トークショーレポート
Talk Show Report
2025年9月12日(金)~9月15日(月・祝)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2025写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
9月15日(月・祝)に行われた「東京カメラ部」のトークショーでは、東京カメラ部10選 北川力三氏、東京カメラ部10選 keico氏、東京カメラ部10選 tomosaki氏、コンテスト入賞者 荒畑けいこ氏にご登壇いただき、東京カメラ部運営とともに「東京カメラ部2025写真展 クロージングセッション『「好き」でつながる』」というテーマでお話しいただきました。
塚崎「東京カメラ部代表の塚崎と申します。本日はクロージングセッションにお越しいただきましてありがとうございます。今年の写真展は『つながる世界。』というテーマで開催しています。このトークショーもそのテーマに沿ってお届けしたいと思っています。写真や動画を撮るという行為は、被写体を探すということだと思います。何も考えずに撮るわけではありません。監視カメラではないのですから。なぜそれを撮るのか、なぜその角度から、その瞬間を切り取るのか。そこには撮る人の中に必ずなんらかの判断があります。これは撮る価値があると感じているんですね。その価値があるという判断の基準は、その人が生きてきた歴史の中で築かれた価値観にもとづいています。その価値観は、生まれた瞬間から持っているわけではありません。赤ちゃんが『この花は綺麗だけどあっちは違う』なんて思いませんよね。周りの大人や仲間、先生、読んだ本、観た映画……そうしたもののなかで徐々に築かれていく。つまり、写真にはその人の人生が反映されていると思うんです。その人生が滲み出た作品を発表することで、見た人の中にいる「同じ価値観を持つ人」が共鳴してくれることがあります。そこで共感が生まれ、同じ価値観の人たちが近づき、繋がっていく。そこに人の幸せの一つの形があるのではないかと考えています。そうした思いを込めて、今回の写真展のテーマは『つながる世界。』としました。このテーマに沿って、本日は豪華なゲスト四名の方にご登壇いただき、さまざまなお話を伺っていきたいと思います。それではまず、登壇者の皆様から自己紹介をお願いします」
keico「今年の東京カメラ部10選に選んでいただいた、keicoと申します。宮城を拠点に活動しており、主に絶景と子どもを撮ることをライフワークにしています。よろしくお願いします」
北川「皆さんこんばんは。私は2015年に東京カメラ部10選に選んでいただいてから、もう10年近くになります。今日はこの場でお話しできることをとても光栄に思っています。普段はお花や風景の写真を撮っており、その楽しさを皆さんと共有するために写真教室なども開催しています。限られた時間ですが、どうぞよろしくお願いします」
荒畑「3×3のコンテストで入賞しました荒畑けいこと申します。二人の子どもたちを被写体に、日常の中で感じる瞬間を撮ることをライフワークにしています。普段はスタジオカメラマンとしても活動しています。今日はよろしくお願いします」
tomosaki「写真家のtomosakiと申します。今年の東京カメラ部10選に選出していただきました。また、2020年の東京カメラ部10選U-22にも選ばれています。福井県を拠点に、青春や物語を感じる写真をテーマに撮影しています。本日はどうぞよろしくお願いします」
塚崎「よろしくお願いします。tomosakiさんはカメラ部の若手向けコンテスト東京カメラ部10選U-22の初代10選ですよね?それから今回の東京カメラ部10選に選ばれたのは何年後ですか?」
tomosaki「四年後ですね」
塚崎「四年後に年齢制限のない東京カメラ部10選にも選ばれたということですね。素晴らしいことだと思います。東京カメラ部への投稿を続けてくださりありがとうございます」
塚崎「それでは最初に、keicoさんからお話を伺っていきたいと思います。この作品について教えていただけますか?」
keico「私は仙台在住で、この写真は仙台の七夕祭りの様子を撮影したものです。開催は8月6日から8日までで、8月7日は娘の誕生日なんです。毎年同じ場所で、七夕と誕生日を一緒に記念するように撮っていて、この時はちょうど光が差し込む瞬間に撮影できました。私にとっては宝物のような一枚です」
塚崎「keicoさんは絶景や風景の中に小さくお子さんが写っている写真が多いですよね。これは意図的なんですか?」
keico「そうですね。私はポートレートのように人物を中心に撮るのが少し苦手で、もともと美しい風景を見るのが大好きなんです。そこに自分の大切な子どもたちを入れることで、自分が本当に撮りたい風景と子どもの写真が完成するんです。だから私は、風景と子どもしか撮りません」
塚崎「そういう写真をSNSで発表していると、同じようなお子さんを撮っている方たちと繋がっていくんですか?」
keico「そういう方とも繋がりますが、私の場合は風景がメインでもあるので、風景写真を撮る方や、犬の写真を撮る方など、ジャンルを超えていろんな方と繋がることができました」
塚崎「友達の輪が広がっていったりもしますか?」
keico「広がりますね。世代も性別も関係なく、写真やカメラが好きというだけで初対面でもすぐに打ち解けて、楽しく会話できるんです」
塚崎「若い人たちからも声をかけられたりします?」
keico「声をかけられることはあまりないんですが、普段なら交わらないようなジャンルの人たちと自然に話せるのが写真のすごいところですね。例えば昨日の懇親会でも、若くてかっこいい男の子たちと、写真が好きという共通点だけで自然に話せて、年齢差を感じずにリスペクトできる関係が生まれました。趣味の力って本当にすごいと思います」
塚崎「素晴らしいですね。それではこの作品についてもお聞きしたいと思います」
keico「これはSNSでも多くの方に見ていただいた作品で、宮城県東松島市の東日本大震災の追悼イベント『青い鯉のぼりプロジェクト』で撮影しました。娘は震災の年に生まれたので、毎年このイベントに子どもたちを連れて行き、震災のことを伝える機会にしています。この青い鯉のぼりが単にきれいな風景として独り歩きせず、きちんと追悼の意味を持ったものだと知ってもらいたい。そしてここで多くの人が繋がってくれたら嬉しいなと思っています」
塚崎「ただの絶景ではなく、そこに込めた想いがあるということですね」
keico「はい」
塚崎「こういう風景の中に人を入れる写真は昔から撮られていたんですか?」
keico「はい。昔、フィルムの時代に海外を一人で旅して、セルフポートレートを撮るのが好きだったんです。当時はセルフポートレートという言葉すらありませんでしたが、そういうことをしていました。でもフィルムからデジタルに変わる時期に、デジタルへの抵抗があって、一時期カメラから離れていたんです。数年経って、子どもたちが大きくなり自由に動けるようになった頃に、また好きな景色と人を撮りたいという気持ちが湧いてきて。その人が大好きな自分の子どもだったからこそ、この形が完成したんだと思います」
塚崎「荒畑さんもお子さんの写真を撮られますよね。こういう風景の中に子どもを入れた写真、撮ってみたいと思われますか?」
荒畑「そうですね。私はどちらかというと子どもに寄った写真が多いんですが、絶景の中で撮る写真って、そこにたどり着くまでの過程も含めて物語になりますよね。その時間ごと写真に残るというのは、自分にとっても家族にとっても大切な思い出になると思います。風景と一緒に見せるのは本当に素敵なことだと思います」
塚崎「最近、皆さんのように風景+人物の写真を撮る方が増えてきた気がします。keicoさんもそれを感じますか?」
keico「感じますね。私自身にも憧れているフォトグラファーさんがいて、その方のように撮りたいという思いがあったので、私の写真を見て『自分も撮ってみたい』と思ってくれる人がいたら本当に嬉しいです」
塚崎「その憧れのフォトグラファーさんというのは?」
keico「たくさんいるんですが、子ども×絶景といえば、やっぱり梶原憲之さん(@kaji_nori06)です。私が絶景を撮っていたころ、大人が風景にポツンといるという写真はよく見かけたんですが、あるとき梶原さんの写真を見て『子どもがいる!』と驚いたんです。後ろは壮大な絶景で、本当に感動して、『私もこうなりたい』と思いました。今のスタイルの原点は、間違いなく梶原さんの影響です」
塚崎「東京カメラ部 10選2019の方ですね。写真を見て『うわっ』と思ったんですね」
keico「はい、まさに心を打たれたという感じでした。」
塚崎「梶原さんも喜んでくれそうですね!(笑)。keicoさんのInstagramもぜひ皆さんフォローして写真を見てみてください。本当に心が温かくなる素晴らしい作品ばかりです。……会場のあちらにいらっしゃるのはお子さんですか?」
keico「はい、そうです」
塚崎「ありがとうございます。いいお子さんで、素晴らしいモデルさんですね。そのおかげでこんなに素晴らしい作品が生まれている」
keico「そう言っていただけると、子どもたちの撮影モチベーションが上がります(笑)」
塚崎「そうであれば光栄です。皆さん、お子さんたちにぜひ拍手をお願いします。これはもう親子の共同プレーですからね。本当に素敵です」
塚崎「さて、続いては北川さんの作品をご紹介します。まずはこちらの写真です」
北川「今回のトークショーのお話をいただいたとき、『好き』でつながるというテーマを伺いまして、そのつながるというキーワードからこの作品を選びました。たくさんあるなかで、今日こうして皆さんの前に立つきっかけとなった一枚です。撮影したのは9年前の秋で、その年の暮れに東京カメラ部10選に選んでいただいた作品です。もうかなり前の写真ですが、つながるというテーマにぴったりだと思い、ご紹介させていただきました」
塚崎「これは奈良ですよね?」
北川「そうです。ナメゴ谷です」
塚崎「いまや絶景スポットとして有名ですよね。ここから私たちと北川さんのお付き合いも始まりましたね」
北川「はい、そうなんです」
塚崎「この作品を見ると、優しさを感じますね。風景写真といっても、一般的な絶景とは少し違います」
北川「ありがとうございます。私は風景写真も楽しんでいますが、そもそもカメラに深くのめり込むきっかけになったのは花の写真なんです。身近な花を撮っているうちにカメラの面白さに気づきました。仕事の合間や少しの空き時間に息抜きとして花を撮ることが多くて。そんなある日、花畑で一輪の花を撮っていて、ふと顔を上げたら目の前に広がる絶景があったんです。でもそのとき、風景撮影の設定なんて全然分からなくて、花を撮っていたままの設定で撮ったら、思いのほか美しく写っていた。それが『風景も面白いな』と感じた瞬間でした。そこから、私の中で花と風景が繋がっていったんです」
塚崎「keicoさん、こういうタイプの写真は撮ったりしますか?」
keico「素敵だなと思いますが、私はやっぱり子どもたちと絶景を撮りたいので、どうしても子どもを入れたくなります。無理やりでも入れちゃうかもしれません。いつもインスタで風景写真を見ると、ここに子どもを立たせたらどうなるかな、って想像しながら見ちゃうんです」
塚崎「もう完全にそういう目線なんですね。tomosakiさんだったら、ここでどう撮ります?」
tomosaki「そうですね……やっぱりレンズを通してしか見えない世界ってありますよね。肉眼では見過ごしてしまうような場所でも、カメラを通すと新しい発見がある。だから僕も望遠で撮って、カメラでしか見えない風景を表現したいです。こういう写真、僕もいつか撮りたいですね」
塚崎「そしてこちらの作品です」
北川「はい。こちらも先ほどと同じくコスモスを撮った写真ですが、別の場所です。夜明けのコスモス畑を撮影しました。風景を撮る方は夜明けや夕方の光が一番きれいな時間帯なので、その時間が過ぎると帰ってしまう方も多いんですが、私はそのあともレンズを付け替え、お花を撮る時間にしています。風景を撮るときも、主役になる花を必ず一輪決めて、そこから構図を作っていくんです。このときは白い六輪のコスモスが少し離れて咲いていたんですが、レンズを通して構図を整えると、まるで家族のようにまとまりのある姿に見えて。そんなイメージで撮影しました」
塚崎「確かに、風景写真を撮る方って早朝や夕方などのレンブラント光の時間帯を好まれる傾向があるように感じます。昼間は寝ているという話もよく聞きます。でも花の写真だと、昼の時間帯も生かせるわけですね」
北川「そうなんです。花を撮るようになると時間帯の幅も広がりますし、一輪の花を丁寧に撮れるようになると、風景写真の表現力も上がると思います。花と風景を繋げるようにして、両方を楽しんでいます」
塚崎「まさに『つながる』ですね」
北川「そうですね。お年を召した方など、風景写真が好きな方も多いんですが、そういう方たちがスマホで撮った写真を見せてくれたり、情報を共有してくれたりと、繋がりがどんどん広がります。夜明けや夜景を撮るときに暗いなかで撮影していて、明るくなって顔を見たら『あ、君だったのか!』なんてこともあります」
塚崎「北川さんは『花は身近にある絶景』ともおっしゃっていましたね」
北川「はい。撮っていると気づかないかもしれませんが、花ってその日の表情や天候によって見え方が全然違うんです。それを生かせば、今まで見たことのない表現ができます。風景を撮っている方もぜひ花を一輪撮ってみてほしいです。そして逆に花をメインで撮っている方は、ぜひ風景を楽しんでみてください」
塚崎「北川さんのお話で印象的だったのが、花は『室内でも撮れる絶景』だということです。花が一輪あれば、背景をモニターで作ることもできる。だから足の不自由な方や、旅行に行けなくなった方、病気や心の不調で外に出づらい方でも、室内で撮影を楽しめるんですよね。そしてその写真を発表すれば、外との繋がりを絶やさずにいられる。とても大切な被写体だと思います」
北川「ありがとうございます。そう感じてもらえたなら嬉しいです」
塚崎「本当に素敵なお話でした。北川さんのアカウントもぜひフォローしてみてください。それでは次に荒畑さんよろしくお願いします」
荒畑「よろしくお願いします。この写真は2020年、コロナ禍の真っ只中で撮ったものです。学校も休校になり、子どもたちが大好きだったバスケットボールもできなくなった時期でした。もしかしたら将来はオンラインでスポーツをする時代になるのかもしれない。そんなことを考えて撮った一枚です。いまでは普通に学校にも行けて仲間と集まることもできますが、再会したときの感動はいまでも鮮明に覚えています。あの年ほど、インターネットやメッセージ、テレビ電話といった繋がる手段が心の支えになったことはありませんでした。だからこの写真を見ると、あのときの人との繋がりの大切さを思い出すんです」
塚崎「まさに時代を象徴する一枚ですね。ある意味で失われた青春でもある。人は社会的な生き物と言われます。人との繋がりがなければ人は生きていけない。普段はひとりの時間が欲しいと思うこともありますが、コロナで強制的に繋がりを断たれたときに、繋がりのその意味を痛感しました。この作品には、その思いがしっかり写っている。社会性のある、素晴らしい写真だと思います」
keico「私はこういう写真がうまく撮れないので、本当にシンプルに羨ましいです。アイデアもセンスも素晴らしいと思います」
塚崎「照明もすごいですよね。現像も見事です」
keico「本当にセンスある方が羨ましいです」
荒畑「ありがとうございます。褒められました(笑)」
塚崎「センスも技術も、どちらも素晴らしいですよ」
荒畑「ありがとうございます」
塚崎「実はこの写真を見た瞬間に、『荒畑さんにぜひこのトークショーに出てほしい』と思ったんです。次の作品も紹介してもらえますか?」
荒畑「今回の写真展のテーマ『つながる世界。』を見て、このビフォーアフターの作品を作ろうと思いました。九年の間に撮った二枚の写真を組み合わせたものです。下の娘が生まれる前から子どもたちを撮ることをライフワークにしてきました。大きくなるにつれて心も環境も変化していき、だんだん写真に収める機会が減ってきました。『このままでいいのかな』と悩んだこともあります。でも春になるとSNSのタイムラインに桜の写真がたくさん流れてきますよね。それを見てやっぱり写真が好きだな、撮りたいな、と思い直して、毎年なんだかんだで桜の写真を撮ってきました。そうして九年分の成長を繋げ、この作品を作ることができたのは本当に意味があることでした」
荒畑「上の娘はすでに家を出てひとり暮らしをしていますし、下の娘も来年は受験です。子どもを撮るライフワークも、そろそろ終わりに近づいているのかもしれませんが、このタイミングで作品を作れたことに感謝しています」
塚崎「荒畑さんは数年前にも入選されていて、登壇していただいたこともあります。そのときも娘さんたちの写真を拝見していて、こうして成長を見ていると、まるで親戚のおじさんのような気持ちになります。本当に素敵な作品です。いまお子さんを撮られている方は、ぜひ続けてほしいですね。子どもたちが大きくなったとき、自分の成長を振り返るビフォーアフターの記録になります。こうして撮っておけば、あとで見返せる。素晴らしい一枚だと思います」
塚崎「そして、この作品についても紹介していただけますか?」
荒畑「はい。いまは子どもたちを撮るよりも、仕事としてお客様の撮影をすることが多くなりました。これは、真ん中の二歳の女の子のお誕生日に撮影に来てくださったご家族の写真です。二歳といえばイヤイヤ期と呼ばれる大変な時期ですよね。笑顔の裏では、きっとご家庭でも大変なことがあるだろうなと思いながら撮影していました。私自身も子どもが二歳のころは本当に悩んでいて、自分は親としてダメなんじゃないかと自己嫌悪に陥ることも多かったんです。そんなときにスマホのカメラロールを見返すと、子どもたちの可愛い表情や面白い瞬間が写っていて、『ああ、私はちゃんとこの子たちを見てるんだな。頑張れてるかもしれない』と思えるんです。そうやって少しずつ気持ちを立て直してきました。だからいまは、その思いを次の世代に繋げたいと思って活動しています。撮影では写真を撮る時間そのものを大事にしています。たくさんコミュニケーションを取りながら、『一生懸命育てているあなたたちは本当に素敵ですよ』という気持ちを言葉にして伝えます。ご家族が楽しかったな、と笑顔で帰ってくださることが、私の一番の喜びです」
塚崎「同じく母でもあるkeicoさん、今のお話を聞いてどうですか?」
keico「もう頷きながら聞いていました。うちの子たちもだいぶ大きくなってきましたが、下の子はまだぐずることもあって……。そんなときはスマホの写真を見返して癒されています。子どもの笑顔って、本当に心の栄養剤なんですよね。フォトグラファーの仕事はその笑顔を最大限に引き出してくれる、本当に尊いお仕事だと思います」
塚崎「それでは、自分で撮った写真を見て怒りを収めることもあるんですか?」
keico「怒りを収めるのはどちらかというとiPhoneで撮った何気ない日常写真のほうですね(笑)」
塚崎「作品じゃなくて日常のほうなんですね(笑)。確かにパソコンのデスクトップを子どもの写真にしている方も多いですもんね。仕事で少し気持ちがざわつくときも、それを見ると気持ちが落ち着く。わたしもパソコンを開くと子どもの写真がバーンと出てくるようにしています」
塚崎「tomosakiさんはどうですか?」
tomosaki「僕も写真を見返してこんなときもあったな、と思い出すことが多いです。だからこうして家族の時間を残すって本当に大事なことだと思います。こんなふうに素敵に撮ってもらえるってすごくありがたいですよね」
塚崎「そう、これも『青春写真』ですよね」
tomosaki「本当にそう思います。関係性が写真から伝わってきて、これは自分には撮れないって思いました」
塚崎「北川さん、これもある意味花の写真ですよね」
北川「そうなんですよ。お二人の話を聞いていて、桜って風景でも欠かせない被写体ですが、撮影中にご家族がいらっしゃったらどうぞ先に撮ってくださいって思うんです。場所を譲りたくなる、そんな気持ちになりますね」
塚崎「荒畑さんといえば、以前のトークショーでもお話を伺いました。あのときのお話が本当に印象的でした。子育てに疲れて、子どもが可愛いと思えない瞬間があって、そんな自分が嫌になって落ち込んでいた。でも写真を始めて、子どもと一緒に外を歩くと『あ、この瞬間撮りたい!』と思うようになって、もっと寄り道してほしいと思えるようになった。写真がきっかけで、世界の見え方が変わったとおっしゃってましたよね」
荒畑「はい。カメラを通して子どもを見ると、普段なら見過ごしてしまう小さな表情やしぐさを記録できるんです。あとから見返すと、私、こんなところを可愛いと思ってたんだな、と気づける。それが写真の楽しさでもありますね」
塚崎「そこからプロカメラマンになって子どもの写真を撮る仕事に繋がったわけですが、当時はそんな未来を想像してました?」
荒畑「全く想像していなかったです」
塚崎「本当に人生は分からないですね」
荒畑「本当ですね」
塚崎「皆さんも、もしかしたらいつかカメラマンになるかもしれませんよ。さて、続いてはtomosakiさんの写真です」
tomosaki「ありがとうございます。僕は青春や物語を感じるシーンをテーマに写真を撮っています。青春が好きな理由は、もともと友達と遊びに行った時の写真を撮ってSNSに上げるのが好きだったからです。それを見た人たちが『自分のあのころを思い出した』と言ってくれるのが嬉しくて。自分の写真を見た人が懐かしさを感じたり、自分を重ねたりしてくれることにすごく価値を感じました。そこから青春をテーマに撮るようになったんです。そして、この青春写真を撮るようになって何が繋がったかというと……。僕は福井県を拠点に活動しているんですが、写真を始めたのはコロナ禍の時期、まだ学生のころでした。なのでどうあがいてももう県外に行けない。誰とも繋がれない。そんな時期があったんです。でも当時、東京カメラ部10選U-22のフォトコンテストが開催されていて、それに応募したらなんと受賞することができたんです。そこから東京カメラ部や他県のフォトグラファーの方々と繋がるようになって、写真で人と繋がるってこういうことなんだな、と本当に実感しました」
塚崎「まさに『写真が繋げた』ですね。いやぁ、まさに思い出の青春写真ですよ。keicoさんから見て、どう感じます?」
keico「撮りたいです。この風景に子どもたちを立たせたいですね」
塚崎「青春写真であっても、keicoさんはお子さんですね」
keico「そうですね。制服姿の息子と娘をこの雲の下で撮れたら最高だなって、ついイメージしちゃいます」
塚崎「今日は撮影帰りなんですよね?」
keico「はい、渋谷で撮影してきました。地方出身なので渋谷の街が本当に魅力的に見えて、つい撮っちゃいました」
塚崎「都会の青春を感じますね。北川さんは、こういう青春時代を過ごされましたか?」
北川「いやあ、何十年も前になりますけど(笑)でもtomosakiさんの写真からは夏の匂いが伝わってくるようで、風景写真を撮っている私でも懐かしさを感じますね」
塚崎「花は写ってないけれど」
北川「そうなんですよ。でも私、花を人に見立ててポートレートのように撮ることもあるので、逆にこの写真も花一輪のように見えるんです」
塚崎「花でポートレート、素敵な表現ですね。僕はこの写真を見ると懐かしい青春というより、こうなりたかった青春って思いますね。僕の青春は地味だったので、ちょっと羨ましい(笑)」
塚崎「tomosakiさん、この写真はどんなシーンなんですか?」
tomosaki「これは僕が非常勤講師として写真とSNS発信を教えている高校の一枚です。生徒たちと『一緒に作品を作ろう!』ということで、みんなで屋上に出て撮影したんです」
塚崎「屋上って言葉、なんかドキドキしません?打ち合わせのとき屋上って聞いて、ざわざわしたんですよ。こんな爽やかな屋上もあるんですね。keicoさんは屋上に思い出ありますか?」
keico「ないです。シンプルに羨ましい」
塚崎「この写真、リアルですよね」
keico「そうなんです。衣装や靴下、スカート丈、髪型、全部リアル。作り物じゃなくていまを写してる感じがして、すごくエネルギーを感じます。私には撮れない写真だけど、大好きです」
塚崎「リアルさが胸を打つんですね。tomosakiさん、25歳という若さで高校生たちとこうやって繋がってるわけですが、何か感じることありますか?」
tomosaki「そうですね。普段なら関わらない世代と写真を通して関われるのは、本当に写真のおかげだと思います。SNSの発信について教えるときに大切にしているのは、違う意見や批判も学びの機会にできるということです。誹謗中傷もあるけど、それを補完と捉えて、自分の作品をより良くするヒントにしてほしい、と伝えています」
塚崎「25歳にして大人ですね!」
荒畑「ほんとに。私なんて25歳のころ、そんな考え方全然できなかったですよ。批判が来たら即『うるさい!』でした(笑)」
塚崎「そういう前向きな受け止め方ができるのは素晴らしいですね」
tomosaki「ありがとうございます」
塚崎「では次の作品も拝見しましょう」
tomosaki「僕、福井県が大好きなんです。福井に行ったことがある方いらっしゃいますか?……結構いらっしゃいますね。半分くらいかな。実は僕、昔は福井なんてなにもない、出て行ってやる!と思ってたんですよ。でも写真を始めてファインダーを覗いたら、日常の中にたくさんの絶景があることに気づいたんです。写真を通して感じたのは、自分がいかに見ようとしていなかったかということなんです。僕は、福井が嫌いな人に『写真やってみてよ!』とは言いません。でも、自分が撮った好きな福井の写真を見て、誰かが『あれ? 福井っていいかも』と思ってくれたら、それが一番嬉しい。そういうきっかけになるような活動をしていきたいなと思っています」
塚崎「その福井の広報活動の一環として、こうした写真を撮られているんですね」
tomosaki「そうです。あわら市というところで広報活動をしています。お湯かけ祭りというお祭りがあって、源泉をみんなで掛け合うものすごく熱気ある祭りなんですよ」
塚崎「そんな面白い祭りがあるとは僕も知りませんでした」
tomosaki「僕も写真を始めるまで全然知らなかったんです。まだまだ知られていない日本の良さ、福井の良さがたくさんある。だからこそ、それを写真を通していろんな人に伝えていきたいと思っています」
塚崎「撮ることで自分がなにを好きだったのか、なにに惹かれていたのかが見えてくる。そんな気づきがありますよね」
tomosaki「そうですね。僕にとってファインダーはもうひとりの自分なんです。日常の中にある当たり前の美しさに気づかせてくれるツールだと思っていて、だからこそ、もっと多くの人に写真を撮ってもらいたいです」
塚崎「まさに探さないと見つからない世界ですよね。僕たちが普段見ている範囲なんて、ほんの指先くらいなんです。文字が読める範囲って、実は2度くらいしかないんですよ。それ以外の視野って、見えているようであまりみえていない。外縁部なんて実は色もほとんど感じていない。つまり、僕らは見えている『つもり』なんですよね。でもカメラを構えると探そうとするから、見えていなかったものが見えてくる。だからこそ福井の魅力もファインダー越しに見えてきたわけですよね」
tomosaki「まさにおっしゃる通りです」
塚崎「たしか一度京都に行かれてましたよね?」
tomosaki「そうなんです。でもすぐ帰ってきました。全然写真が撮れない!って」
塚崎「やっぱり福井が撮りたいってなったわけですね。今では福井を代表する若手写真家として注目されていますよね。地域公的機関さんからもフィーチャーされてます。各地でこうして若い写真家が地元を盛り上げていくのは、本当に素晴らしいことです。tomosakiさんのアカウントもチェックしてみてください。なにかお知らせはありますか?」
tomosaki「実はふるさと納税の返礼品として、僕の写真を使っていただいてるんです。福井市の寄附者向けのお礼状の裏面に僕の作品が印刷されています。もしよかったら福井市のふるさと納税をチェックしてもらえると嬉しいです」
塚崎「素晴らしい!福井市も若手をしっかり応援しているんですね。やっぱり若い人をフィーチャーするって、すごく大事なことなんですよ。若者を起用しなければ、若者は地元に根付きません。東京のほうがチャンスがあると感じて出ていってしまう。でも、地元がちゃんと仕事をつくり、機会を与えれば、戻ってきて活躍してくれるんです。地方創生って仕事をつくるだけじゃなくて、やりがいのある仕事をつくることですよね。tomosakiさんのように、地元に根を張って活動する若い写真家が出てくるのは、本当に希望だと思います」
tomosaki「本当にありがたいです。皆さんから応援してくださっていて、温かく受け入れてもらってます」
塚崎「いやあ、福井に戻って本当によかったですね」
tomosaki「はい、心からそう思ってます」
塚崎「素晴らしいですね。さて、ここからは少し私の方からもお話をさせていただきます。まずは写真展にご来場くださった皆様、本当にありがとうございます。今年も非常に多くの方にお越しいただいております。皆様が足を運んでくださるからこそ、この写真展が成り立っています。心より感謝申し上げます。そして展示者の皆さん。今日登壇してくださっている四名をはじめ、10選メンバーを含む多くの皆さんの努力と情熱で、この展示は成り立っています。東京カメラ部は箱です。その中に入っている作品が素晴らしいからこそ、人が集まるんです。一枚一枚の写真、一本一本の動画に込められた想い、時間、労力。その価値を私たちはよく知っています。本当にありがとうございます。そして支援くださっている企業・自治体の皆様にも、心からの感謝を。ここ渋谷ヒカリエという場所で、これほど大規模な写真展を開けるのは、皆様のご支援あってのことです。すべての関係者の皆様、本当にありがとうございます。そして、出展者の皆様も、ありがとうございます。もしお時間がありましたら、ぜひ他のブースもゆっくり回ってみてください。それぞれの作品に込められた思いを、ぜひ感じていただければと思います」
塚崎「具体的な来場者数ですが、昨日の時点で15,800名の方にお越しいただきました。昨年は四日間で14,971名でしたので、三日目で昨年を超えたということになります。本当にありがとうございます。来てくださった皆さん、魅力的な作品を展示してくださった出展者の皆さん、告知や運営にご協力くださった皆さん。すべての方々のおかげです。心から感謝申し上げます。実際の会場の様子を見ていただくと分かる通り、本当に多くの方で賑わっていました。正直、写真を見る環境ではないというお叱りの声もSNSでたくさんいただいています。東京カメラ部は芋洗い状態だと。そうしたご指摘は、もちろん真摯に受け止めています。ただ、静かでゆったり見られる写真展・動画展は世の中にたくさんあります。私たちは、この文化を守り、発展させるために、まず写真や動画を見るという行為を知ってもらうことから始めたいんです。たとえ混みすぎていたとしても、写真や動画に触れる入口をつくること、裾野を広げることが、私たちの使命だと思っています。ご理解をいただけると幸いです」
塚崎「また、今年はトークショーも大盛況でした。CP+を超えるんじゃないかと思うほどの人出で、しかも若い世代が本当に多かった。普段、カメラメーカーイベントにはなかなかお越しにならないような層の方々が、ここに来てくれています。トークショーの回数も約三倍に増やし、さらに動画や分室のフォトコンテストといった新しい取り組みも加えました。どちらもたくさんの方にご参加いただき、好評でした。さらに今年は、写真を介して好き=趣味で繋がるをテーマに、ジオラマとコスプレという分野にも挑戦しました。これも大成功で、ジオラマブースには今も多くの方が足を止めています。荒木先生の名作ですので、ぜひ皆さんご堪能ください。コスプレの撮影会も二回開催しました。今まで撮ったことがなかったけど、楽しい!という声をたくさんいただきました。好きなことが見つかる。とても素晴らしいことですよね」
塚崎「ちなみにこちらが初日の待機列です。圧巻ですよね」
塚崎「さらに、『つながる世界。』をテーマとした写真展として、は来場者の皆さんにも参加していただける仕掛けを用意しました。あなたの好きなものを貼るフォトウォール、どこから来て、どこへ行きたいかを示すマップなどです。正直、最初は埋まらなかったら寂しいね、スタッフで貼る?なんて言ってたんですが、ふたを開けたら壁が足りないくらいに埋まりました。キヤノンさんにご協力いただいたミニフォトプリンターの用紙も足りなくなるほどでした。お子さんから若い方まで、たくさんの方が自分の好きを写真で表現してくれました。そして全国マップもすごいことになってますね。本当にありがとうございます」
塚崎「さて、ここからは少し真面目な話をさせてください。この写真展を続けていくうえで、皆様にぜひお願いしたいことがあります。SNSで作品を発表するというのは、とても勇気のいることです。写真や動画を撮るだけでなく、発表するという行為がなければ、人と繋がることはできません。見てもらえないからです。たとえばヴィヴィアン・マイヤーという写真家がいます。彼女は生涯にわたって素晴らしい写真を撮り続けましたが、生前は一枚も発表しなかった。亡くなってから写真が発見され、映画にもなりました。でも彼女は、生きている間に、彼女の作品を通じては誰とも繋がらなかったんです。なぜなら発表しなかったから。発表はとても大切なのです。しかし、発表することには勇気が要ります。なぜなら、誰かの不愉快にぶつかるからです。法律に触れるわけでもないのに、私は嫌い、こういうのはどうかと思う……。そうした声が、発表する人の気持ちを止めてしまうんです。もしtomosakiさんが、コロナ禍で青春写真を撮り始めたときに、『なんだこれは』というコメントを受けていたら……多分やめてましたよね?」
tomosaki「間違いなく、やめてました」
塚崎「でも、『青春みたいだね』という言葉に後押しされて、ここまで来たんですよね。これなんです。これが大事なんです。だから皆さん、どうか不愉快だなと思ったとき、少しだけ我慢してほしいんです。人間はみんな、日常の中で不愉快なことだらけですよ。でも、みんながほんの少しずつ我慢すれば、世界はずっと生きやすくなります。そうすれば、発表できる空間が広がるんです。誰もが自由に発表できる社会。それが繋がる世界の基盤です。嫌なら、ミュートすればいい。叩かなくていい。見なければいい。それだけで、誰かが救われるんです。多様な価値観を認める社会において、全員が完全に快適な世界はありえないんですよ。だからといって当然価値観を一緒になんてありえないですよね?みんながちょっとずつ我慢する世の中は、みんながちょっとずつ心地よい世の中です。誰かひとりだけが快適な世界は、誰かにとって地獄です。そんな社会にはしたくないですよね?私たちが『つながる世界。』をテーマに掲げるのは、写真が人と人、人と世界を『好き』で繋ぐ力を持っているからです。そしてその力を発揮するためには、発表する自由が必要なんです。好きなものを撮る。それを発表する。そうすれば、誰かが自分の好きを思い出します。あ、自分の街、こんなに良かったんだ。この瞬間、尊いなって。写真を通じて、人は世界と、そして互いに繋がることができます。keicoさんが言っていましたが、普段出会えなかった人たちと出会える。まさにこの会場がそうです。私も、keicoさん、北川さん、荒畑さん、tomosakiさんと出会うことは、おそらくここでなければありませんでした。でも、こうした出会いは、誰かが勇気を持って発表したからこそ生まれたんです。どうかその発表の自由を、みんなで守ってください」
塚崎「そして最後にもう一つ大切な話があります。毎回毎回色々な場所でお話しているので、もう聞き飽きたよ!という方も多いと思います。ですが、大切な、とても大切な話なので、どうか聞いて下さい。撮影のマナー問題です。撮影者は、どうしても撮りたいという気持ちが先に立つあまり、ついマナーを破ってしまうことがあるんですよね。たとえば、畑の中に無断で入ってしまったり、私有地に足を踏み入れてしまったり。あるいは自分が撮っているんだから「邪魔するな!どけ!」なんて言ってしまう人もいる。場所取りが禁止されているのにする人もいる。最適な撮影位置を譲らない人もいる。そういうのは、やめましょうよ。特に日本の絶景は、その多くが誰かの生活圏の中にあるんです。そこはテーマパークでも撮影スタジオでもない。そこに暮らしている方々の幸せを壊してまで撮っていい写真なんて、一枚もありません。被写体の前に、そこに生きる人の幸せがある。この意識を、ぜひもう一度思い出してほしい」
「ここに来てくださっている皆さんは、もちろん理解して実践されている方々だと思います。それは分かっています。でも、そうでない人もいます。だからこそ、皆さんのような方々が撮影マナーを守る文化を広めていく力になってほしいんです。そして忘れないでください。私たちが今、こうして美しい風景や絶景を撮れるのは、先輩たちが長年その場所を守ってきてくれたからです。その努力があったから、いま私たちはシャッターを切れる。その宝を、次の世代に渡していく責任が、私たちにはあります。ここには若い写真家もたくさん来ています。だからこそ、私たち40代、50代、60代の世代が、そのバトンをしっかり渡していきましょう」
「そしてもうひとつ大切なのは、撮影地でお金を使うことです。撮影地に行って、帰るだけじゃなくて、現地で食事をしたり、お土産を買ったり、宿に泊まったりする。そうやって地域に還元していくことが、景観や自然を守る力になるんです。国や自治体の予算にも限りがあります。だからこそ、私たち撮る側が、撮らせてもらっている場所に、その地域に、写真や動画以外でも少しでも恩返しをしていく。それが持続可能な撮影文化につながります。会場のあちらには自治体ブースも出ています。各地域の特産品やグッズも販売されています。ぜひ買って帰ってください。ぜひ、自治体の皆さんの活動を応援する気持ちで、立ち寄ってみてください。それでは、本日は長時間にわたり本当にありがとうございました」
