2017年4月28日(金)~5月6日(土)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2017写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
5月3日(水)に行われた特別企画のトークショーでは、東京カメラ部10選 黒田明臣氏、別所隆弘氏にご登壇いただき、「10選によるポートレート、風景現像講座」というテーマでお話しいただきました。
司会「皆さん本日はお集まりいただきありがとうございます。今回の現像講座をなぜ開催するに至ったか、ご説明させていただきます。人間の表現活動の歴史は実はいつも技術・機材の中で制約をされてきました。しかしその制約の中でも、頭の中に広がる表現したい世界が技術・機材が許容する範囲より広い人はいつでも存在していました。私たち東京カメラ部は自由な表現の場を大切にしていますので、様々な表現を歓迎しています。今日は私たちが新たに手にした技術・機材により可能となったデジタルカメラならではの表現方法、パソコンを使った現像方法についてご紹介したいと思います」
別所「こんにちは、東京カメラ部10選2014の別所です。僕は普段風景写真を中心に活動しており、”around the lake”というテーマで琵琶湖周辺の景色を撮っています。今では琵琶湖周辺からどんどん広がって半径400kmまでをテーマにしています(笑)よろしくお願いいたします」
黒田「東京カメラ部2015の黒田です。僕はポートレートを主に撮影しています。こんなにたくさんの方に見ていただいて緊張しているのですが、簡単に現像テクニックをお話しできればと思います。よろしくお願いします」
司会「それではまず別所さんの作品から拝見したいと思います」
別所「伊丹空港で撮影した写真です。第一行程ではハイライト-100、シャドウ+100に調整します。これは擬似的にHDRを作っているんですね。一番強い光源が白飛びをしないギリギリの露出で撮影をした上で、現像でハイライトを抑えます。シャドウは色が見えない状態になっていますが、最近のデジカメはダイナミックレンジが広いため、現像ですくい上げることができます」
別所「写真の現像って、見たまま忠実に仕上げるのか、自分が気持ちいいように仕上げるのか2つの方法に分かれると思うのですが、僕は後者なんですよ。この写真の場合気持ちよさがどこに由来しているかというと、メインの被写体である飛行機のシルバーなんですね。この飛行機のシルバーが気持ちよければ、他の部分が若干色かぶりしていても大丈夫と思わせることができるんです。最終的に少し青みがかったホワイトバランスにすることで、飛行機を一番きれいな色にします。この方法だと飛行機以外の空間の色は変わってくるのですが、それが作品のバリエーションになるんだと思います」
別所「京都の山科にある毘沙門堂です。数年前にCMなどでも使われた非常に有名な場所で、こういう風に一面に紅葉が落ちるんです。でもライトアップされているので、光が反射して全体の空間に色が付いてしまいます。色が被ってしまい、見ているときのものとは全然ちがう写真になってしまうんですよね」
別所「なのでまず被っている色を除去するため、ホワイトバランスを青に振ります。これは自分が現場で見ていた紅葉の色を再現する手続きになります。そして次に自分が見せたい色へと現像していきます。触ったら切れるような赤というか、血のような赤というか、そういった鋭い色を目指しました」
別所「ちなみに僕は赤をしっとりさせたいがためにわざわざ雨の日を選びました。強い雨が降ると葉っぱが地面に落ちます。更に雨の重さによって葉っぱが下に貼りつくので、赤がより目立つようになるんですね。自分で撮りたいイメージに合わせて悪い天候も使っていけるようになると、撮影の幅が広がると思います」
司会「別所さん、ありがとうございました!続いて黒田さんお願い致します」
黒田「よろしくお願いします。僕からはポートレートのRAW現像についてお話しさせていただきます。こちらの写真はISO800で撮影していますが、ISO感度を上げれば上げるほどダイナミックレンジが低くなっていきます。ダイナミックレンジというのは現像時にどれだけ明るさを調整できるかを示す値なのですが、いいカメラだと14段分くらい持っているんですね。でもこのときは最低感度で撮影したときよりも耐性がなくなることがわかっていたので、できるだけ背景が白飛びせず、人物の顔も復元可能な状態で撮影するようにしました。背景はライトアップされた桜で、人物にはストロボを当てています。感度を上げることによってノイズが乗りますが、自分はあまり気にしません。それよりも露出の明暗差が後からリカバリー可能かというところを第一に考えますね」
黒田「自分の中で『この色合いでいく』というのを最初に決定しなくてはいけないので、RAW現像の際はまずカメラキャリブレーションを決定し、次にホワイトバランスを調整します。この写真ではマゼンタ寄りだった色をオレンジ側に調整しています。さらに顔の部分と背景の露出の差があったので、明るい部分を少し暗くして、暗い部分を少し明るくしています。つまりコントラストを下げる作業です。更に顔の部分がより明るくなっているのですが、これはLightroomのHSLという機能を使っています。色ごとに彩度・色相・輝度を変えられるものです。人物の顔はオレンジにあたりますので、オレンジの輝度を上げて顔の部分だけ露出を明るくしています。最終的にハイライトなどを調整して、自分の見せたいイメージにしていきます。ちなみに、この条件下で顔にライトを強く当ててしまうと、ライティングをしたということが伝わりすぎてしまうんですね。それは自分が好きなテイストではないので、うっすらと光を当てて現像でイメージに近づけるということをしています。やはり大事なのは自分のイメージを持つということだと思います」
黒田「この日は晴天でお昼の12時前後だったので、太陽はほぼ真上にある状態です。ポートレートを撮る上ではあまりいい光の状態ではないですね。真上からの光なのでコントラストが強く、目の下の影がちょっときつくなってしまうんです。なので黒レベル・シャドウで目の下の影の部分を上げるようにしましたが、現場でもモデルに『顎を上げつつ自由にしていて』という指示を出していました。それは光を斜めから当てて影を和らげる意図があります」
黒田「そういった撮影方法からも言えるように、今回の現像はコントラストの調整に尽きるんですよね。それには目の影になっている部分をヒストグラム上で確認し、該当する部分を調整するのが大事です。写真によってヒストグラムは異なるので、例えば”黒レベル”を調整すれば毎回同じ結果になるかというとそうではないんですよ。あくまでこの写真の中での暗い部分、明るい部分を見極めてから調整してください」
黒田「ちなみにこちらもまず現像の際はカメラプロファイルとホワイトバランスを調整しているのですが、今回はカラーチェッカーという撮影したときの正しい色が入るようなプロファイルを作って当てはめています。こういったものを使うだけでも写真がきれいになりますので試してみてください」
司会「お二人ともありがとうございました。お二人の現像・撮影のテクニックのお話を伺うことができ、とても貴重な時間だったのではないでしょうか。ぜひ今日お二人から伺ったお話を活かし、今後の皆様のカメラのある生活がより豊かなものになればいいなと思っています。本日はありがとうございました」