2017年4月28日(金)~5月6日(土)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2017写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
5月6日(土)に行われた特別企画のトークショーでは、東京カメラ部10選 井上浩輝氏、黒田明臣氏、小林修士氏、和-KAZU-氏、東京カメラ部運営 塚崎氏にご登壇いただき、「人生を変えた1枚。人生を変える1枚。」というテーマでお話しいただきました。
塚崎「このトークショーは会場の皆様と我々と東京カメラ部10選の4名で、写真展の終わりを祝すということで開催させていただきます。壇上の皆様、自己紹介からお願いしてよろしいでしょうか」
井上「東京カメラ部10選2014の井上です。普段は飛行機や風景を撮影しているのですが、キツネを撮っていることで注目していただいて『情熱大陸』に出演しました。放送後はフィーバーしているのかなぁと思っています。よろしくお願いします」
黒田「東京カメラ部10選2015の黒田です。普段はポートレートを撮っています。カウントダウンには目がないのでこの場に立てて光栄です。よろしくお願いします」
小林「東京カメラ部10選2016の小林です。皆さんのつかみが良すぎて僕から何を言ったらいいのかわかりませんが…(笑)よろしくお願いいたします」
KAZU「こんにちは、東京カメラ部10選2016の和-KAZU-です。東京カメラ部には以前Appleman+という名前で投稿していまして、気になる方はYouTubeで検索してみてください。普段は長崎県の佐世保で夕景写真を中心に活動しています。よろしくお願いします」
塚崎「それでは作品を拝見したいと思います。まずは井上さん。井上さんといえばこちらですかね」
井上「これは僕が東京カメラ部10選に選ばれた写真です。美瑛の夕方の丘に大きな虹がかかっていて、大きな飛行機が入っていく、そんな一枚です。東京カメラ部のタイムラインの中で被写体が小さいというのは大変不利だと思っていたのですが、周りの風景が気になれば見ている皆さんが拡大してくれて、飛行機を見つけた喜びでいいね!をしてくれるんじゃないかという期待を込めました。10選になりたいという気持ちが強く、約2ヶ月ねばって撮影しました。僕にとって東京カメラ部10選になったことが人生の転機です。写真でご飯を食べていくと胸をはって言ってもいいのかなと思えるようになった、そんな人生を変えた一枚でした」
井上「この写真はダイヤモンドダストを撮ったもので僕にとってはなんでもない一枚だったのですが、今回10選2016に選ばれたKyon.Jさんの人生を変えた一枚だそうです。彼女によると、彼女はこの写真を見て風景写真を撮りたいと思うようになって、僕が写真のワークショップを北海道で始めたときに一番はじめのお客さんになってくれました。そして、そのワークショップで学んだことをきっかけに、彼女は10選に選ばれるほどの立派なカメラマンになりました」
塚崎「井上さんの写真は自分自身の人生を変えただけでなく、Kyon.Jさんの人生も変えたのですね」
井上「逆に彼女も僕の人生を変えてくれました。彼女が美瑛のペンションに訪れたとき、僕の話をたくさんしてくれたんですね。僕がそのペンションに着いたときにはもう、そこで仕事ができるような段取りまでしていてくれたんです。おかげでその年はご飯を食べることができました。僕が写真を続けられるきっかけになった出来事だと思います」
井上「こちらは丘の奥から毎朝2匹揃って出てくるキツネの夫婦なんですね。イチャイチャしたあと別の方向に走り去って行ってご飯を食べて、夕方また同じ場所に戻ってくるのですが、ある日急に追いかけっこが始まったんですよ。そのときに撮った一枚です。こちらをナショジオのコンテストに出したときにキャプションを考えずに”fox chase”とだけ書いたんです。そうしたら『写真の審査は終わりましたが、あなたにとって今一番肝心なのは言葉です。あなたが何を見てきたのか、何が行われているのか、ストーリーをはっきりと説明してください』と審査員の方からメールが来たんですね。編集者の方々は相当知的でしょうから、英語の教師もされている東京カメラ部10選の別所さんにお願いをして、アメリカ文学の一節からカッコいい言葉を見繕ってもらいました。みんなで勝ち取った賞だと感じますね」
塚崎「それでは続きまして黒田さんお願いします。黒田さんはカメラを始めた当初はこのような写真を撮っていたんですよね」
黒田「そうですね。自分がポートレートを始める以前、旅行の際に撮影した写真です。モン・サン・ミシェルに向かう道中の湖に赤い服を着た女性がいたのでサッと撮ったのですが、この写真をSNSに投稿したところ、プロカメラマンの方から『コンテストに出してみたら?』とお言葉をいただいたので、富士フイルムさんのコンテストに出してみたところ賞をいただきました。その賞金で新しいカメラを買って、そこから写真にどんどんのめり込んでいきました」
黒田「ポートレートを撮るなかで、『こういう写真が撮りたい』と思ったときにそれができる自分でありたいという気持ちは強いのですが、写真にコンセプトやステートメントがないものが多かったんですね。でもポートレートを続けていくと、自分の中でコンセプチュアルな写真が撮りたいという思いが湧いてきたんです」
黒田「右側は自分の祖母なのですが、自分のクリエイティブに巻き込んでいきたいという気持ちから撮影をしました。国内外でいくつかの賞をいただいた思い出深い一枚です」
黒田「こちらもフォトコンテストで1位を受賞した作品です。あるものをそのまま残すというより、自分がイメージしたものをもう少し作り込んでいきたいという気持ちで撮影していた時期もありました」
塚崎「続いて小林さんお願いします。小林さんが写真を撮り始めたきっかけから教えてもらえますか?」
小林「元々僕はアメリカの映画の大学に通っていたのですが、授業で写真のことを勉強している間に興味を持ち始めました。映画は複数人で作るものというのに対して、写真は少人数で自分のコントロールが効くというところが好きだなと感じていました。そのあと写真の学校に通って学んだのは、作品を作りながらどうやって自分を表現するかということでした」
小林「これはロサンゼルスのダウンタウンで撮影した一枚です。アメリカの広告写真協会のコンテスト一般の部で1位を受賞しました。そのあとレコード会社のアートディレクターからMegadeth(メガデス)というバンドのプロモーション用のカバーに使いたいと連絡があり快諾したところ、なんと日本特別版のカバーにも使われていました(笑)。この経験から自分の中にあるものを作品として昇華させることによって誰かに影響を与えるということを知ったので、それ以降はそういった作品を作っていきたいと思うようになりました」
小林「約8年前に日本に帰ってきてカメラマンをしているのですが、仕事をするために営業に行くんですね。営業先で自分のスタイルがわかるものを作るために、『リフレクション』というタイトルで作品を撮り始めました。フィルターやアクリル板の反射越しに撮影をするというものです。1回や2回だとわからなかったものが、同じ場所同じ時間で何回も何回も撮っていくことで、『この場所でこう撮るとこういう結果になる』というのがわかると同時に、それをどう変えていくかというアイディアが浮かんできます。そしてこの手法を使って違うことができないかと考えたときに、作品の流れを変えたのがこの写真です。今まではモデルさんと自分の二人だけで撮っていたのですが、この作品においてはデザイナーさんに頼んで服を作っていただいて、スタジオも借りました。自分が積み重ねてきたテクニックを集約させた一枚でもあります」
小林「『リフレクション』はこれを営業に利用できないかというところがあったので、”自分の中にある何か”というものはあまりなかったんですね。どちらかというと表面的なスタイルで作品をある程度の数作っていました。それを撮りながら考えていたのは、日本でしか撮れない風景があるんじゃないかということと、自分の内面にあるものを絞り出すということで一部の人に共感を生むんじゃないかということで始めたのがこちらのシリーズです。作品を撮っている中で僕の目標は個展と写真集だったのですが、ひょんなことからこの作品を見ていただけて、それが個展の開催につながりました。この写真によって人生が変わったのかなと感じます」
塚崎「続いて和-KAZU-さんお願いします。まず和-KAZU-さんが写真を始めた理由を教えていただけますか?」
KAZU「僕は最初、子どもを撮るために写真を始めたのですが、長崎県佐世保市の夕日がとてもきれいなので、被写体がだんだん子どもから夕日に移っていきました」
KAZU「毎日のように夕景撮影をするようになり、ある日夕景撮影を終えて振り向いたところ、月と飛行機が目に入ったので急いで連写をしました。まだカメラ初心者だったので偶然の一枚だったと思います。でもこの写真をSNSに投稿したところ地元のタウン誌の表紙にしていただいたりフォトコンテストで優秀賞を取ったりして、すごく励みになった一枚ですね」
KAZU「この写真は東京カメラ部に初めて投稿して初めてシェアしてもらった作品なんです。自分の作品にものすごい数のいいね!をいただけたのが嬉しくて、少しずつ投稿をするようになっていきました」
KAZU「こちらは2013年度の東京カメラ部写真展フォトコンテストで入選した写真です。こんなシーンをまた撮れるように頑張りたいなと思い、ここからたくさん撮影を重ねていくようになりました。ある意味これは僕のスタートラインの写真で、人生を変えた一枚です。東京カメラ部2013写真展会場やその後東京カメラ部などで出会った方々が世界的に活躍されていく様子を拝見していて、自分はミュージシャンなのでそこは忘れないようにしながら、カメラの世界でも羽ばたきたいという気持ちになれましたね」
塚崎「考えてみると東京カメラ部としては初めての展示会だったにも関わらず東京カメラ部2013写真展もすごい方々が出展してくださっていましたよね。10選2013の方々以外にもKAZUさんもそうですし、浅岡省一さん、八木進さん、菊池英俊さんがその後10選になられました。大貫絢子さんもウェディングフォトグラファーとして活躍をされています」
塚崎「それでは最後になりますが、私の方からご挨拶させていただきます。ご来場の皆様、出展者の皆様、ご支援くださった皆様、本当にありがとうございました。
私たちが東京カメラ部を2012年に設立してから変わらず目指しているのは『カメラのある暮らしを楽しく』することです。それは、『カメラがある暮らしが楽しくなる』ことは人生が豊かになることにつながると考えているからです。本当のところはどうなのか、今回、写真展を開催するにあたって出展者の方々に『カメラとの出会いはあなたの人生にどういう影響を与えましたか?』というアンケートを取らせていただきました。そして、アンケート結果を見ると私たちの仮設は正しいことがわかりました。
具体的には、カメラと出会ったことで、『外出が増えた』、『社会人になって新しい友達が増えた』、『日常に感謝できるようになった』、『地元への愛が生まれた』、『世界の広さを知るようになった』『人生が2~3倍お得になった』…そんな回答が多数あったのです。また、今回の写真展のトークステージでもお話があったように、『鬱になって家から出られなくなっていたのが、カメラを手にしたことで写真を撮って、オンラインで発表したら褒められた』『褒められたので嬉しくなって、もっと写真を撮りたくなって、写真を撮るために家から出るようになった』『家から出るだけではなく、世界の美しさに気付いて、人と出会って、友達ができて、そして人生を取り戻すことができた』『カメラがない人生はもう考えられない』という劇的な事例もありました。まさにカメラとの出会いは人生を変え、カメラがある暮らしが楽しくなることは人生が楽しくなることに通じていたのです。
そして、このカメラが持つ力を引き出す『正の循環』を守るためには『自由な発表の場』が必要だと私は考えています。自由な発表の場がないとせっかく撮った作品を誰かにみてもらうことが一気に難しくなります。見てもらえなければ、認めてもらい、さらには褒めてもらうことはもっと難しくなります。誰かにみてもらい、あわよくば褒めてもらう。これがないとやる気はなかなか保てません。だから、自由な発表の場はカメラが持つ力を引き出すために必要不可欠なのです。
例えば、井上さんが10選に選ばれた飛行機の作品を発表したときに誹謗中傷コメントが入っていたらどうなっていたでしょうか?もしかしたら、東京カメラ部への投稿を削除したり、投稿をやめてしまったり、下手をすると写真を撮ることをやめてしまったりしたかもしれない。そうなれば10選に選ばれることもなく、ナショナル ジオグラフィックさんに選ばれて、情熱大陸に取り上げられることはなかったかもしれない。KAZUさんの作品だってそうです。黒田さんも『コンテストに出してみたら?』と言ってくださった方が『何この写真?恥ずかしい』と言っていたら黒田さんの才能は秘められたままになったかもしれない。手軽に行われたコメントで才能が潰されたかもしれない。恐ろしいことです。
しかし、『自由な発表の場』を守るのは実は簡単なことではありません。人は他者の発表を見ると意見を言いたくて仕方なくなります。アドバイスをしてあげたくなります。『なぜここで撮ったのだ?』『ここがダメだ』『この色はおかしい』などなどです。そして、こうした行為が恐ろしいのは、発表者の意欲を減退させて、最悪の場合カメラ・写真を嫌いにさせてしまうほど負の力を持ちながら、発言をしている方々は善意から行っているということです。まさに恐ろしいのは『正義』なんです。人は自分が正義であると確信したときにこそ、厳しく、残酷になるからです。周りから『相手が嫌がっているよ』と諭されても、更には相手から直接『やめて欲しい』と言われても、本人からすれば『だって、正義だから!』『写真とは真実を捉えるものなのにこれは違う』『写真を冒涜したからだ』『写真の歴史を守るためだ』『親切で教えているのだ』『分からないほうが悪で私は救ってあげているのだ』となって、やめる理由が攻撃している本人側にはない、または見つけられない、気付けないのです。皆様、世界のニュースでたくさん見たことがありますよね?正義が一つだと確信して、自分の正義と異なる他人の正義が認めらなくなり無慈悲に断罪、攻撃しているケースを知りませんか?Web上でそんな投稿やコメント見たことありませんか?みなさんのSNSの中でそういったことは起きていませんか?これがあったら『自由な発表の場』は死ぬのです。
では、どうすれば良いのか?『賢者は歴史に学び。愚者は経験に学ぶ』と言います。私たちそれぞれが生きてきた数十年の経験で正義を考えず歴史に学べば良いのではないでしょうか?そのヒントを探して、アートの歴史を紐解いてみましょう。1700年代、絵画にはヒエラルキーがありました。宗教画一番で風景画は肖像画、風俗画の下に位置付けられていました。しかし、いまは違います。ヒエラルキーすら時代で変わるってことです。同じことが抽象画でもいえます。抽象画の特徴は『筆触分割』『点描画』などでした。色が暗くなるから色を混ぜずに色を表現して明るく鮮やかな色を出そうとしたのです。いまでいえば『彩度高め』というものでした。そして、こうした取り組みは抽象画発表当時に高くは評価されませんでした。さて、現在、抽象画をみて『彩度高め』といって馬鹿にされますか?言いませんよね?
つまり、アートで何が正解か何が一番良いかなんて時代で変わるし、何が正義かなんて人によって変わるのです。アートの世界はそんな曖昧なものなのに、なぜ誰かの正義が他の人の正義にもならなければならないのか?なぜ誰かが考える『写真とはこうあるべきだ』に他の人が従わないといけなのですか?そこを考えてほしいのです。歴史から学べばそれがどれだけおかしいことが分かるじゃないですか?『自分の正義でなく、自分の好み』として捉えればそれで良いはずなのです。そうであれば本人の自由になるのです。
だから、私たちは『正義』ではなく『好み』として幅広い作品を受け入れる『自由な発表の場』が大切だと考えています。そして、東京カメラ部はそういう存在でありたいのです。そして、カメラが持つ力を引き出して、『カメラがある暮らしがもっと楽しい』と一人でも多くの方に感じていただいて、カメラ・写真で人生が(良い意味で)変わったという人を生み出す一助と慣れればと願っておりますので、『一つの正義』という考え方をぜひ見直していただければ幸いです。
最後に『自由な発表の場』としての発展を目指す東京カメラ部からお知らせがあります。
1)東京カメラ部2018写真展開催決定
2)上記写真展内で
・東京カメラ部マストドン部門展示決定
・チェリッシュフォト(ウェディング、カップルフォト)部門展示決定
3)東京カメラ部10選から2名写真集発売決定
・東京カメラ部10選2016の小林修士さん写真集
・東京カメラ部10選2014の井上浩輝さん写真集
マストドンとチェリッシュフォト部門の展示サイズは未定ですが東京カメラ部2018写真展内で必ず展示いたしますのでぜひふるってご投稿ください。そして、小林さんと井上さんの写真集に関しては東京カメラ部としても告知面などで積極的に応援してまいりますので、皆様も是非応援いただけますと幸いです。どうぞよろしく願いします。
開催場所は未定ではありますが、また来年、東京カメラ部写真展で皆様とお会い出来ること楽しみにしております。今年もありがとうございました。そして、来年またどうぞよろしく願いします」
※塚崎の最後のパートについては意図をご理解いただくために一部追記、修正させていただいています。