トークイベントレポート

FUJIFILMトークショー

2014年6月18日(水)~30日(月)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部 2014写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは多くの人気フォトグラファーをお招きして、写真を見ながらのトークショーが行われました。

初日の6月18日(水)に行われた富士フイルムのトークショーでは、相原正明さんにご出演いただき、X-T1と先日発表されたばかりで発売前のXF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR(以下、18-135mm)で撮影した写真についてお話ししていただきました。

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オーストラリアで3週間撮影し、イベント当日の朝7時に帰国したばかりの相原正明さん。。

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相原さんが使用したX-T1と先日発表された発売前のXF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR。

自然とシンクロしたときに撮れる地球のポートレイト

相原さんはタスマニアの風景を撮っていますが、相原さんはご自身のことを風景写真家だとは思っていないそうです。撮っているものはあくまでも地球のポートレイト。46億歳生きた地球という生命体が、泣いたり笑ったりする一瞬を切り取っているそうです。現在は2つのコンセプトで作品を撮り続けていて、ひとつは「46億歳生きている地球のポートレイト」。そしてもうひとつが「100歳生きた人間のポートレイト」。トークショーでは2つのポートレイトを自然・スナップ・ドキュメンタリーという3つのカテゴリーに分け、作品を見せてていただきました。

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防塵・防滴のX-T1とXF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR。タスマニアは1日に四季があるといわれ、朝は夏で昼過ぎに冬になる気温差で雨から雪に変わることもよくあるそうです。その過酷なタスマニアのマウントフィールドという世界遺産の国立公園で、横なぶりの雨の中の撮影風景です。「レインカバーなどをカメラに装着すると機動力がかなり落ちます。写真家は光と影のスナイパー。カメラは写真家にとっては趣味の道具ではなく武器です。スナイパーは武器を酷使しますが、X-T1は酷使しても耐えられるように作られています」

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2002年に出会い、タスマニアを撮り続けるきっかけになった木。それ以前はオーストラリアの砂漠を撮っていたそうですが、タスマニアを訪れたときにこの木を見つけ、アシスタントの子が「枯れていますね」と言ったときに、木に“まだ生きているよ”と言われた感じがしたそうです。その次の日から写真家でも信じられないような光景に一週間出会い撮ることができ、ご自身も周りの人も「ここを撮る運命なんじゃない」と思うようになり約10年間、タスマニアを撮り続けられています。「この木を撮影したのは5年ぶりです。撮影中に三脚のネジが折れてしまったんです。これは5年間ほったらかしにしてと木が怒っているのか、“来て簡単に撮れるなよ”と宿題を投げかけられているのか、“もうここはいいから卒業して違う場所を撮りなさい”と言われているのかと3つの課題を突きつけられたように感じました。木の根本でしばらく考えさせられた1枚です」

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タスマニアは樹齢100年を超える古木が多く、相原さんはモノクロ写真をよく撮っているそうです。「Xシリーズはカラーはとてもいいのですが、モノクロの再現もとてもいいです。フィルム時代はフィルムを使い切らないと色を変えることができず、“この場所はモノクロで撮りたいな”と思っても、モノクロフィルムを入れたカメラをもう一台持って行くことができなかったので、モノクロで撮ることを諦めていました。デジタルになってよかったと思うのは、イメージに合わせてすぐに写真の色を変えられることです。色を選べるということは、作品のバリエーションが広がっていきます。自分の心と色がシンクロしやすいのはデジタルのよさですね」

相原さんがいうには、風景を撮るときに大事なことは、「passion(情熱を持つ)」「concentration(集中する)」「synchronize(シンクロすること)」の3つだそうです。「風景を撮るときにテクニックはほとんど必要なくて、5%くらいなんです。むしろメンタル面が重要で、とくに自然とシンクロさせることがとても大切になります。」

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「月と地球と木のコラボレーションを撮りたかった作品です。2枚を並べてみると、カラーだと木や空の色に視線がいってしまうので、月が目立たなくなります。そうするとコンセプトの“月と地球と木のコラボレーション”が伝わらなくなってしまいます。モノクロにしたほうが自分のコンセプトや心の中を写ししやすくなります。写真に大切なことは、“心の中で感じたことをカメラを使ってどれだけプリントアウトできるか”だと思います」

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1本の木を撮るとき、1時間くらいかけて撮影することが多いそうです。数センチ単位で場所や高さ変えて撮っていくそうです。「木は動物以上に長生きしている生命で、地球でいちばんスピリットが出ているものだと思います」

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世界遺産でもあるタスマニアのクレイドル・マウンテンの1枚。「天の川とかマゼラン星雲とか写っていますね。世界でいちばん空気が澄んでいると言われている場所なので、宇宙の果ての光を見ることができます。デジタルになってからいちばん便利になったことは、夜も撮れること。地球のポートレイトを撮るとき、フィルム時代は日の出から日没までしか撮ることができませんでした。だけど、僕らが寝ている間も地球は回っています。人のポートレイトでも寝顔があるように地球だって寝顔があってもいい。地球の寝顔とは夜のシーンだと思います。同じ場所でも地球の昼と夜のふたつの表情を撮りたいですね。だから、デジタルになってから寝る時間が非常に少なくなりましたね(笑)」

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地面が霜に覆われた草原の写真です。タスマニアは天気が変わったときに、一瞬に霜がでることがよくあるそうです。「色があるかないか微妙な光景は、カラーにするかモノクロにするか迷いますね。あと、実際の色と自分の心の中に見えている色の差をどうするのか? をよく考えます。だけど、このようなきれいなシーンを目の前にすると、舞い上がってしまい“本当はどこがきれいなのか?”がわからなくなってしまいます。舞い上がった気持ちを抑えて、自分の心のにどのシーンに感動しているのかと問いつめないと、“単にきれいな写真”で終わってしまいます。趣味で写真を撮っているのなら“単にきれいな写真”でもいいのかもしれません。だけど写真家として撮るのなら、写真の中に哲学がなくてはいけないと思います。きれいなだけではプロにはなれません。とくに世界で戦っていくためにはきれいなだけでは生き残れなくて、写真に強さと哲学と強い意志が必要になります」

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霜の写真の部分を切り取った写真です。「全体を撮って、部分を撮ってを繰り返して、構図・視点・コンポジションを決めていきます。自分の心の中には、きれいなシーンを見てテンションを上げる自分と、“何がきれいで何を撮りたいのか”を考える冷静な自分がふたりいます。きれいな風景を目の前にすると“こう撮ってやろう”と頭でいろいろ考えてしまいます。撮影から4日目くらいは頭で構図やカメラの設定を考えてしまい、撮った写真はあまりよくないんです。だけど5日目くらいから、自然とシンクロして“このシーンではこう撮ればいい”と、わかるようになります。自然とシンクロできたときは、自分の撮りたい色がはっきりわかります。X-T1は自分の頭の中でイメージした色をほぼ再現してくれるカメラなんです」

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「よくアマチュアの方はファインダーを覗きながら撮りたいイメージを探し構図を作りますが、僕はいちばん最初に頭の中に撮りたい絵(イメージ)の設計図を作ります。そしてイメージに合わせて、レンズや場所、カメラの設定を選んでいきます。だから、頭の中にイメージができないどどうしても撮れません。絵は作るときもあれば、自然とシンクロしてくると頭の中にイメージがインプットされます。そうするとあとは自然に言われたままシャッターを切っていくだけです」

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「天気が悪いと写真が撮れないという人もいますが、曇りのほうが光がやわらかいのでコントラストの強い絵はがきのような写真にならないので、形や構図に注目させることができます」

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タスマニアの湿原です。「12年前も通った場所なのですが、その時は通り過ぎていました。ところが今回訪れたら、こんなすばらしい場所を通り過ぎていたのかと。12年前の自分の視点が甘かったことを再認識させられました。タスマニアの自分の12年間の進化を突きつけられた1枚です」

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古い古木の写真です。「有名な場所だから撮る、世界遺産だから撮るという人が多いと思います。しかし、よい写真を撮るのに有名かそうでないかは関係ありません。北海道のブナの森ではなく、近所の木でも最高の1枚は撮れます。場所の名前に頼って撮影するのではなく、自分の感じたものをじっくりと考えて撮影してほしいと思います」

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「18-135mmで撮っています。雨が降っていますが、気にせず撮れるのがいいですね。写真家にとってカメラは消耗品なので、よい作品を撮るためならカメラが2~3台壊れてもいいと思っています。カメラはお金で買えますが、逃した一瞬はお金で買えません。差し違えてもいい、という気迫がなけらば撮れません」

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雨に濡れると色が変わるユーカリの写真です。ユーカリの木は3000種類あり、コアラが食べるユーカリは2種類で、その木はないのでタスマニアにはコアラはいないそうです。

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上野・東京国立博物館の長谷川等伯の日本画。世界的に日本画の最高峰と言われている国宝作品。相原さんは、最終的に長谷川等伯の世界のようなモノクロ作品を撮りたいそうです。「等伯に迫る作品を撮れるのにはあと何十年かかるかわかりませんが、国宝級の写真は撮れるんじゃないかと思っています。というのも“撮れる”と思わないと、絶対に撮れません。自分の写真は人が見たら違うかもしれないけど、自分では世界でNO1だと思っています。そのような気持ちで撮らないと、大きな自然は向き合ってくれません。世界一の写真を撮るという気持ちを込めて、毎回撮影しています」

リズミカルに撮ることができる XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR

シドニーのスナップは、新発売の18-135mmのレンズを使って、2日間レンズを代えずに撮影したそうです。

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シドニーのスナップです。「初めて高倍率ズームを使いました。今まで“高倍率ズームなんて・・・”と軽く見ていたのですが、1本で広角から望遠まで補えるというのはいいですね。レンズを代えないので撮影のリズムが崩れないんです。撮影で大切なことは、自然や人とシンクロしたリズムを崩さないようにすることです。レンズを交換すると一度集中力が途切れます。高倍率ズームはリズムが崩れにくいレンズだということがわかりました。ただ、反面エンドレスで撮り続けることができるので、それが苦しいということもわかりました(笑)」

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「同じシーンでカラーとモノクロを両方撮ることがあります。よく「1枚RAWで撮影して、後から変換できる」という人がいますが、それは嘘です。モノクロとカラーの撮り方や光の選び方はまったく違います。色を変換すればよいという単純な話ではありません。1枚ずつイメージ合った選択が必要なのです」

キーパーソンを撮影したドキュメンタリー

ドキュメンタリーのパートでは、20年前に相原さんの最初のスポンサーになってくれたブラッカーさんを撮影したものです。

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ブラッカーさんは、カンタス航空のアジア支配人だった方で、相原さんに好きなだけオーストラリアに行って、機材を好きだけ持って行っていいよと言ってくれたそうです。「機材を何十キロも持って行くと超過料金がすごいことになるのですが、彼は無制限の航空券をくれました。95年からオーストラリアを撮り続けられたのは彼のおかげです。彼がカンタス航空をリタイヤしてシドニーで農場をしていたのですが、農場も閉鎖して本当のリタイヤをするということだったので、記念に農場を撮らせてもらいました」

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「もし僕にとって人生の中のターニングポイントに関わった人を3人挙げるとしたら、間違いなく彼はそのうちのひとりに入る人物です。彼に会っていなかったら、僕の作品を撮ることはほぼ不可能だったと思います。彼はピーカンナッツの農園をやっているんですが、朝四輪バイクにまたがって農園の見回りと、動物たちの水の世話をするそうです。」

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「人は年を取ると髪の毛が少なくなります(笑)情緒的に撮ったのですが、彼の髪の毛と左側のススキの透けている感じを対比で撮っています。18-135㎜で撮影したのですが、一瞬を切り取るのは高倍率ズームは有利ですね。ドキュメンタリーだったので意識的にモノクロで撮影しています。カラーだとどうしても色に目がいってしまいます。」

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「見回りが終わって、彼を待っていた洋犬が駆け寄ってきた瞬間です。今回の撮影は3週間で500ギガくらい撮影したのですが、その中でこの1枚がいちばん気に入っています。ちょうど彼が農園を閉めるときで、この写真を撮る運命だったのではないかと思いました。カメラ雑誌では、人物を撮るときのレンズや絞りなどが書いてありますが、人を撮るときに大切なことは撮っている人のバリアを外すことだと思います。バリアがあるうちは、本当の素顔を見せてくれません。自分がバリアを外して入っていかないと相手もバリアを外してくれません。これは自然も同じです。よく人とつきあうのが苦手だから、風景を撮っていますという人がいます。でもそういう人は自然も撮れないと思います。自然のバリアは人のバリアより厳しいし、とても繊細です。人の感情、表情を撮れない人は自然の声を聞くことはできないでしょう。風景を撮っている人は、まず人物を撮ってみてください」

最後に、現代の写真家に必要なことについてお話いただきました。 「今の時代はみんながカメラを持ち、ネットでどんどん発表できる時代になりました。ソーシャルメディアで発表し写真家と名乗る人が増えていますが、はたして10年後に何人の写真家が残るのだろうか? とよく考えます。10年後に人の心に残っている写真を撮れる写真家は少ないと思います。ネットの時代は海外の写真がたくさん日本に入ってくると思います。写真展も増えていくと思います。海外との交流が増える反面、弱い写真は駆逐されやすくなるでしょう。写真家として生き残って、自分の写真を後世に残すためには、しっかり自分の信念と哲学と情熱を持って写真を撮らないと行けないと思います。」
相原正明さん、ありがとうございました。


(写真・文 加藤マキ子)

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