トークショーレポート
Talk Show Report
2023年9月15日(金)~9月18日(月・祝)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2023写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。
9月17日(日)に行われたニコンイメージングジャパンのトークショーでは、東京カメラ部10選U-22のtomosaki氏、佐藤宏樹氏、カノン氏にご登壇いただき、「東京カメラ部10選U-22トークショー ~次世代クリエイターの現在地~」というテーマでお話しいただきました。
塚崎「お待たせしました。これよりニコンイメージングジャパン『東京カメラ部10選U-22トークショー ~次世代クリエイターの現在地~』をはじめたいと思います。本日MCを務めさせていただきます東京カメラ部代表の塚崎です。東京カメラ部では、タイアップ企画として次世代を担う若者を対象としたフォトコンテストを2020年より開催しております。22歳以下、もしくは20代の学生を対象としており、ここで選ばれた方々を『東京カメラ部10選U-22』として認定しています。それでは東京カメラ部10選U-22のtomosakiさん、佐藤宏樹さん、カノンさんをお呼びしたいと思います」
tomosaki「はじめまして。tomosakiと申します。現在、福井県と神奈川県の二拠点で活動しております。23歳です。愛用している機材は、ニコンのZ 5とZ 8になります。青春や物語を感じるシーンをテーマに撮影していて、田舎の風景をよく撮影しております。本日はよろしくお願いします」
佐藤「はじめまして。2021年に東京カメラ部10選U-22に選出していただいた佐藤宏樹と申します。千葉県に住んでいる23歳の大学生です。僕は小学校の頃から野鳥が大好きで、それで野生生物を追いかけるようになって、いまは関東平野とそれを囲う山々、海で野生生物の写真を撮っています。よろしくお願いします」
カノン「はじめまして。大阪府出身、社会人1年目22歳のカノンと申します。普段は人物を撮っています。仕事でも大阪のフォトスタジオで子どもさんとかを撮りながら、休みの日に自分の写真を撮るような生活をしています。本日はよろしくお願いします」
塚崎「まずそれぞれどのような写真を撮影しているかを伺いたいと思います。撮影ジャンル、そのジャンルを撮りはじめたきっかけなども教えていただきたいです。まずはtomosakiさんからお願いします」
Z 5 + NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR
tomosaki「主に人物撮影を行っています。地元福井の景色を背景に、ポツンと人物を置いて撮影しています。写真をはじめたきっかけはコロナ禍です。僕はそのとき看護学生だったんですが、すごく暇になってしまって、毎日SNSのタイムラインを見るような生活を送っていました。そのときに福井県の景色をキレイに撮る方と出会い、何で福井で暮らしているのに、自分は福井を撮っていないんだろうと悔しくなってしまい、自分もがんばって福井を写真に撮っていこうと思ったのがきっかけです。作品撮りだけでなく、ウェディング、観光名所、地方創生に携わるお仕事もさせていただいています」
塚崎「こちらは雲が印象的な1枚です。雲の形はどんどん変わってきますから、時間との勝負ですよね」
tomosaki「本当に入道雲は一瞬で形を変えるので、撮影していてAF性能がとても重要だなとこのときに感じました。こちらはZ 5で撮影した写真ですが、Z 5で撮影するようになってからは撮り逃すことがなくなり、撮影が充実しています」
Z 5 + NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR
tomosaki「こちらはフィルターのブラックミストを使い、昔からよく知っている友人のおばあちゃんを撮影しています。素朴でドラマチックな良い写真が撮れたなというお気に入りの1枚です」
塚崎「ブラックミストはよく使うのですか?」
tomosaki「逆光や暗所ではよく使います。加工ではなく撮って出しで良い状態で撮れたときの感情は自分の中で大切なものなんです」
D7100 + AF-S NIKKOR 300mm f/4E PF ED VR
塚崎「続いて佐藤さんお願いします」
佐藤「野生生物を撮るきっかけとなったのは、小学校2年生の頃にメジロという鳥の巣を見つけてからです。Y字型に分岐している枝にお椀型の巣を作るんですが、それを見て、とても精巧なことに驚き調べたら、蜘蛛の糸をハンモックのように垂らし、そこに枝を敷き詰めてお椀型を作ると。よし、やってみようと小学生だった僕も素材を集めてやってみたんですがまったくうまくできず、それが野生動物への尊敬の念を抱いたきっかけですね。2回目のきっかけをくれたのが、このコミミズクという鳥。シベリアやカムチャッカなど北方から冬になると日本に渡ってくる鳥なんですが、コミミズクを小学校4年生のときに自宅の近くの河川で見つけたんです。こんなに魅力的な見た目をした生物が自分の身近な環境にいるということがとにかく衝撃的で。1本1本の羽毛たちが、僕も見たことがなく想像したこともないような北の土地の風を浴び、いまここにいるというのがロマンチックなことに思えました。それらがきっかけで13歳のときに実際にアラスカの地を踏むことになるのですが、それからは大自然の虜になってしまいましたね」
塚崎「この写真のコミミズクの目は特徴的ですが、野生動物の目には惹かれますよね」
佐藤「左目の瞳孔だけ小さいじゃないですか。右目の瞳孔は開いています。これ、人間はできないんです。鳥と人間は違うものだな、と思いながらファインダー越しに見ていました」
D850
佐藤「続いてはニホンカモシカです。本州の山に住んでる牛の仲間で、とても穏やかな性格をしています。こちらは望遠レンズを使っているのではなく、28-75mmのZoomレンズを使っており、とても近くから撮影しています。この日はずっと森の中は雨が降っていて、霧も立ちこめていました。これは加工ではありません。山の斜面を上っていったら、頂上で向こう側にこの子がいて、ジッと見つめてくるんです。ニホンカモシカは、他の野生動物のように逃げることはせず、朝出会ったらお昼までずっと一緒にいることもできるんです。一緒に寝たりもできたりして、僕は大好きな生き物です」
Z 7II + NIKKOR Z 85mm f/1.2 S
塚崎「それではカノンさんよろしくお願いします」
カノン「わたしが写真をはじめたのは大学での実習で、今日はそのときの先生であり東京カメラ部10選の別所先生も見てくださっています。参観日みたいになっていますね(笑)。何も知らない状態からカメラを触りはじめ、人を撮ることにハマって、いまもそれをずっと続けています。この作品は、大学で5分くらい時間があったので、光があるところを探してササッと撮ったものになります。光を見つけるのが好きで、良い光を見つけたらとりあえずカメラを構えるようにしていて、どこに人を置いたらいいかを考えて撮っていますね」
Z 7II + NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
カノン「何でもないただの橋で撮りました。色の差が好きで撮っていますが、ここはふつうの橋なのでいろんな人に何をやってるんだろうと見られるじゃないですか。それも慣れて、なんとも思わなくなってきたので、いろんな場所で撮っていますね。これは大学の後輩です」
塚崎「なぜ3人が東京カメラ部U-22のコンテストに応募しようと思ったのか、応募したときの心境をお伺いしたいです。まずtomosakiさんお願いします」
D5600
tomosaki「僕がコンテストに応募させていただいた動機は、やはり自分の位置づけがどのくらいなのかというのと、自分がコンテストで目に留まる写真を撮影できているのかどうかが気になったからです。当時は福井県に引きこもって写真を撮っていましたが、繋がっている友人もいないですし、フィードバックもなかったので、外の世界に出たい、繋がりたいという思いから応募させていただきました」
塚崎「撮っているだけで見せることをしないと、作品を撮り続けるモチベーションは沸かなくなってきますよね」
塚崎「続いて佐藤さんお願いします」
D7100 + AF-S NIKKOR 300mm f/4E PF ED VR
佐藤「僕がコンテストに応募をした理由は、このコンテストの場合、 Instagram でハッシュタグ付けるだけで応募できるためコストが一切かかりません。ならば、参加をしない理由がないなと。生き物の写真を撮ることは続けてきましたが、中学高校時代にそのようなコミュニティと関わりは持っていなくて、写真を撮る同年代と関わることのあるキャリアでもなかったので、そういった繋がりをつくるきっかけとして応募することにしました」
塚崎「ふだんの投稿にタグを付けるだけですから、何のマイナスもありません。審査料などもありませんので、安心していただければと思います」
D7100 + AF-S NIKKOR 300mm f/4E PF ED VR
佐藤「こちらの作品は、崖に囲まれた場所に滝があるような場所。僕はよく関東の山でツキノワグマを探すのですが、なかなか彼らは会える存在じゃなく、そういうときにふと周囲の景色を見ていると、滝の前を飛ぶハマツバメがいました。自分の作品の中では最も気に入っているくらいの1枚です。これはD7100で撮っているのですが、機材が良くなったので撮り直そうと思っているものの全く撮ることができていません」
塚崎「続いてカノンさんお願いします」
カノン「わたしが応募したきっかけは、お二方のようにカッコイイものではなくて。大学の実習で毎年先生方が応募を薦めてくださっていて、4回生のときは先生のアシスタントもしていたため、いちばん上のわたしが応募しなくてどうするんだという思いで率先して応募しました。でも、その年に入選させていただきました。何も考えず、お金もかからないので気軽に応募したという感覚で、応募作も直近で撮ったものをInstagramへ投稿するときにハッシュタグを付けただけでした。先生に感謝しています」
カノン「先ほどの作品もこの作品もそうですが、ふだんから下調べをして撮るようなタイプではありません。会場に今日も来てくれている子に連れていってもらったんです。お互いに地元が近くて。1枚目は地元の神社でなんかとりあえず撮ろうかって。はじめましての場所で、どんな光が入ってくるかもわからない状態で、行ってから閃きで撮るというのが好きです。2枚目は関西で有名な生石高原という場所で、目的は生石高原に行くということだけ。あとは行ってみないとわからない。そういう感じで撮りました」
塚崎「続いて、東京カメラ部U-22に選ばれたことで変わった写真への向き合い方や人間関係、選ばれることで経験して良かったことなどをお聞かせいただきたいと思います。まずはtomosakiさんお願いします」
Z 8 + NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
tomosaki「U-22に選出されたことで、モニターでZ 7とZ 7IIをお貸し出しいただきました。それまでわたしはD5600を使っており、Z 7IIを与えられてどうなったかと言いますと、戻れなくなるんですよね(笑)。差がありすぎます。もちろんD5600も素敵な機材ですが、やはりEVFの美しさやAF性能などを味わうと戻れません。しかし返却しなければならないので、Z 5を自腹で購入しました。こちらの写真はZ 8で撮っていますが、Z 8も追加して購入したきっかけは別所先生のインスタライブだったんです。Z 8の動画撮影の素晴らしさを熱弁されていて、ちょうど僕も動画をはじめてみようと思っていたところで、これは買わなければあかんなと、衝動買いさせていただきました。Z 8を使うようになってから、暗所での撮影が圧倒的に増えました。いままで撮影できていなかった暗闇での撮影が楽しくなり、作品の幅が広がったと思います」
塚崎「機材で写真は変わりますよね。続いて佐藤さんお願いします」
D850
佐藤「いちばん変わったことは、いま写真の世界で活躍している方々を、自分のキャリアの延長線上のロールモデルとして見られるようになったっていうところですね。例えば、僕のフィールドワークをずっと大人になっても続けるためには、相当時間を使わないといけません。関東周辺ならば土日だけでも足りますが、僕はアラスカやカナダなど北方の地に憧れがあり、そこまでやるのならばライフプランをそこに傾けていかないといけないと思っていまして。そういった方々と関われるようになったり、あるいはニコンイメージングジャパンさんの方々との関わりができたり、写真を仕事にできている方々から具体的なお話を伺うことができるようになったので、写真を人生の収入の糧にしていくということを考えられるようになったかなと思います。写真に話を移します。こちらはウミガメの赤ちゃん。関東の浜辺で見つけました。ここは小さいときから通っている場所ですが、10年以上通う中ではじめて遭遇したんです。本当に興奮してしまって、この後に東京で友人と予定があったんですが、ウミガメの赤ちゃんがいるから、と待ち合わせに2時間くらい遅れてしまいました(笑)。この子を浜辺まで連れていって逃がしてあげましたが、こういうシーンは通い続けないと出会えません。ひとつのフィールドでも僕が出会っていないもの、見ていないものは星の数ほどあると思います」
D7100
佐藤「こちらはコマドリです。美しい歌声を持つ鳥です」
D3100
佐藤「先ほど13歳のときにアラスカの地を踏んだと触れましたが、そのときに撮ったヘラジカです。D3100という当時流行していたデジタル一眼レフカメラを使っています。このときの僕の身長はまだ140cmくらいしかなく、ヘラジカくらい大きな動物と対峙するのは初めてで、心臓の鼓動が全身に聞こえるぐらいドキドキしましたし、怖かったですね」
Z 7II + NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S
佐藤「これはモニターで Z 7IIをお借りしたときに撮影したカモシカです。カモシカはさまざまな色のものがいて、灰色が多いのですがこの子は白いじゃないですか。僕は北方ならではの白い生き物が大好きです。ふだんの撮影なら空振りでもいいですが、2週間のモニター期間では作品を提出しなければいけません。そのため、この白いカモシカを3時間ほど探し回ったのですが、出てきてくれないと困ると緊張しながら歩いていたのを覚えています。Z 7IIでの撮影ですが、雪にフォーカスが引っ張られないですし、ふとした表情でも捉えられるAF性能の高さや、夕方の暗い森の中でも電子画面で画を見ることができる点など、機材が変わることでの大きな違いも実感しました」
塚崎「続いてカノンさんよろしくお願いします」
カノン「わたしは展示をさせていただいたことが大きなことでした。大阪と東京で展示させていただきましたが、いままで自分の写真はSNSを主に発表をしていて、スマートフォンのあの小さな画面サイズでしか見ることはなかったんです。コメントやいいねなど、どこの誰かわからない人の声しか聞くことはなくて、でも展示をすると、目の前で自分の作品を見てくれている方がいて、きっと何かを考えてくれているんだろうなというところを見ることができただけでも大きかったです。あとはモニターをさせていただいて、ふだん使っていたのとは違う機材を使うことで、新たな魅力を知る機会となりました」
塚崎「展示というのは大きいですよね。おふたりも展示はいかがですか?」
tomosaki「わたし達の世代は、SNSだけでしか写真を見ず、なかなかプリントというものに触れる機会がありません。しかし、やはり写真はプリントをして楽しめるものだと思うので、そういうきっかけをいただいたことをありがたく思っています」
佐藤「この展示は20 名ほどの参加者がひとつのギャラリーで展示するというものでしたが、自分の作品だけでどのような空間が作れるだろうか、というところに思考がいき、その後、北村写真機店で個展を開催させていただきました。写真活動のモチベーションの生成には、ギャラリーでの展示というものが必要なことのひとつだと感じます」
塚崎「写真は見るサイズというものも大きな要素です。例えば黄色は小さくしていくと白になり、黄色に見えなくなります。人の眼と写真のサイズには大きな関係性があり、大きく見せることで見えてくるものもあります。ぜひ大きく写真を見せることができる展示にも、みなさんにチャレンジしていただきたいですし、東京カメラ部U-22になれば、それが無料で経験できるのです。展示されるニコンの『THE GALLERY』という場所は、プロカメラマンみんなの憧れの場所。お金を積んでも展示できない場所なので、ぜひ挑戦をしていただければと思います」
Z 7II + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
塚崎「カノンさんの作品に戻りたいと思います。解説をお願いします」
カノン「これも地元で撮りました。モデルをしてくれている子と地元が近いということもあって、ふらっと撮影に出掛けることが多いです。これはミモザの花で、わたしが知る限りではミモザと一緒に撮れる場所は珍しくて、有名な場所なら人がたくさんいるだろうなと思いますが、ここは地元で誰もいなくて撮り放題。この日は太陽を待っていて少し時間はかかりましたが、1時間くらいしかかかっていません。いつもこんな感じです」
塚崎「ポートレートのセオリーと違い、顔に影も落ちていますし、順光で撮影しています。習うと最初にやってはいけないと言われるようなことをやっていて、それがまた個性に繋がっていると思います」
塚崎「続いて、これからやりたいこと、目指したいことについて伺っていきたいと思います」
tomosaki「僕は引き続き地元・福井県のPR活動や、地方創生、人物撮りを本格的に行っていきたいなと考えています。人と関わることがとても好きなので、撮影を通してたくさんの人と通じ合いたいですし、写真家だけでなくて、カメラマンとしての技術も磨いて、何でも撮れる存在になれればと思っています」
Z 8 + NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
塚崎「仕事として依頼を受ける撮影にも興味があるということですね」
tomosaki「こちらは結婚式の前撮り写真です。ふだんは青春をテーマに撮影していますが、ふたりだけの思い出をなぞるような写真も撮りたいと思っています。これはふたりの思い出の飲み屋街で撮影した写真で、たぶん前ならば機材的にこういう暗所での撮影は控えていたと思います。ただ、Z 8にしてからは、このような場所で素敵な1枚を撮ることができるので、撮影の幅が広がったなと思っています」
Z 8 + NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
tomosaki「次の作品も夜で、Z 8で4軸チルトを使い撮影しています。さまざまな画角から撮影できます。カメラが完全に自分の体の一部となっていて、Z 8は最強だなと」
Z 8 + NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
tomosaki「これは雲をテーマにしたアイデア写真。グリップ感に優れていて、携行性が高いカメラなので、ほぼいつも持ち歩いています。カメラに加えて、こういう写真を撮るための小物も持ち歩いています。だから荷物はとても多く、極力カメラの重さは控えたい、けれども描写力は欲しい。ですからZ 8はとても助かるのです。毎日ヤカンを持ち歩いています(笑)」
Z 9 + AF-S NIKKOR 400mm f/2.8G ED VR
塚崎「続いて佐藤さんお願いします」
佐藤「僕はいま関東のフィールドに通い続けていますが、いまのフィールドに持っている感覚を、アラスカ、カナダ、北極圏でも持てるようになりたいというのが目標です。というのも、ひとつのフィールドに通い続けていると良い物語に出会うことがあり、それを象徴するのがこの1枚です。2021年の秋からたびたび出会うツキノワグマがいて、そいつが大山桜をとても気に入っていたんですね。僕はこのツキノワグマを『サクラ』と名付けましたが、サクラは冬眠の季節になると会えなくなります。春にまた会えるかなくらいの気持ちでフィールドに行ったら、彼女が子どもを連れていたんです。季節を越えて会ったら子どもを連れていたと。彼女はふてぶてしいツキノワグマだと思っていたのに、子どもを優しい眼で見守っていたり、体つきも筋骨隆々としていて、ああ、母親になったんだなと。僕の勝手な解釈も入っていますが、そういう物語と出会いたいという思いがありますね」
Z 7II + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
カノン「わたしがこれからやりたいことは、仕事でも写真を撮っていて自分の作品も撮っていますが、社会人1年目だとなかなかペースを掴むことができなくて、月に一度も作品を撮りにいけないくらいなので、とりあえず時間を見つけて、もっと作品を磨いていきたいなというのがいちばんです。写真を撮るときは、まず光と影を探すこと大切にしています。知らない場所で撮ることがほとんどですが、そういうときも光と影を探します。この1枚も、人には影をなかなか落とさないかもしれないですが、わたしは落とします、という写真です。」
塚崎「写真にはセオリーがあって、それから外れるとダメだと言われがち。優しさで言っている方も多いと思いますが、そうするとこのような個性を潰してしまう可能性もあります。次も特徴的ですね」
Z 7II + NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
カノン「すごく顔がアップで写っている写真なのに、視線が合わないのがおもしろいなって。こんなに近いのに合わないのはなぜだろうと考えるわけですよね。自分で撮っておきながら考える。何枚も同じ場所で撮っているから、目線の合った写真もあるんですけど、惹かれたのはこの1枚。他の写真でも、結構な割合で目線が合っていない写真はあります。そういうのが好きなんでしょうね」
塚崎「最後に、東京カメラ部U-22を目指す方へのメッセージをよろしくお願いします」
tomosaki「僕は応募がきっかけでさまざまなジャンルの写真に触れ、写真に対する解像度がとても高まったと感じていて、それも自分の作品に還元されたと思っています。僕は看護師を退職してフォトグラファーとして活動していますが、看護師として働く中で『いまを生きる一瞬』の尊さを知りました。22歳以下であるという一瞬は尊いと思うんです。いまでしかできないこと。少しでも悩んでいる方がいれば、本当にハッシュタグを付けて投稿するだけなので、一歩踏み出していただきたいです」
佐藤「東京カメラ部U-22に選ばれると、ギャラリーで展示させてもらえたり、機材を貸与していただけたり、ニコンイメージングジャパンの方々とも繋がれたり、良いことがたくさんあります。しかも無料でできますので、やらない理由はないのでは、と思います。また、僕はいま大学生ですが、意外と大学は外に開けたコミュニティーではないと思いますので、20代前半の時期にさまざまな方と関わるということは、その後の人生設計のプランや考え方を育むはずです。大事な時期にそんなことに触れられ、自分の興味あるコミュニティーにアクセスできる権利が得られるのは素晴らしいこと。ぜひチャレンジしてみてください」
カノン「U-22の世代はSNSを使っている人がほとんどで、その中で写真を撮っていて自分の写真を発信している人は多いと思います。そのSNSで人生が変わることもあると実感しました。昨年のわたしは、まだその辺りで写真を撮っているだけの人でしたが、1年後にはこうやってステージでしゃべっています。人生はどこで変わるか、何がきっかけで変わるかはわからないので、応募をすることもきっかけになるのではないかと思います」
塚崎「この3人は、偶然ここにいらっしゃるわけではありません。日頃から写真を撮っていて、最後にハッシュタグを付けるという、簡単だけども、ある程度は勇気のいる行為を取りここにいます。奇跡が勝手に起きたのではなく、起こしたんですよね。次はみなさんの番だと思います。以上をもちまして、トークショーを終了させていただきます。本日はありがとうございました」
登壇者プロフィール
Speaker Profile
tomosaki
福井県出身のフォトグラファー。 「青春や物語を感じるシーン」をテーマに撮影している。 コロナ禍をきっかけにNikon D5600を購入しカメラを本格的にはじめる。現在はNikonZ8を使用。地方創生、ウェディング撮影など幅広く活動中。 2020年「東京カメラ部10 選U-22 フォトコンテスト」に⼊選。 2022年KADOKAWAより「あの頃にみた青は、」モッシュブックスより「L&SCAPE 撮りたい世界が地元にある」を出版。 2023年7月に看護師を辞めフリーランスフォトグラファーへ転身。現在は福井と神奈川の二拠点で活動している。
佐藤宏樹
2000年生まれ。千葉県在住。東京慈恵会医科大学医学部医学科在籍。 小学生の頃コミミズクに魅せられ、その繁殖地である北方の自然に惹かれるようになる。 13歳の頃アラスカの地を踏み、ムースやコヨーテ、そして壮大な自然に圧倒され、野生の世界にのめり込んでいった。中学高校時代、プランクトンの研究を行い、その学会発表で医学の研究に出会い、その道を選んだ。今は、関東周辺の山地にツキノワグマなどを追い、通い続けることで見えてくることや、そこに暮らす方々との関わりから芽生える感情を、表現することに挑戦している。
カノン
東京カメラ部10選U-22 2022 大阪府出身2001年生まれ。 大学の実習をきっかけにカメラを手に取り、ポートレート撮影に目覚める。 今春から仕事で子ども達の撮影をする傍ら、自らの作品撮影にも勤しむ日々を送っている。