2017年4月28日(金)~5月6日(土)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2017写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
5月4日(木)に行われた特別企画のトークショーでは、写真家 立木義浩氏、写真家 名越啓介氏 、アートディレクター 町口 景氏にご登壇いただき、「月並みこそ黄金」というテーマでお話しいただきました。
町口「皆さんこんにちは。本日はよろしくお願いいたします。こちらの会場では、去年2016年の11月末に発売された、こちらの名越さんの写真集『Familia 保見団地』の中から、立木先生に選んでいただいた12点の写真を展示していただいています」
名越「南米系の方が3,000人くらい住んでいる、愛知県豊田市にある“保見団地”に3年間住み込んで撮影をしていました。東海テレビさんにはその様子を1年間くらいかけて取材していただき取り上げていただきました」
町口「今からその写真を見ていきたいと思います」
立木「名越さんが熱狂して撮っている写真は外して、じっと見ていると沁みてくるようなものを選んだんだよね。これは団地の雰囲気もあって、日本にやってきたブラジル人が、ブラジルの人とも日本の人とも仲良くしている。ブラジルの人って情熱的だけど、でもその中でも子どもたちは可愛くて、空から舞い降りてきた天使のようで。ここは愛の街なんですよ。名越さんは愛を撮っている」
立木「これは12枚のうちの最後の一枚に選んだ写真なんだけど、写真集とは天地を逆にした一枚。団地の中での人間関係を写しているよね。男性が覆いかぶさっていて女性は相手を見ていないんだけど、気持ちがわかる。どうしたらいいかわからないんだけど、もしかしたらすごいことが起こるかもしれないという気持ちの瞬間が写っている。それをこんな近くで撮るなんて図々しい、でも愛が写っているから許可されているようなそんな写真ですよね」
名越「僕は遠くからこの現場を見ているんですが、天地を逆にしたということは、先生はブラジル人の少年たちと同じ目線だったっていうことですよね。自分では全く気付かなかったことなので、写真というのは色んな見方ができるんだと感じました」
立木「写真て自分の手を離れると、他人のものになるでしょ。他人の目で見ると自由自在なんだよね。こうやって逆さまに見るとある種のエロティシズムを感じる。全然違った写真に見えるのがすごいよね。自由自在に動き回る。でも一番わかってないのは当事者なんだよね(笑)写真は自由だっていうことを今日は皆さんに持ち帰ってもらいたいですね」
立木「3年も住み込むっていうのはすごいよね。普通仕事の合間に通うくらいでしょう。部屋には簡易スタジオまで作っていたし」
名越「団地の中で写真屋をやれば、多少は飯が食えるかなと思って(笑)」
町口「この写真がその簡易スタジオで撮ったものですね」
名越「結局この写真は売ったわけじゃなくて、仲良くなるツールとして使ったというか。信頼関係を築くにはプリントを渡すのが一番いいんですよね」
立木「情で撮っているんだよね。愛情関係があるんだよ。センチメンタル団地とでも言うべきかな。僕が新幹線に乗っていきなり団地に行ったのでは撮れない写真だと思う」
立木「日本の同じような連中とはちょっと顔つきが違うよね。真面目と言うか。ブラジルから来て、車の部品を作る工場で働いて。彼らは何年くらいここにいるの?」
名越「人それぞれですね。2~3年してブラジルに戻る人もいれば、労働ビザをもらえて残る人もいる。」
立木「ずっといると日本に慣れちゃうから、ブラジルに帰っても外国人みたいになるんだよね。彼らは移民のようでいて難民なんだ。写真集を見て、そういう問題に取り組んでると感じたよ」
町口「名越さんが住んでいた三年間で少年、少女たちが成長するんですよね。そうすると国に帰る子がいたりとか、車を買う子がでてきたりとかして、団地で遊ばなくなってくる。始めは『名越、名越』と呼ばれていたのに、『名越さん、名越さん』と大人になるにつれて距離が出てくる。それが三年で辞めた理由として一つあるそうなんですよ」
名越「保見団地って田んぼの真ん中にあって遊びに行くところもないから、閉鎖空間の中で、自分たちで何か遊ぶものとかを作ろうとするんですけど、外に出た瞬間に型にはまってくるというか…写真も同じだと思うんですよ。外に出ると段々同じ形になってくる。僕がテレビ番組に出たときにみんなが『名越さん』と呼ぶようになって、変なおじさんくらいがちょうどよかったのに、意識するようになってしまったんですよね」
町口「彼は三年間撮影していて、手札サイズにプリントしたものを月一くらいで僕に見せてくれる。だから僕の『保見団地』って、その手札サイズの写真の中にあるんです。デジタルで撮った写真ってスマホやタブレットで見せる人が多いのに、珍しいなと思いました」
立木「僕は彼のそういうところが好きなんだよね。スマホは透過光だけど、プリントは反射光で見る。そして触ることができる。触ったときに、ビビビと来る痺れのようなものがあったりするんだよね」
町口「その痺れが大切だと思うんですよ。プリントを立木先生に見せたときに痺れが強かったものが、この写真集や展示されている12点に選ばれているように感じます」
立木「僕もプリントを長く見てるから、保見団地の人に愛情がうっすら湧いたりするんだよね。こうやって関わっていくうちに、経験したことがないのに自分の経験として蓄積していくように感じる。それが写真の面白さだよね」
町口「それではここから、立木先生の新作写真を拝見させていただこうと思います。」
立木「オリンピックの金メダルをあんなところに置いていく人がいると思うと面白いよね(笑)写真て何を考えてもいいじゃない。写真を撮っていない人が撮っている人に思ったことをぶつける、というのが面白いと思うよ」
町口「こんな風景が月並みにあるっていうのがなんだか黄金ですよね」
立木「こういうのを演出して撮るという方法もあるよね。でも、それは自分の中でちょっとおぞましいことだなという気が今のところはしているから」
立木「ほっかむりをした人が鏡に写るってすごいでしょ。これは偶然なんだけど神様がくださったものだよね。普通だったらきれいな女の人が写っているところを撮った方が成功率は高いけれど、でもこのほっかむりが作者の心情を表しているでしょう。そして上の方の鏡にも実は人が写っているんだけど、撮って後からじっくり見たときに発見があるということが写真の面白さでもあるよね。撮っている瞬間は直感でパーンと撮っているけど、後から隠れて見るのが楽しみだね」
立木「このおじさんは何を撮っているんだって思われたかもしれないけど、よく見ると色々な問題がその奥には隠されているかもしれないというのが写真の楽しみだと思う。名越さんのように定住して写真を撮る人もいる。2人の写真を見てもらっただけでも、写真は自由だっていうことがわかってもらえたんじゃないかな」
名越「写真集『Familia 保見団地』もぜひチェックしてみてください。本日はありがとうございました」
<トーク内で紹介された名越氏の写真集>
写真集『Familia 保見団地』