。それこそ肖像権の侵害だと思うんですけども、一応電車内の風景ではあるわけです。 例えば紙だと顔が判別されないようなサイズにできますが、これがSNSやフォトストックの素材とかだと、どこを使われるかわからないわけですね。そうすると難しい。なので、『この写真、セーフですか、アウトですか』と聞かれたとき、『どこにどう出すつもりで言っている?』というのが正しい返し方だと思うんです。いかなる状況下においてもセーフな写真とかって、実は存在しないはずですよね」

塚崎「東京カメラ部では電車内で撮影したスナップ(キャンディッド)写真はありです、ただし、例えば拡大するとスカートの中が写っているとかになったらNGです。エログロ、政治的メッセージ、宗教的メッセージに関しては、他でやってくださいというスタンスです。なので作品として成り立っているのであれば、僕らとしてはできれば載せたい。実際、電車の中の写真をシェアしたりしているというのは事実です。これはスナップ写真に対する私たちの基本的な考えなのですが、スナップは未来への宝物だと思うのです。例えば、過去の巨匠の方々が昭和のスナップ写真を撮って私たちに残してくださったから、今、私たちが昭和の人々の暮らしを見ることができるんですよね。そして、今、我々がこの平成の時代を残さなければ、未来の人たちは『平成の今』を見ることがなくなるんです。 過去の巨匠たちが残してくださった貯金だけは消費するのに、次世代にそれを残さないというのはないと思っています。だから、リスクはあるんですが、作品としてありだなと判定するものに関しては出させていただいています」

佐々木「アサヒカメラも同じですよ。ちょっと違うのは、エロはオーケー。犯罪行為に結びつくようなことは駄目だけど、一応、裸は全部解禁しています」

塚崎「今回、レセプションで立木先生にご登壇いただいたときに、『ここはきれいなものが多い、人間の感情にはきれいなものだけじゃなくて、エロチズムが必要。それがないじゃないか、そこはもうちょっと頑張ったほうがいい』と言われました。ただ、これは意図的になくしているんですね。我々はSNSの仕組みを活用しているという特徴を持っています。意図せず見てしまうということがある。そこの中に、エロとかグロ、政治的メッセージ、宗教的メッセージを入れるべきなのか、と言うと、それは違うだろうと思っています」

アサヒカメラ 編集長 佐々木広人 × 東京カメラ部運営「いま撮影者が気になる疑問に答える~著作権と審査~」

塚崎「こちらが最後の写真になります。この写真、アサヒカメラさんでどうですか」

佐々木「全然ありです。大前提として安全に配慮してくださいねということも応募規約に入っているので、コンテスト的にオーケーです。これが議論を呼ぶんですね」

塚崎「これは東京カメラ部で過去にあった事件の1つです。これは私が責任を持って紹介をした作品なんですが、何万人もの人が見て、すごい数のコメントが入りました。曰く『猫を投げた』、『残酷である』と。『猫好きならこんなことはしない、私は猫好きだから知っているが、猫はこんなふうにならない。写真撮るためなら何をしてのいいのか。こんな作品を紹介するのはおかしい』という趣旨のコメントで主に投稿者の方を糾弾するものでした。

偶然この写真の撮影方法「猫じゃらしでジャンプをさせて地面から撮影する」を動画を収めていらっしゃったので最終的には疑惑は晴れたのですが、その前に大変な数のコメントと、あとメッセージが来たらしくて、投稿者の方の心をとても傷つけてしまいました。

このときは激怒しました。特に自分にです。シェアする前にコメントを付けておけばよかったと、そしてシェアの仕組みにです。当時は、投稿した作品をシェアする形でやっていたので、そこの投稿の中に我々はコメントを書けなかったんです。そして誹謗中傷コメントが入っていることに気付くのが遅れた。本当に申し訳なかったと思っています。

東京カメラ部は、基本的にユーザーに無償で投稿いただいているんですね。それをご紹介することでこのサイトは成り立っている。だから、投稿してくださる方々が神様です。それを傷付けてしまった。この頃はまだ初期だったんですが、それでも一投稿5万人ぐらいは見ていただける状態でした。そして5万人の中の何割かの人はコメント欄も見る。そうすると、『ああ、この人はこんなひどい人なんだ』という話になって、それを見た人が正義の心からメッセージを送り投稿者の方の心を傷つける。正義の鉄槌、ここにありという感じでした。

それ以来、我々はFAQに「『動物虐待で許せない』というコメントをしたい人に対して、本当に動物虐待なのか?確認したのか?あなたがコメントを書くということは、無実の撮影者を深く傷つけるかもしれない」のでよくよく考えて欲しいと注意喚起するための文章を記載するようにしました。人を傷つけるに値する、それだけの確証があなたの手元にあるのか?そこを考えてほしいと。

東京カメラ部にコメントをいただくのは本当にありがたいですし、応援もたくさんいただいていて感謝をしているんですが、作者・投稿者に対して意図してか意図せずかを別として、実質上の誹謗中傷をしてしまう人が一定数います。その人たちにはちょっと待ってほしい。自分の心の中で思えばいいし、自分のタイムラインで書けばいいじゃないですか。なぜこの人の写真の下にあなたの怒りのコメントを載せてみんなに見せなきゃいけないんだろうかと。

ここでも宣言しますけど、我々は基本的に投稿者の味方です。もちろん、投稿者が違法行為とか、倫理にもとる行為をしている場合は、味方はできないですが、そうでない限りにおいては、徹底して投稿者の味方です。

一方でSNSの仕組みを利用している以上は閲覧者に不愉快な思いをさせてしまうのは、我々にも責任があるので、それに対しては仕組みが許される範囲で対応します。だけど、基本的には投稿者の味方であり続けたい。それはアサヒカメラさんも同じですよね?」

佐々木「同じですよ。基本は写真の受け手として見るというよりは、撮る人が見て楽しむ本ですからね」

アサヒカメラ 編集長 佐々木広人 × 東京カメラ部運営「いま撮影者が気になる疑問に答える~著作権と審査~」

佐々木「というわけで、説教臭くなってすみません。今、出ている号がこちらです。写真好きの法律&マナーってやらせていただいています。これの第3回目が6月号で、塚崎さんと一緒に座談会をやっているという号です。今出ている号は、スナップ撮影の落とし穴を探せという特集。 ちょっと前にラーメン二郎で大盛りを頼んだのに食えなくて、店員に二度と来るなとSNSで書かれちゃったことがありました。実はあの店員の対応は、一応正しいんですよね。施設管理権というのがあって、店を切り盛りするに当たって円滑に業務を遂行していくために権利を守られているんです。 料理の写真とかを撮ったりとか、店内の様子を撮ったりするじゃないですか。それが実はアウトだったりすることがあるわけです。お店の人が施設管理権の名の下に、彼らの良識に基づいて許してくれているという領域があったりするわけです」

塚崎「だから、撮っていいですかと聞いたほうがいいということですね」

佐々木「ここに架空のまちを用意しています。商業施設、デパート、カフェテラス、レストランがあって、コスプレ大会をやっていて、神社におみこしがあって、人の家の庭先があって、ここに広告がある。全部で8つのシチュエーションを用意して、そこで写真を撮るときに何に気をつけていけばいいのか解説しています」

塚崎「撮影者のための情報がたくさん出ています。ぜひご覧をいただければと思います。本日はありがとうございました」

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