開催日 : 2021年06月30日
協力 環境省×大山観光局×LANDSCAPE DESIGN
コロナ禍の現在、そして未来に向けて、今何に取り組むべきかをお考えの皆様への参考情報として、本対談を企画しました。
今回は、環境省「令和2年度大山隠岐国立公園大山地域写真映えナイトタイムコンテンツ造成業務」に採択され昨年実施した「大山×星空を観る、最も美しい場所での観賞&撮影ツアー」造成について、事業を推進された一般社団法人大山観光局、環境省 中国四国地方環境事務所 大山隠岐国立公園管理事務所、株式会社LANDSCAPE DESIGNをお招きし、ツアーの企画や募集、告知などをサポートした東京カメラ部が聞き手となり、本事業のポイントや考察をお話しいただきました。
大山は、鳥取県、島根県、岡山県にまたがる大山隠岐国立公園の中心的な存在で、中国地方最高峰、百名山の一つであり、山岳信仰の霊場として1,300年以上にわたる歴史をもっています。
今回は、大山の標高1000mの絶景スポット「元谷」までの夜間のガイド付き軽登山と、参加者ご自身による大山と星空の写真撮影を楽しんでいただけるツアーを造成しました。
本対談では、コロナ禍における大山隠岐国立公園でのお取り組みを辻田さま、白石さま、柄木さまからご紹介いただきました。また、弊社塚崎から、政府、自治体など多数の公的機関SNS運営代行やオンライン、オフラインで日本各地の観光・支援を多数経験している東京カメラ部として、具体例を交えながら以下の点をご紹介いたしました。
- 1)旅行の行先検索においては、SNSが観光情報収集の要であり、なかでもInstagramを使った情報収集がメイン。Instagramでは、圧倒的に写真の力が重要
- 2)コロナ禍において、環境省と大山観光局は地元写真家とともに、高付加価値・高単価の「大山×星空を観る、最も美しい場所での観賞&撮影ツアー」を造成。夜間・早朝需要を喚起することによる滞在時間の延長や消費単価の向上が目的。ナイトタイムコンテンツとなる夜間・早朝の時間は、そもそも「写真撮影」と相性がよい
- 3)写真家の「被写体を見つける力」でフォトスポットを開発し、高品質の写真を使ってSNSで発信することにより、地域の魅力を拡散
詳細な対談の様子は以下のとおりです。皆様の参考になれば幸いです。
登壇者
一般社団法人大山観光局 事務局長
白石夏季氏
- 2009年 一般社団法人大山観光局の前身である大山町観光協会大山観光局入社
- 2011年 法人化。鳥取県・大山町から大山駐車場や体育館施設、大山自然歴史館等の指定管理業務を受託しながら地域会社として公益性の高い業務を行う。
- 2013年 旅行業二種登録にあわせ、企画に加え旅行商品造成に社として注力。大山隠岐エコツーリズム国際大会の受入れのため、地域内の合意形成づくりに関わる。
- 大山で催される伝統行事の他、地域づくり事業として「とっとりバーガーフェスタ」「お盆の大献灯ー和傘灯りー」など地方創生事業へ主催者として参画。
- 2019年より現職。 趣味:写真撮影、鑑賞+ネコ命。
環境省 中国四国地方環境事務所
大山隠岐国立公園管理事務所 所長
辻田香織氏
- 2007年環境省入省
- 札幌(北海道地方環境事務所)、志賀高原(自然保護官事務所)で国立公園の保護管理に携わるほか、環境省本省と出向した外務省で自然関連の国際条約等を担当。2017年には政策研究のため半年間渡米も。
- 2019年7月から現職。「国立公園満喫プロジェクト」のもと、大山隠岐国立公園において保全と両立した利用を促進。
- 公私でこれまでに訪問した国は約20か国。
- 山・海のアウトドアスポーツはひととおりやっています。
株式会社LANDSCAPE DESIGN 代表取締役/
写真家/地域活性プロデューサー
柄木孝志氏
- 16年前に大阪府より鳥取県へIターン。地元のNPOにて、本格的な地域活性化事業に従事する。
- 写真家としては、JR西日本の多くの媒体のメインカメラマンを務め、山陰や岡山DC、瀬戸内キャンペーンといった主要媒体のキービジュアルを担い、トワイライトエクスプレス瑞風やWEST EXPRESS銀河といった列車のオフィシャルカメラマンとして活動するほか、各ポスター、看板、カレンダーなど、これまで多くの撮影を手掛けている。あわせて、「写真を通じた地方創生」にも積極的に取り組み、風景をデザインするというこれまでになかった発想により様々な事業、ツアーなどをプロデュース。「大山の大献灯」(鳥取県)、「大山星空で遊ぶツアー」(鳥取県)、「氷平線ウォーク」(北海道)などは、すでに全国区の取り組みとして認知されたことで、各自治体、国などからの依頼が相次いでおり、現在は、全国の自治体にて地域活性化、観光コーディネートのアドバイザーとしても活躍するほか、2019年7月には、日本最大のSNS写真コミュニティサイトを運営する「東京カメラ部株式会社」と資本提携。国や自治体とも連携し、写真を通じた国内の地域活性化事業に注力している。
聞き手 : 東京カメラ部株式会社
代表取締役 塚崎秀雄
出演者紹介
辻田さん、自己紹介をお願いします。
辻田氏:環境省 中国四国地方環境事務所 大山隠岐国立公園管理事務所 所長の辻田と申します。
2007年に環境省に入省し、札幌(北海道地方環境事務所)、志賀高原(自然保護官事務所)で国立公園の保護管理に携わるほか、環境省本省と出向した外務省で自然関連の国際条約等を担当しておりました。
2019年から、ここ大山隠岐国立公園で公園の管理をしていますが、2016年から訪日外国人旅行客を倍増させるという目標を掲げた「国立公園満喫プロジェクト」を行っており、そのプロジェクトのもとで、大山隠岐国立公園で「保全」と両立した「利用の促進」を行っています。
ちなみに、公私でこれまでに行った国は約20カ国、南極大陸以外の大陸は行ったことがあります。山と海のアウトドアが好きで、今は趣味が実益を兼ねるという恵まれた環境におります。
白石さん、自己紹介をお願いします。
白石氏:鳥取県にあります、一般社団法人大山観光局 事務局長 白石と申します。
2009年に一般社団法人の前身の、大山町観光協会観光局に入局し、2011年法人化しました後は、主に企画や観光コンテンツの制作などを担当しています。
弊社は、大山の駐車場や体育館施設、文化施設などの指定管理業務を受託しており、公益性の高い業務を行うことも、私のミッションの一つです。
今日は、旅行会社の皆さまもご視聴と伺っていますので、関連する業務で申し上げますと、旅行業二種を持っておりますので、観光コンテンツに併せまして、最近ではツアー造成にも注力しています。その他にイベント「とっとりバーガーフェスタ」や「和傘の灯りライトアップ」などを国立公園で実施し、事務局などを引き受けております。
趣味は写真撮影で、猫が大好きです。
柄木さん、自己紹介をお願いします。
柄木氏:株式会社LANDSCAPE DESIGN 代表 柄木と申します。
生業は写真家で、JR西日本の媒体に掲載されている写真の多くを撮影しています。
また、カメラ雑誌やメーカーなど多岐にわたって撮影の仕事をしています。
写真家として仕事をするなかで、「写真」を使って「地方創生」ができるんじゃないか、という気づきがあり、15年ほど前から写真を通じていかに地域活性をしていくか、地域活性のプログラムを作っていくか、ということをテーマに仕事をしています。
鳥取県をフィールドに、今は全国各地の撮影に伺っています。今日のセミナー主催の東京カメラ部と弊社は、資本業務提携をしておりまして、国や自治体のお仕事では、ただ写真を撮るだけではなく、それをいかに産業化していくか資源化してくか、という視点で一緒に仕事をしています。ちなみに今、仕事で岐阜におりまして、車中から参加しています。
最後に、聞き手 塚崎の自己紹介です。
東京証券取引所、戦略コンサルティング会社A.T.カーニーやソニーに在籍したのち、2007年に創業、「東京カメラ部」を日本最大級(500万人以上)の写真コミュニティに育てました。毎日約2~4万作品を拝見しています。また、弊社は、大手企業・官公庁を中心としたソーシャルメディアの運営を受託しています。私自身は写真家ではないことをお伝えしておきたいと思います。
東京カメラ部のご紹介
毎日4万作品が投稿され、延べファン数540万人の日本最大級の審査制写真投稿サイト
今回の施策のお話をする前に、東京カメラ部をご存じでない方に向けて、まず簡単に東京カメラ部株式会社をご紹介します。弊社が運営する「東京カメラ部」は日本最大級の写真好きが集まるコミュニティ、審査制の写真投稿サイトです。
主な特徴は、以下の通りです。
- 世界中の写真愛好家の方から、毎日約4万作品をご投稿いただいている「東京カメラ部」アカウント。その中から素晴らしい作品を選び、毎日7作品を東京カメラ部のSNSアカウントでご紹介、昨年は延べ11億人の方が閲覧
- この運営ノウハウを活かし、日本政府観光局様、環境省様、浜松市様など地方自治体様、大手企業様の世界に向けた情報発信を支援。また、Twitter Japan様などSNSプラットフォーマー様からの仕事も受託
- 投稿写真は、日経ナショナル ジオグラフィック社様から写真集が発売されるほど、レベルの高い作品
- 幅広い業界でのフォトコンテストの実績多数。一括(企画、募集告知、運営事務局、審査/選定、賞品発送)で受託したフォトコンテストは、150件超
また、省庁・自治体さま向けには、以下のようなソリューションをご提供しています。
大山ナイトタイムコンテンツ造成事業概要
夜間・早朝需要を喚起することによる滞在時間の延長や消費単価の向上
今回の事業は「令和2年度大山隠岐国立公園大山地域写真映えナイトタイムコンテンツ造成業務」で、大山隠岐国立公園を訪問する旅行者の満足度の向上や、夜間・早朝需要を喚起することによる滞在時間の延長や消費単価の向上を目的として実施しました。
辻田さん、今回はどうして「ナイトタイム」コンテンツだったのでしょうか。
辻田氏:国立公園全体として宿泊数の延長が課題で、2020年度から、民間事業者だけではなく環境省としても、宿泊につながりやすいナイトタイム(夜間・早朝)に楽しめるコンテンツの造成を進める方針となったためです。そのための予算も作られました。
なぜ、大山地域を選んだかと申しますと、大山地域では2019年度に「大山寺地区上質化推進基本計画」を作成して、ソフト・ハード両面で受け入れ環境の向上を目指した取り組みを進めています。その計画のなかでは、このようなツアープグラムの造成も掲げられていました。もともと地域でやる気があり、また、既に進められているハード面での街並み景観の改善のための取り組み等との相乗効果も見込めるため、この地域としました。
なお、「写真映え」を業務タイトルに含めたのは、2019年度に東京カメラ部と柄木さんとともに大山でインスタミートを開催したときの気づきや体験がベースにあります。そのインスタミートでは、写真撮影をしたいという人の多さ、需要の多さを実感しました。また、私自身は実際には開催者側でしたけれども、参加者の一人として、「写真を撮る」ということが「体験」としてとても楽しく、ポテンシャルを感じました。何よりも「記念が残る」点が、私自身としても喜びがありました。こうした経験から、写真を使った何か面白い体験コンテンツを造成したい、という思いを業務名に込め、また、業務内容や仕様書もそういった観点から作りました。
ツアー化で目指したこと
オリジナリティがあり、コロナ禍でも催行可能で、持続可能なツアー
今回の事業では、コロナ禍でも催行可能で、持続可能なツアーを目指しました。
「オリジナリティ」「持続可能」「コロナ対策」の3つが主なポイントです。
辻田氏:特に「ここでしかできない体験」という点を重視しました。また、コロナ禍がいつ収束するかもわからない状況ですので、それにも耐えられるようなものにしていただきたいなという思いがありました。コロナ禍でアウトドアブームでもあるので、外で行うツアーであれば今の時代に合うんじゃないかなとも考えました。
「持続可能」もポイントです。単発にならず、地元で継続できる、ということが重要だという考えで今回の取り組みをご一緒させていただきましたが、白石さん、この点についていかがでしょうか。
白石氏:「オリジナリティ」「持続可能」「コロナ対策」の3つのポイントを全てクリアして且つ売れる、という商品はなかなか作れないと思います。この要素のどれかはできている、とか、要素のいくつかを組み合わせてというツアーならこれまでもきっとあったと思いますが、コロナ禍のこの現状の中でこの全てを網羅するツアーや観光コンテンツを作っていくことは、非常に難しく、そして地元の資源として活かしながら収益性を確保するというのはなかなかパッと思いついてすぐ実現できることではないだろうと思います。
大山地域に活かしていきたい観光資源はあるけれども、収益化できるところまでのアイデアをひらめかなかった、というような過去の経緯もございますので、今回このチームで皆さんとツアーを作れたということの意義は非常に大きいと思います。
事業実施の流れ
地元関係者の方々との「意見交換会」と「モニターツアー」がキモ
そのようなツアー造成をどのように実現していったか、という流れをご説明します。
今回の事業は「企画」→「下見」→「意見交換会」→「モニターツアー」→「ツアー化」→「PR」という流れで進めました。
そのなかでもとりわけ大事だったのは、「意見交換会」と「モニターツアー」です。
地元関係者のご意見を伺い、ご理解とご協力を得る「意見交換会」では、大山観光局の白石さんがご尽力されました。白石さん、お話をお聞かせください。
白石氏:私たち大山観光局は前身が観光協会ですし、今後 DMO を目指していく組織です。組織体は変わったとしても、地域の悩みはそう簡単に変わるものでも解決できるものでもありません。
せっかくいいものがあるんだけれども、売り方がわからない、魅力的な見せ方がわからない、という悩みはこれまでもありましたので、今回の意見交換会には、多くの旅館関係者の皆さんや登山ガイドさんなど色々な方に入っていただきました。皆さんの意見の集約にあたっては、地域がバラバラの方向を見てしまうと、せっかくの資源が荒らされてしまったり、収益性だけにフォーカスしたりなど間違った方向に行ってしまいますので、そうならないようにというのは意識して調整した点ではあります。
辻田さん、いかがですか。
辻田氏:先ほども話されていたとおり、キーワードとして「持続可能」があります。
続くものにするためには、地元の方に受け入れられる、もっと言えば、地元で喜んでもらえるようにしなければならないと思います。このような意見交換会を設けて、地元の関係者の方々から忌憚のないご意見をいただき、そしてその場で協力のお申し出を多く頂戴しました。そのような下地が作れたのは良かったと思います。
皆さんが意見交換会に参加くださったのは、これまでもご交流があったからでしょうか。
辻田氏:そうですね。顔見知りの方がほとんどでしたので、私としてもやりやすかったですが、やはり地元関係者の皆さんと繋がりの深い白石さん、柄木さんが声がけをしてくださったからこそ成り立ったものだと思いますね。
また、意見交換会では、東京カメラ部から、日本各地と海外の例を踏まえて、説得力がある形で、今回のツアーは成功すると言っていただいたことや、食を含めたツアーとすることなど色んなアイデアを話していただいたことで、熱気のあるものになったと考えています。
「意見交換会」の後、「ツアー化」の前に「モニターツアー」を実施しました。
関心の高い方を公募し、実施、意見をいただき、ブラッシュアップしました。且つ、公募自体が、このツアーのPRにつながるような仕組みにしました。
モニターツアーの実施を推進した柄木さん、お話をお聞かせいただけますか。
柄木氏:この一連の流れで申しますと、白石さんや辻田さんがお話しくださった地元のとりまとめや調整というプロセスは、非常に重要だったと思います。
我々民間側から、写真家の立場で企画を考えますが、その企画がいくら売れる商品だったとしても、地域の協力を得られないもしくは地域の許可が得られないと実行できません。
民間が企画したエンターテイメントな部分と、官や地元を取りまとめてくださる方から地元のご協力を調整いただく部分と、官民の両輪で進んで行く必要があります。
恐らく今日お聞きになられてる皆さんも、この点で非常に迷われたり、企画を止められたりされている方が多いのではと思いますが、官と民の役割をきちんと分けて、民は売れるものを作る、官は意見交換を含めた地元の調整や協力を得るといったそれぞれの役割を果たし、両輪で平行して進めることが非常に大事だと思います。
この事業を推進できたのは、特にスタートのエンジンを掛け始めるというところでは、辻田所長のリーダーシップの力が大きかったですね。民間企業がいきなり、こういう企画をやりましょう、と提案しても実現が難しかっただろうと思います。
白石氏:そうですね。かねてから辻田所長とは「上質化プロジェクト」や「国立公園満喫プロジェクト」の会議などでご一緒させていただくことが多く、もうちょっとここ何とかならないかなというような私の悩みを聞いていただくこともありました。
また、環境省は、国立公園の保護だけではなく国立公園の利活用にも非常に力を入れている、ということを普段から辻田所長からお伺いしていたので、今回に関しても非常に心強かったです。
先ほどの柄木さんからのお話に付け加えますと、今回のような一点突破型というかなかなか他にないツアーは、品質管理も今後非常に重要になります。写真を撮るだけではなくて、地域コンサルのような柄木さんみたいな人材が地域ごとにいないと、両輪でバランスよくまわすことが難しいと思います。
今回の事業では、大山の標高1000m「元谷」で星空を観る&撮る、というツアーを企画しました。柄木さん、ツアーのご紹介をお願いします。
柄木氏:鳥取県は「星取県」として訴求していますが、プロモーション先行型で実態づくりが出来ていないという課題がありました。ツアーでも、風景写真が撮れるというだけでは、なかなかお金が落ちませんし、そのための策を練りづらいということがほとんどです。
今回のツアーで訪れる大山の「元谷」は、もともと登山道の途中にある場所で、なかなか一般の方が行きづらい、特に夜は一般の方は安全面の観点で立ち入れない、という場所でした。大山は私の地元ですので、ずっと写真を撮ってきましたが、ここから見る星空がどこから観る大山の星空よりも一番きれいだという自負がありましたので、そこを前面に押し出したツアーにしました。
ツアーでは、登山ガイドを付け安全を担保しながら、お客様を元谷にお連れしました。モニターツアーのご参加者からは、様々なご要望やご意見を頂きましたが、なかでも、自分もこの素晴らしい場所にいた証が欲しい、というご要望が非常に多かったので、皆さんに写真を撮ってもらうだけでなく皆さんをモデルにして我々が撮影するという、記憶だけではなく記録に残すサービスを急遽作りました。
ツアーでは、地元産のジビエを使った「キャンプ飯」を提供するなど、写真を撮るだけでなく、+αの楽しみをご提供しました。
ツアーは、代金16,500円、最少催行人数3名最大10名までで催行しています。
白石さん、ツアーの実施状況やお問合せ状況などについて、お聞かせください。
白石氏:ツアーは、4月29日からスタートしました。あいにくの天候などで中止になった回もありましたが、本日までに5回の実施、約30人がご参加くださいました。開催日は、月に2、3日から多い時で4日間くらいになるよう設定しており、各回、募集開始後すぐに5名ほどは枠が埋まる、というような感じで今のところは推移しております。
2017年から柄木さんをガイドにお招きしまして、星を見ながら、参加者の皆さんをモデルさんにして撮影し、自分がそこにいたことを記録に残すツアーを定価4,000円で催行しています。2017年から今までで、大体600人ぐらいのお客様にいらしていただいてます。
今回の元谷のツアーは、そのような繋がりから発展させた企画ですので、お客様の目にも留まりやすく、お金に少し余裕がありカメラ機材もしっかりとお持ちである、旅行代金にもあまり惜しまない方々を早期にお客様として獲得できたかな、と思います。
コロナ禍で、他のツアーはどのような状況ですか。
白石氏:自然体験を売りにしている会社ですので、少人数、オープンエアーで催行を継続しているツアーもありますが、コロナ禍でストップせざるを得ないツアーも多くあります。
ですから、高単価で、開催を小刻みにこちらでコントロールできる今回のようなツアーは、有難いですね。
国立公園におけるツアー造成
「保護」と「利用」の好循環と、事業における各社の役割
国立公園は保護はもちろんのこと、利用も促進していらっしゃいます。
辻田氏:国立公園は、元々「適正な利用」を掲げているのですが、一般の方から見た環境省による国立公園の管理は、恐らく数年前まで「保護」一辺倒と受け止められていたと思います。
2016年から、訪日外国人の来訪を倍増させることを目指す「国立公園満喫プロジェクト」が始まりまして、環境省も自ら利用を推進するような位置づけに変わってまいりました。全国の国立公園で、それまでになかったような国立公園の自然・文化観光資源を活用したアクティビティや体験コンテンツが提供され、利用の側面の充実化が皆さまにも見えるようになってきたのではないかと思います。
今回のツアー化のプロジェクトも、辻田所長からのお声がけでした。
辻田氏:そうですね。大山といういい資源があるものの、地元に十分に還元される形で活かされていない、という問題意識がありました。幸い予算も付きましたので、今回のプロジェクトを立ち上げました。
「保護」と「利用促進」の循環、という観点もあります。
辻田氏:おっしゃられるとおり、「保護」と「利用」の好循環が目指すところです。
国立公園に人が多くお越しになって、滞在時に消費が促進されて、地域が潤って、資金の一部を環境保全に回したり、受け入れ環境を向上させたりすることで、魅力の向上を図る。その魅力に惹かれてまた人がやってきて、その方々がSNSなど使って、頻繁に発信してくださって、口コミも充実化して、それを見て、また国立公園に人が来て・・・というようなという循環が進んでいったらいいなと思っているところです。
今回の事業での4者の役割 について、ご説明します。
環境省の辻田さんは、そもそもこの企画を立ち上げて、 場所確保、予算確保など事業全体を管理されました。
大山観光局 の白石さんは、人的リソースの確保、地域関係者の調整、事業の商品化を担当されました。
LANDSCAPE DESIGNの柄木さんは、写真家目線での提案、撮影、ガイドの育成、商品化に向けた調整を担われました。
東京カメラ部は、事業全体の実行、観光客のニーズ把握、他地域での実績ノウハウを活かした魅力的なスポット開発、東京カメラ部SNSアカウントを使った拡散などを行いました。
観光客のニーズ把握
Instagramでの情報発信と写真の力
旅行の行先検索においては、SNSが観光情報収集の要であり、なかでもInstagramを使った情報収集がメインになっています。よって、今回のプロジェクトでは、Instagramを使った情報発信をメインとし、東京カメラ部のInstagramでも告知投稿することにより、全国に拡散しました。旅行の行先候補となるには、Instagram上で、質の高い写真をたくさん投稿してもらうことが大事です。
Instagramでは、圧倒的に写真力が物を言う、という世界です。
先日Instagramが発表した、ユーザーはInstagram投稿のどこを見ているか、というデータによると、一般投稿、ストーリーズ投稿のいずれも、「ビジュアル」が約6割です。ビジュアルがキーであり、このビジュアルが良くない場合、ハッシュタグや文章などビジュアル以外の部分をどう工夫しても失敗、となります。
SNS上で写真をみて、実際に人がくるようになった観光地は多く、魅力的な写真を投稿することが重要です。
Instagram経由での東京カメラ部への投稿数は多く、「#東京カメラ部」と「#tokyocameraclub」の合計投稿数は2,158万件以上*と日々非常に多くの作品が投稿されています。
(*2021年5月20日時点)
東京カメラ部では、「答えは顧客(画面の向こう)にある」と考えています。
東京カメラ部では、毎日約4万作品追加される、弊社で独自開発した作品管理システムを使って、過去、現在#投稿されている写真を検索し、どんな写真が撮られているか、また、一定数のボリュームゾーンで人気になっている/なりつつあるか、をリサーチします。
今回のツアー造成でも、まず、どういった写真が撮られているか求められているか、をこの作品管理システムで確認しています。変化と好みの細分化が激しい現在においては、プロジェクトメンバーのひとりの方や少人数の方が良いと思われた写真ではなく、「マス」の反応を勘案した作品選びが大事です。
魅力的なスポット開発
写真家の「見つける力」を活かす
写真を撮る人だからこそ見つける景色があります。柄木さんは、長年大山を撮り続けて、元谷の美しさを見つけていました。
柄木氏:約15年間、大山で写真を撮っていくなかで、色んな場所で撮影してきました。
近年Instagramが浸透した影響もあり、皆さん色んな場所を既に写真に撮られている。
よって、皆さん、新しい場所を探そう探そうとしていらっしゃって、そのニーズが高くなってきています。そうした中で、ただ呼び込むだけではなく、環境省や大山観光局がプロジェクトにいらっしゃる間に、活用する上で管理できるような状況を作っておかなければならない、と考えています。
なぜなら、写真の影響力が高いがゆえに、トラブルが多発しているということも全国の自治体で起こっているからです。そこを防がないと、写真を撮影できる場所が、どんどん少なくなってしまいます。私自身も、ただ撮るだけでなく、ここを使って何ができるのかを常に考えるようにしています。鳥取県や大山の経験を踏まえて、ただ撮るだけでなく、地元が活用・管理しないとだめだよね、というようなことも含めた総合的なプロモーション企画を全国各地で東京カメラ部と推進しています。
柄木さんのように問題意識をお持ちの地元の写真家や、常日頃からどうやって差異化をしようかと考えている写真家は色々と撮影場所などの隠し玉をもっている、そこを整備すれば一般の方を誘客できるフォトスポットになり得ます。そういった地元の写真家をプロジェクトに巻き込むことが重要です。
今回もこのような写真の場所を柄木さんが見つけたわけですが、このポイントは「星景写真」だということです。星空写真は難しい、例えば、オリオン座を撮影する場合、オリオン座が撮影できればどこであってもよい、ということになります。今回は、大山というその場所ならではの「山」の風景と一緒に「星」がある「星景写真」であることで、大山である意味を持つように工夫されています。
また、新たなフォトスポットを見つけるためには、写真家が戦力になります。そもそも写真家に必要なスキルは、「被写体を見つける力」と「写真に残す力」です。
被写体を見つける力を活用した例として、茨城県大洗町があります。どこも被写体となる場所がないのです、と言われて伺って、大洗のサンビーチにフォトスポットを見つけました。
サンビーチは遠浅の海岸ですので、リフレクションビーチとしてフォトスポット開発しました。これは、テレビでも取り上げられる場所になりました。
東京カメラ部では、東京カメラ部10選や、東京カメラ部主催のフォトコンテストに入賞された方々など、SNS上でリーチが伸びやすく、且つ質の高い写真を撮る全国各地の約800人の写真家とつながりをもっています。
この地域の写真を、というご要望であれば、その地域の写真家に撮りに行ってもらう、ということや、その方がその地域でこれまで撮影した写真を見せてもらうということができます。コロナ禍において、全国の移動が難しい場合も、地元の写真家をピンポイントでご紹介できます。
昨年2020年度は、環境省の6つの国立公園でのフォトスポット開発を行いました。
足摺は、柄木さんに行っていただきました。
柄木氏:足摺で実感したのは、地元の方にご案内いただいて初めて知る場所があるということです。全く知られていない場所にこそ絶景があったり、可能性を秘めていたり、ということがありますので、地元の方に気づいてもらう、ということも大事だと思います。
日光国立公園でもフォトスポットを開発しました。
(写真のお子さんは、環境省の許可を得てこの位置に座っています。)
また、国立公園以外では、JALや豊岡市とフォトスポット開発からツアー化した例や、
瀬戸内国立公園内の宮島弥山(みせん)でフォトスポットを開発し、インスタミートを実施した例などがあります。
弥山でのインスタミートでは、早朝夜間のお手本となるような写真をたくさん撮ってもらい、SNS上で拡散しました。
拡散力
ファン基盤を持つSNSアカウントでの発信
今回の事業では、既に多くのフォロワーを抱える東京カメラ部で投稿をすることで、44万人の写真好きの方に告知しました。フォロワーを多くお持ちのアカウントやメディアは他にもありますが、写真に興味があり感度の高い、撮影意欲をお持ちの方々が多く集まっているのが東京カメラ部のSNSアカウントです。
また、一般モニター公募を実施し、東京カメラ部で募集することで、このツアー自体のPRにつながります。
地域との調整と自走化
「意見交換会」で地元の関係者を事前に巻き込み。今後ガイドの育成も
今回実施した「意見交換会」について「地域との調整と自走化」の観点から、白石さん、お話しいただけますか。
白石氏:「意見交換会」には、ホテル関係者、登山ガイド、大山町役場の方などにご参加いただきました。
ホテルの関係者の方々には、登山で早朝に出発される方は早めに就寝されますので、そのような方々の部屋は一般の宿泊者とは隔ててアレンジしてもらう配慮が必要になります。また、登山ガイドには、安全面の確保、冬に冠雪した北側の大山は非常に綺麗なのですが、こうした中にお連れするには、専門知識や安全管理が必要不可欠ですので、事前にご意見をいただきました。
意見交換会の場で、ホテル関係者からは、一人客が増えニーズも多様化して、小さな宿泊施設では、離して部屋を確保する対応が難しい、というご意見をいただいたり、登山ガイド育成は必ずこれから先必要になる、という見解が皆さんで共有できたり、と実りの多いものとなりました。課題に関しては、このように事前に地元のメンバーで意見を揉んでおかないと、解決までの道のりは遠くなると思っております。意見交換会で地元関係者が一同に会する場を作れたのは良かった、次のステップがやりやすかったと思います。事業化したときに、困ったときにはすぐ相談して解決策が出せる、という下地も作れたかと思います。
大山観光局では、今後ガイドを育成されていく方針、と伺っています。
白石氏:写真家の場合、地域の中で生計を立てるために、写真撮影と他の仕事を兼業して収入を得ることは一般的になっております。大山観光局としては、ガイドでも食べて行ける人を増やすために、ガイドの育成にも力を入れていく必要があります。
また、先ほど申し上げた「星空で遊ぶツアー」も「星空観賞撮影ツアー」もこちらの元谷で必ずガイド付きのツアーですから、ひと月の半分位の頻度で催行するにあたって継続的な催行の観点からも、ガイド育成は大きな課題です。今まさにLANDSCAPE DESIGNの柄木さんに、ガイドの育成をお願いしているところです。
ガイドの育成が出来れば、ガイドで食べていける若者が増えますね。
白石氏:はい。観光コンテンツがたくさんあり、収益性を確保して、資源を守っていく、ということ全てが大事ですので、できればガイド専任で何人か食べて行ける人が育っていけばいいなと考えています。
単発の事業にならないようにと、今回の事業の仕様書にはこのような記載がございました。辻田さん、背景をお聞かせください。
辻田氏:単年度予算ですので、原則一年でできることしか発注できません。
それがゆえに打ち上げ花火的な、打ち上がったときは華々しくてインパクトもあるのですが、一年後二年後になったら、それをやったことすら忘れられてしまうというような事業を作ってしまうことがままありました。
今回の事業は残るものにしたいし、それを約束できる業者さんに落札して欲しいという思いがあり、仕様書にこのような記載をしました。
また、今回の業務は「総合評価」という提案型の契約方式だったのですが、翌年度以降の継続性を確保するための工夫として、その提案の中で、翌年度以降のコンテンツの販売・運営主体や、販売・運営の計画に含めるべき項目を明示することを求めました。
FAQ
ここからは、視聴者の方からのご質問にお答えします。
Q.ツアーの値段をもう少し上げてはいかがでしょうか。
白石氏:ありがとうございます。個人的には、当初12,000円程度で考えていたのですが、「国立公園満喫プロジェクト」の有識者 江崎委員から、16,500円でしょう、というご意見をいただき、関係者内で自信がつき、キャンプ飯もあるので売っていけるのではないかということでこの価格にしました。
もう少し値上げできるのではないか、というご意見は大変ありがたいです。
その「国立公園満喫プロジェクト」有識者の江崎委員にもツアーにご参加いただきました。
白石氏:江崎委員がとても楽しそうで、ツアーの後お送りした写真もすぐSNSにアップしてくださいました。本当に大山で感動してくださったんだな、と伝わってきて嬉しかったです。
辻田氏:ツアーには、私自身も一参加者として参加しました。どういうツアーか知っている私でも、想像を上回る満足度・楽しさがありました。
江崎委員は、ツアーの値段をもっと高くしていい、文句の付けようがないいい出来のツアーだとおっしゃってくださったのですが、本当にその通りだなと感じました。
Q.暗い環境での安全確保等、夜間ならではの配慮があれば教えてください。
柄木氏:星空は、暗さが担保されないと観賞できないものです。
もちろん道中移動するときは登山ガイドが付いて、常に前後で我々と先頭を行くガイドさんとで必ずお客様をはさんで、離れないように、はぐれないように、何かあっても対応できるようにということを常に注意しています。
現場に着いてからは、途中ご飯を召し上がっていただくときにはライトを付けますが、極力ライトを暗くして、お客様の撮影の邪魔にならないようにします。写真を撮らない人が気になる明るさと、写真家が気になる明るさとにギャップがありますので、そこは写真家の目線で写真を撮りやすい暗さ明るさの担保に配慮しました。
Q.価格設定の考え方、調整に苦心した点を教えてください。
白石氏:今回は、地元が安売りしてはいけないツアーであるというのは当初から考えていました。きちんと宿泊施設にも還元したい、ガイド料も今後継続できる価格設定に、且つ利益が催行した自社に残せるように、ということを関係者内で相談しながら慎重に価格設定しました。
中長期的視点で事業を推進する場合、いつもなら単年度予算の壁にぶち当たり、調整に苦心します。大山観光局は地域会社として、3年5年先を考えてツアーを造成し、誘客プロモーションを行っていきたいと考えているのですが、これは単年度でここまでしかできませんよと言われると、どれだけ次年度以降残せるだろうか、来年再来年お客様にどう楽しんでいただいたらよいのだろうか、というのが非常に苦労する点です。
今回は環境省の仕様書に、継続性が記載されていましたので、私どもとしてはとても有難かったです。
Q.高単価とはいえ、少人数のツアーでは、地域に落とすお金を含めても、実利益だけで納得できるROIとなったのでしょうか。情報拡散を含めた効果をまとめてよかったということでしょうか。
白石氏:大山観光局が持っているツアー約12本の中でも、このツアーは売上のウエイトが高く、利益が出ております。星を観て撮影するツアーですので、観光資源である星には原価がかかっておりませんが、一番大きいのがガイドなど人件費です。利益は、今後のガイド育成に活用していく費用だと考えておりますので、ここをしっかり取らないとやる意味がないですね。
環境省の国立公園を活用できるツアーということが大きいですね。
白石氏:そうですね。加えて、環境省からのサポートが心強いです。ここまではOKここからはNGという的確なフィードバックをいただきながら進められて、ツアー自体のブラッシュアップができます。これによって、お客様の満足度が高くなり、SNSに投稿くださるなど口コミが広がり拡散されました。
参加者がSNSに投稿くださるので、宣伝費を低く抑えられる、というメリットもあります。
白石氏:はい。また、柄木さんが東京カメラ部と連動して広報していることも、効果としては大きかったです。
最後に
辻田さん、本事業を推進されてのご感想をお聞かせください。
辻田氏:今回の事業は、不足のない、いいチームに恵まれました。東京カメラ部の「発信力」と全国に通用する「視点」、大山観光局による地元との「つながり」と地元で積み重ねてこられた基礎となる「経験」、柄木さんの写真映えする場所を「見つける力」とツアーでの撮影で発揮される「写真の魅力・奥深さ」が、いい形で組み合わさって、大山にこれまでになかった、そして、きっと今後も残っていくであろういいものが出来たと思っています。
今後も大山観光局を中心にこのツアーを運営していかれると思うのですが、多くのお客様に来ていただいて、大山の新しい魅力を見つけて欲しいな、と思っています。
本日はありがとうございました。
関連リンク
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最も美しい場所での観賞&撮影ツアー」
ナイトタイムエコノミーの取り組み
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