カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」



2017年4月28日(金)~5月6日(土)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2017写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。

5月3日(水)に行われた特別企画のトークショーでは、カメラマン 山岸伸氏、東京カメラ部10選 伊藤公一氏、宇賀地尚子氏、鈴木悠介氏、東京カメラ部運営 塚崎氏にご登壇いただき、「写真表現の可能性」というテーマでお話しいただきました。

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

塚崎「以前山岸先生の事務所にお伺いして”KAO’S”という作品を拝見させていただいたとき、何十年も前にこんなに自由な写真の表現方法があったのかと驚きました。そしてぜひお話をお伺いしたいということで昨年のトークショーにも出ていただいたのですが、今年もこうして先生にご登壇いただけて非常に光栄なことだと思っています」

山岸「彼に見てもらったのは32年前の写真なんですよ。そんな前の写真をいいと言ってくれたのが新鮮で。米米CLUBの石井竜也さんにも改めて見せたところ、『やっぱりいいね』と喜んでいただけました。これから見せていただく皆さんの写真も32年後に色あせないであるのかどうか、楽しみですよね。僕は自分では才能はないと思っていますが、将来を見ていたんですね。だから正面と横と横を撮っていた。それが今日のようにPhotoshopなどを使える時代になって活きてきているんです」

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

塚崎「その当時の作品を、実際に見せていただきましょう」

山岸「絵を描いた石井さんとモデルになったジェームス小野田さんと写真を撮った僕の3人で『これをアートって言おうよ!』と言って作ったものなのですが、カラー写真をモノクロにして更にその上から色を乗せていったんです。石井さんの色使いは天才的なので、誰が触ってもアートになったと思います」

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

山岸「これは外で撮ったものなのですが、写真をいじっているうちに空の部分をモノクロにしようと思い立ちました。それで、胸毛があるからそこは黒く隠してしまおうと(笑)今見ると荒い完成度なのですが、丁寧にやりすぎず質感を大事にしようとしていましたね」

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

山岸「これは写真を複写してモノクロにして、ゴールドを入れた作品です。顔は正面と横で撮ったものを合成していますね。当時そうやって撮っていたから、今簡単に合成ができる。時代を読んでいたということですね」

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

塚崎「それではここから東京カメラ部10選の皆さんにご登壇いただきたいと思います。まず伊藤さんの作品から拝見していきますね」

伊藤「伊藤公一と申します。よろしくお願いいたします。僕はどこに行きたい、何を撮りたいということはほとんどなくて、普段生活しているときに思ったことや感じたことを、写真を見た人に追体験して欲しいなという風に考えています」

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

伊藤「こちらの写真は岩手県の小岩井農場で撮影したものです。夕暮れであたりが暗くなりつつある時間に、このまま僕らも消えていくんだろうなという感情が浮かんできました。そんな感情を皆さんにも追体験して欲しかったので、モデルと一緒に走ってサーボAFで追尾をしながら撮りました。800~900枚前後撮影した中で、崩落感が強いものをセレクトしました」

山岸「君は控え室より饒舌になってなんだか輝いているね!こうやって皆の前でプレゼンテーションができる時代っていいですよね。8K動画の切り出しを使えば誰でもこういう動きものの作品が撮れる時代ですが、彼女と一緒に走る楽しみを共有しているように見えます。それは非常にいいと思いますよ」

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

伊藤「少し落ち込んだ気分で鳥取に一人旅に行ったとき、この場所で天啓を授かったように思えたので、何か言葉が聞こえてくるような感覚が伝わるように撮りました。防寒のマントを着た自分なのですが、三脚を使って自撮りをしています」

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

伊藤「休日出勤が続いた夏の日、二匹のセミが死んでいるところが目に入りました。僕もこうなれればいいなあとぼんやり思いながら撮った一枚です」

山岸「いつも幸せを求めてカメラを持ち歩いているのに、逆のものに目が行ってしまったんですね。いい写真を撮る人ってメンタルが弱いというか、繊細な方が多いんですよね。僕もこう見えて非常に気が小さいんです」

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

塚崎「続きまして、宇賀地さんお願いします」

宇賀地「私の写真は日常の中の非日常を写し出したものが多いんですが、普段頭の中に絵が浮かんでくるんですね。それを専用の落書き帳に書き留めておいて、それには何が必要か考えて買い揃えて、モデルさんと打ち合わせをして撮影に至ります。私は専業主婦なので時間にも予算にも制限があります。高いスタジオを使ったり、ロケで遠出するのは不可能なので、ほぼみんな自宅で撮っています」

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

宇賀地「こちらも自宅のお風呂場なのですが、浴室の電気を消してクリップオンを天井バウンスして撮りました」

山岸「僕たちプロも予算がない仕事ある仕事それぞれだから、ある時はあるなりに、ない時はないなりにやっているんですよね。家事をしているときにふっと思い浮かんだことをメモしておいて後で具現化するというのはすごく大切なことだし、それは主婦ならではのことだと思いますね」

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

宇賀地「これも自宅で撮っているので大きいディフューザーなどの機材はないんですね。でも柔らかい光で撮りたかったので、45Lのゴミ袋をテープで繋げて4mくらいに大きくして、物干し竿にクリップで留めて撮影をしました」

山岸「こういう作品が撮れない人はお金がないんじゃないんだよね。お金があったって何も撮れない人もいる。お金がないのであれば知恵を出せばいい。この時代、知恵がない人はダメだと感じますね。あなたはお金がたくさんあったらあったでもっといい写真が撮れそうだよね」

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

塚崎「続きまして鈴木さんお願いします」

鈴木「鈴木悠介と申します。普段はウエディングフォトグラファーをしています。最近はウエディング写真も自由になってきているところがあるので自分の色を出しつつ撮ってはいるのですが、やはりそれでは物足りないところがあって、こうやって自由に撮れる写真のときはそれが爆発するんです」

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

鈴木「僕は写真を撮るときに、光というよりも『あそこの影がきれいだな』と思って場所を探すことが多いです。しっとりとした一枚ですが、撮影するときは叫び合いながら撮っていたのでモデルさんが笑ってしまったりしましたね」

山岸「ウエディングフォトグラファーは大変だよね。僕、結婚式の写真は頼まれてもお断りするようにしています。僕が踏み入れない世界で頑張っているあなたはすごいと思いますよ」

鈴木「ウエディングフォトグラフは好きだしやりがいがあるのですが、笑顔の写真がメインになるんですよね。だからこういうしっとりとした写真を撮ることはなかなかできないんです。この場所も仕事のロケで使った場所で、光と影がきれいだなと思っていたんです」

山岸「あなたはこの女の人のことが好きだよね。そういう気持ちが入っているから、一枚の写真にそれが現れるんだよね」

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

鈴木「この写真は普通の公園なのですが…これも彼女に恋して撮った写真ですね(笑)」

山岸「彼はこういう場所をちゃんと知っているよね。撮るべき時間帯を把握してイメージを作っているのがわかる。自分で場所をいくつ持っているかなんですよね。自分にしか撮れない場所をたくさん知っている人が強い。そして、カメラマンは影響を受けやすい人がいいんですよ。いいなと思ったものを持ち帰って自分の写真に取り込む。僕も今日若い人からの刺激を受けてまたたくさん写真が撮りたくなりました」

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

そしてなんと会場には”KAO’S”のモデル、ジェームス小野田さんがお越しになっていました。急遽ステージ上にお招きし、山岸氏と当時の撮影についてお話いただきました。

カメラマン 山岸伸氏 × 東京カメラ部10選 伊藤公一、宇賀地尚子、鈴木悠介「写真表現の可能性」

山岸「最後になりましたが、2017年6月13日(火)~6月29日(木)にキヤノンSタワー2階 キヤノンオープンギャラリー1・2で写真展『KAO'S2』が行われます。紙にも額装にもこだわり、一つの写真を作るのにこんなに一生懸命やっていいのかな?というくらい真剣にやっています。ぜひ見に来てください」

塚崎「山岸先生、東京カメラ部10選のみなさん、本日はありがとうございました」

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