特別企画 衆議院議員 石破茂(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) × 東京カメラ部10選 柄木孝志「写真による地方創生」



2017年4月28日(金)~5月6日(土)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2017写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。

4月28日(金)に行われた特別企画のトークショーでは、衆議院議員 石破茂氏(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) 、東京カメラ部10選 柄木孝志氏にご登壇いただき、「写真による地方創生」というテーマでお話しいただきました。

特別企画 衆議院議員 石破茂(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) × 東京カメラ部10選 柄木孝志「写真による地方創生」

塚崎「本日はお忙しい中、本ステージにお越しいただきましてありがとうございます。今回のテーマは写真による地方創生ということですが、写真は見ていてとても楽しいだけでなく、実は他の力もあるというのを感じています。カメラ部で作品を紹介すると、実際にそこに撮影に行かれる方がたくさん出てくるらしいんですね。写真は絵と違ってそこに行かなければ撮れないという特性があるので、人を動かす力があるんだなということをすごく感じました。そこで、今まさに東京カメラ部10選の柄木さんが鳥取県で取り組みをされているということなので、お話をお伺いできればと思っています」

特別企画 衆議院議員 石破茂(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) × 東京カメラ部10選 柄木孝志「写真による地方創生」

柄木「私が大阪から鳥取にIターンで行った時に一番感じたのは、やはりとにかく空が広くて星がきれいだということでした。ただ全国で見たときに、星に関する色々な取り組みはすでに行われているんですね。ですから鳥取県という小さな県をアピールしていく為ためには新しい事をやらなければならない。そこで考えたとき、”自分たちが撮られる”というツアーというのはあまりなかったんですね。自分が写った思い出の一枚を残すことで、このSNSの時代だとその方たちがまた発信者になってアピールをしてくれるんです。僕がやろうとしているのはただツアーでお客さんを呼ぶだけではなく、鳥取県を星でブランディングしていくことが一番の目的です」

塚崎「このトークショーに石破先生にお越しいただいている理由なのですが、最近『日本列島創生論―地方は国家の希望なり―』という本を上梓されたんですね。その中で様々な取組みが紹介されていて、何故そういったことが必要かということについても非常に説得力を持って書かれています」

特別企画 衆議院議員 石破茂(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) × 東京カメラ部10選 柄木孝志「写真による地方創生」

石破「皆様、こんにちは。日本はこれから人口がどんどん減っていく時代になるのをご存知だと思うのですが、今1億2,700万人いる人口が、西暦2100年には5,200万人まで減ると言われています。これは一番出生率が低い東京都に地方から人が移住していくことが原因です。やはり人が減るとお客さんも減りますから、経済が回らなくなります。しばらく人口が減るのは仕方ないとしても、地方に訪れる人が増えるようにして、来て良かったなと思ってもらいたい。その大前提としては行ってみたいなと思われないと仕方がないんですね。それで、やはり写真には『あの景色を撮ってみたいな』と思わせる力があり、更に絵とはまた違ってその場所に行かないと撮れない。私は今年還暦を迎えますが、子どもの頃は鳥取県で育ちました。子どものころに見た写真の印象ってすごく強烈なんです。大山てこんなにきれいなんだ!砂丘ってこんなにきれいなんだ!という、それはもう感動と驚きなんですよね。カメラって誰が撮っても同じにならなくて、感性と技術と心根、そういうものだと思います。そして柄木さんのように外から来られた方が撮るとまた感動が違ってくるので、どうか今日は柄木さんのお話を真剣に聞いていただきたいなと思います」

特別企画 衆議院議員 石破茂(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) × 東京カメラ部10選 柄木孝志「写真による地方創生」

柄木「我々が取り組んでいる観光振興は外に向けて発信するというイメージが強いと思うんですが、実はそこに住んでいる方が価値を見失ってしまっていることが一番の問題なんです。だからその価値を見直してもらうためには言葉だとなかなか伝わらないのですが、一枚の写真にするとすごく伝わる。これはダイヤモンド大山と言って、大山の山頂から太陽が上がってくるその瞬間を写したものなんですね。10年ほど前に撮り始めたときは周りに誰もいなかったのですが、地道に発信を続けることで、今では100人を超える人が集まる場所がある。写真というのはそれだけ人を動かす力を持っているんですね。人が来るようになると行政が動きます。そうすると駐車場が出来て、道もアスファルトに整備され、今では鳥取県を代表する観光名所になっています」

石破「地域を変えることって、当たり前だと思っている地元の人ではわからないことがあるんですよね。外から来た人の視点は必要だし、若い人の感性も大切だと思っています。新しい発想をしてくれる人の感性で、卓越したいろんな文化を起こして欲しいなと思っています」

特別企画 衆議院議員 石破茂(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) × 東京カメラ部10選 柄木孝志「写真による地方創生」

柄木「この写真は鳥取県の星空です。鳥取県にいると当たり前の風景すぎて、実は地元の人も天の川が見られることを知らなかったりするんです。やはりそれをまず知ってもらうことから始めて、自分たちの鳥取県の星空ってこれだけきれいなんだよということを、SNSなどを使って全人口がアピールを始めたら、多分すごい効果を生むと思うんですよね。そういったきっかけを作りたいと思って撮った一枚ですね」

石破「私が小学生の頃に星空を見ていて、本当にすごいと思った記憶があります。降るような星ってこのことを言うんだなぁと。でも大学生になって、鳥取県の星はきれいなんだよと説明してもなかなか信用してもらえなくて。だからこういった写真や映像の価値はすごく感じますよね」

特別企画 衆議院議員 石破茂(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) × 東京カメラ部10選 柄木孝志「写真による地方創生」

柄木「鳥取砂丘の写真ですね。夕暮れになるとだんだん砂丘が黄色に染まってくるんですよね。その中に風で砂が舞っているという、まさに砂丘のイメージを表すことができた一枚かなと思っています」

石破「鳥取砂丘って県庁から車で20分くらいのところにあってすごく有名な場所なんですが、当たり前すぎて鳥取県の人はほとんど行かないんですね。でもやはり日本の他の場所にはない景色なんですよ。でも暑すぎるので夏に行くのはおすすめしません(笑)冬が非常にきれいです。失恋したときに行くのも最高に良かったなぁ。そういう自分の置かれているシチュエーションと景色がぴったり合うのが鳥取砂丘なのかな、と思っています」

特別企画 衆議院議員 石破茂(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) × 東京カメラ部10選 柄木孝志「写真による地方創生」

柄木「鳥取砂丘は本当に何もないからこそ雪が降ると一面真っ白に染まるんです。日常の砂丘のイメージとは相反する風景ですが、この価値をなかなか地元の皆さんは知らない。やっぱり灼熱のイメージや夏の風紋のイメージが強いんですが、でも冬の景色も実際の砂丘なんですよね」

特別企画 衆議院議員 石破茂(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) × 東京カメラ部10選 柄木孝志「写真による地方創生」

塚崎「そして次の写真が、石破先生が大好きな場所と伺っております」

柄木「白兎(はくと)海岸ですね。因幡の白兎ウサギという有名な神話の舞台になっている場所です。ここも実は夕暮れがすごくきれいで、夕日が沈んだあと段々空が青から黒に変わっていく、その瞬間がすごく美しいんです」

石破「私は芸術的な感性は特にないと思っているのですが、でもこの写真が一番好きだと思いました。まさしく日が沈む瞬間、海が夕日色に染まって、そこへ子供たちが海に向かってワーイって叫んだり、オーイって言ったり。そういう景色の絶妙さと子供たちの無邪気さと、自分が子どもの頃に白兎海岸によく行った思い出が全部重なったんです。50年以上の歳月を飛び越えていつでも戻れる景色だなぁと思いました。今の子どもたちにもこういう体験をして欲しいですね。この写真はそういった思いを揺り動かしてくれるから、すごく好きなんです」

特別企画 衆議院議員 石破茂(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) × 東京カメラ部10選 柄木孝志「写真による地方創生」

柄木「鳥取での活動が起点になり、全国の自治体で写真を通じた地域コンサルをやらせていただけるようになりました。この写真は北海道の別海町(べつかいちょう)という所です。ここは野生動物の宝庫なのでカメラマンはたくさんいらっしゃるのですが、実は自主的な財源を取れるような観光産業が殆どなかったんですね。そのため”ツアーを作りたい”というオファーを自治体さんからいただき、全くフラットな状態から別海町の写真を撮り始めたときの一枚です」

特別企画 衆議院議員 石破茂(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) × 東京カメラ部10選 柄木孝志「写真による地方創生」

柄木「実は僕が歩いている場所って海の上なんです。野付湾は冬場マイナス20度を超えるので凍りまして、更に凍った海の上を歩けるんですよ。そこを歩いているとちょうど大地の向こうで夕日が沈んでいくというロケーションがたまらなくきれいで、これをツアーとして売れないかと思って、自分で三脚を立ててセルフタイマーにして撮った一枚です。それを役場の人に見せたら、やはり感動していただけて、そこからツアーの展開に繋がっていきました」

特別企画 衆議院議員 石破茂(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) × 東京カメラ部10選 柄木孝志「写真による地方創生」

柄木「地元の方に参加してもらって、彼女たちがガイドになるというワークショップを氷の上でやったんですね。そうすることにより彼女たち自身がこの場所の価値に気付き、たくさんのツアーの発想が出てきました。そしてたくさんのツアーメニューが組まれていきました」

特別企画 衆議院議員 石破茂(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) × 東京カメラ部10選 柄木孝志「写真による地方創生」

塚崎「そしてYahoo!ニュースにも取り上げられた写真ですね」

柄木「何もない場所だからこそ遠近感を使った写真の遊びができるんですよね。それを体験メニューとして、参加する皆さんがスマホで簡単に撮影できるプログラムを作りました。“日本のウユニ塩湖”なんて呼んだりしながら、自分たちでプロモーション方法を考え、写真を使ってアプローチしていきました。そしてツアーが最終的な完成を迎え、いよいよ販売を行うことができました。その結果、全国各地で800団体くらいが登録している観光庁の旅行事業がありまして、その中の日本一として表彰をされました。それによってまた観光客が増え、ツアー客ゼロから二ヶ月で約1,000人ものお客さまが別海町に訪れてくれたんです」

塚崎「柄木さんの写真はきっかけであって、地元の人が本当に動いていることが大切なんですよね」

柄木「そうなんです。やはり地域を作るのは人、やっぱりそれも地元の人なんです。だから僕らがコンサルに入っても出来ることには限界があって、継続して事業を成り立たせるためには地元の人たちが地元の価値に気付いてどれだけ新しいコンテンツを作っていくかということなんですよね。それぞれに官の役割があって、民の役割がある。そのバランスが取れたときに初めて町は動くんですよね」

特別企画 衆議院議員 石破茂(元国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当) × 東京カメラ部10選 柄木孝志「写真による地方創生」

塚崎「先生の本の中に”やりっぱなしの行政、頼りっぱなしの民間、全然関心なしの市民”が三位一体となると何も前に進まないと書かれているのですが、柄木さんが行なっているのはまさに逆の例ですよね」

石破「行政はやりっぱなしでそれのが効果があったかどうかも検証せず、とにかく予算消化をする。民間も補助金をもらったらそれで終わり。やりっぱなしの行政、頼りっぱなしの民間、全然無関心の市民が三位一体になると、大体は駄目になるんですよ。企画をするのも経済が回るのも東京でやっていては、絶対に地域は潤わないんです。そうではなくて、地元の人たちが自分たちで企画した方がその地域も潤うし、都会の人も喜ぶんですよね。ありきたりなものじゃない、本当の手作りという形で経済を回していきたいですよね」

塚崎「私たち撮る人間は、撮影するために美しい場所、切り取り方、伝え方を探しますよね?このスキルを活かすと、写真で自分自身が楽しむだけでなく、お世話になっている被写体のために役に立てると思うんです。そして、役に立つことで、地方が維持され、私たち撮影者が楽しませていただいている景観が守られていく訳です。ですから、このスキルを持たれている方々ははぜひ色々な地方に行って美しい場所を写真に撮って発表して、その良さを地元の方も含めてたくさんの人に伝えて欲しいと思います。また、写真を撮らない人も家族や友人とそこに出かけてみてください。そうしたことで、まさに産業が動いて地方が活性化していくのだと思います」

石破「最後になりますが、JR九州が“ななつぼしIN九州”って列車を走らせているんですよね。予約でいっぱいなんですが、旅が終わった人の半分は泣くんですって。日本にもこんなにきれいな景色があったんだ、こんな素敵な人たちがいたんだって、感動して。やっぱり私泣くって本物だと思っていて、先ほど子どもが手を上げている写真で私が感動した様に、”生きてて良かった”っていう思いを大勢の人が持てる日本になること、そんなことに写真は大きな役割を果たしているんじゃないかと思っています」

柄木「僕は写真の可能性をもっと多くの人に知ってもらいたいと思っています。写真は日本の文化の中で大きな役割を果たせるんです。人ごとだと思わずに、自分たちも何かできるんだという気持ちでぜひ参加してもらいたいですね。本日はありがとうございました」

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