2017年4月28日(金)~5月6日(土)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2017写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
5月3日(水)に行われた特別企画のトークショーでは、東京カメラ部10選 鈴木達朗氏、富久浩二氏、コンテスト入賞者 藤谷弘樹氏、東京カメラ部運営 塚崎氏にご登壇いただき、「スナップ写真の世界」というテーマでお話しいただきました。
塚崎「本日はお集まりいただきありがとうございます。今回『スナップ写真の世界』というテーマでトークショーを開催させていただいた理由を簡単にご説明いたします。
現在のスナップ写真は肖像権の問題などで厳しい状態に置かれています。そうした中で、東京カメラ部は必ずスナップ写真を選ぶようにしています。スナップ写真を載せられない雑誌が増えてきたり、写真展を断るギャラリーまで出てくるようになってきましたが、我々は意地でも載せます。何故かというと、スナップ写真は必要不可欠なものだと思っているからです。
例えば30年前の写真を見て歴史を学ぶことができるのは、過去に撮ってくださった方がいるからです。そうでなければ記憶が浄化され、間違った神話だけが残ってしまうかもしれない。じゃあこれから30年後はどうか。我々が撮っておかないと、30年後の子どもたちは“今“を見ることができない。だからカメラが好きな人たちが今の風景を残しておかなければならないのだと思います。
一方でポートレートの規制はどんどん厳しくなってきています。そういったものに声をあげることももちろんですが、スナップ写真の楽しさを伝えていくのも我々の使命だと思っています。ここでスナップ写真の達人のお三方にお話をお伺いして、そういった趣旨につなげていければと思っています」
塚崎「では最初に藤谷さんお願いします」
藤谷「神田の喫煙所で撮影したものです。2014年のVogue Italiaに載せていただき、ネット上でも話題になりました」
塚崎「パッと見ただけではわからないかもしれませんが、実は細かく工夫をされています。今回はそれを藤谷さんに解説いただけるということなので図入りで見てみたいと思います」
藤谷「光が左上から右に入り込んでおり、”光のある部分”と”光のない部分”で二分割構図になっています。更に交差した点に被写体を置いたり、吐いた煙がラインに流れているのは三分割法です。三分割法は本来ほとんど前後の対比でしか撮れないのですが、このときは奥にも人がいて、光のない場所にもいて、真ん中にもいて、手前にもいるということで奥行き感も生まれています。なかなかこれだけの条件が揃うことはないと思います」
塚崎「スナップの場合はあらかじめ人を配置していませんから、傑作を撮るために必要な要素、被写体、背景、光などの要素が全て偶然に揃うという奇跡のシャッターチャンスが来たら即捉える瞬発力が大事ですよね。でも、これだけの偶然が揃う奇跡を待つだけではなかなか撮れません。そのため、藤谷さんの場合は、同じエリアをずっとぐるぐる回ることで、そのエリアの季節、時間ごとの光の状態を覚えて、光の要素については偶然ではなく必然になるよう工夫されているそうです。その結果、季節、時間ごとに光の具合が良い場所に行って待てるようになるので、あとは残りの被写体と背景の要素が揃うという『奇跡』を捉えればよくなりますので確度があがるそうです」
藤谷「そうですね。『この時期のこの時間はこのビルに当たる光が反射してきれい』など、そういうことは常に頭にインプットしておくようにしています」
藤谷「窓ガラスに太陽の光が反射して、ここに光が入ることは知っていたんです。なかなか被写体がこの位置にいるところにはなかなか出会えないのですが、日々歩きながらその場所を通るようにしていたところ、ある日このような写真が撮れました」
藤谷「雨が上がって間もなくの時間で、急行電車が発車する寸前の一枚です。近くもなく遠くもない二人が、なんとなく泣いているようにも見える…いい雰囲気だなと思って撮りました。他人同士の二人なのに、なぜか関係性のようなものが見えてくる。写っている被写体の関係性だけでなく、撮っている自分との関係性もそこに現れてくるのが不思議ですよね。自分でも気に入っている写真です」
塚崎「それでは続いて鈴木さんお願いします。1枚目からすごく刺激的な作品ですね」
鈴木「今は壊されてしまっているんですが、渋谷のPARCO付近での一枚です。ビルのリフレクションがきれいだなと思って付近をうろついていたところ、ホームレスの方が向かってきたので瞬間的に撮りました。たまたま2人とマネキンがライン上にきたので写真として成立したかなと思っています」
塚崎「鈴木さんはファインダーを覗かないんですよね。視界が広くなって周りが見えているからこういう作品が撮れるんだと思います」
鈴木「そうですね。更に瞬間を切り取りたいので、できるだけ高速のシャッタースピードにして置きピンで撮影するようにしています。AFは使っていませんね」
鈴木「エスカレーターが故障していて階段しか使えない日だったのですが、奥まで光が差し込んでいてきれいだったので、男性と女性がちょうどやってきたタイミングで撮りました。こういう空間があるということを切り取りたかったんですよね」
鈴木「渋谷の雑踏感や荒ぶれた感じが撮れたかなと思っています。パッときたものをパッと撮ったので、よく狙うビルのリフレクションなど特別なものは特に写真の中には入っていないのですが、その分熱を帯びた写真というか、摩擦感が出せたのではないかと自分では感じます」
鈴木「最近はポートレートも撮るようになりました。ただこれもストリートスナップと同じで、モデルさんに常に自由に動いてもらってそれを撮るんです。一瞬を切り取るということをベースにしてポートレートも撮影していますね。ストリートスナップだけをやっているとマンネリ化してくるということもあって、違った引き出しを持ちたいなと思うようになるんですね。それでポートレートを撮ったら、違う視線や気づきがあって非常に勉強になりました」
塚崎「では続いて富久さん、よろしくお願いいたします」
富久「よろしくお願いします。こちらはリフレクションを使った写真なのですが、園児がたくさんいるだけではなく、後ろをよーく見ると亀がついて行っているんですよね」
塚崎「富久さんの写真を見るときは隅から隅までずっと見てみてください。必ずどこかに何かしらの仕掛けが隠されているんです。この写真もどうして亀に気づけるんですか?」
富久「実は亀はずっとここで日向ぼっこをしていたんです。園児が遊んでいるところを見て、『後でこの道を通るだろうな』と先を読んで撮影したんですね」
塚崎「そして次の写真、すごく楽しいですよね。まさかのダブルキューピーですよ!」
富久「道を歩いていてこのキューピーを見かけて、アイディアは5年前くらいに思いついてはいたんです。でも前に立っている人が痩せている人だったり、腕が全然上がっていなかったりしてなかなか上手くいかなかったんですね。あるとき新入りの方がとても張り切って腕を上げていたので、チャンスだ!と思い撮りました。体型もキューピーっぽくて可愛いですよね。気になるとことがあったら、前を通るときに気にかけるようにしています」
富久「土手で野球をやっていた子どもたちを見ていたのですが、雲がイナズマのようになっているのをまず見つけて、次に『野球でイナズマといえば魔球だな』と頭に浮かびました。ピッチャーのところまで行って写真を撮れば魔球のように写るんじゃないかなと思い、想像力を働かせて撮った一枚ですね。何かが起こるんじゃないかと期待すると普通は近づいて行くと思うのですが、私の場合はまず離れるんですね。そうすると客観的に現場を見ることができるんです」
塚崎「富久さん、ありがとうございました。お三方からストリートスナップをやっていきたいと考えている皆さんにアドバイスがありましたらお願いします」
藤谷「ストリートスナップというのは写っている被写体だけにスポットライトが当たりがちですが、撮っている写真家と被写体との対峙なんだと思います。ですから皆さんも、怖がらずにどんどん写真を残していっていただきたいなと思います」
鈴木「演技していない生の人と街に興味があって、それを自分が切り取っていくことがすごく面白くて。それでずっとストリートスナップを続けているんです。皆さんも街に出て面白い光景をどんどん撮っていくと様々な発見があるんじゃないかと思います」
富久「人に衝撃を与えるような写真をいきなり撮るのは難しいので、まず自分の生活圏内で気に入ったものを撮っていくといいんじゃないかと思います。同じ道を歩いていても毎日見えてくるものが変わったり撮れるものが増えていくので、スナップにこだわらずともなんでも撮っていったらいいと思います」
鈴木「最後になりますが、11人のメンバーで作るZINEの第一号が先日発刊されました。『VoidTokyo』とweb上で購入できますのでぜひ検索してみてください」
塚崎「本日はありがとうございました!」
<トーク内で紹介されたZINE>
VoidTokyo - Tokyo Street / ZINE