トークイベントレポート

東京カメラ部 10選 2014 写真展:1億人が選んだ、10枚。【SIGMAトークショー】

2014年6月18日(水)~30日(月)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部 2014写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは多くの人気フォトグラファーをお招きして、写真を見ながらのトークショーが行われました。

6月19日(木)、21日(土)、22日(日)に行われたシグマのトークショーでは、内田ユキオさんにご出演いただき「Quattroは写真をどう変えるのか」というタイトルで、シグマの高画質デジタルカメラ「SIGMA dp2 Quattro」の魅力についてお話しいただきました。

SIGMAトークショー

内田ユキオさん。

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CP+2014で発表され話題を呼んだ、新開発Foveon X3 ダイレクトイメージセンサー(ジェネレーションネーム“Quattro”)を搭載した「SIGMA dp2 Quattro」。発売は2014年6月27日(金)。

シグマ・Foveonとの出会いから10年

内田さんがシグマのFoveon(フォビオン)ダイレクトイメージセンサーを使い始めて10年が経つそうです。シグマとの出会いから10年を振り返り、Foveonがどのように進化してきたのかをお話しいただきました。

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はじめはトークテーマのQuattroの基になっているカメラたちの話です。「シグマの“画質だけは”スゴイ! とみんなに言われる、その“画質だけは”の部分とはどのようなことなのかお伝えできれば思います」と、内田さん。スライドのオープニングは、見た人に「おぉ~っ!」と驚いてほしいという、かっこいい仕上がりになってしました。

SIGMAトークショー

内田さんとシグマとの出会いは2003年。SIGMA SD10というデジタル一眼レフカメラがシグマと付き合う始まりです。その2年前の2001年、カメラ業界にとって、とても大事な年だったそうです。それは…

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2001年が“カメラグランプリをフィルムカメラが獲った最後の年”ということ。「僕はこのころバリバリのフィルム使いでした。2001年にフィルムカメラのα-7(ミノルタ)がカメラグランプリを獲り、そのあとEOS(キヤノン)が2年連続で獲って、D70(ニコン)、α-7 DIGITAL(コニカミノルタ)が獲ります。この時、カメラ業界はのんきで「4年連続デジタルカメラ受賞!」とカメラグランプリの受賞コメントにも書いてありました。このときはフィルムカメラが押し返すとカメラ業界も信じていたし、僕も信じていました」

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シグマが2003年にSIGMA SD10というデジタル一眼レフカメラの主力製品を発表します。「SD10が発表されたとき、ほかのメーカーはAE、AFに次ぐ画期的な技術と呼ばれる手ブレ補正機能を搭載しているカメラを出していました。それにも関わらず、シグマのカメラは3枚くらい撮ると電池が切れてしまうんです。一度電池を抜いて、クルクル回すと復活するのでインターネット上では“電池クルクル”と呼ばれていました。21世紀のカメラなのに電池を抜いて回して復活させるので、仕事では使えいないカメラでした。でもこれが当時のシグマのデジタルカメラの主力製品でした」

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この後、何度も出てくるシグマのデジタルカメラの機能と主流デジタルカメラの機能の差を時計で表したもの。「確実にシグマのデジタルカメラの機能は、他メーカーよりも遅れていました」と内田さん。

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シグマにとって大きな出来事は2005年。SIGMA 30mm F1.4 EX DC HSMという単焦点レンズが発売されました。「デジタルカメラの世界で、ほとんどのメーカーはズームレンズから力を入れていきました。だけど、シグマは早い段階で単焦点レンズを出しました。このレンズを使うためだけに、SIGMA SD10を使ってもいい! と思うくらい描写力がきれいなレンズでした。驚いたのは、当時のデジタルカメラは“シャドウ側に露出をふって後から明るくしないときれいに撮れない”というのが定説でした。しかしSD10はハイライト側のダイナミックレンジが強かった。かなり粘って、気持ちの悪い白飛びやトーンジャンプをしなかったんです」

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「ある仕事の帰り道の電車で撮ったこの写真で、初めてデジタル写真で奥行きというものを感じたんです。“これがFoveonなのか!”と。そのとき、僕はデジタルカメラの未来に可能性を感じました。僕はポジで写真を撮っていたので、カラーネガの写真家たちに少しコンプレックスがあったんですが、色のトーンを自分で調整できるデジタルカメラの世界に魅力を感じました。いつか仕事にデジタルカメラを導入する日が来るのかもしれないと…。」

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カメラブランプリの話に戻り、2006年にD200(ニコン)、2007年にK10D(ペンタックス)、2008年にD3(ニコン)がカメラグランプリを獲ります。「D3が獲ったとき、ついにISO6400の時代がやってきた! とカメラ業界が盛り上がった。シグマはQuattroの先祖であるSIGMA DP1、SIGMA DP2をだします。だけどシグマのDPは、ISO6400の時代にオートにするとISO100とISO200しか選べないカメラだったのです(笑)」

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「高感度が撮れなくてもDP1、DP2はモノクロがモノクロらしい諧調で撮れる数少ないカメラだったので、僕はすごく好きで作品を撮っていました」

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内田さんはDPを手に入れて、当時の内田さんにとって大事な「Sustain」というシリーズの作品を撮ることになったそうです。

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「Sustain」は都会の孤独や孤立をテーマにした作品で、銀座や渋谷の街を撮ったシリーズです。

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「さっきSDを気に入ったと言いましたが、本当にFoveonに対して手ごたえを感じたのはDPからです。カメラが小さくて、その中に高画質が入っていて、どこにでも高画質を持ち歩けることが実感できました」

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「シグマがすごいと思ったのが、99%のメーカーが作例でこのフレアの入った写真を作例として使いません。フレアはレンズの欠点だから。だけど、シグマは「この写真いいじゃないですか」とCP+で使わせてくれたんです。納品した僕もどうかしていますが、採用してくれたシグマもどうかしてるなと(笑)」

カメラグランプリの話に戻り、2009年はフルサイズ、フルハイヴィジョン動画、20メガ、感度拡張ISO25600というスペックのEOS 5D MarkII(キヤノン)が獲りました。「当時のカメラマンはみんなEOS 5D MarkIIを使っていましたね。プロのカメラマンがこれを使うようになると、仕事の基準がこのカメラの性能で当たり前になるので、仕事をするとその日のうちに納品してくださいね。と言われるんです。正直、シグマのカメラで仕事をするのは大変でした。だけど、DPを北欧に持って行ったとき、水が水に写ることに感動しました。そのときFoveonにしか撮れない絵があると実感しました」

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2010年にミラーレスカメラのE-P1(オリンパス)がカメラグランプリを獲ります。「ミラーレスというと、シグマにはとっくにSIGMA DP2がありました。このカメラはすごくよくて、いろいろなところに持っていきました。後継モデルのSIGMA DP2xというカメラは今でも使っています」

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「この写真すごいでしょ?!シグマで流し撮りしてるんです。使ったことある人なら、ビックリするでしょ?(笑)」

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2008年に旅にでたとき、駅で学生たちが撮った写真をシェアしている光景を見たそうです。「みんなが写真をシェアしてFacebookに投稿しているんです。僕はフィルム写真を大切にしたいと思っていたけど、写真をシェアして楽しむ学生たちを見たとき“人生に寄り添ってこそカメラって価値があるのではないのか”と思いました。東京カメラ部がよい写真をみんなでシェアしようと全面におしだして、多くの人に指示され盛り上がっているのもよくわかります」

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2011年にD800(ニコン)がカメラグランプリを獲ります。「ローパスレスのカメラが大注目されました。でも、ローパスレスといったら、シグマは元からローパスレスです。カメラ時計で見ると周回遅れだったシグマが、進んだ時計になっちゃったんです。まるでみんながシグマを追いかけてきた感じ。ちょっと強引ですか? (笑)そのとき、シグマのデジタルカメラの主力製品がMerrillというカメラです。これはすごくとんでもないカメラです」

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Merrillで撮ったシリーズを見せていただきました。「iPhoneの質感とか、解像感とか普通じゃないんですね。Facebookでいいねを押す写真って5秒くらいで飽きてしまうものが多いんです。昔の大判カメラで撮った写真は飽きないのに…。それはなぜかと考えた時に画質という結論になります。画質とは=情報量です。Merrillで撮った写真は情報量が多いので、どれだけ見ても発見があるんです。旅行に行って撮った写真。撮影時に気づかなかったものまで写っているんです。まるで大判カメラで撮影したような情報量です」

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「さっきからモノクロばかり見せているけど、色がどうなの? と思う方もいるでしょう。SIGMA SD10のときはイエロースキンと言われていて、なんでも黄色く写ってしまう時代もありました。だけど、Merrillは問題ありませんでした。すごくニュートラルな色がでるカメラでした」

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「デジタルが苦手だというものをご存じですか? ガラスを置いて光を置くとプリズムのようなものがでますよね。あれはコースティクスというのですが、デジタルがいちばん表現しづらいものだったんです。不規則な被写体なのでとても苦手なんです。でも、この写真を見てください。ガラスがガラスに写る感じ。すごいですよね!」

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いよいよQuattroのお話ができます。「まず、新しいカメラを預かったら僕はいちばん最初にカメラの素顔が知りたいので初期設定のままで撮ります。今まで解像感の話ばかりしていましたが、初めて色の話ができます(笑)ニュートラルで撮って、超絶きれいなんです。嫌なビビッドさもないし、偏りも破綻もしていないし、抜群に発色がいい」

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MerrillからQuattroになって画質がどう変わって、画質が写真にどう影響を与えるかという話をしていただきました。「デジタルで写真を見せるとき、次の画像を見てくださいといういい方をします。それはデジタルの画像はピクセルの集まりで、黒つぶれや白飛びをしているということがあるから。だけど、この写真はどんなに大きくしても、どんなモニターで見ても臨界点が見えません。200%くらいに拡大してもピクセルの粒が確認できないくらいの画質なんです」

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火の写真です。「デジタルで火を再現するのは難しいんです。だけど初めてやけどしそうな火を撮ることができました。暗い場所での撮影でもしっかり撮れることがわかる写真です。繊細に捉える光の描写、色の厚み、圧倒的な情報量。画質のすべてにおいて、進化していました」

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「そしていちばん感じたことはRAWデータがタフになっていることです。ひとつの画像から、こんなにトーンが作れるんです。MerrillのRAWデータは1つの正解があって、RAW現像のときにその答えを探し出すというイメージでした。だけどQuattroは、1つのネガがあって毎回新しいアプローチをしてコントロールするイメージです。元画像をそのまま現像することも、暗くしてシアンを乗せた今っぽい写真にすることも楽しめます」

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Quattroで撮影した台湾の写真を見せていただきました。「階調がきれいなのでモノクロがすごくきれいに扱えます。シグマで動きのある被写体が撮れたりするのもすごいですよね(笑) リンゴも美味しそうに見える。質感と描写は最高です。僕はアメリカンニューカラーの写真がすごく好きなのですが、そのようなトーンの色もコントロールできます」

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「本当のスナップが撮れるカメラなんです。今回のトークショーのテーマである“Quattroは写真をどう変えるのか?”という結論ですが、Quattroを通して見た世界は「 より美しく より楽しく より親密で より希望に満ちている 」というのが僕の印象です。よく“写真は現在を永遠に変える”というけれど、その写真を見るのは未来です。昔の人は未来に写真を届けたいという意識はなかったと思う。一瞬を大切にしたい。今を残したいと思って写真を撮っていたと思います。でも僕は、写真は未来に託すものだと実感しているので、未来が信じられないなら写真を撮る意味がないと考えるようになりました。シグマが写真に込めるメッセージの答えがQuattroなんだと、2泊3日の台湾旅行で気づきました。圧倒的な画質の写真を見返したとき、そのとき気がつかなかったものが写っている。未来に向かって、何を届けたいのか問いかけてくるカメラだと実感しました」

内田さんは愛情を込めてシグマの悪口をいっぱい言いながら、45分間シグマへの愛をたっぷりと語っていただきました。内田ユキオさん、ありがとうございました。


(写真・文 加藤マキ子)

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