トークショーレポート
Talk Show Report
2025年9月12日(金)~9月15日(月・祝)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2025写真展」が開催されました。
開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
9月15日(月・祝)に行われた「東京カメラ部特別企画」のトークショーでは、東京カメラ部10選 清田大介氏、コスプレイヤーの穂波あみ氏にご登壇いただき、「つながる世界。コスプレ×写真 『なりたい自分は、いつだって選べる。』」というテーマで、コスプレやコスプレ撮影の楽しさについてお話しいただきました。
コスプレ×写真 ― 東京カメラ部が挑む新たな表現のかたち
塚崎「東京カメラ部の代表の塚崎です。本日はこのステージにお越しいただき、ありがとうございます。特別企画『つながる世界。コスプレ×写真 ― なりたい自分は、いつだって選べる。』というテーマでお送りします。
まず多くの方が『なぜ東京カメラ部がコスプレを?』と疑問に思われるかもしれません。その理由を最初にご説明します。ご存じの通り、東京カメラ部では風景、ポートレート、スナップ写真の投稿が中心で、コスプレのイメージはあまりないかもしれません。
しかし実際には、コスプレ写真の投稿も多く、年間で4〜5回ほど東京カメラ部アカウントでも投稿作品を紹介させていただいています。コスプレの場合は露出など配慮が必要な点もありますが、決して軽視しているわけではありません。むしろ、ポートレートやスナップと同じく、とても素晴らしい写真文化の一つだと考えています。
わたし自身もキャラクターやアニメは好きで、過去にはコミックマーケットにも出展したことがあります(残念ながらまったく売れませんでしたが。笑)。ただこの写真展は小さなお子さまも多く来場されるため、これまでコスプレ作品の展示には踏み切っていませんでした。
しかし今回、清田さんという心強いパートナーを得たことでようやくこのテーマに挑戦することができました。それでは、本日登壇いただくお二人をご紹介します。まずはコスプレイヤーの穂波あみさんです」
穂波「穂波あみと申します。よろしくお願いします」
塚崎「見てください。写真の中から飛び出てきたようですね。客席のカメラが全て穂波さんに向いています」
穂波「すごいレンズの数(笑)。わたしはコスプレ活動を4年ほど前から、基本的に趣味で行っています。他にはイラストレーターなど幅広く活動しております。本日はよろしくお願いします」
塚崎「会場のみなさま、清田さんも撮っていただければ(笑)。清田さん、自己紹介をお願いします」
清田「清田と申します。よろしくお願いします。わたしはふだん商業誌や雑誌のグラビアなどをメインに撮っています。コンビニなどで目にする雑誌ですね。アイドルやタレントさんなどメディア関係の撮影をすることが多いです。東京カメラ部10選になることは大きな目標で、2024年の10選になったときの感動は、いまだに忘れられないです。本日はよろしくお願いします」
塚崎「早速、作品を見ていきたいと思います。こちらはどのようなシーンでしょう」
清田「今回“コスプレ”というテーマをいただきましたが、版権に関わるような作品は一度頭から外して、誰にでもわかりやすくコスプレを表現できる衣装として“メイド服”を選びました。露出度の問題も考慮し、生地を多めにしています。違和感があるほうが世界観を表現しやすいと考え、舞台は学校に設定しました。実際に現在も使われている学校をお盆の時期にお借りして撮影しています。ここは音楽室なんですが、窓を開けるとすぐ海が見えるんです。」
穂波「海辺の学校で、本当に素晴らしいロケーションでした。ただし空調がなく、とても暑かったです。両側の窓を全開にしてようやく風が通るくらいの環境だったので、結構過酷ではありました」
塚崎「衣装の選定はどのように進められたのですか?」
穂波「わたしのほうからいくつか衣装案を提案し、その中から選ばれたのがこの一着です」
塚崎「最初の提案は穂波さんからだったんですね」
穂波「はい。衣装のアイデアは全てわたしからです。イラストというほどではありませんが、ラフを描いて提案し、それをもとに細部を調整しました。ウィッグとのバランスも見ながら全体の雰囲気を作っています」
塚崎「ご自身でそこまで考えられたのですね!では、そんなこだわりを持つ穂波さんに、コスプレを始めたきっかけやその魅力について伺いたいと思います。」
“なりたい自分”を写す ― コスプレがくれた自己肯定と表現の自由
穂波「コスプレを始めたのは、コロナ禍に入る直前の冬コミ(コミックマーケット)でした。ちょうど転職のタイミングで、“転職するなら何でもできるだろう”と、人生でやりたいことリストを消化していこうと思ったんです。もともとオタクで、同人誌も描いていたのでコミケへの憧れがありました。同人誌を出したいという夢と、コスプレをしてみたいという夢があり、その両方を叶えようとしたのがきっかけです。コスプレの練習をしたことはありましたが、人前に出るのは初めての経験でした。それがすごく楽しくて忘れられず、気づけば4年続けています。」
塚崎「どんなところが楽しかったんですか?」
穂波「初めての参加なのでもちろん誰も知り合いもいない中、撮影を申し出てくれたカメラマンさんがいて、その方が撮った写真を見たとき、『これがわたし!? 』と感動したんです。コスプレをやりたいと思った原点を探ってみると、実は写真を撮られるのが苦手だったんです。家族旅行でも写真に写りたくなかった。自分に自信がなかったし、写りが悪いと思い込んでいたからです。でもコスプレをすると、堂々と写真に写れる。普段の自分とはまったく違う存在になれる――その瞬間、一気にコスプレの魅力に取り憑かれました」
塚崎「それは素晴らしいことですね。この作品ではどのようなこだわりがあったのでしょうか?」
穂波「これはキャラクターが存在するわけではないので、黒髪でクールで、というなんとなくのイメージを持っていました。そしてこの衣装は布の面積がとても多いので、ひらっと動いたときに美しく見えるように意識しました。この廊下の雰囲気と光がとても良くて」
清田「この廊下は実際の学校のものなんですが、学校って少し怖い場所でもあるじゃないですか。特に無人の学校には異世界のような雰囲気がある。この廊下も自然光が手前に差し込む一方で、奥は真っ暗。明暗の境にぼやっと写るメイドの姿が幻想的で、構図としても素晴らしい世界観が生まれました」
穂波「光がとても綺麗でした。布に透けて反射するような光の質感が想像できたので、フラットに撮ってくださいとお願いしましたね」
塚崎「ポーズは穂波さんの指定だったのですね」
穂波「そうですね。ひらっと撮ってくださいとはお願いして、構図はお任せしました」
清田「素晴らしかったですよ。ずっと片足立ちしてくださって」
穂波「気合いです!」
塚崎「この会場でも先日、穂波さんにご出演いただいて撮影会を開催したのですが、片足立ちを長時間されていて驚きました」
穂波「高さのあるヒールで立つのは結構大変ですが、慣れですね」
塚崎「鍛えていらっしゃるんですね」
穂波「はい。筋トレは習慣にしています。そうですね。コスプレがきっかけで筋トレを始めましたし、パーソナルトレーニングにも通っています」
塚崎「体幹がすごいですよね。今日も着座姿勢が本当にきれいです。ちなみに、清田さんも鍛えていらっしゃいますよね?」
清田「カメラマンも体力勝負なので」
塚崎「撮った写真に穂波さんが手を加えることもあるのですか?」
穂波「はい。私は“加工もコスプレの一部”だと考えているので、少しだけ手を入れさせていただいています。別の作品にならない程度にですが。原作に寄せたい場合は、目の位置などを微調整することもありますね。Photoshopも使いますし、最近はAIを使って目の位置だけを移動させる作業もできるので便利になりました」
清田「どこを調整しているのか、僕にはわからないくらい自然です」
穂波「すごくキレイに撮ってくださっているので控えめです」
穂波「この作品のポイントは“眼帯”です。片目が隠れているキャラクターって多いですよね。これはコスプレ初心者の方にもおすすめです。かわいいし、萌え要素にもなりますし、何より“盛れる”んです。人の顔は左右非対称ですが、アニメキャラはほぼ左右対称。非対称だと違和感が出てしまうのですが、眼帯をすればそれを自然にカバーできます。」
塚崎「なるほど。とても勉強になります」
清田「マスクをしていると美人に見えるのと同じですね。想像力が働くんです。写真としては“ドール感”、つまり無感情さをどう表現するかを意識したところがポイントです。実はアングルにとてもこだわっています。上から撮ると目が大きくなり小動物のようにかわいくなりますし、下から撮ると勢いが出るし、顔が小さく脚は長く見えるので、コスプレの撮影でもコスプレイヤーさんが気にされるところです。ですが、この作品ではドールのような印象にしたかったので、フラットに撮っています。撮影者の感情がない、思い入れがなく、ただ女の子が立っている感じを出すためにアイレベルかつ真正面から撮っています」
塚崎「背景も印象的ですね」
清田「現役で使われている美術室です」
穂波「書きかけの紙などがそのまま残っていて、言ってしまえば“少し汚い”場所で」
清田「そう、でもそれがリアルな“プロップ(小道具)”として機能しているんです」
穂波「カピカピの雑巾とかも落ちていて(笑)。ふだん使われているままの状態で貸していただきました」
撮る×撮られる ― 偶然が生む一枚と、演じることで写る“なりたい自分”
塚崎「続いては“コスプレと写真の関係”について伺っていきます。コスプレは、自分が楽しんで終わりでも構わない趣味ですよね。自撮りや友人との撮影で完結することも多いはずです。それでもイベントに出かけ、さまざまなカメラマンに撮ってもらうのはなぜでしょうか?」
穂波「まずイベントに限った話をすると、イベントでの出会いはとても多いと思っています。まず、上手なカメラマンさんに撮っていただけます。また、自撮りでかわいく撮れたとしても、イベントでは天候や体調、偶然の要素が重なって“奇跡の1枚”が生まれることがあるんです。このライブ感や喜びが忘れられなくて、多くの人がイベントを大切にしているのだと思います。」
塚崎「予想できない環境の中だからこそ、印象的な1枚が生まれるのですね」
穂波「そうですね。コスプレは準備が7割という感覚があり、計画通りに撮影できることにも楽しさはありますが、イベントだと、同じ環境でもカメラマンさんによって撮り方がまったく違うことがある。その幅の広さも楽しいですね」
清田「スナップの領域に近いのかもしれないですが、その瞬間にしか撮れないものに価値がある。ポートレートは、撮影のために100の準備をするような世界です。“これが必要だよね”“これも揃えよう”と積み上げていく。そのうえで思いがけないトラブルや偶然が重なりながら、想像を超える一枚が撮れたときに喜びがあります」
穂波「たとえば、曇っていたのに一瞬だけ日が差したり、風が吹いて髪がきれいになびいたり。そういう瞬間ってありますよね」
清田「後ほどお見せする海での作品も、予定していなかった白波が写り込んでいて、まさにその瞬間が生んだ一枚でした」
塚崎「イベントで、目の前にずらりとカメラマンが並ぶのはどんな気持ちですか?」
穂波「SNSや自撮りでは得られない満足感がありますね。即売会などで並んで撮ってくださったり、作品を買ってくださったりする。たくさんのカメラマンさんが見てくだり、列ができたときはやはり気持ちが高まります」
塚崎「いまこのトークショー会場でも穂波さんが座られている側には人が多いですね(笑)。撮影中、ポーズや構図などは意識されているのですか?」
穂波「そうですね。どこまで写ってるかを考えて、横画角なら腕をなるべく横に広げてみようとか。そのくらいまでは考えます」
塚崎「やはりイラストレーターでもあるから、構図は想像されているのですね」
穂波「それはあるかもしれないですね。構図もですがポーズもですね。イラストでは誇張したポーズを描くことが多いですが、コスプレも“非現実的な表現”に近いところがあります」
塚崎「先ほどの廊下の写真も、かなり難しいポーズのはずですよね。すごい腰のひねりですよ」
穂波「欲を言えば、本当はもう少し膝が真っ直ぐになるほうが理想なんですが。あれは相当に苦しいポーズです(笑)。」
塚崎「なぜそんなポーズができるのですか?」
穂波「イラストを描いていたことも関係しますが、中学生のころ演劇をしていたので、体全体で表現することに慣れていた気がします。“なりたい自分を演じる”感覚ですね。コスプレでは“没入すること”が大事。撮られている間に“どう写っているだろう”“かわいくないかも”と考えるより、どう撮られているかを理解したうえで演じきる方が、良い写真になると思います。」
撮る×撮られるの共創 ― 写真で築く信頼関係と広がる輪
塚崎「先ほど“どんな画角で撮っているかを伝えるカメラマンさんもいる”という話が出ましたが、清田さんもそうされていますか?」
清田「なるべく伝えるようにしています。“全身を撮りますね”などと声をかけると、撮られるほうもイメージしやすいですから。また、撮影した写真はなるべくその場で見せるよう心掛けていますね。確認してもらうことで安心してもらえますし、ポーズの修正にもつながります。“カメラマンとモデルのコミュニケーション”というと『かわいい!』『いいね!』といった声かけを想像されるかもしれませんが、僕は“写真を見せること”こそが本当のコミュニケーションだと思っています」
穂波「コスプレは自然さよりも”作り込み”だと思いますから、そうしたやりとりは本当にうれしいです。同じポーズを何度も試行錯誤しながら撮影することも多くて、足先まで演技しきれていないと、後から写真を見返したときに悔しい気持ちになることもあります。だから、きちんと伝えてもらえるとありがたいですね」
塚崎「コスプレを通して、写真家や仲間とのつながりから新しい広がりが生まれたことはありますか?」
穂波「コスプレは、ひとりでは完結しない趣味だと思います。コスプレイヤーさん同士のつながりもありますし、“合わせ”といって同じ作品のキャラクターを複数人で演じることもあります。大人数で集まると、初めましての方もいて、新たな繋がりも生まれます。カメラマンさんとも交流が広がっていきますね。気に入った作品を撮ってくださる方に何度もお願いすることもありますが、カメラマンさん同士のコミュニティを通じて“この人、すごく良いよ”と紹介してもらえたりもします。そうして輪がどんどん広がっていく感覚があります。」
清田「著名なコスプレイヤーさんやカメラマンさんの中には、自分のノウハウを販売している方もいます。“このライティングでこの作品ができました”という解説書のようなものですね。僕もそういう資料を買います。かなり貪欲なタイプなので。僕が主に撮っているグラビアは自然光で撮ることが多く、コスプレ撮影のように照明を作り込む世界はまったく別物で、勉強になります。」
穂波「エフェクトを販売している方もいますよね」
清田「そうそう。そうしたデータも参考になりますし、学びが多いですね」
創作の場としてのコスプレ ― 商業撮影と異なる魅力
塚崎「続いては、海で撮影した作品です。こちらは自然光で撮られたものですか?」
清田「一見すると自然光に見えますが、実際はかなり暗かったので照明を使っています。海を見ていただけると感じられると思いますが、この日は海が大荒れで風も強く、指示の声がほとんど届かない状況でした。シャッター音など全然聞こえません。これはノウハウでもあるのですが、ストロボを焚いて、”シャッターが切れた”とわかるようにして撮影をしました。また、曇天ではトップライトになり目の下やほうれい線に影ができやすいのですが、薄くストロボを当てるときれいになじむんです。そのように、“自然光風”ではあるけれど、実際は細かな照明調整をしています」
塚崎「コスプレ写真を撮ることは、清田さんにとってどんな意味がありますか?」
清田「僕は普段、商業撮影の仕事が多く、それも楽しいのですが、それとはまったく違う楽しさがあります。制作の意図があって、その“依頼にいかに応えるか”が商業撮影のプロの世界だとすると、コスプレ撮影は自分を表現できる場所でもあり、カメラマンとして持っているノウハウ以上の何かを試すことができる場でもあります。正直、失敗しても大丈夫ですし(笑)。”ごめん!”って言えば笑って許してくれる。商業の現場ではもう次は呼ばれませんからね。そういう意味では、大学のサークル活動のように“みんなで創る”感覚に近いですね」
塚崎「いわゆる相互扶助的な関係なんですね」
清田「そうですね。お金のやり取りというより、“こういう作品を作りたいから一緒にやろう”という関係です」
穂波「そうですね。失敗をしたとしても、最悪の場合は自撮りの写真はあったりしますからね」
塚崎「海に入っての撮影も、安全対策の観点から商業の現場ではなかなかできないことですよね。こうしたロケーション撮影は多いのですか?」
穂波「ハードルは高いと思いますが、わたしはエクストリームな撮影に燃えるタイプなので(笑)。」
清田「ただ、海や川での撮影は注意が必要です。川では砂利で足を切ることが多いので気をつけなければいけません。そういったノウハウも共有されているんですよ。商業の世界ではノウハウを公開する人はおそらくいませんが、秘匿されていたこともコスプレ界隈では“みんなで共有する”文化がありますね」
塚崎「ちなみに海で撮影するときの注意点はなんでしょうか?」
清田「一番は足場です」
穂波「岩場は痛いですからね」
清田「あと、肩まで海に入るシーンでも、画的に問題なければしゃがんでもらうほうが安全です。本当に深い場所まで行く必要はありません。そういった安全面の知識も、事前に調べればたくさん出てくるので、撮影前に確認しておくのがおすすめです」
アマチュア精神と信頼 ― “好き”でつながる撮影現場
塚崎「みなさん、それぞれにいろいろなつながりがあるようですね。清田さんや穂波さんはどのような繋がりが生まれていますか?」
清田「コスプレで発表した写真と同じように撮ってほしいと依頼されて、コスプレ撮影がそのまま雑誌の企画の撮影になったことがあります」
塚崎「仕事に発展したのですね。コスプレイヤーさんを撮るカメラマンさんは、どんな気持ちで撮影しているのでしょう?」
清田「根本的なところで、みなさんアニメやゲームが好きなんだと思います。仕事で受けているという感覚はあまりない。“好きだから撮っている”。その楽しさが共通している気がします。逆に、プロのカメラマンは入ってこない世界かもしれません。コスプレイヤーの方が遠慮している部分はあるかもしれないですね」
穂波「プロにはお金を払わなければ、といった感覚があるので」
塚崎「お金を払って撮ってもらったことはありますか?」
穂波「いえ、ありません。同人誌として写真集を出す場合などは、売上を折半したり、一定の報酬をお渡ししたりする文化はあります。報酬の形はさまざまで、データを送っていただいて終わりか、編集までお願いするか、などでも変わってくると思います」
塚崎「穂波さんが出版したいときにカメラマンにお金を払うわけですね。折半というのは具体的にどういう形ですか?」
清田「売り上げから経費を抜いた額を折半する、という形が多いです。遠方に行くことも多いので、交通費を出し合うこともあります」
穂波「そうですね、高速代を出すなど」
清田「本当にありがたいです」
塚崎「これはコスプレイヤー独自の文化なのか、それともモデル撮影全般にもあるのでしょうか?」
清田「コスプレイヤーさんの世界では、この“相互扶助”の傾向があります。モデル撮影の場合はもう少し幅があります。撮影会に所属している方なら、1時間いくらとギャラが決まっている方もいますし、フリーの方でも謝礼の規定を持っている方が多いです。そのため、相互扶助はモデルさんよりもコスプレイヤーさんの方が多いという印象ですね」
穂波「本当にアマチュア文化なので、お互いにアマチュアという認識で行うことが多いと思います」
塚崎「逆に、コスプレイヤーさんがギャラを請求することもないのですね」
穂波「あまり聞いたことはないですね」
塚崎「カメラマンにヒエラルキーがあると聞いたことがあります。上位の”カメコ”のような」
清田「確かに、“この人に撮ってもらいたい”という人気カメラマンがいる世界ではあります」
穂波「有名な方に撮ってもらうと、注目度が上がるというのもありますね」
清田「そうしてステップアップしていくカメラマンもいますね」
塚崎「清田さん自身は、今どのあたりのヒエラルキーにいると思いますか?……穂波さん、どう思われます?」
穂波「プロですよ、プロ!計れません。あくまでアマチュアの中での話なので」
清田「いやいやいや(笑)。僕がどのくらいの位置かはわからないですが、機材マウントみたいなものはありますね。隣のカメラマンのほうが良い機材だとか(笑)」
穂波「私はまったく気にしていません(笑)。でも、色々な機材をたくさん持っている人のほうが強そうという印象はありました」
塚崎「背中からストロボを円形に何本も背負っている、まるで千手観音のような方もいますよね」
清田「あれ、すごく盛れるんですよ。リングライトのような効果が出ますからね」
穂波「たしかに、イベントなどで必ず盛れるライティングで撮ってくださる方がいると本当にありがたいです。イベント会場は真上から照明があたって影が強く出てしまうことがあるので」
挑戦の現場 ― 息を合わせて掴む“奇跡の瞬間”
塚崎「そして、こちらの作品も荒れた海での撮影ですね」
清田「すぐ後ろは崖なので、踏み外せば海に落ちてしまうような場所でした」
穂波「ギリギリでしたね」
清田「お互いにギリギリ。これはフラッシュを焚いています。異世界感を意識していたので、どうしても違和感がある写真にしたかったんです。波の勢いもすごかったので、対角線構図を意識して撮っています」
塚崎「これは清田さんの指示のポーズですか?」
清田「いえ、もはや指示をする余裕はなかったです。波のタイミングも狙っているので」
穂波「もうライブですね。波のタイミングを待ちながら、良さそうなポーズをして待機する感じでした」
塚崎「待機ですか!」
清田「そうです。ポーズを固定してもらって、タイミングが来たらシャッターを切る。本当にこれは連携プレーでしたね」
塚崎「息が合っていないと難しそうですね。ポーズを変えた瞬間にシャッターが切られてしまうとか。おふたりで撮影するのは初めてだったんですよね?」
穂波「以前からお会いしてはいたんですが」
清田「そう、ニアミスはしていて。最初はだいたい無難なカットから入ります。いきなり”海でドーン”なんてことは絶対にやらないです。 お互いにいいと思えるだろう、無難なところを撮り、このカメラマンなら安心して任せられるという気持ちになってもらえたら、そこから少しずつ“勝負カット”に挑みます。」
穂波「でも、この日は最初の撮影からとにかく暑くて。たぶん最初のカットがいちばん暑い教室だったんじゃないですかね」
清田「真夏でこの布の量ですからね」
塚崎「布の量が多いのは露出控えめをお願いした我々の依頼のせいですね。我々のお願いが現場でご迷惑をおかけしました」
清田「遠方だったため事前のロケハンができず、空調の有無までは確認できませんでした」
塚崎「穂波さんから見て、清田さんはやりやすいカメラマンでしたか?」
穂波「とてもやりやすかったです。まず、声が聞こえやすいというところが大事で。コミュニケーションは撮られる側にとってはとても大事なので」
清田「何回も聞き返せないですもんね」
塚崎「今回の5枚の中でいちばんのお気に入りはどれですか?」
清田「それはぜひ聞きたいです」
穂波「選べないですね。全部好きです。強いて言えばこれですね(美術室のカット)。背景がごちゃっとしていたので、異物感が良いなと。もっとポーズを取ることもできましたが、敢えて取らずに棒立ちにしました。なかなかコスプレで棒立ちはやらないんですが、違和感を活かした方がいいかなと思い」
清田「美術室で、まるで自分が描かれてるかのような。現実なのか絵なのか、みたいな」
穂波「手に持っている小道具は自分で適当に選びました」
清田「結果的にとてもよかったと思います」
塚崎「無表情ですが、これを指示するときのポイントはありますか?」
清田「虚無ってどう指示するんですか?と聞かれるんですが、それは難しいですね」
穂波「私はもともと、虚無な体質なので(笑)」
塚崎「そろそろお時間となってきました。穂波さんから告知があります」
穂波「はじめてカレンダーを出すことになりました。 10月21日発売になりますので、みなさまよろしくお願いします」
塚崎「ナチュラルなグラビアだそうですね」
穂波「コスプレではない素のわたしの姿を、ついに(笑)。コスプレでいただいた自信で出すことになりました」
塚崎「自分ではない自分を出し続けたことで、徐々に自分を好きになれたということですね。素敵な趣味です。コスプレは。本当に。自分を嫌いだということが一番辛いじゃないですか。最期まで一緒にいるのは自分だけですから。自分をもっと好きになる手段として、コスプレを始めてみるのもいいと思います。そして仲間と繋がっていく。今日は素敵なお話どうもありがとうございました」
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東京カメラ部10選2020 清田大介氏 (公式Xアカウント)
