トークショーレポート

Talk Show Report

【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」

2023年9月15日(金)~9月18日(月・祝)、東京・渋谷ヒカリエにて開催した「東京カメラ部2023写真展」。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーを行いました。

9月18日(月・祝)に行われた東京カメラ部のトークショーでは、東京カメラ部10選・ナラハシケン氏、東京カメラ部10選・渡邊圭祐氏、東京カメラ部10選・木村知佳氏、コンテスト入賞者・春木悦代氏にご登壇いただき、「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー『愛おしきこの世界。』」というテーマでお話しいただきました。

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「連日ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。4日間にわたって開催しておりました東京カメラ部2023写真展ですが、本日が最後のステージとなります。最後のトークショーは、『カウントダウントークショー』。ある年からいきなり始まったものです。今年のテーマは『愛おしきこの世界。』この写真展のテーマそのものです。東京カメラ部10選・コンテスト入賞者の4名の皆さまの作品を拝見しながら、お話を進めていきたいと思います。まずは登壇者の皆さま、簡単に自己紹介をお願いします」

春木「岐阜県を拠点に日本の風景を撮っています。春木悦代です。よろしくお願いします」

木村「神戸を拠点に活動しています。東京カメラ部10選2021の木村知佳です。よろしくお願いします」

渡邊「ストリートスナップを撮っています。兵庫県姫路市で活動しています。渡邊圭祐と申します」

ナラハシ「皆さん、こんにちは。生まれも育ちも神奈川県横須賀市、主に関東圏で活動しています。ナラハシケンと申します。よろしくお願いします」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「よろしくお願いします。それでは早速春木さんの作品から拝見していきたいと思います。春木さん、ご紹介いただいてもよろしいでしょうか?」

春木「昨年の日本写真100景<四季>でも展示させていただいた作品なのですが、栃木県日光市戦場ヶ原で撮影した一枚です。霧が出ていた朝で、太陽の方にカメラを向けて撮っていたところ、たまたま通りがかったおじさんに『後ろ後ろ』と声をかけられまして、振り返るとこの光景が広がっていました。白い虹を見たのはこのときが初めてでした。時間も5分くらいのことだったので、そのおじさんが声をかけてくださらなければ、見ることも撮ることもできなかった景色です。この写真を見ると親切なおじさんのことを思い出します」

塚崎「ご存知ない方もいらっしゃると思いますので、少しだけ春木さんのお話を補足させていただきます。日本写真100景<四季>というコンテストを東京カメラ部では毎年開催しております。今年が約22,000枚ご応募をいただいて、そのなかから101枚選ばれるという大変倍率の高いコンテストです。このコンテストについては私も審査員の一人として全応募作品を拝見しているので、春木さんのこの作品も覚えています。かなりインパクトがありました。白虹がど真ん中にきれいにきていますもんね」

春木「虹がちょうどきれいに道の真上に上がっていたので、本当にラッキーな一枚ですね」

塚崎「結構気付かないものなんですね」

春木「全く気付いてなかったです。白い虹にお尻を向けて撮っていました」

塚崎「どれだけ周りを見ておくかということが大事だということですね」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

春木「今年の6月末、夫と石川県の親戚の家に行った際、少し時間ができたので立ち寄った場所です。石川県輪島市の曽々木海岸というところです。着いたのが夕方で影が長く伸びていたのが面白かったのと、観光客が他に誰もいなかったので、急遽夫にお願いしてここで飛んでもらいました。ただわたしが思っていたのと少し違ったので、15回くらい飛んでもらいまして、結局一番最初に撮ったこのカットが一番よかったです」

塚崎「残りの14回はボツで(笑)。これ、結構高く飛んでいませんか?」

春木「一番最初が一番勢いがあって、一番高く飛べていました。続けるとやはり体力も落ちてくるので。それでも汗だくになりながら文句も言わずに飛んでくれたことに感謝すると同時に、結婚後も変わらず写真を撮りに行けるのは夫の理解と協力があるからこそだなと思いましたね」

塚崎「いつも一緒に撮りに行かれるんですか?」

春木「いつも『ついて行こうか?』とは言ってくれるんですけど、結局ひとりで行くことが多いです。嫌というわけではなくて、わたしは結構時間をかけて撮るタイプなので、待っていてもらうとすごく気を使ってしまうんです。なのでひとりで出かけてしまいますね」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

春木「滋賀県日野町にある日野川ダムの浮島に咲く八重桜を撮影しました。この日は気嵐が出ていてすごく条件がよかったのですが、寝坊しまして。日の出ギリギリに撮影した一枚です。なんとか間に合っていますね。日の出前も撮りたかったのですが、間に合っていないです」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

春木「実は、最初にこのポイントで撮って、歩いて対岸まで移動して、撮影後に仲間と喋っているときに三脚がないことに気づいたんです。慌てて最初のポイントに戻ったのですが、あるはずの場所に三脚がなくて。周辺を探しても見当たらず、悲しくなってInstagramのストーリーズで三脚がなくなったことをアップしたところ、思いがけずたくさんの方がシェアしてくださいました。三脚がなくなったショックよりも、皆さんの優しさに涙が出ました。数日経っても警察に届けられていなかったので、諦めて新しい三脚を買ったのですが、1ヶ月後にわたしのストーリーズをシェアしてくださった方からご連絡があって、日野川ダムで拾った三脚の持ち主を探している人がいると教えていただきました。直接その方にご連絡したところ、わたしの三脚ということがわかり無事に手元に戻ってきました。いまでもその三脚を愛用しています。お会いしたことがある方もない方も、本当に皆さん親切で、人とのつながりであったり、優しさに感動したことを思い出す一枚です」

塚崎「夫にもおじさんにも周りの方にも支えられているということですよね。春木さん、確かわたしたちと一緒に撮影に行ったときにも三脚を忘れていましたよね(笑)。他に一緒に撮影行かれる方は必ず春木さんにひと声かけてくださるんですよね。こうやって人は支えられていくということですね(笑)」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「そして次は木村さんの作品を拝見していきたいと思います」

木村「こちらは展示している作品で、わたしが神戸で一番好きな景色です。撮影場所はホテルオークラの屋上で、一般的には開放されていないのですが、特別な許可を得て撮影しました」

塚崎「特別な許可というのはどうやって得たんですか?」

木村「神戸観光局さんから『ポートタワーを別の角度から撮ってほしい』ということで、撮影依頼をいただいて撮っています」

塚崎「素晴らしい。観光局さんから仕事として依頼されて撮影されたのですね」

木村「そうですね。それまでお仕事としての関わりは全くなかったのですが、私がポートタワーの写真を含む夜景写真集を販売したいと思って、ポートタワーの商用利用の許可申請について問い合わせをしたことがきっかけで、逆にオファーをいただいたという経緯があります」

塚崎「建物によってはお金が発生する場合もあるので難しいのですが、逆オファーがあったんですね。黙って載せてしまうと、発売後に回収になって大騒ぎになる場合があるんですよね。逆に、こちらから積極的に問い合わせをすると、いいことがあるんですね」

木村「認知してもらえるきっかけにもなるので、問い合わせすることって大事ですね」

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塚崎「人とのつながりというやつですね。そして次の作品です」

木村「わたしはよく飛行機夜景を撮りに行くのですが、伊丹空港の千里川土手から撮影した一枚です。『ボンちゃん』と呼ばれているボンバルディア社の飛行機です。ちょうど輪っかになっているプロペラは、テイクオフがかかってからライトが点灯するんです。正面のライトで反射しているので、正面から撮ると輪っかにはならないんです。ちょうど入ってすぐテイクオフがかかったので、こういう風に撮れています」

塚崎「飛行機は何秒ぐらい停止しているんですか?」

木村「飛行機が連続で行くときは結構止まっています。1機目が行ったあとはジェット気流が発生するので、その兼ね合いで2機目がしばらく待つタイミングがあるんです」

塚崎「飛行機が停止している時間があるから暗くてもこうやってきっちり写るということですね」

木村「はい。レンズが明るいと2〜3秒で撮れるのですが、F5.6あたりだともっと時間がかかってしまい結構厳しいかもしれないですね」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「また、こんな夜景も撮影されているんですね。ここは同じ場所でしょうか?」

木村「同じ千里川土手なのですが、撮る位置によっては飛行機の写り方も変わります。こちらは機体に絵柄が入っており、それを見せたいのでこの場所から撮っています」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「この飛行機は愛称があるとお伺いしました」

木村「黄色いので『たくあん』と呼ばれています。よくInstagramで『たくあん撮った!』と投稿するのですが、『たくあんってなんですか?』とコメントが来ます」

塚崎「スマートフォンにアラートを登録するくらい好きな人もいるとか」

木村「フライトを追跡するためのフォローアップアプリがあって、それを使うと日本中の飛行機がどこにいるかがわかるのですが、機体が伊丹に向かってきたときにアラートが鳴るように設定ができます。着信音を選べるのですが、わたしの場合『メーデー!メーデー!』と叫ぶ音なのでお母さんに『怖いからやめて』と言われます」

塚崎「『メーデー』が鳴ってからどれくらいで伊丹に来るんですか?」

木村「東京から来るときは1時間くらいです。沖縄便だともう少し時間がありますね」

塚崎「ご自宅から伊丹までどれくらいかかるんですか?」

木村「混んでなければ50分くらいですね」

塚崎「結構ギリギリじゃないですか(笑)。行って即撮ると」

木村「どうしても撮りたい場合は高速で行くと40分くらいで行けます」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「続いて渡邊さんお願いします」

渡邊「見た人の想像力に委ねる写真というのを撮ることがあって、これも一見なんの写真だろうと思われると思います。信号の真ん中あたりをよく見ていただくと、柱の上に網があって、そのなかにカプセルトイの緑色の空のカプセルが乗っているんです。これを青信号に見立てて撮影したのですが、引いて見たときは特に違和感がある写真ではなくて、ある意味すごく地味に見えると思います。でもよく見るとこういった仕掛けがあって、それに気づいたときに感動していただけたらなと。アハ体験のようなものです」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「カラーボールなんですよね。よく見ると、緑と赤って同時に点滅するわけないじゃないですか。でもなかなか気づけないですよね」

渡邊「そうですね。僕はいつも撮っているからわかるけれど、他の人にとっては写真自体が地味だと思うんですよ」

塚崎「写真を見たときに、『なんだろう?』と探す楽しみがあるということですよね」

渡邊「今回小さいお子さんにも見ていただいていて、子どもの方が気づいてくれて、お母さんに教えてあげたりしていますね」

塚崎「ぱっと見てわかる写真ももちろんいい写真ですが、わからないときに宝物探しのように探してみると本当に面白いですよね」

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渡邊「鳩のサイズ感が錯覚のように見える一枚です。大きい鳩が手前にいて、小さい鳩が奥にいるので錯視のようになっているんですね。ずっと撮りたいと思っていて、先日ついに撮ることができました。床とベンチが同系色だったり、目地の方向性が同じだったりすることでひと繋ぎに見えるのでこういった写真が撮れました」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「説明すると、ここが床で、ここから先はベンチなんですよ。自分が座ってるベンチだから近いんですよね。こちらの床は本当は遠いんですよね。だけどおっしゃる通り、目地が一緒っていうのと、影の位置が同じくらいなので、まるで大きい鳩と小さい鳩に見えるんですよね。現実世界は3次元ですよね。でも目に入るときに、瞳孔が2次元なんです。3次元構造になってないので、2次元に変換されます。それを脳が3次元に変換するんですね。人間は、視差と、視差以外の情報も含めて3次元を把握するんです。その一つが遠近法(色彩遠近法、線遠近法、空気遠近法)です。それに加えて、影もあるんです。太陽光が強くて影が出ているとおそらくこの錯覚は起こらないんです。人間の脳のいわゆるバグを上手く使った写真です。脳にチャレンジしているんですよね」

渡邊「それが言いたかったです(笑)」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「続いての写真も面白いですね」

渡邊「他に撮っている写真とは圧倒的に自分のなかでの立ち位置が違います。頭の上からハートが出ている写真を撮ろうとしたときに風が吹いて、髪がなびいて、そのなびいた髪に光が当たって、ハートの形を作っているんです。髪の毛と、後ろの看板のハートが繋がってるように見えませんか?シャッターを切ったときにたまたま風が吹きました。自分の実力ではなくて、100%運だと思うのですが、でもスナップをしていたら年に1回くらい、自分の実力を圧倒的に超えたような写真が撮れることがあって、だから写真を続けられるんだと思います」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「これ、絵で描いたら面白くないんですよね。CGも面白くない。AIも全然面白くない。リアルでこれがあるからクスッと笑えるんですよね」

渡邊「本当にそう思います。Photoshopで足したり引いたりではなくて、本当にそのままの状況というのが面白いと思います」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「残念ながらスナップ写真って、世の中的にはあまり人気がないんですよね。風景写真やポートレート写真の方が人気なのですが、個人的には激しく推しています。スナップは現実の被写体を撮るという写真ならではの面白さ、ひとつ大事なものを持っていると思うんです。スナップ写真を見ていると『現実世界に面白いものがあるよ、こんないいとこあるよ』と教えてくれる気がします。こういうことに気づく人って、普段どこを見ながら歩いているんだろうと思いますよね。でも、その視点を持てるのがスナップだと思うんです」

渡邊「そこが一番の醍醐味だと思います。視点だけで勝負できるので」

塚崎「特別な場所ではなくても、私達の身の回り、例えば普段の帰り道、毎日の通勤路、そんな場所でも面白いものがあることを気付かせてくれますね。また視点以外にも大切なことがあります。木村さんや春木さんの作品もそうですが、許可を取ることで人と違うものが撮れたりとか、おじさんに声をかけてもらって撮れたりとか、写真を撮る技術以外の側面が大切になっていますよね。そうしたことで写真は変わってきます。」

渡邊「本当にいつでも撮れるんですよね。晴れた日だけではなくて、曇天の日でもそのときなりの楽しさがあるんですよね。鳩の写真がまさにですが、曇天の日じゃないとこういう風には撮れないですよね。天気が良かったらこうはならない。天候に左右されることもないし、家の近くにある公園でも、面白いものって見つけることができると思います。皆さんにもやってもらえたらと思います」

塚崎「個人的にスナップはとても大事だと思っているので、ぜひ皆さんにも今日の帰り道から撮っていただきたいです。やってみてください」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「続いてナラハシさんのお話を伺いたいと思います。まずこちらの写真です。」

ナラハシ「僕は神奈川県の横須賀市に住んでいるのですが、関東圏にお住まいの方で、『きれいな白い砂浜』と聞いて思い浮かべるのはどの辺りでしょうか?伊豆の白浜などですかね。僕の家から伊豆の白浜まで車で行くと4〜5時間ぐらいかかるくらい遠いのですが、実はここは僕の家から数分で行ける、地元横須賀市のたたら浜という、とてもきれいな海です」

塚崎「こんなにきれいな海が横須賀にあるんですね」

ナラハシ「軍港のイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれないですけども、こんなにきれいな海が身近にありますので、夏はぜひ遊びに来てください」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「ただこういった海辺の撮影では、気をつけないといけないことがありますよね」

ナラハシ「水着の方がいらっしゃるときは配慮が必要ですよね」

塚崎「いつごろ撮影されたんですか?」

ナラハシ「夏っぽい写真をイメージしつつ、撮ったのは真冬の12月末ですね。モデルさんが寒いなか震えながら頑張ってくれました」

塚崎「そうやって配慮することでこのような写真が撮れるんですね。冬は人もまばらですし、また横須賀はお魚が美味しいので、ぜひ皆さん行ってみてください。そしてこちらの洞窟はどちらですか?」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

ナラハシ「この写真も僕の地元の横須賀市です。荒崎海岸の岩と夕陽ですね」

塚崎「こんな洞窟ありましたっけ?」

ナラハシ「洞窟のように見えるのですが、実は穴があいているところではなくて、横から見ると窪んでいるんですよね。面白いなと思って入って行って、海を見たら『これは!』と思い、広角レンズをつけると岩のフレームが完成しました。横須賀にこんな場所があったんだ、と発見でしたね。海外ではこういったものを見られる場所があると思うのですが、僕の地元の横須賀でこんな画が撮れると思っていなかったので、テンションがすごく上がりました。よく見ると鳥が飛んでいるんですよね。僕のいる裏側でバーベキューをしている人がいたので、それを狙ったんだと思います」

塚崎「洞窟に見えるけど、洞窟じゃない。こんな場所があるんですね。カメラって人間の目と見え方が違うので、思わぬものを作り出せるということですね。そしてこちらの作品です」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

ナラハシ「こちらは隣にいる渡邊圭祐さんとの合作です。今回の写真展のテーマが『愛おしきこの世界。』ということで、『愛』を自分のなかで考えたとき、愛といえばやはりジョン・レノン。ジョン・レノンといえばビートルズ。ビートルズといえばアビイ・ロード。アビイ・ロードといえば横断歩道が出てくると思うんです。でも横断歩道って撮影場所としては難しいなと思って。交通ルールがあるじゃないですか。安全に横断歩道を撮影できる場所はどこだろう、と考えたときに、横須賀の根岸交通公園だと思ったんです」

塚崎「これは公園であって道路ではないですよね」

ナラハシ「小学生を対象にして、コンパクトサイズの交通のシステムを作っているんですよね」

塚崎「確かに小さいですよね。横断歩道の幅も狭い」

ナラハシ「公園内なので堂々とこの撮影ができたということです。もともと仲がよかった渡邊圭祐さんと僕が東京カメラ部10選の同期になったということで、二人でなにかできないかを話し合いました。そこで、いままで合作っておそらく誰もやっていないよね?という話になり、こういった結果になりました。圭祐さんから話をもちかけてくれて」

塚崎「この写真に写っているのはお二人ですか?」

ナラハシ「はい。前の白い洋服と、グレーの洋服が僕です。前から2人目と一番後ろが圭祐さん」

塚崎「2枚の写真を合成しているんですね。スーツの色もなんとなく本物と似ているような気がします」

ナラハシ「本物の画像を見ながら合わせているので、とても近いと思います」

渡邊「ケンさんがすごくこだわってくれて。全部用意してくれて、段取りもよかったです」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「おふたりは仲がいいんですか?」

渡邊「結構前からの仲ですね。一年に一度くらい泊まりに行かせてもらったりして。同じ10選になったときは震えました。自分が決まって、そのあと相手に聞くのって怖いじゃないですか。だから発表を見たときは嬉しかったですね」

塚崎「直前に連絡が行きますもんね。発表の10日前くらい。一番短い方だと3日前の場合も。わたしから直接フレンド申請して、DMでご連絡しています。お二人は10選になる前も何かで同期だったんですか?」

渡邊「2019年のInstagram部門だと思います。でも、なんで仲良くなったんだろう?」

ナラハシ「見た目が似ているからじゃないですか?ジャンルが同じというか」

塚崎「なるほど。木村さんどうですか?」

木村「そうですね、似ていると思います(笑)」

塚崎「展示の隣同士の方が仲良くなるというのはよくあるんですよね。来場してくださる方のために在廊している間に自然と、ということが多いです」

渡邊「ケンさんはすごく優しくて。物腰柔らかい方で、丁寧だし。いい人だな、と思って仲良くなりました。人間性に惹かれましたね」

ナラハシ「お互いにSNSのアイコンが顔だったのですぐにわかりました。写真と存在は知っていたので」

塚崎「Instagram部門や日本写真100景〈四季〉など、いろいろな展示があります。そこで入賞した方が10選になることもあるし、全然関係なく10選になることもあります。木村さんは直接10選ですか?」

木村「そうですね。最初から10選です」

塚崎「春木さんは日本写真100景〈四季〉にたくさん選ばれていますよね」

春木「4年連続選んでいただいています。ありがとうございます」

塚崎「なかなかいないと思います。ご応募くださりありがとうございます」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「春木さん、木村さん、ナラハシさん、渡邊さん、ありがとうございました。
さて、恒例となりますが、最後に私の方から皆さまに恐縮ながらお話をさせていただきたいと思います。まずご来場の皆さま、お忙しいなか本当にありがとうございます。もう明日は平日というなか、会場にとどまってくださいまして感謝しています。そして、忘れてはならない展示者の皆さま。ご登壇の方もそうですし、他の方々もそうです。ご自身の大切な大切な宝物である作品を応募してくださり、ありがとうございました。特に選ばれた方々は、たくさんの手続きにご協力をいただきありがとうございました。手続きの中には『これは本当にあなたの作品ですか?』というような、まるで疑われているようなチェックがあって申し訳ないのですが、この世知辛い世の中、人様の作品を応募する方がたくさんいらっしゃいます。そうではないということをしっかり証明する必要があります。そうしないと皆さまの迷惑にもなりますし、その本来の持ち主に対して多大な迷惑がかかるということで、かなり丁寧に、厳しくやらせていただいています。本当に面倒だったと思うのですが、ご容赦いただきましてありがとうございます。そして、展示をしている作品のかなりの作者の方が在廊してくださっています。ご来場してくださった方々に説明をしたり、例えばポストカードやポートフォリオを置いたり、様々なことをしてくださっています。この写真展がこれだけ盛り上がるのは我々の力ではありません。間違いなく皆さんの力です。我々の作品はここに一枚もありません。我々に会いに来てはいないんです。我々は箱なんです。皆さんのファンが、この会場に来てくださっている。その結果、日本最大級といわれる写真展が開催できている。本当に御礼を申し上げます。そして我々と皆さまだけでは、この写真展を開催することが到底できません。残念ながら、東京カメラ部はそんなに大きな会社ではございません。財力的にも厳しいものがあります。体力的にも厳しいものがあります。そんななか、各企業様が多大なるご支援をしてくださっています。また、自治体様も手厚い協力をしてくださっています。おかげで我々はこの写真展を開催することができています。本当に御礼申し上げます。ほとんどの企業様は毎年毎年出展してくださるのですが、世の中でマーケティング費用がどんどん削減されているなか、それでもこの場にはそれだけの価値があるということで、ご支援いただいていることを厚く御礼申し上げます。そして、去年はいろいろなことができなかったということで、お詫びを申し上げたこと、私は忘れていません。去年はレセプションをまともにできませんでした。ポートフォリオも置いてはいけませんでした。誰かが触ったものをまた他の人が触って、もし感染症が拡大したら危ないからという理由でした。そして椅子も置きませんでした。会場の椅子がほとんどなかったんです。会場内に長時間滞在してはいけないと言われたからです。皆さん『もう足が痛いよ』と言いながらも、しょうがないと立ってくださっていました。本当に心苦しかったです。申し訳ありません。そして控え室もありませんでした。そこも密になるということでできませんでした。そして、打ち上げ。通常、出展者の方と我々で打ち上げを過去やっていたのですが、こちらも去年はできませんでした。今年も打ち上げはできていません。来年、必ずできるというお約束はできないのですが、ぜひやっていきたいと思っていますので、引き続きご支援のほどよろしくお願いします」

塚崎「そして、ここから未来に向けてお願いをしたい話があります。東京カメラ部は、『世界中のクリエイターに自由な発表の場を提供することを通じて世界中の感動を見つけ出し、伝え、世界中の人々の幸福を増幅する』という、壮大な、生意気な目的を持っています。そのなかで我々が一番大事だと思っているのが、自由な発表の場です。それがどんどん失われていると感じているから、なんとかしたいと思っています。なぜ失われているか。SNSと炎上は、切っても切り離せない状況になっています。『そんなことあるの?』と感じる人はひとりもいらっしゃらないと思います。必ずどこかで見たことがあるし、下手すると知り合いが巻き込まれた方や、最悪の場合、ご本人が巻き込んだり、巻き込まれた方もいらっしゃるかもしれません。これは本当に悲しいことです。なんとかしたいと切に願っています。ただ、ある意味でしょうがない部分もあるんだ、ということは理解しています。そもそもヒトは、他罰に快感を覚えるものです。人間はそういう生き物だということだと思っています。他罰というのは、ヒトが進化の中で手に入れたスキルだからです。文化が培った規範のある社会のなかで、長い年月をかけて、好戦的で反社会的な者を罰して排除してきた。事実として、我々は人類の長い歴史のなかで、好戦的な人間、反社会的な人間を排除してきたんです。その結果、残ってきた種が我々なんです。だから必然的に、好戦的な人間、反社会的な人間に対してものすごく嫌悪感を覚える。他罰感情が我々には強く強くある。これがまさに我々なんです。だからSNSで炎上が起こるのは当たり前なんです。人気のヒーローはみんな他罰ですよね?大人気の刑事モノドラマ。他罰ですよね。悪い人をやっつけてよかった、となりますよね。人助けの医療ドラマも気づけば巨悪退治になっていませんか?人を助ける話だったはずなのに、なぜか巨悪が出てきてやっつけるという話になっている。基本的に僕たちが大好きなのは他罰なんです」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「そしてSNSというのはそれを加速させるんですね。まず第一に『確信が増す』ということです。SNSでふと検索をすると、自分に都合のいい情報が簡単に見つかります。我々がまさに経験してきたコロナや、いま起こっている風評被害問題もそうですよね。自分が信じているもののワードをX(旧Twitter)かGoogleに入れてみてください。必ず、それを補強してくれる理屈が見つかります。自分で思いつかなくても、誰かがそれを発信しているんです。だからそれに乗ってしまえるんですね。さらに嘘は6倍早く拡散するといわれています。真実というものは、完璧なものではありません。嘘は全部作り上げられるから完璧なものが作れるんです。だから完璧な話があったら、怪しいと思ってください。だけど、普通は怪しいと思わないから、どんどん拡散していきます。これが現状です。さらに人間って『三人集まれば文殊の知恵』ということわざがありますよね。それだけじゃないんですね。人は集団になるとバカになるんです。群衆心理というのですが、自分と異なる意見を持つ人との交流を避けて、自分と意見が同じ人だけでどんどん集まるんです。そして違う人を『あいつダメだね。あいつバカだね。あいつわかってないね』と言って、どんどん広がっていきます。あの人も言ってた。私も言った。もっと言わなきゃ。という話がこうやって起きるんです。これがSNSなんですね。そうしてなにが起きるかというと、地獄の扉が開くんです。思想純潔が生まれるんですよ。自分たちこそ正義で、他の考えは一切ありえないと。違うことを言った瞬間、『こいつはおかしい』と。不純であると。不潔であると。だから叩いていい、排除していいという話になるんです。本当にそうなんです。さらに神聖な価値観、というものが生まれてくるんですよ。本当に恐ろしいんです。『ダメなものはダメなの!』これは最悪です。もう理屈が通じません。会話ができません。こうなるから炎上が起きるんです。こうなると自由な発表の場が死ぬんです。そうすると皆さんが発表したい作品だって、『もしかしたら炎上するかもしれない』とか『やったら怒られるかもしれない』と思いながら投稿しなくてはならなくなります。例えば先ほどの渡邊さんの写真だって、クスッと笑える話なのに『信号が赤と青というふうに勘違いをして、事故が起きたらどうするんだ!』なんて嘘みたいなことが起こるんですよ。実際東京カメラ部にはそういった声が届くんです。びっくりしますよね。本当ですよ。線路の写真を撮っても、線路が錆びているから公園だとわかるのに、『こんな写真を投稿して危ないじゃないか』と言われるんです。他の人が『線路が錆びているから、公園だとわかりますよね?』とコメントしてくれるのですが、自分の観察力が不足していたことを棚に上げて、『そのことを分かりやすく説明してないなんてけしからん』と他人に責任を求めるようになるんです。本当に恐ろしい状況になってきていると思います。ここで皆さんに、ぜひご協力をお願いしたいと思っています」

東京カメラ部「【東京カメラ部2023写真展】カウントダウントークショー「愛おしきこの世界。」」

塚崎「まず第一にご自身が、興奮して「道徳主義的な怒りの発作」にとらわれてるな、となってしまったとき。または「他人を悪者に仕立ててしまっている」とき。もしそんな気持ちになっているな、とふと気づいたら、まず深呼吸して、その物語を別の角度から見てほしいと思っています。『本当にリポストしなきゃいけないことなのか?』とか『コメントで注意しないといけないことなのか?』など少し考えてほしいんです。世のなか悪い人ばかりではないはずです。「自分が正義だと思ったとき」が一番危ない。僕も本当に考えています。自分が正義だと思ったら、なにもしないでおく、とりあえず待っておく、ということですね。そしてラッセルの言葉です。『他人にたいしておおらかで、寛大な態度をもつことは、単にその人に幸福を与えるだけでなく、自分にとってもすばらしい幸福の源泉なのである。』カッと来たときに一歩引いて、寛容になる。この気持ちを忘れないでください。こうした気持ちを、皆さんと共有して、わたしは皆さんと、『感動共有による寛容な世界の実現』をしたい。これが実は我々の会社のビジョンです。東京カメラ部は、これを目指しています。説教くさくなってしまって本当に申し訳ないのですが、ぜひ皆さんには、より一層、寛容になっていただければと切に願っています。そして、こうした寛容な世界が実現すれば、『世界はもっと美しい』ということに、今以上に多くの方々に実感していただけると思っています。スナップ写真もそうでした。白い虹もそうでした。洞窟のように見える場所もそうでした。夜景だってそうです。我々が日々暮らしているこの現在が、こんなにも美しくて、そして愛おしいんだと日常の中で気づける。そんな世の中でい続けたい、したいという想い、願いを持って、我々はこの写真展を開催しました。もし少しでもこの想いに共感いただけるのであれば、皆さんもご協力をいただけると本当に幸いです。本日はどうもありがとうございました」

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