2017年4月28日(金)~5月6日(土)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2017写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
4月28日(金)に行われた特別企画のトークショーでは、フジフイルムスクエア島田氏、ソニーイメージングギャラリー永井氏、東京カメラ部10選 浅岡省一氏、Kyon.J氏、八木進氏、八木千賀子氏、東京カメラ部運営 塚崎氏にご登壇いただき、「個展を開催するということ」というテーマでお話しいただきました。
塚崎「皆さん、こんばんは。このトークショーは、実際に個展を開催した方、個展を開催したい方、個展の開催を応援する方の三者にお話をお伺いするステージになります。自分でも個展を開催したい方や、個展を見るときにどんな視点で見たらいいかなどの参考になればいいなと思います。それでは、まずは個展経験者の方からお話をお伺いしたいと思います。まずは八木千賀子さんお願いします」
八木千賀子「私は今年の1月に、東京カメラ部のギャラリーで初めて個展を開催しました。今まではヒカリエで行われている合同の写真展だけの参加だったので、全てを自分で考えなくてはいけない状況はたくさんの経験と勉強になりました」
塚崎「東京カメラ部10選の方には、我々の原宿にあるギャラリーを無償でお貸出ししているんです。ただ、徹底して放任主義。ギャラリーは貸すけれど、全てのことは自分でやってくださいというスタンスです」
八木千賀子「写真展を開催した経験がある方にたくさんお話を聞いて勉強しました。今回の展示ではA2サイズのプリントで16枚並べようということを最初に決めて配置をしていきました。春夏秋冬と朝昼晩を意識して並べたんですね。そのあとは広い景色が連続しないかなど、並べ方を何回も何回も考えて、一ヶ月くらいで作り上げました。写真展で並べられる写真の枚数にはwebギャラリーと違って物理的な制限があるので、すごく悩みました。これを飾りたいという写真があったとしても、他の写真とのバランスを考えると出せなかったりもして」
八木千賀子「個展をするためにはDMも必要です。全て自分でデザインをして印刷をして、色々な方に発送をしたりギャラリーに置かせてもらったりしました。約2,000枚用意しましたね。宛名を自分で書いたりと大変なことはたくさんありましたが、やってよかったと思いました。自分の作品との見つめ合いでもあるので、すごく勉強になりましたね」
塚崎「実際展示した写真を何枚か見ていきましょう」
八木千賀子「春の桜の写真なのですが、この写真からスタートします。私の師事している先生から『女性なんだから優しい写真から始めなさい』と言われ、選んでみました」
八木千賀子「こちらは初夏の写真ですね。会場に入ったところの一番最初の壁に3枚並べたのですが、1枚目が朝の桜の写真、2枚目が昼の空の写真、3枚目が夜桜の写真です」
八木千賀子「私は普段風景写真を撮っているのですが、そこに人の営みが感じられることが素敵だなと思えるようになって来て、こういう写真もよく撮るようになりました」
塚崎「こういった写真はスマホで見られた場合だと、ポイントになる人が小さいのでなかなか評価されないんですよね。でもプリントされたものが展示されると、細かいところまでしっかり見てくれるんです。これは嬉しいですよね」
八木千賀子「個展が終わってすぐは『ああ大変だった、もうやりたくない』と思ったんですが、今となっては写真展を開催することで自分の写真と真剣に向き合って、『こういう写真を突き詰めたい』という思いがはっきりして来たので、自分を見つめ直すという点ではすごくいい経験だったと思います。あと、来ていただいた方と直接表情を見てお話することは本当に貴重な機会だったので、開催してよかったと思いました。またいつかやってみたいと思います」
塚崎「続いて浅岡さんお願いします」
浅岡「僕はギャラリーの図面をPhotoshopで引いて、そこにプリントしたいサイズに写真を縮小して当てはめていったんですが、3日で終わると思っていたのに1ヶ月音信不通になりました(笑)最終的にキーになるカットを決めて、そこに誘導していくような組み立て方をしました」
浅岡「セレクトの時点で自分の写真が一回わからなくなるんですね。でもそれを乗り越えてギャラリーで自分の写真に囲まれた時の幸福感はすごかったです。全日できるだけ長く在廊したかったので、お昼ご飯も20秒くらいで済ませましたね」
普段はweb上でのやり取りが多いのですが、実際お会いする人の半分くらいは僕と会うときに手が震えているんですね。僕も人見知りなのでその気持ちがわかるんですが、それを乗り越えて声をかけて来てくれたことが直接伝わるので嬉しいですし、またいい写真を撮ろうと思える原動力になりました」
八木千賀子「スマホで作品を発表するだけではわからない、皆さんが作品を見てくれているときの姿も印象的でしたね。立ち止まってじっと見る方、『どうやって撮ったんですか?』と聞いてくれる方、それぞれで。どの作品の前で足が止まるかというのも興味深かったですね」
塚崎「続いてこれから個展を開催される八木進さんにお話をお伺いしたいと思います」
八木進「6月9日(金)から15日(木)までフジフイルムスクエアにて個展「CINEMA PARFUM」 ~子供のころ、映写室を愛したように~を開催させていただきます、八木進と申します。展示するのは僕の家で経営していた映画館を撮影した写真です。建物は40年ほど前に建てられて、6年前に閉館しました。閉館してしまう映画館なのですが、誰もいない売店や窓口を写真に撮るよりも、幼稚園の子どもを入れてちょっとでも生きている写真になればいいなという思いで撮り始めました」
塚崎「八木進さんの写真展を開催しようと思われた理由を、フジフイルムスクエア館長の島田様にお話をお伺いできればと思います」
島田「フジフイルムスクエアでは年に2回募集・審査する公募展約70回と、我々が主催している企画展を開催しています。今年はフジフイルムスクエアが10周年になりますので、写真をより多くの人に見ていただきたいという思いを込めて『写真の過去・現在・未来』というテーマを設けました。その中の『写真の未来』、写真はこれからどうなっていくのかということを考えた際に、東京カメラ部さんの主体であるwebと写真展の親和性を考えることが我々の命題としてもありました。八木進さんの作品には写真の中から伝わってくる独特の匂いのようなものを感じたので選ばせていただきました。最初はこういった場所を借りて撮影しているのかと思いましたが、実はドキュメンタリーだということをお伺いして『なるほどな』と思いまして。ご自身の気持ちや人生をこの写真の中に投影されているということが僕らの気持ちに伝わったんですよね」
八木進「映画館の名前にある”PARFUM”というのは”匂い”とか”香水”という意味で付けられていまして、今回の展示も映画館の匂いがテーマとしてあります。展示する写真も、劇場の中というよりも映写室や機械周りなど僕が子どもの頃に遊びに行っていた場所が多いです。ここはコンクリートの壁に囲まれていて、扉も鉄なんですね。映写室に近くにつれて音が聞こえてきて、扉を開くとカチカチカチ、という映写機の音がして、光が漏れてくる。小さい男の子からすると大変魅力的な場所ですよね。そういう僕の記憶の中の匂いに、皆さんが囲まれている気持ちになれるような展示になればいいなと思っています」
八木進「こちらは倉庫での一枚です。16mmの映写機で子どもが遊んでいるところですね。ここに写っているフィルムは映写用のものではなくて、予告用のフィルムなんです。映画館にたくさん送られてくるのですがどうしても返し忘れるものが多く、こんな風に子どものおもちゃになるんですね」
八木進「これは映写室の映写窓ですね。ここから向こう側が客席です。僕が子どもの頃ここに脚立を立てて映画を見ていた場所で、よく遊びに行っていた本当に思い出の場所です」
塚崎「今回DMの写真やデザインもフジフイルムスクエアさんにやっていただいているということなんですが、これ実はプロの写真家さんもそういう方がいるんです。自分の写真をたくさん提出して、アドバイザーに選んでもらう。写真を撮ったが展示する写真を選ぶと、渾身の一枚ばかり並べてしまい、ずっと見ていると胸焼けがしてしまったりするんですよね。あとはその一枚にどれだけ時間がかかったかという思い入れで選んでしまうことが多かったりとか。でも実は見る方には関係ないことだったりするんですよ」
島田「八木さんには既に写真をお送りしていただいているので、展示する写真のセレクトや並びなど、我々がこれからひといじりさせていただければと思っています」
塚崎「続いてKyon.Jさんお願いします」
Kyon.J「私の初めての個展”Amazing Moments”を7月21日(金)から8月3日(木)までソニーイメージングギャラリー銀座で開催いたします」
塚崎「今回の個展はどういう経緯で決まったんですか?」
Kyon.J「ソニーさんの公募展のお知らせをwebで見つけて駄目元で応募してみたんです。一次選考では写真を30枚送りました。二次選考は面接で、プリントアウトした自分の写真を見せながら一枚一枚説明をしました」
塚崎「選考をされた永井さん、Kyon.Jさんを選んだ理由を教えていただけますか?」
永井「彼女の場合はお話を聞いていて非常に面白かったんです。見ていただければわかるかと思うのですが、彼女の作品の魅力が伝わったというのが一番です」
Kyon.J「普段から自分の撮る写真には『どうやって撮っているんですか?』という質問はあまりないんです。多くの方からは『どこですか?』『どうやって行ったんですか?』という質問をされます。そして一枚の写真を見せるだけではなく、一枚の写真にたどり着くまでの全ての経験が作品だと思っているので、そのストーリーや感じたことをいかに伝えていくのかというのが私のテーマです」
Kyon.J「この写真は、私が写真を本格的に始めて1年くらい経ったときのものです。親と一緒に中国の桂林に行った際、朝4時に起きて山に登って撮った一枚です。船が、光が差しているところまで行ってくれたら最高の写真になるんじゃないかなと思って粘りました。今回の個展ではこの桂林シリーズと、自分が旅してきたアメリカとノルウェーの写真を展示する予定です。自分がシャッターを押した瞬間のイメージを伝える、ストーリーのある写真になっていると思います」
Kyon.J「こちらはノルウェーで撮った写真です。私は風がないときのリフレクションが大好きなんです。自分がいかに小さいかを教えてくれる雄大な自然を目の前にすると、ストレスが全部解消される気がして。こういう山を見ながら、自分はこれからもっと世界を旅して行きたいなと思った一枚です」
Kyon.J「こちらもノルウェーの写真なのですが、今の自分に一番影響を与えてくれている写真だと思います。山がすごくフラットで『ここに撮るものはないかな』とも思ったのですが、ちょうど一人の人が行ったり来たりを繰り返していたんです。この人が真ん中まで歩いてきてくれたらこの写真に一つのストーリーが生まれるのではないかと思い、ギリギリまで粘って撮影した一枚です。同じ場所から10枚くらい連写しているのですが、この人の歩幅や足の形状、水たまりに写した金色がきれいなものをセレクトしました。何もない景色に人を入れることによって、この人が世界を探検しているというストーリーを作ることができました。自分自身、この作品からヒントをもらうことができたと思います」
塚崎「Kyon.Jさんはなぜ個展を開催しようと思ったのですか?」
Kyon.J「webや写真集という平面で見てもらうだけではなく、自分の写真の世界観がわかるような一つの空間を作りたいという思いが一番最初のきっかけですね。見る人が四方を写真で囲まれたときに、私がどういうことを伝えたいのか感じ取ってくれれば嬉しいと思っています」
塚崎「こういった活動を応援してくださる皆さんを改めてご紹介させていただければと思います。永井さん、ソニーイメージングギャラリー銀座のご説明をいただけますか?」
永井「私どもは銀座4丁目交差点に面した銀座プレイスというビルの6階にあります。プロ・アマ問わず年2回の応募を受け付けておりまして、一次審査が手軽に応募いただけるwebエントリー、二次審査で面談をして作品を拝見しております。また、ユース部門という若手の作家を支援するための部門もございます。35歳以下のアマチュアか、独立を目指している、もしくは独立をしたばかりのプロに対して費用のサポートをさせていただいています。ギャラリーの設備に4K対応のテレビやプロジェクターがあるのが我々の一つの特徴ですが、こちらも無料でお使いいただけます」
塚崎「公募に関してなにか永井さんから注意事項やアドバイスはありますか?」
永井「叩かれない門は開かないということです。まずは挑戦することが何よりも大事かなと思います。また、自分だけではなく見ていただいている方がいてこその展覧会ですので、それを意識して準備をしていただくのが大事かなと思います。メーカーのギャラリーは皆さんそうだと思うのですが、ビジネスというのは抜きにして、写真文化を盛り上げて行きたいという気持ちでやっています。作者の方が思い描いた世界を実現させていただきたいなと思っていますので、何かわからないことや迷ったことがあればぜひ相談してください。一緒に答えを見つけられればと思います」
塚崎「島田さんからはいかがでしょうか」
島田「我々は東京と大阪、主要都市に富士フイルムフォトサロンと他に銀座や調布にもギャラリーを持っております。公募は年に2回ありますが、我々はプリントが家業ということもありますので、30枚程度の写真をプリントで応募していただいています。また、プロになる方を発掘して行きたいという思いを込めて『写真家たちの新しい物語』という展示も年に2回募集しています。こちらはたくさんの応募がある中で、たくさんの作品が落ちます。該当なしの年もあります。我々が若い世代に期待するのは、どこかで見たようなものではなく、何を伝えたいのかということが響く作品です。ソニーさんの銀座もそうだと思いますが、我々のギャラリーも家賃がものすごくかかっています(笑)それでも写真の文化を若い人たちに引き継いで欲しい、これからも新しい写真の文化を作って欲しいという思いで続けています。写真を撮ったときの伝えたい気持ちをプリントにして飾ることによって、見にきた人が何かメッセージを受け取る。撮った人と見た人の間に通じる気持ちが生まれるような、そんな写真のご応募をぜひお待ちしております」
塚崎「個展を開催してみたい方、ぜひ一歩を踏み出してみてください。そして個展を見に来られる方も、裏を知って親近感が湧いたのではないかと思います。ぜひ恥ずかしがらず話しかけてみてください。本日はありがとうございました」