トークショーレポート

Talk Show Report

公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」

2023年9月15日(金)~9月18日(月・祝)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2023写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。

9月17日(日)に行われた日経ナショナル ジオグラフィックのトークショーでは、日経ナショナル ジオグラフィック書籍編集長の尾崎憲和氏、東京カメラ部10選のこすげ まさと氏、廣田達将氏、Phaengy氏、Rinaty氏にご登壇いただき、「公式写真集『愛おしきこの世界。』発売記念トークショー『世界を愛おしいと思う瞬間』」というテーマでお話しいただきました。

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

東京カメラ部運営 塚崎(司会)「みなさん、こんにちは。東京カメラ部の塚崎です。本日、司会を務めさせていただきます。これから公式写真集『愛おしきこの世界。』発売記念トークショー『世界を愛おしいと思う瞬間』を開催させていただきます。本日ご登壇いただく4名の方は、東京カメラ部10選のこすげまさとさん、廣田達将さん、Phaengyさん、Rinatyさん、そして日経ナショナル ジオグラフィック書籍編集長の尾崎憲和さんです。本日はよろしくお願いします」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

塚崎「公式写真集『愛おしきこの世界。』ですが、本日会場内で販売しているのは会場限定の表紙カバーとなっております。書店での表紙とは異なっておりまして、Rinatyさんの作品が表紙となっております。会場限定版はダブルカバーになっており、めくると10選全員の写真が使われている通常バージョンが出てきます。それでは早速、4名の方の作品のお話に入りたいと思います」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

塚崎「まずはこすげさんお願いします」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

こすげ「はじめまして。こすげと申します。これは芦ノ湖の写真です。海賊船が写っているのでお分かりになる方も多いと思います。有名なのは箱根神社から鳥居を入れて撮るという構図ですが、そこから車で北に数分行くと九頭龍神社というところがありまして、そちらの鳥居から見た海賊船の写真になります。実は同じ構図で撮った写真を2年前の日本写真100景<四季>に選んでいただき、また昨年は東京カメラ部さんにセレクトしていただきまして、僕にとっては思い出深い場所です。ですから、過去の反省点を生かしてもう一度撮りに行き、満足いくまできちんとレタッチをした1枚です。この構図の写真はあまり目にしたことがないので、広められたらいいなと思っています」

尾崎「唯一無二と言いますか、ここでしか撮れない写真ですよね。目線は主題である鳥居や船に行きますが、雲なども雰囲気を醸し出しているので主題が際立ってるのかなと感じます」

塚崎「これはスマホ現像なんですよね」

こすげ「そうなんです。自分はすべてスマホのLightroomで触っています」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

こすげ「『愛おしきこの世界。』がテーマということで、選んだ作品になります。写っているのは妻です。4年ほど前の写真で、当時は妻と一緒にふたりで週末に出掛けるというローテーションで写真を撮っていたんですけど、いまはもう妻はついてきてくれず、ひとりでうろうろしています(笑)。仲が悪くなったわけではないです。カメラは風景を切り取るものかもしれないですが、時間まで切り取れるのも能力かなと思います。いまが楽しくないわけではないですが、一緒に出掛けて撮っていた時間はかけがえのないものだったなと。こういう場にいるのも妻のおかげですし、こういう場所があるよと教えてくれて助けてもくれますし、感謝の意味を込めて写真集にこの写真を載せさせていただきました」

塚崎「時間を切り取る、という言葉がいいですね」

尾崎「写真ならではのことですよね」

塚崎「こちらには奥様と別の女性が写っていますね」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

こすげ「これは僕です。よく見るとすね毛が残っていますよね。連休となれば下道でどこまでも出掛けるのですが、愛知県から下道だけで山形県に行ったこともあり、これはその山形県の垂水遺跡で撮りました。横の繋がりが少ないものですから、どうしてもひとりで行くことになりますが、現地で被写体になってくれる方を探すのも困難です。だったら自分でやったらいいんじゃないかって。おっさんがここに立っても絵になりにくいので、ワンピースを着てウィッグを被ってポージングをすれば、なかなか良い写真が出来上がるはずだと。ただ、どうしても肩幅があるので、これは広角レンズで撮っていますが、広角ならではの歪みの中に自分を入れ、なおかつふわっとするように構図を考えて撮っています」

塚崎「男性が女性になるための工夫がいろいろあるのですね」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

こすげ「そうですね。こういうことをやりはじめてから知ったのですが、ふだんの歩き方ひとつでも男らしさが出てしまうので、女性の動きはどのような感じだろうとか、歩くときにどのくらい肩が揺れているだろうとかを観察しています。腕を伸ばすだけでも男性と女性で動きが違うんですよね。これからもっと熟練させていこうとは思いますが、風景を撮ることが基本なので、たまに、いやしょっちゅうやっていますね(笑)。女装をして撮るのが目的じゃないので、人を入れた写真にしたいと思えば自分を被写体にしていこうかなと思います」

尾崎「女性が写っていると思っていたので、お聞きしてびっくりしました。そういう目線は大切ですよね。観察をすることで、ここまで作り上げたことに驚きました」

塚崎「僕も大好きです。悪いことは何もしていないですからね」

こすげ「自分の望むポーズをしてくれるし、どんな危険な場所にも行ってくれるし、24時間一緒にいてくれますから、本当に便利なモデルだと思います。」

塚崎「僕も最初は気付きませんでした。しかし、このような映像がストーリーズに流れてきまして」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

こすげ「昨年、この会場の入り口でこういうのを撮りました。どうせ来たんだし、100景に選ばれた記念に自撮りをしようと」

塚崎「うちの写真展の入り口で何をしているんだと(笑)。怒ったのではなくておもしろいなと思い、目が釘付けになりました。そうしたら10選になったと。こすげさんに憧れて写真をはじめたという方もいらっしゃいますよね」

こすげ「実は僕もワンピースを着始めたんです、というような言葉を聞くようになってきました。ときどき『これってこすげさんですか?』とDMをいただくことがあって、いや違いますよと。よく見ると写っているのは本当に女性なんですね。女性を真似た僕を女性が真似るという、変な逆転現象が起こっています」

塚崎「続いて廣田さんお願いします」

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廣田「はじめまして。廣田と申します。愛知県を中心に全国を回っており、絶景や彼女の写真を撮っています。カメラはNikon Z 6IIを使っておりまして、これは2年前の東京カメラ部さんとニコンさんのフォトコンテストで入賞していただいたものになります。今日紹介するのはすべてそのカメラで撮ったものになります。東京カメラ部さんとニコンさんに、この場を借りてお礼を言いたいです」

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廣田「こちらは家から10分くらいの場所、愛知県の大高緑地公園という場所なんですけれど、わたしがカメラをはじめた当時から撮っていて、いまはわたしのSNSでの呼称である『ペレー』からとって『ペレーの木』と呼ばれています。Google Mapでもその名称で登録されるような木になっています」

尾崎「自分の名前が付くのはすごいことですね。この写真は人物がいなくても成立する、とても良い写真だと思います。雲の表情も印象的ですし、光も美しく、そこに1本の木が生えているというのは、それだけでも良い写真になりそうですが、おふたりが仲良く手を繋いで写っていると。風景全体がおふたりを祝福しているようにすら見えますよね」

廣田「寒い時期しかこの位置に太陽が落ちないので、その限られた期間でかつ彼女が休みの日で、これだけ焼けてくれた空というのは、なかなか撮ることができない写真だと思います。右側がわたし、左側が彼女です」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

廣田「家から高速道路で4時間ほどかかる、結構遠い場所に桜を撮りに行ったときの1枚です。僕はメインのスポットを1ヶ所決めて、その後で車を走らせて別の撮影スポットを探すのですが、海沿いを走っていたらここを見つけました。調べたらこの写真の左側から太陽が昇ると分かったので、運が良ければ美しいグラデーションの写真が撮れるのではないかと考え、翌朝に桜のスポットを諦めてこちらに来て撮りました。いざ撮りはじめたら三日月が良い位置に出て、朝日のグラデーションも美しく、わたしの中では最高の1枚になったと思っています」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

廣田「こちらは三重県の熊野大花火大会での写真です。彩色千輪という花火で有名ですが、昨年はコロナ禍だったため寄付金を募り15分間だけ開催されることになりました。ふだんはとても混雑する花火大会ですが、15分だけの開催ならば多少は人がまばらなのではないかと思って出掛けたところ、予想していた通りにまばらで、後ろにも人がおらず迷惑をかけることなく撮れるだろうと思い撮った1枚です」

塚崎「最近は人を入れた花火写真が増えましたよね。花火写真はどんどん進化しています。こちらは右が彼女さん、左が廣田さんでしょうか」

廣田「そうですね。基本的には彼女を撮っていて、あまり人がいない場所で撮れそうであればふたりで撮っています。これは焦点距離24mmのレンズを使い花火の目の前で撮っています。通常の花火は上に打ち上がりますが、この花火は斜めと真横に飛んできて中心が分からないため、2台のカメラをセットして、どちらかが撮れていればいいなとインターバル撮影をしました」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

尾崎「花火はもともと撮影が難しいですが、狙い通りの構図でお撮りになったのは素晴らしいです」

廣田「花火が上がると歓声も上がります。僕らの前にそのような人々も写っていて、まさに『愛おしきこの世界』を詰め込んだ1枚となっています」

尾崎「人が入ることで写真に厚みが出ますし、関係性というものも描かれると思います」

塚崎「よく予期せぬ人が入ることに怒る人がいますが、写真だからこそ逆にチャンスだと思います。想像した通りのものにしたければ絵を描けばいいですからね。写真はそうじゃないからおもしろい。ぜひ寛容な心で楽しんでいただきたいです」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

塚崎「続いてPhaengyさんお願いいたします」

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Phaengy「はじめまして。タイ出身で群馬県に住んでいます。カメラを始めてから8年間くらいソニーのカメラを使っています。基本は風景を撮っています。この写真は 2016 年に河口湖で撮影した富士山の写真です。そのときは初めて富士山の紅葉を撮りました。わたしは運転できないので、いつも電車で出掛け、近くのホテルに泊まりました。その日はホテルから撮影スポットまで霧の中を30分くらいひとりで歩き、その後、また3時間くらい富士山が出てくるまで待ち続け、やっと富士山に光があたったときにすごくワクワクしながら撮影しました」

尾崎「絵だとこういうものを描けると思いますが、よく写真でこのような構図の場所を見つけたなと思います。富士山も美しいですし、紅葉も鮮やか。よくぞ絵の世界でしか表現できないような写真をお撮りになったと思います」

塚崎「富士山の写真にもトレンドというものがあります。5年ほど前からこの構図を見はじめるようになったと思います。Phaengyさんはその先駆けだったんですよね」

Phaengy「そうですね、この写真はあるフォトコンで入賞し、それがきっかけでいろいろな人にわたしの作品を知ってもらうことができました。人生を変えてくれた1枚です」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

Phaengy「この写真も同じ日に撮っています。霧がなくなった瞬間にちょうどボートが真ん中に来てくれました。すごく感動しましたし、人間は自然と比べると小さなものだな、と思いましたね」

尾崎「俳句のような写真だと感じました。余計なものを削ぎ落として最小限のものでものすごく多くのことを語っている。ビックリしました」

Phaengy「この作品はわたしの代表作です」

塚崎「東京カメラ部でもシェアをした記憶があります」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

Phaengy「これも先ほどと同じ撮影スポットから撮りました。わたしは富士山と紅葉を毎年撮っていますが、紅葉を額縁にした富士山が撮れる場所は有名になり、人が増えました。朝の3時に撮影スポットについても人が大勢いました。人が多く何を撮ればいいか分からなくなっているときに、蜘蛛の糸に紅葉の葉が付いているところを見つけて、ワクワクしながら撮影しました。何回葉を投げましたか、とか、これは合成ですか、とか聞かれましたが、そうではありません。奇跡の1枚です」

尾崎「どうやって撮ったのだろうと思っていました。よく発見されましたね。ふだんなら見過ごしてしまいそうなものを作品にするというのは、ふだんからそういうものを見ようという目があるということですよね」

塚崎「最初に額縁の場所を見つけ、そこが有名になり混んでいるなら次は何を撮ろう、と考え、この紅葉の葉を見つけたら10選になった。本当に素晴らしいことだと思います。それでは、続いてRinatyさんよろしくお願いします」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

Rinaty「はじめまして、Rinatyと申します。わたしは、カメラマン、モデル、ヘアメイク、スタイリング、アートディレクション、すべてをひとりで行っているセルフポートレート写真家として活動しております」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

塚崎「こちらはセルフィーということですね」

Rinaty「写っているのは、わたしになります。作品を撮る前から、こういう構図でこういうポージングをして撮るというのは決めていたんですが、そのポージングがキレイに決まるまで、40回くらいは布を投げて撮影しています」

塚崎「こちらの作品が今回の写真集の表紙になっています」

尾崎「初めて見たときから、圧倒的な存在感だなと。背景も素晴らしいですよね。近景から遠景までのバランス、煙が立ち上がっている背景、浮き上がるような赤い衣装が力強いです」

塚崎「セルフポートレートの場合、タイマー撮影ですから連写ができないじゃないですか。連写ができないのにタイミングを合わせるのは驚異的ですよね」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

Rinaty「この作品ではストロボを2灯使っていまして、動きは止められるんですけれども、ほぼフル発光で撮っているので本当に一発撮りです」

塚崎「ストロボを含めて機材は大変な量になると思いますが、スタッフはいらっしゃるのですか?」

Rinaty「いえ、すべてひとりで運んでいます。運転免許証は持っているのですが運転は不得手なので、風景写真を撮りに行く知人の車に乗せてもらい、途中で降ろしてもらい放牧してもらっています」

塚崎「それにしても、赤が鮮烈です」

Rinaty「タイトルは『孤高』と付けています。わたしが写真家に転身して、自分の原点となるような作品を撮りたいと思い撮影した作品です。スマートフォンがあるために誰にでも写真を撮れる時代になっていますし、いまはAIも進化がしています。そのような厳しい世界の中にあっても、流行に流されずに自分が撮りたい写真を撮っていく、写真に対する情熱を忘れずにがんばっていきたいという想いを込めて情熱を表す赤い衣装を着て、このような厳しい場所で撮った1枚です」

塚崎「機材を教えてください」

Rinaty「富士フイルムのGFX100Sを使っています。それは『カラークローム・エフェクト』という機能を使うと、赤の表現がとてもキレイに出るんです」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

Rinaty「続いては同じ場所で撮影した別カットです。厳しい場所でも地面に足をしっかり付けてがんばっていきたいという意味を込めて、足がしっかり見えるように撮影しています。そして、しっかり地面を踏みしめていくという意味を込めて、鷲掴みするような感じに足にグッと力を入れるなど、細かい部分にこだわって撮影しています」

塚崎「撮影地やポーズにはすべて意味はあるのですね。どなたか影響を受けた方はいるのですか?」

Rinaty「HASEOさんに影響を受けています。いろいろと教えていただいております」

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Rinaty「こちらは『献花』というタイトルの作品です。わたしがとてもお世話になった恩師に向けて撮った作品です。わたしが写真家に転身したときにとても助けてくださった方でしたが、昨年の夏に水難事故で亡くなってしまいました。亡くなられた直後、わたしは大きなショックを受けて数ヶ月間も作品を撮れなくなっていました。写真の仕事を続けることができないのではないかと思う時期がありました。そのときに、HASEO先生からお電話をいただきまして、もう一度、人生をやり直す気持ちでがんばれと。君が写真を続けてがんばって生きていくことが、恩師に対する最大の恩返しになるからと、励ましていただいたんです。その言葉によってわたしは立ち直ることができて、いまもこの場所に立つことができています」

尾崎「写真は撮る人の意図もあるし、見る人の解釈もあります。僕はいまのお話を聞くまで違う解釈をしていました。先ほどまでは赤い衣装でしたがこれは白いじゃないですか。花と同化したような雰囲気があり、花の精がパッと出てきたような写真で、花の命を表現しているのかと思ったんです。いろいろな解釈ができておもしろいですよね」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

塚崎「続いての作品ですが、Rinatyさんはとてもうまく色をお使いになりますよね」

Rinaty「色は使うとしても4色以内にするように心掛けています。色のバランスはかなり考えて撮影するほうですね。背景には緑も多く、撮影時は赤、緑、黒という3色だったのですが、赤と黒だけにしたほうが締まった作品になるだろうと思い、緑の彩度を現像時にグッと落として完成させました」

塚崎「手から花びらを飛ばしているのですか?」

Rinaty「そうです。セルフタイマーでシャッターが切られるタイミングに合わせて、手に持っている花びらをぽんと投げています。花びらを投げると、顔にかぶってなかなか撮影が成功せず、このときも30回くらいは投げています。拾っては投げて(笑)」

塚崎「こすげさんも花を投げることはありますか?」

こすげ「僕はプライドを投げています」

塚崎「うまい!(笑)。一方の廣田さんは白い衣装が多いように感じますが」

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廣田「いま『#旅する白ワンピ』というハッシュタグで投稿をしています。もともとは白がもっとも撮りやすいと理由からはじまっています。そのうちに白で統一しようと思いはじめまして。周囲の風景に対して白は撮りやすいんです」

塚崎「補色を使うことも多いですが、白であればどのようなシチュエーションでも大丈夫と。またシルエットも多いですよね」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

廣田「花火の写真では、花火を写したいのでシルエットにしていますが、そうではないときも、人を小さくするなど、顔はあまり写さないようには考えています。カメラをはじめたときは近めのポートレートを撮っていましたが、次第に恥ずかしくなっていき、だんだんと離れていった結果、このくらいの距離感に落ち着いたと」

尾崎「自分の距離というものはあるんでしょうね」

塚崎「こすげさんも顔は隠しますよね」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

こすげ「顔を出すと事故になるんで(笑)。これは僕ですと言ってしまっていますが、どこまで騙し続けられるかやってみたかったですね。風景や世界観の中で、顔というのはものすごく強い被写体だと思うんです。顔が出てしまうと風景たちに目が行きにくいかなという感覚はあるので、シルエット、構図、配色などを意識して撮影するようにはしています」

塚崎「人は3つの点があるだけで、顔だと認識して目が行くらしいですからね。逆に他に見せたいものがあるときは、顔を伏せればいいんですよね。ですから、このような後ろ姿の写真などは良いと思っています。本当にこすげさんの発想は素晴らしいですよね。性別は関係ないですし、もっと多くの方に拡がればいいなと。なぜならば、風景写真を撮ることに飽きてきている方もいらっしゃって、人を入れたくなるけれども人にお願いすることはできないし、自分の子どもを撮っていても大きくなったら撮らせてくれない、パートナーがいないなどあると思いますから、みなさんにもチャレンジしていただきたいです。発明です。Rinatyさんの場合は、セルフポートレート写真家になったきっかけは別の理由からみたいですね」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

Rinaty「最初はモデルさんを撮影していましたが、雨の中で撮影をしたいなと思ったとき、わたしはまだ写真が下手くそなのに、土砂降りの中、モデルさんを立たせて風邪を引かせたら申し訳ないなと思い、だったら自分でやろうと。いざ撮りはじめたら、自分だけで作品を作るのは楽しいなと思い、もう4年ほど自分を被写体に撮っています」

塚崎「もしモデルさんがいないなら、自分を撮ることも考えていただければと思います」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

塚崎「こちらはご自身が被写体ですか?」

Phaengy「夫です。近所でご飯を食べた後、美しい入道雲が出ていたので、夫に赤い傘を差してとお願いをして撮影しました。撮影場所からは遠いので、電話をしながらもっと右とか指示をして。この写真はソニーのフォトコンで入賞しました」

塚崎「多くのフォトコンで入賞されていますよね」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

Phaengy「今回の10選に選ばれた作品は、ソニーのワールドフォトコンで優勝し、カメラとレンズをいただきました。あと、同じ年にレイトレックのコンテストでパソコンをいただきました」

塚崎「写真をがんばっているといいことがあります。ぜひ挑戦してみてください。」

日経ナショナル ジオグラフィック「公式写真集「愛おしきこの世界。」発売記念トークショー「世界を愛おしいと思う瞬間」」

尾崎「ご縁いただいて東京カメラ部さんの写真集をこれまでに何冊か作っています。今回は写真をより楽しむために判型を大きくしました。また、今回ぜひ見ていただきたいのは写真の見方ですね。この写真いいね、ということは簡単に言えますが、その理由を説明するのは難しいことです。そのヒントを掲載しており、写真をより深く楽しめるようになると思います」

塚崎「写真展の楽しみ方も掲載しています。写真集を見ると、この写真展がもっと楽しくなります。そして、これは僕自身がやっているんですが、この会場にはこの写真展に掲載されている写真家がたくさんいらっしゃいます。写真集にサインを欲しいとお願いすると、みなさん快くお受けいただけますので、ぜひお声がけしてみてください。本日はどうもありがとうございました」

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