トークショーレポート

Talk Show Report

北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町

2023年9月15日(金)~9月18日(月・祝)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2023写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。

9月18日(月・祝)に行われた東川町・ひがしかわ観光協会のトークショーでは、東川町町長・菊地 伸氏、東京カメラ部10選/写真家・井上浩輝氏、東京カメラ部10選/東川町役場 写真の町課・佐藤悠大氏にご登壇いただき、「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」というテーマでお話しいただきました。

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

東京カメラ部運営 塚崎(司会)「皆さまお待たせいたしました。これから東川町のトークショーを開催させていただきます。お集まりいただきましてありがとうございます。本日は『北海道の中心で写真愛をさけぶ』というタイトルで、東川町より3名の方にお越しいただいてお話をいただきたいと思っております。まずはじめに東川町長でいらっしゃいます、菊地様お願いします」

菊地「北海道東川町の菊地です。本日はよろしくお願いいたします」

塚崎「続きまして、東京カメラ部10選2014でもいらっしゃいます、写真家の井上さんお願いします」

井上「皆さんこんにちは。写真家の井上です。皆さん、きつねのうちわは行き渡りましたか?あとで記念撮影したいので協力してください。顔の前に出して自撮りしたいです。今日はどうぞよろしくお願いします」

塚崎「そして続きまして東京カメラ部10選2019でいらっしゃいます、東川町役場 写真の町課 佐藤さんお願いします」

佐藤「東川町 写真の町課 佐藤です。去年11月に福岡から東川町に移住しました。今日はよろしくお願いします」

塚崎「なんと人口8000人の町で2人も10選がいるんですよね」

菊地「そうなんです。本当に素晴らしいことで、これも塚崎代表のおかげです」

塚崎「いやいや。九州から東川町に移住されていたということで、我々も存じ上げなくて。東川に『10選っていう人がもう1人来たんだけど』と言われて、それが佐藤さんだったと。大変驚いた次第でございます。それでは早速、東川町についてのご紹介をお願いしたいと思います。町長、東川町についてご紹介いただいてもよろしいですか?」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

菊地「東川町は北海道のほぼ中央に位置しております。人口33万人の中核都市の旭川市から車で約30 分、そしてその反対側の東側には、全国最大の国立公園、大雪山国立公園を保有しておりまして、北海道で最高峰の旭岳という山があります。そして基幹産業は農業で、自然豊かで景観が抜群な場所です」

塚崎「東川町は写真の町を中心に形成されている、とありますけど、これはどういうことでしょうか?」

菊地「1985年に写真の町を宣言したというところから始まって、次の年には写真の町条例、いわゆる自治体の法律を制定して、来年で40年目を迎えます。写真という文化を中心にしたまちづくりを進めていると。一言で言うとそんなところです」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「こちら、ご紹介いただいてもよろしいですか?」

菊地「中心に写真の町がありまして、外側に人・自然・文化というのがありますよね。写真の町宣言には、人・自然・文化でまちづくりをしていこうという考え方があります。人と自然、人と文化、人と人、という文化によるまちづくりということを謳っています。写真の町を中心に工芸や、農業、子育てといった町の営みに必要なことがそれぞれ配置されているということです。我々の考え方としては、写真だけではなくて、文化や、暮らしや、自然を含めて、大事にしながらまちづくりをしていこうという考え方が基本になっていますね」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「これは1985年の時の様子です」

菊地「そうです。私は生まれていましたね。1985年に、宣言のセレモニーをやったときの写真です」

塚崎「ちょっと懐かしい感じがする写真ですもんね」

菊地「もう40年近く前ですから、かなり懐かしい雰囲気の写真ですね」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「こちら、キーワードとして人・自然・文化ということなんですけども、まず人についてお伺いをしていきたいです。色々な職種の方、業種の方がいますけれども、目立つのは移住者だと思います」

菊地「30年間、人口が微増し続けている町なんです。1993年が1番少なく、人口は大体7000人。今は約8600人で、それが一時的に増えたのではなくて、平均すると年間50人ずつ増えて、微増を継続しているということになります。これはなにが起きているかというと、自然減は50人です。生まれる方と亡くなる方の差が50人で、減少していると。これに対して社会増が平均すると100人。その差し引きで、50人増が30年間続いているということなんですね。社会増、つまり移住されてきている方がずっと継続しています。東川町で生まれていない方を移住者と捉えれば55%を超えたところまでいま来ているということです」

塚崎「他の町でもそういうことはあるんですか?」

菊地「東川町を題材にして研究している大学の先生がよくいらっしゃるのですが、その先生方が口を揃えて言うのは、これは奇跡だと。こんな町は見たことないということを言っていました」

塚崎「本当にすごいことだと思うんですよ。日本って全体で人口が減っているんですよね。東京ですら、感染症の時期には一時的に減ったと言われているのに、ずっと増加を続けているんですね」

菊地「我々考えているのは、これも積み上げの成果でしかないと思っていまして、減らすまいという努力をしてきた結果、30年間増え続けたという風に感じています」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「これはどちらからいらっしゃっているかというグラフですか?」

菊地「そうですね、どこから来ているかという割合の大きさです。隣接している旭川は人口33万人。子育ての環境を求めて東川に移住をしていますが、その割合が移住人口の3割くらい。札幌を中心として、旭川以外の北海道地域から3割くらい。それと都市部を中心とした道外から3割というのが大体の割合だと思います」

塚崎「関西、東京からなど、首都圏の方が多いですね」

菊地「最近多くなってきました。3割ずつというのは最近の状況で、10年前ですとそこまで割合は高くなかったですね」

塚崎「東北と九州からも小さくありますね」

井上「僕は仙台の大学院に行ったので仙台から入ったし、佐藤さんは九州の福岡から。ちょっと例外的な2人でしたね」

塚崎「ちなみに『街の住み心地ランキング』で2年連続1位だったと伺いました」

菊地「ある会社のアンケート調査ですので、我々としてはあまりそこにこだわってはいないのですが、ありがたいことに去年から連続1位です」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「すごいですね。その移住者であり、写真家でいらっしゃる井上さんにお話をお伺いしたいです。まず何年目になりますか?」

井上「僕は2012年、震災の翌年に移住したので、もう11年目になりますね」

塚崎「写真家って色々なところに行かなきゃいけないと思うんですけど、その辺りはどうですか?」

井上「僕は写真家になりたいと思って東川町に移住したわけですけども、実際にこの仕事が成り立つようになってからは、ここに住んで良かったなと思う地理的な状況がありまして。それはなんと言っても、北海道のあちこちに出かけるときに、函館を除けば大体同じ距離で同じ時間で移動ができるという点があるんですよね。それはすごく有利だなという風に思いました」

塚崎「またアクセスがいいんですよね」

井上「札幌でも急げば2時間半くらいで行けるというのはあるんですけども、なにより僕の家から旭川空港まで信号が2本しかないんですよ。この時間感覚で飛行機に飛び乗って東京まで移動してしまえば、札幌よりも東京の方が時間距離は短い、そんな感覚で生活することができるんですね。僕はいま早稲田大学の教員をしていて、水曜日と木曜日に東京にいるんですけども、通勤が可能だというのがありがたいなと思いますね」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「これ、地図ですね」

井上「右上が市街地で、僕は丸の中に住んでいるんですけども。左下に旭川空港があります。とはいえ、これで東京の地図で山手線でやると結構な駅数はあるかもしれないです。でも北海道って車に乗ると1分で1km進むことができるんですよ。計算簡単でいいですよね。時速60kmで走ると1時間に60kmくらいですよね。ということは1分に1kmじゃないですか?簡単ですよね。本当にすぐに空港に着いて飛行機に乗れちゃうと良いなと思いました」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「便数もなかなか多いですよね」

井上「そうですね。だいぶ増えてきていて、いまは旭川と東京・羽田の間であれば、1日7便です。国交省にそれぞれの会社が出している便数は全部で8便だと思うんですよね。もう少し色々な状況が許してくると、7便から8便になるのかなと。さらに夏はセントレアとの間でANAが飛んでますし、先日ジェットスターが成田–旭川線を冬から運行するという情報が出てきました」

塚崎「空港というと冬がちょっと心配なんですよね」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

井上「全然心配じゃないんですよ。むしろこちらを見てください。旭川空港の飛行機の就航率、99.1%と載っていますよね。最大で99.7%までいった年もあるんですよ。それくらい飛行機が必ず飛びます。ですからどうしても札幌に入らないといけないという状況で、新千歳が怪しくなったら、旭川に行くんです。そしてレンタカーを借りて札幌まで飛ばすという方がいると聞きますね。去年だけで見れば、吹雪や悪天候で早稲田大学の授業に間に合わなかったことは1回もありませんでした」

塚崎「町長、こちらは実感されていますか?」

菊地「そうですね。すごく実感しています。遅延はたまにありますが、乗れなかった、もしくは飛行機が降りなかったということはわたしは経験がないです」

塚崎「雪が降るから不安だと思いきや、そうではないと。早稲田大学は毎週行かれているんですか?」

井上「そうです。前期15回、後期15回」

塚崎「毎週行っているんですよね。東京に通えてしまうんですよ」

井上「実は結構いるんですよ。飛行機のなかが同じ顔ぶれで、覚えてくるんですよね。50人、100人という単位で見かけるので、あぁ皆さん移動されているんだなと思います」

塚崎「仕事でも便利な場所ということですね」

菊地「そうですね。先ほど話にもありましたけれど、わたしたち札幌に行くより東京に来る方が楽です」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「また注目したい点がありまして、地域おこし協力隊、これですね。東川町は地域おこし協力隊を積極的に受け入れると伺いました」

菊地「日々動いているのですが、いま在籍数が66人の地域おこし協力隊がいるという町になります。人口8600人程度の町に、66人。実は日本一を目指していてなったわけではないのですが、今現在全国の自治体の中で日本一だということですね」

塚崎「大体地域おこし協力隊って3〜4人と聞きますが」

菊地「うちの協力隊、佐藤くんもそうですけれど、1つの能力に長けている方が非常に多いんです。我々の町には色々な人材の方が集まってくるということが1つの特徴になっています。地域おこし協力隊もそれぞれなにかしらの技やスキルを持っているなかで、その分野で活躍をしてくれているという方がほとんどですね」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「まさに地域おこし協力隊として移住された東京カメラ部10選の佐藤さんに伺いたいのですが、まずなぜ東川町を選ばれたんですか?」

佐藤「理由はふたつあります。僕はもともと風景写真を撮影していて、九州から北海道に何回か撮影しに来たんですけど、北海道には北海道にしかない景色があるので、それを撮りたいと思ったのがひとつです。もうひとつが、東川町が写真の町宣言として文化によるまちづくりをしている点です。僕は大学の専攻がデザインで、今回配っているチラシもデザインしたんですけれど、独立していきたいという気持ちがありまして、東川町はそのサポートがしっかりしていたので、選ばせていただきました。」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「今回お配りしているお米のパッケージも佐藤さんがデザインしたそうです。実はですね。裏を見てください。『愛おしきこの世界』と入っているんです。この会場限定のパッケージです。ありがとうございます。すごいですよね。企業に入っていきなりこんな商品パッケージを任せてもらえることはないかもしれない。でも、ここだったらそういうチャンスがあるということですね」

佐藤「地域おこし協力隊は3年間の任期があるのですが、そのうちに移住をして、その場で色々なお仕事をもらいながら定住の土壌を作っていけるというのが魅力的だなと思っています。東川町って地域おこし協力隊がすごく多いので、『よそ者の会』というコミュニティがあるんですけど、そのなかにも移住・定住された方が何人かいらっしゃいます」

塚崎「若者で転職をする場合、実績がないとできないですけれども、こういう風にパッケージになったものがあると強いですよね」

佐藤「そうですね。チャンスをいただけて、その分結果を出さなくてはいけないというプレッシャーがあるので、頑張っています」

塚崎「ちなみにこちらには東川米が入っているんですけど、残念ながら新米ではないんですよね?」

菊地「そうですね。新米はあと1週間後です」

塚崎「ここ数年間、我が家は全部東川米なんですよ。ふるさと納税をやっていて、本当に美味しいです。続いてどんな仕事をしているか伺いたいのですが」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

佐藤「東川町は写真の町課という課が役場にあります。そして町が文化ギャラリーを持っていまして、そこで通年展示を行っています。僕はそこの展示作業に携わっています。あと、スタジオがあって、町民だと1時間500円で使うことができるんです。そこで役場の人たちが付けている名札の写真を僕が撮影させていただいています」

塚崎「スタジオが500円ですよ」

井上「僕も使っているんですよ。商用利用すると少し高いのですが、それでも安いですよね。プロ用の機材が全部あります」

菊地「東川町は家具の町でもあって、家具の事業者さんが自社商品をここで撮影したりもしています」

塚崎「ハンドメイドをやっていらっしゃる方、自分の商品を撮りたいという方もここでできる」

菊地「ぜひ東川に来て使ってください」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「また別の仕事もされているんですよね」

佐藤「そうですね。文化ギャラリーのなかに写真の町課がありまして、その中で展示作業を行っています。2021年には井上さんにも展示をしていただいたことがあります」

塚崎「僕も実は何回か行ったことがあります。都写美のようなサイズはないんですが、ひとつのホールとして見ると都写美にも全然負けていない美しい写真ギャラリーですよね。井上さんも全国いろいろな場所で写真展をやられていますけど、ここはきれいですよね」

井上「そうですね。展示している写真のサイズが横が1800mmなんですよ。フレームと合わせれば 2mの横幅があるものをこれだけ並べることができるんですね。すごく迫力があるんですよ。これが収まりますから、なんて立派な場所なんだろうと思いますね」

塚崎「ライティングもいいですね。写真ってライトが本当に命なんですよ。反射で見るので、入ってくる光が狂うと全部狂うんですけど、ここはすごく気を使っていらっしゃいますよね」

菊地「写真の町ですからね。平成3年に文化ギャラリーがオープンしました。約30年くらい。3年前に増築をして収蔵庫を作ったのと、スタジオを作ってコミュニティスペースを増やしました」

塚崎「本当にきれいなギャラリーですね。この人口でこれだけのギャラリーがある町をなかなか知らないです」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「これ以外の仕事もやってらっしゃるんですよね」

佐藤「文化ギャラリーは写真展だけではなくて、色々な取り組みをおこなっています。去年、僕がちょうど着任したときくらいから始まったのですが、チームラボの『お絵かきクリスマス』というイベントも開催していて、町内のお子さん連れの親御さんもいっぱい来られました」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「その他にも株主や日本語留学生制度があると伺っております」

菊地「東川町はふるさと納税制度を積極的におこなっていまして、制度開始2008年から『東川町株主制度』という名前で、今は関係人口作り、当時は交流人口作りをしっかりやろうと。東川町にいかに来てもらうかということを、ふるさと納税制度を介して取り組もうと行ってきたもので、寄付していただいた方を『株主』と呼んでいます。寄付いただいた方には株主証をお送りしているのですが、それは町内の買い物などで使える地域通貨カード『ひがしかわユニバーサルカード』になっていて、東川で買い物をしたときにポイントも貯まります。さらには、宿泊・アクティビティがセットの返礼品などもあり、東川町で買い物できるようなポイントを付与するようなこともしています。」

塚崎「宿泊施設が割引にもなるんですよね」

菊地「株主証は特別町民証の代わりでもあるという考え方なので、株主証を持って東川町に来ていただくと、町民と同じサービスを受けていただけるということです」

塚崎「暮らし体験館など色々泊まれるところがあるのですが、すごく快適なんですよ。安くて広くて、家具や家電も整っていて、着のみ着のまま来ても生活できてしまうような施設です」

菊地「株主になると、少しグレードは落ちるのですが、2泊まで無料で宿泊ができます。早い者勝ちで少し予約は取りにくいのですが。そして、先ほど塚崎さんがおっしゃった宿泊施設については、1万5000円の寄付をすると1泊無料で泊まれるという運用をしています」

塚崎「僕はもう5回くらい泊まっているのですが、とても快適で素晴らしい場所です。おすすめです。そして次は自然について伺いたいと思うのですが、水田が多いと伺っています」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

井上「飛行機で離陸をすると田んぼばかりの町がこの町なんですよね。2800ヘクタールあるそうです。季節が変わるとすごくきれいになるんです。鏡になるんですよ。ちょうど水が入ったばかりのときに高いところから見ると、鏡のような水田が見られます。そして車で水田の周りを走ると、水がすぐそこまで来ていて、海の上を車で走っているような、そんな気持ちにもなる不思議な季節があります。それくらい水田が多い町だと思っています。ここの水は旭岳の雪どけが一気に流れ込んできているんですね。本当に恵みの水です」

塚崎「水田に浮かんでいる町のようになり、本当に美しいです」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

井上「旭岳の雪どけ水って冷たいですから、1度遊水地に入れて少し温めて流すということをしているそうです。ここにうちの町が誇る一本桜があって、条件が良ければこういう風に見える日もあります。春は風が強くてなかなか水面が穏やかになってくれないんですけれども、条件が良ければ後ろに山も見えてきれいな風景が撮れることもあります」

塚崎「ここ、全然混んでいないんですよ。名所だと朝から並んで場所取りする場合もあるじゃないですか。ここは行ったらその場で撮れる。快適です。先ほどおっしゃっていた水はここから流れているんですね」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

井上「水が滔々と湧き出ている場所も町の奥にありまして、そこに行くときれいに整備されていて、長時間露光で撮るということもできます」

塚崎「本当にきれいな水ですね」

菊地「こちらも大雪山の湧水ですね。ボトリング工場ができまして、そこでペットボトルで販売しています」

塚崎「実はわざわざ取水口があって無料で水が汲めるんですよね」

菊地「はい。無料で取水できるように口がたくさんあって、汲めるようになっておりますが、協力金という形で寄付をお願いしています」

塚崎「北海道中の色々な方が来られて水を汲んでいますよね」

菊地「飲食店経営をされている方が、1週間分まとめて大きなペットボトルに汲んでいるところを見たことがあります」

塚崎「それくらい美味しい水だということですね」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

井上「こちらは旭岳の上からドローンで撮ったものです。ちなみにここにドローンを持っていくと、空気が薄いため、バッテリーが早く消費されてドキドキします。旭岳の紅葉がそろそろ始まります。例年は9月20日には紅葉しているのですが、今年は1週間ほど遅くなりそうで、9月末ごろはじまるのかなと思います。これは紅葉の初めの時期の写真ですけども、いい時期になってくればもっと真っ赤になって素敵な季節になります。そして冬はこの上から僕らの町に転げ落ちるようにやってくるのかなと思います」

塚崎「この大雪山国立公園のなかの旭岳。本当に美しい国立公園なのですが、先ほど空港から町が近いというお話がありましたよね。ということはこの国立公園も空港から近いということですよね」

菊地「空港から10分で東川の市街地ですし、麓の温泉街に行くのに市街地から40分くらいです」

塚崎「空港から簡単に行ける雄大な景色の国立公園ということで。まだまだ混んでいないですから」

菊地「9月末は紅葉シーズンですので、週末は1kmほど渋滞するかもしれないのですが、普段はそんなに混んでいないです」

塚崎「また、天人峡という素晴らしい場所もあります」

菊地「平成の名爆100選にも選ばれている羽衣の滝という非常に素晴らしい滝があり、そこの麓にも温泉街があります。でも実はいま3軒あった旅館のうち、営業しているのはひとつだけになってしまいました。残りふたつは廃墟化しています。それがいま問題になっているのですが、国の協力を得ながら、今年と来年で廃墟をきれいに無くして、元の風景を取り戻す取り組みをしています」

塚崎「もう1度原風景を取り戻すということですね」

菊地「まずは原風景を取り戻して、天人峡の素晴らしさを再認識してもらおうということです」

井上「我々のような写真を撮る人間からすると、すごく素敵な話だと思いませんか?みんなが見たいと思っている風景のところには大抵何かができるんですよ。僕にとって残念だったのが、この流行り病の間に観光地を整備しようと言って、謎の看板を立てる行政がいっぱいあるんですよ。美しい湖を撮る定番の撮影スポットに、看板が立っているんです。やめて、と思うのですが、でも聞きましたか?うちの町長は、原風景を取り戻すんですよ。すごくないですか?僕の町の自慢です。本当に素晴らしいと思います」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「そして井上さん、これは」

井上「今年すごく嬉しかったのが、家の近所の公園でエゾフクロウがヒナを産んで、6羽の子が出てきたんですね。この写真は赤ちゃんが羽ばたいている瞬間です。撮影できて嬉しかったですね」

佐藤「僕も遠くから望遠レンズを構えている人がたくさんいるのを見ていました」

井上「人が集まって大変だったんですよね。ただ、撮影する場所は自治ができて、『これ以上近づかないようにしようね』なんて言いながら撮影していたんですが、多い時は100人くらいの方がいらっしゃいました。また地の利を生かして、朝1便で東川に来て、1日中フクロウを撮ったら最終便で東京に戻るなんていう方もいらっしゃったと聞きますね」

塚崎「すごい。空港が近いとはこういうことですね。最後は文化についてです。様々な文化が関わっているのですが、まずは写真だと思います。こちらについてお伺いしたいと思います」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

菊地「写真の町宣言が1985年と約40年経過しましたが、まず取り組んだのが国際写真フェスティバル東川賞という写真賞です。いまでは日本三大写真賞まで成長しました。そこから10年後に写真甲子園がはじまりました。高校生を対象に今年は584校の応募があって、東川町に実際に来たのは初戦とブロック予選を勝ち抜いた18校で、今年はプラス1校ありましたが、今年30回目を迎えました。東川町だけでなく、今年登壇いただいた美瑛町や旭川市、その周辺の自治体と連携しながらやっています」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「フォトフェスタというのもあるんですね。こちらは佐藤さんがご担当されたんですね」

佐藤「はい。東川町国際写真フェスティバルのなかで、東川賞という先ほど町長から説明があった賞があるのですが、東川賞受賞作家作品展という展示を、わたしがいま勤務している文化ギャラリーで行っています。それ以外では参加型のイベントをたくさん行っていまして、ポートフォリオレビューと言ってご自身の作品をまとめられたものをご持参いただいて、写真界で先頭に立って活躍されている写真家の方や、キュレーターの方に見ていただくという機会も設けています」

塚崎「写真以外にも様々な文化があると思うんですが、まず、デザインミュージアムについて教えていただいてもよろしいですか?」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

菊地「東川町は旭川家具の生産地でして、旭川家具の3割を東川町で生産しているんですよね。旭川とその他2町が中心ですけれども、旭川市は33万人都市、東川町は人口8600人ですから、3割という数字がどれだけ大きいかということですよね。それだけ優れたデザインを取り込みながら家具を作っている職人の方や会社が多くて、30近くあるんです。そういう背景があって、織田コレクションという世界的にも注目されるようなコレクションを東川町が公有化しました。それに加えて、世界的な建築家の隈研吾さんが東川町に非常に注目をしてくださっており、仲良くさせていただいています。隈研吾さんも協力したいとおっしゃっていて、日本初の総合的なデザインミュージアムを目指そうということで、今年から基礎調査をし始めています。ただ早くても着工まであと5年くらいはかかると思います」

塚崎「写真の町と謳っているので写真の話だけかと思ったら、かなりの広がりがあるように感じます」

菊地「先ほども申し上げましたが、写真だけではない、文化や地域にある固有の資源を大切にしようという考えなんです。北海道は開拓の歴史が130年ほどしかないので、伝統というものへのこだわりがあまりありません。いまあるものとこれから作るものを目指していけるわけです。ですから自然を大事にしながら、写真などの文化を大事にしながら、住民の方々と一緒に文化を作っていこうという考え方です」

塚崎「人口が増え続けているヒントはそこにあるんでしょうか」

菊地「移住者が増えてほしいと思って30年間やってきましたが、中心は町民の生活を豊かにしよう、幸せな町にしようということなんですね。それは文化や資源を大切にしながら暮らしやすい町をそのときそのときで作ってきたということで、その積み上げで、成果として結果的に人口の増加が続いているということだと思います」

塚崎「井上さん、実際住んでみていかがですか?」

井上「自分がやりたいことをやるためにいい場所だなと感じています。先日は、学生さんに『将来どんなことをしたいか』とお話をさせていただく機会をいただいて、そこで中高生が集まってきて。写真で食べていくというのは大変なことだと思うのですが、それでもそういったことを夢見ている子が集まっている町にいられるのは、もうそれだけで幸せだなと思いますね。だから僕はふるさと納税をしていないんですよね。住んでいるところに感謝をする気持ちを持って、そのまま自分の町にお支払いしています。それくらい好きな町です」

塚崎「井上さんの写真展を開催したりとか、町に住んでいるアーティストを町が大切にしていますよね」

井上「そうですね。特に流行り病のときは、皆さん大変でしょうということで、写真家やクリエイターの人たちを、町が色々な予算を組んで支援をしてくださったんです。僕自身、あのときは色々な契約が実際に無くなったので本当に感謝しています」

塚崎「佐藤さんも移住してみていかがですか?」

佐藤「話が変わってしまうかもしれないですけど、水がすごく美味しいですよね。東川町は上水道がない町なのですが、蛇口を捻るといつでも大雪山の湧水が飲めるんですよね。それがすごく美味しいです。シャワーもお肌がすべすべになりますし。移住してみて感じたのは、公共施設が新しいということ。せんとぴゅあという図書館があるのですが、留学生など様々な人が勉強していて、空気感がいいなと思いました」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「町長、留学生も多いんですよね」

菊地「日本でただ1つ、公立の日本語学校がありまして、もう1つ専門学校のなかの日本語学校もあるのですが、合わせて370人くらい、常時留学生が滞在しているという環境です」

塚崎「しかも20人くらい職員も外国の方がいらっしゃるんですよね」

菊地「よく各自治体にALTという英語指導助手がいると思うのですが、東川町にはそれが3種類あります。国際交流員、スポーツ国際交流員。全部合わせて20人います。写真の町の国際イベントや留学生の事業についても、その職員がいるからやられているんです」

塚崎「人口約8000人のうち約370人が外国の方というのは、なかなかの割合ですよね」

菊地「だいたい5%くらいになると思います。その他にも、外国人の方が100人近くいて、全部で550人くらいの登録者が東川町にはいます」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「多様性にも富んでいるということですね。ところで、最近映画が上映されるとか」

菊地「多様性といえば、アイヌ民族を皆さんご存じだと思います。日本の先住民族、北海道にアイヌという民族がいて、今でも当然我々と生活をしていますが、和人という本州からの北海道開拓団がアイヌを迫害差別したという歴史が実はあるんです。東川町は北海道で1番高い大雪山国立公園の旭岳を有している。そしてアイヌの方々は全てを神に例えますから、旭岳もカムイというように、神として崇めていたということですね。この歴史は、北海道に住んでいる我々でも、教育を受けていないので分かっていないんですよ。いまウポポイなど色々ありますけど、それを再度東川町から発信しようという取り組みで、東川町を中心に映画を作りました。11月23日に道内先行上映から始まって、来年の年明け1月末ころには全国でも公開しますので、ぜひ見ていただければと思います」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「ぜひ皆さんも見てみてください。文化といえば食文化もあります。こちら井上さんにお伺いしたいです」

井上「なんだか食いしん坊な感じですね(笑)。このなかで1番のお気に入りが写真左上のハンバーグなんですね。変わり種で、ハンバーグの上にご飯が乗っています。しかもこの写真が1番小さいサイズです。すごいことになります。野菜食べるだけでお腹いっぱいになって、いつも大変。この下の写真のパン屋さんはSitoaさんですね。蒸しパンが僕は好きですね。町長はこのなかだと何が好きですか?」

菊地「僕はちゃみせのおにぎり」

佐藤「道の駅 道草館のソフトクリームきらりもすごく美味しいんですよ」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「この写真のなかにはないですが、宮崎豆腐店の豆乳ソフトクリームも美味しいですよね。美味しいものがたくさんあります。コーヒー屋さんやカフェが多いですよね。若い方が移住したくなるのもわかる場所です。そしてこういう絶景も」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

井上「農家の方が畦道の土手にお花をいっぱい植えてきれいにしてくださっているんですね。他の地域ではお花があるってなかなかないんですけども、東川はどうやら皆さんお花大好きなようです。写真を撮るには最高な場所だなぁと思っています」

東川町・ひがしかわ観光協会「北海道の中心で写真愛をさけぶー東川町」

塚崎「こうした写真の町、東川ですけれども。佐藤さん、そんな写真の町に住んでいる『写真愛』について一言いただきたいです」

佐藤「この質問をドキドキしながら待っていました。写真ってすごく愛おしいなと思っているんですけれども、それってきっと、今回の写真展のタイトルにもあるように、世界が愛おしいからだと思うんですよね。その愛おしい世界を、カメラという道具を使って閉じ込められるのが写真なんだと思います。その愛はきっと連鎖して広がっていくものです。それを東川から発信できればと考えています」

塚崎「ありがとうございます。井上さんお願いします」

井上「僕は一瞬一瞬がとても大事な瞬間に見えてならなくて、写真というのは写し止めたその前がどうだったのか、その直後がどうだったのかと想像させる楽しみがあると思うんですね。しかも時を経ると、その瞬間は『懐かしさ』という言葉とともにまた見えてくる。僕は最近、自分の記憶にある1980年代後半から90年代、そして2000年前半のころの少し懐かしい写真を取り上げているX(Twitter)アカウントを、楽しいなと思って見ているんです。走っている車の種類、着ている服、誰かのカバンについているたまごっち。そういうひとつひとつが懐かしくてたまらないんですね。写真は、いま佐藤君が言ったように、瞬間の愛おしさを永遠に閉じ込めてくれるところが素敵なのかなと思います」

塚崎「ありがとうございます。最後に町長、東川愛をお願いします」

菊地「東川は私も好きですし、住んでいる皆さんも大好きなんだと思います。そしてこういった写真の事業を介して東川に関わっていただいたり、来ていただいたりする方も大好きなんだと思います。そしてその大好きだということがこの後も変わらないように、みんなで東川町を育てていく。ときには守っていかなければならない。単純に人口が増えればいいということではなくて、この素晴らしい町が、みんなが大好きな町として、このまま存続できるようにしていくことが私の東川愛だと思います。これを抱負として、まちづくりを進めていきたいと思っています」

塚崎「本日はありがとうございました」

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